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1話 侵入、ミッション、純真乙女?
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心地よい風が吹き抜けて、自分の体を撫でながら木々の間をすり抜けていく。
そうして静かに奏でられた葉擦れの音に耳を澄ます。
小さく息を吐いて閉じていた目を開ければ、静かに佇む古びた一軒家が視界に映し出されていた。
「ここね……」
まるで蚊の鳴くような小さな声でそうつぶやき、その家への侵入を試みる。
ドアに鍵はかかっていないようで簡単に開けることができた。
普通の感覚なら不用心にもほどがあるとか思うのだろうけれど、私からすれば無駄な時間と労力を省けて助かるから良しとする。
静かに開いたドアの先にはリビングが広がり、そこに置かれた家具には統一感がある。おそらくはかなりこだわりを持って集めたのだろう。そこには家主の趣味嗜好が見て取れた。
ふと、近くの目についた棚を撫でてみたが、清掃が隅々まで行き届いているようで埃の1つすら指にはつかない。聞いていたとおり、几帳面な性格には間違いはないようだ。
だが、そんな事はどうでもよくて、考えるだけ無駄な話だ。
私は仕事のためにこの場所にいる……ある目的を達成するためにここへ来たのだから。
気持ちを切り替えて視線だけを動かし、2階へ上がるための階段の場所を探る。家の構造はそんなに複雑じゃないので、リビングとダイニングの間にそれらしきものをすぐに見つけた。同時に足音を殺して素早く移動し、階段手前で壁に寄るとこっそりと上の様子を窺う。
特に気づかれた様子もなく、問題はなさそうだった。
ここまでは順調に事が運んでいる。さっさと済ませて次の仕事に取り掛からねば……
そんな事を考えながら階段を音もなく駆け上がり2階の廊下に出ると、初めに視界へ飛び込んできたのは2つの窓とそこから入り込んでいる月の光。そして、その光に照らされたまま静かに佇む部屋のドアだ。
2階の構造も事前に把握していたとおりだ。なら、あの一番奥の部屋に目的の人物がいるはず……
再び音を消して廊下を一気に進み、目的の部屋の前で足を止める。そのまま壁に耳を当てて中の様子を窺ってみたが、物音は聞こえないのでおそらくは寝ているのだろう。
そう判断し、ドアノブに手をかけて静かに部屋のドアを開いた。
少しの隙間から中の様子をのぞき込むと、ベッドに横たわっている人の一部が確認できた。そのまま半身で通れるだけの隙間を開けて、滑り込むように部屋へ侵入すると月明かり当たっていない暗がりへと溶け込むように隠れ潜む。
目的の人物……つまりはここの家主は間違いなく寝ているようだ。その証拠に、この部屋には彼の寝息だけが静かに響いている。
暗がりに身を潜めたまま状況を見極める。開いたままの大きめの窓から入り込む風が、彼の髪を優しく揺らしている。
そうして彼が気づく事はないと判断し、私は静かにベッドの横へと移動した。
侵入は完了した。
あとはいつものようにターゲットに気づかれることなくその魂を浄化すれば、私の任務は完了する。
恨みはないが、これが私の仕事……だから、せめて死んだ事に気づくことなく輪廻の旅へと旅立たせてあげないと。
彼がそうなる運命を迎える理由を、私は知らないのだけれど…………
腰元に忍ばせていた小型のナイフに手をかけると、ひんやりとした冷たい手触りを感じ、今から命を奪う事への実感が湧いてくる。一定のリズムで聞こえてくる寝息は任務遂行の邪魔になるので、いつものように心を無にする事で聴覚を遮断する。
月の光に照らされた彼の首筋。
そこをめがけてナイフを振り下ろ……
「ん……君は…………誰……?」
(な……!?)
目の前で突然起こった事実に対して、私はナイフを振り上げたまま体を硬直させてしまった。
音も立てていないし、気づかれる要素はなかったはずなのに……こいつは不自然にも目を覚ました。いったい何が起こったかわからない。こんな事はいままでなかったから、一瞬どう対処するかわからなくなる。
しかし、彼も状況がよくわかっていないのだろう。
この状況であり得ない事をつぶやいたのだ。
「……ていうか……めっちゃ……大きい……おっぱいじゃん……」
「はひっ……!?」
私はその瞬間、顔が燃えるように熱くなるのを感じて、反射的に窓から飛び出した。
そのまま振り返ることなく、森の中を駆け抜けていく。
顔が熱い……なんで……なんなのよ、あいつ!!殺されかけてたのよ!?寝ぼけていたとしても……あんな状況で普通はあんな事……
「おっぱいとか……言わないでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大きく輝く月の下、広大で深い森に私の悲鳴が響き渡った。
そうして静かに奏でられた葉擦れの音に耳を澄ます。
小さく息を吐いて閉じていた目を開ければ、静かに佇む古びた一軒家が視界に映し出されていた。
「ここね……」
まるで蚊の鳴くような小さな声でそうつぶやき、その家への侵入を試みる。
ドアに鍵はかかっていないようで簡単に開けることができた。
普通の感覚なら不用心にもほどがあるとか思うのだろうけれど、私からすれば無駄な時間と労力を省けて助かるから良しとする。
静かに開いたドアの先にはリビングが広がり、そこに置かれた家具には統一感がある。おそらくはかなりこだわりを持って集めたのだろう。そこには家主の趣味嗜好が見て取れた。
ふと、近くの目についた棚を撫でてみたが、清掃が隅々まで行き届いているようで埃の1つすら指にはつかない。聞いていたとおり、几帳面な性格には間違いはないようだ。
だが、そんな事はどうでもよくて、考えるだけ無駄な話だ。
私は仕事のためにこの場所にいる……ある目的を達成するためにここへ来たのだから。
気持ちを切り替えて視線だけを動かし、2階へ上がるための階段の場所を探る。家の構造はそんなに複雑じゃないので、リビングとダイニングの間にそれらしきものをすぐに見つけた。同時に足音を殺して素早く移動し、階段手前で壁に寄るとこっそりと上の様子を窺う。
特に気づかれた様子もなく、問題はなさそうだった。
ここまでは順調に事が運んでいる。さっさと済ませて次の仕事に取り掛からねば……
そんな事を考えながら階段を音もなく駆け上がり2階の廊下に出ると、初めに視界へ飛び込んできたのは2つの窓とそこから入り込んでいる月の光。そして、その光に照らされたまま静かに佇む部屋のドアだ。
2階の構造も事前に把握していたとおりだ。なら、あの一番奥の部屋に目的の人物がいるはず……
再び音を消して廊下を一気に進み、目的の部屋の前で足を止める。そのまま壁に耳を当てて中の様子を窺ってみたが、物音は聞こえないのでおそらくは寝ているのだろう。
そう判断し、ドアノブに手をかけて静かに部屋のドアを開いた。
少しの隙間から中の様子をのぞき込むと、ベッドに横たわっている人の一部が確認できた。そのまま半身で通れるだけの隙間を開けて、滑り込むように部屋へ侵入すると月明かり当たっていない暗がりへと溶け込むように隠れ潜む。
目的の人物……つまりはここの家主は間違いなく寝ているようだ。その証拠に、この部屋には彼の寝息だけが静かに響いている。
暗がりに身を潜めたまま状況を見極める。開いたままの大きめの窓から入り込む風が、彼の髪を優しく揺らしている。
そうして彼が気づく事はないと判断し、私は静かにベッドの横へと移動した。
侵入は完了した。
あとはいつものようにターゲットに気づかれることなくその魂を浄化すれば、私の任務は完了する。
恨みはないが、これが私の仕事……だから、せめて死んだ事に気づくことなく輪廻の旅へと旅立たせてあげないと。
彼がそうなる運命を迎える理由を、私は知らないのだけれど…………
腰元に忍ばせていた小型のナイフに手をかけると、ひんやりとした冷たい手触りを感じ、今から命を奪う事への実感が湧いてくる。一定のリズムで聞こえてくる寝息は任務遂行の邪魔になるので、いつものように心を無にする事で聴覚を遮断する。
月の光に照らされた彼の首筋。
そこをめがけてナイフを振り下ろ……
「ん……君は…………誰……?」
(な……!?)
目の前で突然起こった事実に対して、私はナイフを振り上げたまま体を硬直させてしまった。
音も立てていないし、気づかれる要素はなかったはずなのに……こいつは不自然にも目を覚ました。いったい何が起こったかわからない。こんな事はいままでなかったから、一瞬どう対処するかわからなくなる。
しかし、彼も状況がよくわかっていないのだろう。
この状況であり得ない事をつぶやいたのだ。
「……ていうか……めっちゃ……大きい……おっぱいじゃん……」
「はひっ……!?」
私はその瞬間、顔が燃えるように熱くなるのを感じて、反射的に窓から飛び出した。
そのまま振り返ることなく、森の中を駆け抜けていく。
顔が熱い……なんで……なんなのよ、あいつ!!殺されかけてたのよ!?寝ぼけていたとしても……あんな状況で普通はあんな事……
「おっぱいとか……言わないでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大きく輝く月の下、広大で深い森に私の悲鳴が響き渡った。
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