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11話 ぐうの音もでない
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「ふわぁ~~~」
リビングのソファーの上で上半身だけ起こした俺は、大きく伸びをする。
昨晩は彼女に自分のベッドを貸してここで寝たから体が少し痛い。早めにもう1つベッドを買いたいところだけど、街で買うと絶対街の連中に詮索されるし、ギルド長なんかに知られたら地獄を見る事になり兼ねないから少し迷っている。
まったくどうしたものかと考えながら顔を洗う為に庭の井戸へと向かおうとすると、そのタイミングで2階から彼女が下りてきた。
寝癖など1つもなく、寝起きとは思えないほど整った容姿とその立ち振る舞いに、女性とはさすがなものだと感心しつつ、とりあえず「おはよう。」と声をかけてみる。だが、彼女は一言「えぇ……」とだけ返してきた。
その無愛想さに内心で呆れてしまうが、これから当分は一緒に住む事になるのだからこの辺はちゃんと言っておかないとならない。
「おい……一緒に住むって言うんだったらさ、挨拶とか当たり前の事はちゃんとしようぜ。コミュニケーションが取れないといろいろとお互いに困る事もあるだろ?」
そうはっきりと伝えると、彼女は少し考え込む様に顎に手を置く。
いや……考える必要ってある?人として当たり前の事をしようって話をしてるんだけど。
そう内心でツッコミを入れていると、彼女は一人で納得した様に頷くとこちらに視線を向けてきた。
「それは……その通りね。今この時から改めます。おはよう。」
「お……おう……」
その「おはよう」になぜだが気圧される。
気品……というか何か凄みの様なものを感じてしまったからだ。とても一般人が出せる様なものではないオーラというかなんというか……そんな感覚を彼女から感じ取ったのだ。
たった一瞬だけだけど……
「と……とりあえず顔洗ったら飯作るから。その後は洗濯と掃除をして森に出るけど、君はどうする?」
「了解。私も薬草採取を手伝うわ。」
やっぱりついてくるよね~そうだよねぇ~。
俺は心の中で肩を落とし、顔を洗いに向かうのだった。
◆
ブラックボアという魔物の件。
イレギュラーの処理が無事に終わって何よりだし、奴が森の深層から出てきた事についての調査はギルドがやってくれる。
やっと日課の薬草採集に戻れるんだ。
そう考えたら笑みが溢れてきた。
「あっ!それは根っこから引き抜かないで。」
横で同じ様に薬草を採取している彼女にそう注意すると、彼女は面倒くさそうにもそれに従って薬草を刈り取った。
「なぜこんか採り方をするの?全部一気に刈り取れば早いのに……」
刈り取った薬草を皮袋に入れながら彼女はそうぼやく。
確かに言いたい事は分からなくもない……が、自然の植物を採集する上で1番大切な事を忘れてはならない。
「こいつは万年草って言うんだけどさ。名前のとおり万年そこら中に生えてる草で、再生力が高いからポーションとか治療系の薬によく使われる薬草なんだ。採取の時はこうやって根本から10cmほど上の部分を刈り取るんだけど、1ヶ月も経てばまた生えてくるんだよ。」
まるで講義するような態度で俺が万年草を刈り取る様子を見ながら、彼女は納得がいかないといった表情を浮かべる。
「再生力が高いなら、なおさら一気に刈り取っても問題ないんじゃないの?」
「ところが……」
俺はすぐそばに生えていた別の万年草を根本から深く刈り取り、それを太陽に掲げながらその眩しさで目を細めて笑う。
「こうやって根本から取ってしまうと、こいつはその再生力を失ってそのうち枯れてしまうんだ。ほら、ここに赤い丸い玉みたいなものが透けて見えるだろ?わかるか?」
俺が指差す位置へ視線を向けて、彼女は同じ様に眩しさに目を細めながら万年草を見て指を差した。
「これ……の事?」
「そう。これは魔包(まほう)って言って万年草の核となるものでね。謂わば彼らの心臓みたいなものなんだ。」
そう話しているうちに、手に持っていた万年草がゆっくりと萎れていくのがわかる。
そして、それを見て驚く彼女の顔も。
「でも、この核を残しといてやれば、彼らはその再生力を失わず維持できる。また生えてきてくれるって訳だ。」
薬草士は何も薬草を刈り取って売り捌く事だけが仕事じゃない。それを伝えられる相手ができた事に少し嬉しくなってしまった俺だが、それに対して彼女が発した言葉は予想の斜め上をいく。
「なるほど……あなたはこの森での薬草採集ができる権利を独占しているにも関わらず、裕福には見えない理由はそこにある訳ね。」
「あんた、マジで失礼な奴だな。」
彼女の言葉にはいい加減苛立ちを隠せずにいる。
何も俺は裕福になる為にこの仕事をしてる訳じゃない。この森や街が好きで、薬草が好きだからここにいる。好きな事を仕事にして、好きな場所でのんびり暮らしたいからここにいる訳であって、金の亡者になるつもりは微塵もない。
さっきも言ったが、薬草士ってのは薬草を店に卸すだけが仕事じゃないんだ。森の薬草保護も立派な仕事であって、ギルドからもそれを依頼されているほどなのに。
相変わらずだ、この女は……
一緒に住むって言う割に、協調性もデリカシーもない。まったく親の顔が見てみたいもんだな。
そこで俺はある事に気がついた。
出会ってから丸一日経ったけど、この女性の名を知らないのだ。
とは言え、俺だって名乗っていない。
突然、強制的に女性が居候を始めるという意味不明なイベントを前に、どうやら人としての礼儀を忘れてしまっていた様だ。
小さくため息をつき、俺は彼女にその名を尋ねる事にする。
「そう言えばさ、名前を聞いてないよね?俺はユウリ。ユウリ=ドラッグスって言う。君の名は?」
「……知っているわよ。」
彼女は小さく何かを呟くが、俺には聞こえず聞き返す。
「え……?何?」
だが、彼女はこちらに視線を向けて眉を顰めると、小さくため息をついて名を告げる。
「私の名はターよ。」
「……ター?珍しい名前だな。」
そう無意識にクスリと笑みをこぼした俺に、彼女は冷静にこうも告げる。
「人の名前を笑うなんて最低ね。」
正論でぐうの音も出ないが、こいつに言われるのだけは納得がいかなかった。
リビングのソファーの上で上半身だけ起こした俺は、大きく伸びをする。
昨晩は彼女に自分のベッドを貸してここで寝たから体が少し痛い。早めにもう1つベッドを買いたいところだけど、街で買うと絶対街の連中に詮索されるし、ギルド長なんかに知られたら地獄を見る事になり兼ねないから少し迷っている。
まったくどうしたものかと考えながら顔を洗う為に庭の井戸へと向かおうとすると、そのタイミングで2階から彼女が下りてきた。
寝癖など1つもなく、寝起きとは思えないほど整った容姿とその立ち振る舞いに、女性とはさすがなものだと感心しつつ、とりあえず「おはよう。」と声をかけてみる。だが、彼女は一言「えぇ……」とだけ返してきた。
その無愛想さに内心で呆れてしまうが、これから当分は一緒に住む事になるのだからこの辺はちゃんと言っておかないとならない。
「おい……一緒に住むって言うんだったらさ、挨拶とか当たり前の事はちゃんとしようぜ。コミュニケーションが取れないといろいろとお互いに困る事もあるだろ?」
そうはっきりと伝えると、彼女は少し考え込む様に顎に手を置く。
いや……考える必要ってある?人として当たり前の事をしようって話をしてるんだけど。
そう内心でツッコミを入れていると、彼女は一人で納得した様に頷くとこちらに視線を向けてきた。
「それは……その通りね。今この時から改めます。おはよう。」
「お……おう……」
その「おはよう」になぜだが気圧される。
気品……というか何か凄みの様なものを感じてしまったからだ。とても一般人が出せる様なものではないオーラというかなんというか……そんな感覚を彼女から感じ取ったのだ。
たった一瞬だけだけど……
「と……とりあえず顔洗ったら飯作るから。その後は洗濯と掃除をして森に出るけど、君はどうする?」
「了解。私も薬草採取を手伝うわ。」
やっぱりついてくるよね~そうだよねぇ~。
俺は心の中で肩を落とし、顔を洗いに向かうのだった。
◆
ブラックボアという魔物の件。
イレギュラーの処理が無事に終わって何よりだし、奴が森の深層から出てきた事についての調査はギルドがやってくれる。
やっと日課の薬草採集に戻れるんだ。
そう考えたら笑みが溢れてきた。
「あっ!それは根っこから引き抜かないで。」
横で同じ様に薬草を採取している彼女にそう注意すると、彼女は面倒くさそうにもそれに従って薬草を刈り取った。
「なぜこんか採り方をするの?全部一気に刈り取れば早いのに……」
刈り取った薬草を皮袋に入れながら彼女はそうぼやく。
確かに言いたい事は分からなくもない……が、自然の植物を採集する上で1番大切な事を忘れてはならない。
「こいつは万年草って言うんだけどさ。名前のとおり万年そこら中に生えてる草で、再生力が高いからポーションとか治療系の薬によく使われる薬草なんだ。採取の時はこうやって根本から10cmほど上の部分を刈り取るんだけど、1ヶ月も経てばまた生えてくるんだよ。」
まるで講義するような態度で俺が万年草を刈り取る様子を見ながら、彼女は納得がいかないといった表情を浮かべる。
「再生力が高いなら、なおさら一気に刈り取っても問題ないんじゃないの?」
「ところが……」
俺はすぐそばに生えていた別の万年草を根本から深く刈り取り、それを太陽に掲げながらその眩しさで目を細めて笑う。
「こうやって根本から取ってしまうと、こいつはその再生力を失ってそのうち枯れてしまうんだ。ほら、ここに赤い丸い玉みたいなものが透けて見えるだろ?わかるか?」
俺が指差す位置へ視線を向けて、彼女は同じ様に眩しさに目を細めながら万年草を見て指を差した。
「これ……の事?」
「そう。これは魔包(まほう)って言って万年草の核となるものでね。謂わば彼らの心臓みたいなものなんだ。」
そう話しているうちに、手に持っていた万年草がゆっくりと萎れていくのがわかる。
そして、それを見て驚く彼女の顔も。
「でも、この核を残しといてやれば、彼らはその再生力を失わず維持できる。また生えてきてくれるって訳だ。」
薬草士は何も薬草を刈り取って売り捌く事だけが仕事じゃない。それを伝えられる相手ができた事に少し嬉しくなってしまった俺だが、それに対して彼女が発した言葉は予想の斜め上をいく。
「なるほど……あなたはこの森での薬草採集ができる権利を独占しているにも関わらず、裕福には見えない理由はそこにある訳ね。」
「あんた、マジで失礼な奴だな。」
彼女の言葉にはいい加減苛立ちを隠せずにいる。
何も俺は裕福になる為にこの仕事をしてる訳じゃない。この森や街が好きで、薬草が好きだからここにいる。好きな事を仕事にして、好きな場所でのんびり暮らしたいからここにいる訳であって、金の亡者になるつもりは微塵もない。
さっきも言ったが、薬草士ってのは薬草を店に卸すだけが仕事じゃないんだ。森の薬草保護も立派な仕事であって、ギルドからもそれを依頼されているほどなのに。
相変わらずだ、この女は……
一緒に住むって言う割に、協調性もデリカシーもない。まったく親の顔が見てみたいもんだな。
そこで俺はある事に気がついた。
出会ってから丸一日経ったけど、この女性の名を知らないのだ。
とは言え、俺だって名乗っていない。
突然、強制的に女性が居候を始めるという意味不明なイベントを前に、どうやら人としての礼儀を忘れてしまっていた様だ。
小さくため息をつき、俺は彼女にその名を尋ねる事にする。
「そう言えばさ、名前を聞いてないよね?俺はユウリ。ユウリ=ドラッグスって言う。君の名は?」
「……知っているわよ。」
彼女は小さく何かを呟くが、俺には聞こえず聞き返す。
「え……?何?」
だが、彼女はこちらに視線を向けて眉を顰めると、小さくため息をついて名を告げる。
「私の名はターよ。」
「……ター?珍しい名前だな。」
そう無意識にクスリと笑みをこぼした俺に、彼女は冷静にこうも告げる。
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