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8話 ゲイズの街とツインテール
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森を抜けると目の前に広い平原が姿を現す。
そこから数キロほど離れた場所に見える大きな街。あれこそが俺が薬草を売って生計を立てているゲイズの街だ。
ゲイズは王国に存在する各都市の中では中規模程度の大きさで、最北端に位置している謂わば辺境の都市だけど、人も物も多く集まる活気のある街だ。その名の由来は「ゲイズ=監視する」から来ているらしく、昔から街の北部にあるこの森を監視し、人々の生活を守る為に存在している街でもある。
現在では、その役割はこの街のギルドが担っており、その仕事は主に森の調査や魔物の討伐などが挙げられる。森に異変があればすぐに冒険者たちを向かわせて、その問題を解決する事が彼らの存在意義となっている訳だ。
それ故に、この街に所属する冒険者たちのランクはけっこう高い事でも有名だ。
なにせ、この街のギルドにおける依頼内容は難易度が高い分、その報酬も他の都市とは比べ物にならない。しかも、功績によっては王国からの褒賞も出るくらいだから一攫千金を当てようとたくさんの冒険者が集まってくるし、彼らも死地での経験を積みながら強くなっていく訳で、今では街のギルドに所属する冒険者はAランク以上がほとんどである。
そういった事から王国がこの森に対してどれほど脅威を感じているかがわかる訳で、その理由が森の深部にあるらしいのだが、一介の薬草士の俺には全く関係のない事だ。
後ろにいる件の女性をちらりと一瞥し、小さくため息をついた俺はゲイズの街を目指すために歩き出した。
・
・
・
街に着くと同時にさっそく目的のギルドへと向かう訳が、その途中で街の連中から声をかけられるのはいつもの事だ。
薬草士っていうのは薬草を卸すだけが仕事ではない。
野生の薬草に関する知識を子供たちに教えたり、薬草を原料とする薬の効能について御年寄に説明したり、薬屋とは調合の仕方を一緒に考えたり、もちろん世間話も含めてコミュニケーションを大切にしないとこの職業は成り立たない。これはどんな仕事にも言える事かもしれないけど、実践するのは意外と難しかったりする。
だが、俺のフランクな性格も相まってか、この街ではけっこううまくやれているつもりだ。
「よう、ユウリ!今日も仕事に精がでるじゃねぇか!」
「カウルのおっちゃん!この前は新鮮な魚、ありがとな!めっちゃ美味かったぜ!」
「おめぇにはいつも祖母ちゃんが世話になってからな!またよろしく頼む!」
・
「ユウリじゃない!今日はうちに来てくれるの?」
「マチルダさん!今日もお綺麗ですね。今日は無理かもしれないけど、近々顔を出しますね。」
「絶対よ?美味しいお酒、用意しておくからね!」
・
「ユウリの兄ちゃん!今日は仕事?一緒に遊ぼうよ!」
「すまんな、ミト。兄ちゃん今日は忙しくて…また今度な!」
「ちぇ~仕方ないや。絶対約束だかんな!」
走り去りながらこっちに手を振っているミトに「転ぶなよ!」と叫んで手を振り返す。
気づいた人はみんな俺に声をかけて笑顔を向けてくれる。その事に自然と感謝と笑みがこぼれてしまう。
俺自身、この笑顔が得たくて薬草士として頑張ってきたし、これからも同じように頑張っていきたいと改めて誓う。
「人気があるんですね。」
そんな俺の様子を見ていた彼女が小さく呟いた。
対する俺は「まぁね。」とだけ返す。
「あなたの人となりはわかった気がします。」
「そうだろ?意外とモテるんだぜ、俺って。」
「その情報は特に必要ありません。」
「あ……そう……」
相変わらず可愛げがない受け答えには気が滅入りそうになるが、とにかくギルドを目指してさっさと仕事を終わらせようと気持ちを切り替えたその時だった。
「ユウリ!」
振り向けば、ツインテールが特徴的な小綺麗な服装の女性が立っており、俺に笑顔を向けている。
彼女の名はエルダ、この街のギルド長の愛娘である。
「よう、エルダじゃないか。今日は休みかい?」
「ううん。今日は遅出だから今からギルドに向かうところよ。」
「そうかい。実は俺も今からギルドに向かうところなんだ。」
「そうなの!?なら、一緒に行きましょうよ!」
エルダはそう言って嬉しそうに笑う。
彼女はとても元気で真っ直ぐな性格をしており、街ではけっこうな人気者だ。ファンクラブなんかも存在しているらしく、街の若い男性連中は彼女とお付き合いしたいと思っている奴が多いらしい。
だが、ギルド長の娘であるが故、理不尽な親心を持った冒険者たちが悪い虫が付かないように目を光らせているそうで、男性陣からすればまさに高嶺に咲く一輪の花的存在という訳である。
そして、本来なら話す事すら難しいとされている彼女と、俺がこんな風に気軽に話せるのはギルド長がそれを認めているからだそうだ。
一体なんで俺だけ許されているのか……その理由は知らないし、知りたいとも思っていない。だって、悪い予感しかしないじゃないか。
「ところでユウリ……1つ聞きたいんだけれど。」
「なんだい?エルダ、突然に。」
俺の横を歩きながら笑顔を向けてくるエルダの雰囲気にどことなく違和感を感じる。そして、どこか怒っているような疑っているような、そんな雰囲気を醸し出す彼女の口から思いも寄らない言葉が綴られる。
「さっきからずっとついてくるこの女性はどなたかしら?」
ん……?ずっとついてくる……?げっ!!!忘れてた!
例の彼女の事をすっかり忘れていて、飛び上がりそうになった。
「かかか……彼女はふ……ふふ……古い友人でさ!ここ……この街のギルドに……よよよ……用があるって言うから案内してたんだ!」
「ふ~ん……古い友人ねぇ……」
完全に信用されていない。
エルダの視線が彼女へ向かい、上から下までまるで品定めするように眺めていく様子を俺は震えながら見守る。
やばいな……こいつと俺の関係がエルダにバレるとまずい気がする……ていうか、別にやましい事なんてないんだが、絶対に誤解される未来しかない。そうなるとギルド長から別件で呼び出される可能性が……絶対にバレてはだめだ。死守だ、死守!
そう決心してなんとか誤魔化そうとする俺の気など知るはずもなく、この巨乳女は目の前で爆弾を投下したのである。
「別に私はギルドに用はないわよ?今日から彼の家に住む事にしたので、仕事が終わるまでそれに付き合っているだけです。」
「んな!!」
それを聞いたエルダの顔には、この世の終わりを感じさせるほどの驚愕の色が浮かんでいた。もちろんこの後、俺は別の意味でギルド長から事情聴取された事は言うまでもない。
そこから数キロほど離れた場所に見える大きな街。あれこそが俺が薬草を売って生計を立てているゲイズの街だ。
ゲイズは王国に存在する各都市の中では中規模程度の大きさで、最北端に位置している謂わば辺境の都市だけど、人も物も多く集まる活気のある街だ。その名の由来は「ゲイズ=監視する」から来ているらしく、昔から街の北部にあるこの森を監視し、人々の生活を守る為に存在している街でもある。
現在では、その役割はこの街のギルドが担っており、その仕事は主に森の調査や魔物の討伐などが挙げられる。森に異変があればすぐに冒険者たちを向かわせて、その問題を解決する事が彼らの存在意義となっている訳だ。
それ故に、この街に所属する冒険者たちのランクはけっこう高い事でも有名だ。
なにせ、この街のギルドにおける依頼内容は難易度が高い分、その報酬も他の都市とは比べ物にならない。しかも、功績によっては王国からの褒賞も出るくらいだから一攫千金を当てようとたくさんの冒険者が集まってくるし、彼らも死地での経験を積みながら強くなっていく訳で、今では街のギルドに所属する冒険者はAランク以上がほとんどである。
そういった事から王国がこの森に対してどれほど脅威を感じているかがわかる訳で、その理由が森の深部にあるらしいのだが、一介の薬草士の俺には全く関係のない事だ。
後ろにいる件の女性をちらりと一瞥し、小さくため息をついた俺はゲイズの街を目指すために歩き出した。
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街に着くと同時にさっそく目的のギルドへと向かう訳が、その途中で街の連中から声をかけられるのはいつもの事だ。
薬草士っていうのは薬草を卸すだけが仕事ではない。
野生の薬草に関する知識を子供たちに教えたり、薬草を原料とする薬の効能について御年寄に説明したり、薬屋とは調合の仕方を一緒に考えたり、もちろん世間話も含めてコミュニケーションを大切にしないとこの職業は成り立たない。これはどんな仕事にも言える事かもしれないけど、実践するのは意外と難しかったりする。
だが、俺のフランクな性格も相まってか、この街ではけっこううまくやれているつもりだ。
「よう、ユウリ!今日も仕事に精がでるじゃねぇか!」
「カウルのおっちゃん!この前は新鮮な魚、ありがとな!めっちゃ美味かったぜ!」
「おめぇにはいつも祖母ちゃんが世話になってからな!またよろしく頼む!」
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「ユウリじゃない!今日はうちに来てくれるの?」
「マチルダさん!今日もお綺麗ですね。今日は無理かもしれないけど、近々顔を出しますね。」
「絶対よ?美味しいお酒、用意しておくからね!」
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「ユウリの兄ちゃん!今日は仕事?一緒に遊ぼうよ!」
「すまんな、ミト。兄ちゃん今日は忙しくて…また今度な!」
「ちぇ~仕方ないや。絶対約束だかんな!」
走り去りながらこっちに手を振っているミトに「転ぶなよ!」と叫んで手を振り返す。
気づいた人はみんな俺に声をかけて笑顔を向けてくれる。その事に自然と感謝と笑みがこぼれてしまう。
俺自身、この笑顔が得たくて薬草士として頑張ってきたし、これからも同じように頑張っていきたいと改めて誓う。
「人気があるんですね。」
そんな俺の様子を見ていた彼女が小さく呟いた。
対する俺は「まぁね。」とだけ返す。
「あなたの人となりはわかった気がします。」
「そうだろ?意外とモテるんだぜ、俺って。」
「その情報は特に必要ありません。」
「あ……そう……」
相変わらず可愛げがない受け答えには気が滅入りそうになるが、とにかくギルドを目指してさっさと仕事を終わらせようと気持ちを切り替えたその時だった。
「ユウリ!」
振り向けば、ツインテールが特徴的な小綺麗な服装の女性が立っており、俺に笑顔を向けている。
彼女の名はエルダ、この街のギルド長の愛娘である。
「よう、エルダじゃないか。今日は休みかい?」
「ううん。今日は遅出だから今からギルドに向かうところよ。」
「そうかい。実は俺も今からギルドに向かうところなんだ。」
「そうなの!?なら、一緒に行きましょうよ!」
エルダはそう言って嬉しそうに笑う。
彼女はとても元気で真っ直ぐな性格をしており、街ではけっこうな人気者だ。ファンクラブなんかも存在しているらしく、街の若い男性連中は彼女とお付き合いしたいと思っている奴が多いらしい。
だが、ギルド長の娘であるが故、理不尽な親心を持った冒険者たちが悪い虫が付かないように目を光らせているそうで、男性陣からすればまさに高嶺に咲く一輪の花的存在という訳である。
そして、本来なら話す事すら難しいとされている彼女と、俺がこんな風に気軽に話せるのはギルド長がそれを認めているからだそうだ。
一体なんで俺だけ許されているのか……その理由は知らないし、知りたいとも思っていない。だって、悪い予感しかしないじゃないか。
「ところでユウリ……1つ聞きたいんだけれど。」
「なんだい?エルダ、突然に。」
俺の横を歩きながら笑顔を向けてくるエルダの雰囲気にどことなく違和感を感じる。そして、どこか怒っているような疑っているような、そんな雰囲気を醸し出す彼女の口から思いも寄らない言葉が綴られる。
「さっきからずっとついてくるこの女性はどなたかしら?」
ん……?ずっとついてくる……?げっ!!!忘れてた!
例の彼女の事をすっかり忘れていて、飛び上がりそうになった。
「かかか……彼女はふ……ふふ……古い友人でさ!ここ……この街のギルドに……よよよ……用があるって言うから案内してたんだ!」
「ふ~ん……古い友人ねぇ……」
完全に信用されていない。
エルダの視線が彼女へ向かい、上から下までまるで品定めするように眺めていく様子を俺は震えながら見守る。
やばいな……こいつと俺の関係がエルダにバレるとまずい気がする……ていうか、別にやましい事なんてないんだが、絶対に誤解される未来しかない。そうなるとギルド長から別件で呼び出される可能性が……絶対にバレてはだめだ。死守だ、死守!
そう決心してなんとか誤魔化そうとする俺の気など知るはずもなく、この巨乳女は目の前で爆弾を投下したのである。
「別に私はギルドに用はないわよ?今日から彼の家に住む事にしたので、仕事が終わるまでそれに付き合っているだけです。」
「んな!!」
それを聞いたエルダの顔には、この世の終わりを感じさせるほどの驚愕の色が浮かんでいた。もちろんこの後、俺は別の意味でギルド長から事情聴取された事は言うまでもない。
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