元アサシンは前世の愛に飢える

noah太郎

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9話 この世の理……

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 結局、自分の家にたどり着いたのは陽も傾き始めた頃だった。


「はぁぁぁぁぁ……マジで災難だった。」


 リビングのソファーにドカッと腰かけて脱力する。
 エルダには泣かれるし、冒険者の奴らからは罵声を浴びせられるし……それに一番堪えたのはやっぱりギルド長からの殺意の事情聴取だ。あの人、娘の事になると見境なくなって本気で殺意を向けてくるんだもん。マジで生きた心地がしなかった……ったく、今日はマジでなんて日だ!
 それに噂を聞きつけた街の連中がギルドに詰めかけて来て、なんか知らんが祝福の言葉を投げかけてきたし……違うっつうの!マジで意味わからん!それもこれも全部こいつのせいだ。俺のゆったりまったりライフを返してくれ!

 そうわざと苛立ちの視線を彼女へ向けたが、当の本人は全く気にする様子はない。ただ、どうしていいのかはわからないようでずっとリビングの隅で立ったままだ。
 あれだけ図々しかったのにここでは気を使うのかと疑問に思いつつ、彼女に座るように声をかける。


「とりあえず、座ったらどうだ?」

「え……えぇ……」


 俺の提案に頷いた彼女はなぜか俺の隣に腰を据えた。
 
 なんで隣なんだ……他にも座る場所あるのに。
 訝し気な視線を送っても、彼女は相変わらずこちらを見る事なくジッと前を見据えており、その様子に大きなため息が出てしまう。

 まったく……なんでこんな事になったのか。
 確かに美人で巨乳な女性とのこんな展開、男なら嬉しくない訳がないかもしれないが、それは妄想や願望の類での話であって、現実に起きたらもはや疑わしさしかない。
 こういうのは妄想するから楽しいんだよ。本当に起きたら美人局とか詐欺とかそういうのを疑う訳で。もしかしたら何かの陰謀とか……って、俺がそんな事に巻き込まれるはずはないけどな。

 1人、小さく笑って姿勢を正す。
 これ以上文句を言っても現状を変える事はできないし、明日からは遅れている薬草採取のスケジュールを取り戻さないといけない。

 口で言っても話にならないのがもどかしいけど、力づくで追い出す事も気が引けるしな。


「とりあえず、当分の間はうちに居てもいいや。どうせ出ていく気はないんだろ?」


 だが、その言葉を聞いて彼女は当たり前だとでも言う様な視線を向けてきたので再びイラっとするが、ここは平常心を保つのだと自分に言い聞かせながら深呼吸する。


「まずはご飯にするから、君はお風呂の準備をしてきてくれる?ここに住むなら家事は分担してもらうから。」

「えぇ、それは確かにその通りね。」


 俺がそう指示を出して立ち上がると、彼女も素直にそう言って立ち上がった。
 仕事を手伝うと言ったり、わざわざ街まで同行したり、強情ではあるが配慮はできるところが不思議だと感じつつ、風呂場の位置を教えて沸かし方を伝えた。
 そうして、その場を彼女に任せて俺は夕食の準備に取り掛かる。

 今日のメニューはすでに決めてある。
 先日採ってきた山菜をスープに入れてゆっくりと煮込んでいき、その間に事前に捌いてある鶏モモ肉をハーブと一緒に焼き上げて塩を振る。サラダは森で取れた氷レタスに山トマトを添えて特製ドレッシングで和えておく。

 山菜スープに山鶏の香味焼きと特製サラダ。
 いつもより少し豪華な夕食の出来上がりだ。

 そういえば、誰かと食事なんて何年振りだろう。
 昼飯を街で誰かと食べる事はあっても、朝や夜は基本的に1人で食事をしている訳で。そりゃ、一人暮らしなんだから当たり前なんだけど、これからは朝も夜も1人じゃないのかと思うと何とも言い難い気持ちになってしまう。

 この気持ちが一体何なのか。
 それは今はよくわからないけど、とりあえずずっと続く事はないだろうから変に情を移さない様にしないとな。

 そんな事を考えていると、風呂場から焦りの混じった叫び声が聞こえてきて驚いた。
 夕食の準備を止めて急いで風呂場へ急行する。


「お……おい!どうしたんだ!?」


 慌てて扉を開けると、脱衣所まで湯気で覆われていて中の様子がよくわからない。そのまま足を踏み入れて、湯気をかき分けながら浴室に向かうと、彼女の姿が確認できた。


「大丈夫か……っ!!?」


 駆け寄って、彼女を覗き込む様にしゃがみ込んだ瞬間、目に飛び込んできたのは……

 お湯で濡れた長く綺麗な髪。
 首筋を滴る雫が向かうのは双丘の谷間。
 服は全身びしょ濡れ。

 そして、下着が透け……透け……透け……て……

 それを認識した瞬間、全力で脱衣所へ移動してバスタオルを棚から取り出すと、それを勢いよく彼女へと投げつけた。


「それで早く体を……ふ……拭け!!」


 目を閉じながらそう告げて、俺は風呂場を後にする。

 まじで驚いた……本当にこんなお約束なハプニングが存在するとは。てか俺、さっきの動き、自分の限界超えてたんじゃないか?

 どうでもいい事で何とか気を逸らしながら、夕食の準備を再開するが、浮かべてしまうのは男の性か……


「意外と……黒……か。」


 男は本当にバカである。
 それはいつの世も変わらない絶対的な理の様なものだ。

 エロには抗えない……
 
 そんな意味不明な自論を心の中に浮かべ、俺1人で納得するのだった。
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