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10話 コードネームと追加指令
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夜も更けた頃、私は寝ていたベッドから起き上がった。
ぐるりと見回した部屋には見覚えがある。昨日の夜、忍び込んだ部屋なのだから当たり前ではあるが、今晩はその部屋で自分が寝ているのだから笑えてくる。
そんな事を考えながら、ふと窓から入り込んだ月の光に目が留まり外に目を向けると、そこから見える一本の木の枝の上に光る双眸を見つけた。
「フクロウか……」
小さくため息をついた後、ベッドから降りて窓を開けると、いつの間にか双眸の持ち主が窓の縁に止まっている。
これは伝書鳩ならぬ伝書梟。
組織が連絡用に使っている訓練された梟であり、羽の色の違いによって指令の重要度が変わってくる。
今回は白……その重要性は最も高く、組織にとって最優先案件という事だ。
「北東1キロ地点で待つ。」
目の前の梟が、可愛らしい声色でそう一言だけ告げて飛び去った。
その内容に少し驚いたが、ご指示とあらば行かねばならない。組織は直接会うというリスクを犯してでも伝えたい事があるらしい。そこから、この件に対する組織の本気度が窺えた。
窓を吹き抜ける夜風が気持ち良い。
満点の星空と聞き覚えのある葉擦れの音に少しだけ感慨深くなるが、ここで悠長に過ごしている訳にもいかない。急いで指定の地点へ向かわねば……
窓から出ようとして、ふと部屋のドアを一瞥する。
別に何か気配を感じた訳でもないし、彼が入ってくる訳でもない。無意識に視線が向いただけ……それだけの事だ。
窓の縁に足をかけ、音を立てる事なく高く跳躍をする。心地よい風を切りながら着地した後、背後に佇む彼の家を一瞥し、私は目的の場所へと向かった。
・
・
「来たか……」
目的の場所へ到着すると、大木の幹に腕を組んでもたれかかっている人物を見つけて歩み寄る。
「珍しいですね。直接伝言だなんて……」
「当たり前だ。お前が進めている任務は組織にとっての最優先事項なんだ。まぁ、だからこそ何でお前なんかに任せたのか……ボスの気がしれないぜ。」
鼻から上をフードで隠したまま、男は小馬鹿にした様に笑うが、私がそれに動じる事はない。
「……で、伝言の内容は?」
平然とした態度で用件を聞こうと問いかける私に対して、男は肩をすくめて口元に小さな笑みを浮かべる。
「その前に、まずは対象の情報と状況を教えろ。ボスに伝える必要がある。」
「まだ潜り込んで初日なんだけど……相変わらず気が早いのね。」
今度は私が肩をすくめ、今日確認できた対象の情報を事細かに伝えていった。
対象の生活ルーティーン。交友関係や薬草士としての知識と技能。そして、そこから考え得る対象の能力など、一日中観察してわかった事を端的に男へと伝えていく。
「……よし、わかった。しかしよぉ、お前が昨日しくじらなければこんな事にはならなかったのにな。」
話を聞き終えた男は嫌味ったらしくそう笑うが、私はそれに納得が行かずに反論する。
「確かに2度目の……昨日の夜の事は反省してる。幸い、顔は見られていないようだし……任務は続行できるわ。」
「確かに、それはお前にとって救いだな。」
「うるさいわね……。それよりも納得がいかないのは1度目のあれ……私の弾丸は確実に彼の頭を撃ち抜くはずだった。あなたもどこかで見ていて、それを確信してたんじゃないの?」
その言葉を聞いて男は笑みを消した。
「まぁな……お前の狙撃能力は組織でもトップクラスだ。それに異論はねぇし、確かにあの時はこんな楽な仕事はねぇなと思ったさ。だが……」
男はその時見た事を思い返す様に言葉を止めた。彼もまた、あの時起きた事について自分の中で結論が出せずにいるのだろう。
狙撃した本人である私と同じで……
「あれが単なる幸運なのかはわからねぇがな。お前の狙撃が外れた事を知ったボスが、急に任務内容を変えたのがどうにも気になってなぁ。」
顎に手を置いて考え込む彼の意見には私も同感だった。
2度目の事は思い出したくもない失敗だが、1度目の狙撃についてはたまたま対象に幸運が重なっただけの事だと私は思っている。
だが、次は必ず成功させると思っていた矢先に、ボスから任務内容の変更を告げられたのだ。
ボスは一度決めた事は貫く人。
これまでずっと初志貫徹を叩き込まれてきたし、任務の途中で内容を変えた事は一度もなかったはずだ。
それなのに……
「まぁ、あまり深く考えるな。俺たちはボスに従ってりゃいいんだからよ。」
「それはそうだけど、対象に接触して情報を探れだなんて……こんな任務今までなかったわ。」
「まぁ……確かにな。」
男は訝しげな様子で小さく呟いたが、すぐに口元に笑みを浮かべてこう告げる。
「しかし、それも長くはかからないだろう。」
「長くは……?どういう意味?」
「ボスから追加指令だ。」
私は男の笑みの理由をすぐに理解した。彼もさっさとこの任務を終わらせたいのだ。だからこそ、その追加指令を待ち望んでいたのだろう。
「コードネーム『ター』。お前にボスからの追加指令を伝える。」
男の顔が伝令者のそれに変わる。私もそれに対して真面目な顔を浮かべて彼の言葉を待った。
「引き続き、男の情報を探れ。どんな情報でも構わないから定期的に報告しろ。そして……」
男から嬉しそうな雰囲気を感じた。
その雰囲気に反吐が出そうになるが、私がそれを表に出す事はない。
そうして、私の本心を知る由もない男は満を持してこう告げる。
「隙あらば、奴を殺せ。」
私はそれに一言「了解。」とだけ返した。
ぐるりと見回した部屋には見覚えがある。昨日の夜、忍び込んだ部屋なのだから当たり前ではあるが、今晩はその部屋で自分が寝ているのだから笑えてくる。
そんな事を考えながら、ふと窓から入り込んだ月の光に目が留まり外に目を向けると、そこから見える一本の木の枝の上に光る双眸を見つけた。
「フクロウか……」
小さくため息をついた後、ベッドから降りて窓を開けると、いつの間にか双眸の持ち主が窓の縁に止まっている。
これは伝書鳩ならぬ伝書梟。
組織が連絡用に使っている訓練された梟であり、羽の色の違いによって指令の重要度が変わってくる。
今回は白……その重要性は最も高く、組織にとって最優先案件という事だ。
「北東1キロ地点で待つ。」
目の前の梟が、可愛らしい声色でそう一言だけ告げて飛び去った。
その内容に少し驚いたが、ご指示とあらば行かねばならない。組織は直接会うというリスクを犯してでも伝えたい事があるらしい。そこから、この件に対する組織の本気度が窺えた。
窓を吹き抜ける夜風が気持ち良い。
満点の星空と聞き覚えのある葉擦れの音に少しだけ感慨深くなるが、ここで悠長に過ごしている訳にもいかない。急いで指定の地点へ向かわねば……
窓から出ようとして、ふと部屋のドアを一瞥する。
別に何か気配を感じた訳でもないし、彼が入ってくる訳でもない。無意識に視線が向いただけ……それだけの事だ。
窓の縁に足をかけ、音を立てる事なく高く跳躍をする。心地よい風を切りながら着地した後、背後に佇む彼の家を一瞥し、私は目的の場所へと向かった。
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「来たか……」
目的の場所へ到着すると、大木の幹に腕を組んでもたれかかっている人物を見つけて歩み寄る。
「珍しいですね。直接伝言だなんて……」
「当たり前だ。お前が進めている任務は組織にとっての最優先事項なんだ。まぁ、だからこそ何でお前なんかに任せたのか……ボスの気がしれないぜ。」
鼻から上をフードで隠したまま、男は小馬鹿にした様に笑うが、私がそれに動じる事はない。
「……で、伝言の内容は?」
平然とした態度で用件を聞こうと問いかける私に対して、男は肩をすくめて口元に小さな笑みを浮かべる。
「その前に、まずは対象の情報と状況を教えろ。ボスに伝える必要がある。」
「まだ潜り込んで初日なんだけど……相変わらず気が早いのね。」
今度は私が肩をすくめ、今日確認できた対象の情報を事細かに伝えていった。
対象の生活ルーティーン。交友関係や薬草士としての知識と技能。そして、そこから考え得る対象の能力など、一日中観察してわかった事を端的に男へと伝えていく。
「……よし、わかった。しかしよぉ、お前が昨日しくじらなければこんな事にはならなかったのにな。」
話を聞き終えた男は嫌味ったらしくそう笑うが、私はそれに納得が行かずに反論する。
「確かに2度目の……昨日の夜の事は反省してる。幸い、顔は見られていないようだし……任務は続行できるわ。」
「確かに、それはお前にとって救いだな。」
「うるさいわね……。それよりも納得がいかないのは1度目のあれ……私の弾丸は確実に彼の頭を撃ち抜くはずだった。あなたもどこかで見ていて、それを確信してたんじゃないの?」
その言葉を聞いて男は笑みを消した。
「まぁな……お前の狙撃能力は組織でもトップクラスだ。それに異論はねぇし、確かにあの時はこんな楽な仕事はねぇなと思ったさ。だが……」
男はその時見た事を思い返す様に言葉を止めた。彼もまた、あの時起きた事について自分の中で結論が出せずにいるのだろう。
狙撃した本人である私と同じで……
「あれが単なる幸運なのかはわからねぇがな。お前の狙撃が外れた事を知ったボスが、急に任務内容を変えたのがどうにも気になってなぁ。」
顎に手を置いて考え込む彼の意見には私も同感だった。
2度目の事は思い出したくもない失敗だが、1度目の狙撃についてはたまたま対象に幸運が重なっただけの事だと私は思っている。
だが、次は必ず成功させると思っていた矢先に、ボスから任務内容の変更を告げられたのだ。
ボスは一度決めた事は貫く人。
これまでずっと初志貫徹を叩き込まれてきたし、任務の途中で内容を変えた事は一度もなかったはずだ。
それなのに……
「まぁ、あまり深く考えるな。俺たちはボスに従ってりゃいいんだからよ。」
「それはそうだけど、対象に接触して情報を探れだなんて……こんな任務今までなかったわ。」
「まぁ……確かにな。」
男は訝しげな様子で小さく呟いたが、すぐに口元に笑みを浮かべてこう告げる。
「しかし、それも長くはかからないだろう。」
「長くは……?どういう意味?」
「ボスから追加指令だ。」
私は男の笑みの理由をすぐに理解した。彼もさっさとこの任務を終わらせたいのだ。だからこそ、その追加指令を待ち望んでいたのだろう。
「コードネーム『ター』。お前にボスからの追加指令を伝える。」
男の顔が伝令者のそれに変わる。私もそれに対して真面目な顔を浮かべて彼の言葉を待った。
「引き続き、男の情報を探れ。どんな情報でも構わないから定期的に報告しろ。そして……」
男から嬉しそうな雰囲気を感じた。
その雰囲気に反吐が出そうになるが、私がそれを表に出す事はない。
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私はそれに一言「了解。」とだけ返した。
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