4 / 42
3話 猪突猛死…ん?
しおりを挟む
「ブォォォォォォォォォ!!!」
真後ろから度々聞こえてくる咆哮にちらりと振り返れば、木々を薙ぎ倒しながら追いかけてくる猪型の大型の魔物ブラックボアの姿が見える。
「いったい全体何が起きてるんだ?Aランクのブラックボアがこんなところにいるなんて……」
と、考えてみても答えなど出るわけがないし、それよりも今は逃げる事が先決だ。答えがわかったところでどうすることもできないし、ブラックボアに追いかけられている事実は変わらない。
そう考えながら、森の中を逃げ続ける。
しっかし、何が「今日はいい事あるかも」なんだか……数刻前に自分がした発言を呪いたい。別に誰にも聞かれていないからいいんだけど、独り言なだけにある意味ちょっとした自己嫌悪に陥りかける。
「ブォォブォォォォォォ!!」
まるで「待ちやがれ!」と言わんばかりの咆哮が聞こえた。
さて……どうしたものか。
俺がここまで冷静さを失わないのには訳がある。
とか、カッコよく言ってみたけど、単純に逃げ足だけは昔から早くて、特にこんな風に障害物の多い森などではその才能が開花する。この森も長年過ごした庭みたいなものだし、そんな経験も相まってかここで俺を捕まえるのは冒険者でも困難だと思う。
とはいえ、この方向に逃げるのはまずいな。
このまま進めば俺の家に辿り着いてしまうし、そこからは街が近いから、ブラックボアの意識がそちらに向く事だけは避けたいんだが……かと言って逆に森の深部の方へ誘い込んでも今度は別の魔物に見つかる恐れがある。
確かに、上手くいけばブラックボアをその魔物にぶつける事ができるかもしれないが、成功する確率は五分五分くらい。失敗すれば、俺は2体以上の魔物に追われる事になってしまう。
(とはいえ、このまま街の方に逃げるのは良くないし……う~ん……そうだ!例の泉に向かえばはネムリダケが生えているはず!)
ネムリダケ。
名前の通り、生き物を眠らせる成分を含んでいる菌類の一種で、水辺に群生する事が多い。そのまま食べると、人間なら一生目を覚まさなくなる事もあるけっこう危険な植物だが、魔物なら一時的に眠らせるのにはもってこいの代物だ。
そうと決まれば迷っている暇はない。
目的の泉はここから西に少し行けば辿り着ける。だが、肝心のブラックボアがついて来ないと意味はないから、まずは奴の注意を引きつけないといけない。
そう考え、俺は振り向いて立ち止まる。それを見たブラックボアはやっと観念したかとでも思ったのか、唸り声をさらに大きくした。
あの巨体で突っ込まれればひとたまりもないが、所詮は猪である。馬鹿正直にまっすぐと突っ込んでくるスタイルには確かに漢気を感じる部分もある。しかし、避ける方からすればなんともありがたい話なのだ。
俺はブラックボアの動きに合わせ、タイミング良く左側に飛び退けた。
突然、目の前の獲物がいなくなった事で驚いたブラックボアが急ブレーキをかける。奴は大きな巨躯で木々を薙ぎ倒しながら止まると、キョロキョロと周りを伺い始めた。
どうやら俺を見失ったらしい。一途な獣らしい挙動に俺は少しだけ安堵する。
ーーーこのまま逃げる事もできるんだが……
そんな考えが一瞬過ったが、こんなところでこいつをほったらかしにはできないと考え直す。
さっきも言った通り、ここは街から近い場所に位置している。魔物は普通の獣よりも鼻がいい。その理由はわからないが、もしブラックボアが人の匂いを嗅ぎつけて街を襲えば必ず被害が出てしまう。
そして、そんな事は絶対に許容できるはずもない。
だって、俺が生計を立てる場所がなくなってしまうじゃないか!薬草士なんてマイナーな職業、ここみたいな大自然に囲まれた田舎じゃなきゃ生きていけないんだ。都会に出ても物流は潤沢で、俺みたいな個人事業主が入り込む余地なんて皆無。もしあの街がなくなれば、俺は路頭に迷う事になりかねない。
足元にちょうどいい石を見つけ、それを拾い上げる。そして、奴の胴体を狙って俺は思いっきり投げつけた。
「ブ……フゴッ……」
石を当てられたブラックボアがこちらに気づいた。
バカにされたとでも思ったのだろう。いっそうと鼻息を荒くし、威嚇するように右の前足で何度も地面を掻いている。
(よし!あとは泉の方へ逃げるだけ……)
そう思って体ごと振り返った瞬間だった。
まるで膝の力が抜けたかのように、俺は無意識にその場にしゃがみ込んだ……と同時に、一瞬だけだが鋭く風を切る音が聞こえたように感じた。
そして、その音にタイミングを合わせるように、後ろでズシンッという音と僅かな地面の揺れを感じる。
恐る恐る振り返ると、視線の先には横たわるブラックボアの死骸。
さっきまであんなにいきがっていたブラックボアは誰がどう見ても息絶えている。血が滲んだ奴の額と瞳孔の開き切った双眸がそれを物語っている。
だが、俺に焦りはない。
「はぁ~まじで危なかったなぁ。でも、なんか知らんが助かった。」
俺はそう胸を撫で下ろすと、目の前で横たわるブラックボアの位置を地図に記して何事もなかったようにその場を後にした。
真後ろから度々聞こえてくる咆哮にちらりと振り返れば、木々を薙ぎ倒しながら追いかけてくる猪型の大型の魔物ブラックボアの姿が見える。
「いったい全体何が起きてるんだ?Aランクのブラックボアがこんなところにいるなんて……」
と、考えてみても答えなど出るわけがないし、それよりも今は逃げる事が先決だ。答えがわかったところでどうすることもできないし、ブラックボアに追いかけられている事実は変わらない。
そう考えながら、森の中を逃げ続ける。
しっかし、何が「今日はいい事あるかも」なんだか……数刻前に自分がした発言を呪いたい。別に誰にも聞かれていないからいいんだけど、独り言なだけにある意味ちょっとした自己嫌悪に陥りかける。
「ブォォブォォォォォォ!!」
まるで「待ちやがれ!」と言わんばかりの咆哮が聞こえた。
さて……どうしたものか。
俺がここまで冷静さを失わないのには訳がある。
とか、カッコよく言ってみたけど、単純に逃げ足だけは昔から早くて、特にこんな風に障害物の多い森などではその才能が開花する。この森も長年過ごした庭みたいなものだし、そんな経験も相まってかここで俺を捕まえるのは冒険者でも困難だと思う。
とはいえ、この方向に逃げるのはまずいな。
このまま進めば俺の家に辿り着いてしまうし、そこからは街が近いから、ブラックボアの意識がそちらに向く事だけは避けたいんだが……かと言って逆に森の深部の方へ誘い込んでも今度は別の魔物に見つかる恐れがある。
確かに、上手くいけばブラックボアをその魔物にぶつける事ができるかもしれないが、成功する確率は五分五分くらい。失敗すれば、俺は2体以上の魔物に追われる事になってしまう。
(とはいえ、このまま街の方に逃げるのは良くないし……う~ん……そうだ!例の泉に向かえばはネムリダケが生えているはず!)
ネムリダケ。
名前の通り、生き物を眠らせる成分を含んでいる菌類の一種で、水辺に群生する事が多い。そのまま食べると、人間なら一生目を覚まさなくなる事もあるけっこう危険な植物だが、魔物なら一時的に眠らせるのにはもってこいの代物だ。
そうと決まれば迷っている暇はない。
目的の泉はここから西に少し行けば辿り着ける。だが、肝心のブラックボアがついて来ないと意味はないから、まずは奴の注意を引きつけないといけない。
そう考え、俺は振り向いて立ち止まる。それを見たブラックボアはやっと観念したかとでも思ったのか、唸り声をさらに大きくした。
あの巨体で突っ込まれればひとたまりもないが、所詮は猪である。馬鹿正直にまっすぐと突っ込んでくるスタイルには確かに漢気を感じる部分もある。しかし、避ける方からすればなんともありがたい話なのだ。
俺はブラックボアの動きに合わせ、タイミング良く左側に飛び退けた。
突然、目の前の獲物がいなくなった事で驚いたブラックボアが急ブレーキをかける。奴は大きな巨躯で木々を薙ぎ倒しながら止まると、キョロキョロと周りを伺い始めた。
どうやら俺を見失ったらしい。一途な獣らしい挙動に俺は少しだけ安堵する。
ーーーこのまま逃げる事もできるんだが……
そんな考えが一瞬過ったが、こんなところでこいつをほったらかしにはできないと考え直す。
さっきも言った通り、ここは街から近い場所に位置している。魔物は普通の獣よりも鼻がいい。その理由はわからないが、もしブラックボアが人の匂いを嗅ぎつけて街を襲えば必ず被害が出てしまう。
そして、そんな事は絶対に許容できるはずもない。
だって、俺が生計を立てる場所がなくなってしまうじゃないか!薬草士なんてマイナーな職業、ここみたいな大自然に囲まれた田舎じゃなきゃ生きていけないんだ。都会に出ても物流は潤沢で、俺みたいな個人事業主が入り込む余地なんて皆無。もしあの街がなくなれば、俺は路頭に迷う事になりかねない。
足元にちょうどいい石を見つけ、それを拾い上げる。そして、奴の胴体を狙って俺は思いっきり投げつけた。
「ブ……フゴッ……」
石を当てられたブラックボアがこちらに気づいた。
バカにされたとでも思ったのだろう。いっそうと鼻息を荒くし、威嚇するように右の前足で何度も地面を掻いている。
(よし!あとは泉の方へ逃げるだけ……)
そう思って体ごと振り返った瞬間だった。
まるで膝の力が抜けたかのように、俺は無意識にその場にしゃがみ込んだ……と同時に、一瞬だけだが鋭く風を切る音が聞こえたように感じた。
そして、その音にタイミングを合わせるように、後ろでズシンッという音と僅かな地面の揺れを感じる。
恐る恐る振り返ると、視線の先には横たわるブラックボアの死骸。
さっきまであんなにいきがっていたブラックボアは誰がどう見ても息絶えている。血が滲んだ奴の額と瞳孔の開き切った双眸がそれを物語っている。
だが、俺に焦りはない。
「はぁ~まじで危なかったなぁ。でも、なんか知らんが助かった。」
俺はそう胸を撫で下ろすと、目の前で横たわるブラックボアの位置を地図に記して何事もなかったようにその場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる