12 / 42
11話 ぐうの音もでない
しおりを挟む
「ふわぁ~~~」
リビングのソファーの上で上半身だけ起こした俺は、大きく伸びをする。
昨晩は彼女に自分のベッドを貸してここで寝たから体が少し痛い。早めにもう1つベッドを買いたいところだけど、街で買うと絶対街の連中に詮索されるし、ギルド長なんかに知られたら地獄を見る事になり兼ねないから少し迷っている。
まったくどうしたものかと考えながら顔を洗う為に庭の井戸へと向かおうとすると、そのタイミングで2階から彼女が下りてきた。
寝癖など1つもなく、寝起きとは思えないほど整った容姿とその立ち振る舞いに、女性とはさすがなものだと感心しつつ、とりあえず「おはよう。」と声をかけてみる。だが、彼女は一言「えぇ……」とだけ返してきた。
その無愛想さに内心で呆れてしまうが、これから当分は一緒に住む事になるのだからこの辺はちゃんと言っておかないとならない。
「おい……一緒に住むって言うんだったらさ、挨拶とか当たり前の事はちゃんとしようぜ。コミュニケーションが取れないといろいろとお互いに困る事もあるだろ?」
そうはっきりと伝えると、彼女は少し考え込む様に顎に手を置く。
いや……考える必要ってある?人として当たり前の事をしようって話をしてるんだけど。
そう内心でツッコミを入れていると、彼女は一人で納得した様に頷くとこちらに視線を向けてきた。
「それは……その通りね。今この時から改めます。おはよう。」
「お……おう……」
その「おはよう」になぜだが気圧される。
気品……というか何か凄みの様なものを感じてしまったからだ。とても一般人が出せる様なものではないオーラというかなんというか……そんな感覚を彼女から感じ取ったのだ。
たった一瞬だけだけど……
「と……とりあえず顔洗ったら飯作るから。その後は洗濯と掃除をして森に出るけど、君はどうする?」
「了解。私も薬草採取を手伝うわ。」
やっぱりついてくるよね~そうだよねぇ~。
俺は心の中で肩を落とし、顔を洗いに向かうのだった。
◆
ブラックボアという魔物の件。
イレギュラーの処理が無事に終わって何よりだし、奴が森の深層から出てきた事についての調査はギルドがやってくれる。
やっと日課の薬草採集に戻れるんだ。
そう考えたら笑みが溢れてきた。
「あっ!それは根っこから引き抜かないで。」
横で同じ様に薬草を採取している彼女にそう注意すると、彼女は面倒くさそうにもそれに従って薬草を刈り取った。
「なぜこんか採り方をするの?全部一気に刈り取れば早いのに……」
刈り取った薬草を皮袋に入れながら彼女はそうぼやく。
確かに言いたい事は分からなくもない……が、自然の植物を採集する上で1番大切な事を忘れてはならない。
「こいつは万年草って言うんだけどさ。名前のとおり万年そこら中に生えてる草で、再生力が高いからポーションとか治療系の薬によく使われる薬草なんだ。採取の時はこうやって根本から10cmほど上の部分を刈り取るんだけど、1ヶ月も経てばまた生えてくるんだよ。」
まるで講義するような態度で俺が万年草を刈り取る様子を見ながら、彼女は納得がいかないといった表情を浮かべる。
「再生力が高いなら、なおさら一気に刈り取っても問題ないんじゃないの?」
「ところが……」
俺はすぐそばに生えていた別の万年草を根本から深く刈り取り、それを太陽に掲げながらその眩しさで目を細めて笑う。
「こうやって根本から取ってしまうと、こいつはその再生力を失ってそのうち枯れてしまうんだ。ほら、ここに赤い丸い玉みたいなものが透けて見えるだろ?わかるか?」
俺が指差す位置へ視線を向けて、彼女は同じ様に眩しさに目を細めながら万年草を見て指を差した。
「これ……の事?」
「そう。これは魔包(まほう)って言って万年草の核となるものでね。謂わば彼らの心臓みたいなものなんだ。」
そう話しているうちに、手に持っていた万年草がゆっくりと萎れていくのがわかる。
そして、それを見て驚く彼女の顔も。
「でも、この核を残しといてやれば、彼らはその再生力を失わず維持できる。また生えてきてくれるって訳だ。」
薬草士は何も薬草を刈り取って売り捌く事だけが仕事じゃない。それを伝えられる相手ができた事に少し嬉しくなってしまった俺だが、それに対して彼女が発した言葉は予想の斜め上をいく。
「なるほど……あなたはこの森での薬草採集ができる権利を独占しているにも関わらず、裕福には見えない理由はそこにある訳ね。」
「あんた、マジで失礼な奴だな。」
彼女の言葉にはいい加減苛立ちを隠せずにいる。
何も俺は裕福になる為にこの仕事をしてる訳じゃない。この森や街が好きで、薬草が好きだからここにいる。好きな事を仕事にして、好きな場所でのんびり暮らしたいからここにいる訳であって、金の亡者になるつもりは微塵もない。
さっきも言ったが、薬草士ってのは薬草を店に卸すだけが仕事じゃないんだ。森の薬草保護も立派な仕事であって、ギルドからもそれを依頼されているほどなのに。
相変わらずだ、この女は……
一緒に住むって言う割に、協調性もデリカシーもない。まったく親の顔が見てみたいもんだな。
そこで俺はある事に気がついた。
出会ってから丸一日経ったけど、この女性の名を知らないのだ。
とは言え、俺だって名乗っていない。
突然、強制的に女性が居候を始めるという意味不明なイベントを前に、どうやら人としての礼儀を忘れてしまっていた様だ。
小さくため息をつき、俺は彼女にその名を尋ねる事にする。
「そう言えばさ、名前を聞いてないよね?俺はユウリ。ユウリ=ドラッグスって言う。君の名は?」
「……知っているわよ。」
彼女は小さく何かを呟くが、俺には聞こえず聞き返す。
「え……?何?」
だが、彼女はこちらに視線を向けて眉を顰めると、小さくため息をついて名を告げる。
「私の名はターよ。」
「……ター?珍しい名前だな。」
そう無意識にクスリと笑みをこぼした俺に、彼女は冷静にこうも告げる。
「人の名前を笑うなんて最低ね。」
正論でぐうの音も出ないが、こいつに言われるのだけは納得がいかなかった。
リビングのソファーの上で上半身だけ起こした俺は、大きく伸びをする。
昨晩は彼女に自分のベッドを貸してここで寝たから体が少し痛い。早めにもう1つベッドを買いたいところだけど、街で買うと絶対街の連中に詮索されるし、ギルド長なんかに知られたら地獄を見る事になり兼ねないから少し迷っている。
まったくどうしたものかと考えながら顔を洗う為に庭の井戸へと向かおうとすると、そのタイミングで2階から彼女が下りてきた。
寝癖など1つもなく、寝起きとは思えないほど整った容姿とその立ち振る舞いに、女性とはさすがなものだと感心しつつ、とりあえず「おはよう。」と声をかけてみる。だが、彼女は一言「えぇ……」とだけ返してきた。
その無愛想さに内心で呆れてしまうが、これから当分は一緒に住む事になるのだからこの辺はちゃんと言っておかないとならない。
「おい……一緒に住むって言うんだったらさ、挨拶とか当たり前の事はちゃんとしようぜ。コミュニケーションが取れないといろいろとお互いに困る事もあるだろ?」
そうはっきりと伝えると、彼女は少し考え込む様に顎に手を置く。
いや……考える必要ってある?人として当たり前の事をしようって話をしてるんだけど。
そう内心でツッコミを入れていると、彼女は一人で納得した様に頷くとこちらに視線を向けてきた。
「それは……その通りね。今この時から改めます。おはよう。」
「お……おう……」
その「おはよう」になぜだが気圧される。
気品……というか何か凄みの様なものを感じてしまったからだ。とても一般人が出せる様なものではないオーラというかなんというか……そんな感覚を彼女から感じ取ったのだ。
たった一瞬だけだけど……
「と……とりあえず顔洗ったら飯作るから。その後は洗濯と掃除をして森に出るけど、君はどうする?」
「了解。私も薬草採取を手伝うわ。」
やっぱりついてくるよね~そうだよねぇ~。
俺は心の中で肩を落とし、顔を洗いに向かうのだった。
◆
ブラックボアという魔物の件。
イレギュラーの処理が無事に終わって何よりだし、奴が森の深層から出てきた事についての調査はギルドがやってくれる。
やっと日課の薬草採集に戻れるんだ。
そう考えたら笑みが溢れてきた。
「あっ!それは根っこから引き抜かないで。」
横で同じ様に薬草を採取している彼女にそう注意すると、彼女は面倒くさそうにもそれに従って薬草を刈り取った。
「なぜこんか採り方をするの?全部一気に刈り取れば早いのに……」
刈り取った薬草を皮袋に入れながら彼女はそうぼやく。
確かに言いたい事は分からなくもない……が、自然の植物を採集する上で1番大切な事を忘れてはならない。
「こいつは万年草って言うんだけどさ。名前のとおり万年そこら中に生えてる草で、再生力が高いからポーションとか治療系の薬によく使われる薬草なんだ。採取の時はこうやって根本から10cmほど上の部分を刈り取るんだけど、1ヶ月も経てばまた生えてくるんだよ。」
まるで講義するような態度で俺が万年草を刈り取る様子を見ながら、彼女は納得がいかないといった表情を浮かべる。
「再生力が高いなら、なおさら一気に刈り取っても問題ないんじゃないの?」
「ところが……」
俺はすぐそばに生えていた別の万年草を根本から深く刈り取り、それを太陽に掲げながらその眩しさで目を細めて笑う。
「こうやって根本から取ってしまうと、こいつはその再生力を失ってそのうち枯れてしまうんだ。ほら、ここに赤い丸い玉みたいなものが透けて見えるだろ?わかるか?」
俺が指差す位置へ視線を向けて、彼女は同じ様に眩しさに目を細めながら万年草を見て指を差した。
「これ……の事?」
「そう。これは魔包(まほう)って言って万年草の核となるものでね。謂わば彼らの心臓みたいなものなんだ。」
そう話しているうちに、手に持っていた万年草がゆっくりと萎れていくのがわかる。
そして、それを見て驚く彼女の顔も。
「でも、この核を残しといてやれば、彼らはその再生力を失わず維持できる。また生えてきてくれるって訳だ。」
薬草士は何も薬草を刈り取って売り捌く事だけが仕事じゃない。それを伝えられる相手ができた事に少し嬉しくなってしまった俺だが、それに対して彼女が発した言葉は予想の斜め上をいく。
「なるほど……あなたはこの森での薬草採集ができる権利を独占しているにも関わらず、裕福には見えない理由はそこにある訳ね。」
「あんた、マジで失礼な奴だな。」
彼女の言葉にはいい加減苛立ちを隠せずにいる。
何も俺は裕福になる為にこの仕事をしてる訳じゃない。この森や街が好きで、薬草が好きだからここにいる。好きな事を仕事にして、好きな場所でのんびり暮らしたいからここにいる訳であって、金の亡者になるつもりは微塵もない。
さっきも言ったが、薬草士ってのは薬草を店に卸すだけが仕事じゃないんだ。森の薬草保護も立派な仕事であって、ギルドからもそれを依頼されているほどなのに。
相変わらずだ、この女は……
一緒に住むって言う割に、協調性もデリカシーもない。まったく親の顔が見てみたいもんだな。
そこで俺はある事に気がついた。
出会ってから丸一日経ったけど、この女性の名を知らないのだ。
とは言え、俺だって名乗っていない。
突然、強制的に女性が居候を始めるという意味不明なイベントを前に、どうやら人としての礼儀を忘れてしまっていた様だ。
小さくため息をつき、俺は彼女にその名を尋ねる事にする。
「そう言えばさ、名前を聞いてないよね?俺はユウリ。ユウリ=ドラッグスって言う。君の名は?」
「……知っているわよ。」
彼女は小さく何かを呟くが、俺には聞こえず聞き返す。
「え……?何?」
だが、彼女はこちらに視線を向けて眉を顰めると、小さくため息をついて名を告げる。
「私の名はターよ。」
「……ター?珍しい名前だな。」
そう無意識にクスリと笑みをこぼした俺に、彼女は冷静にこうも告げる。
「人の名前を笑うなんて最低ね。」
正論でぐうの音も出ないが、こいつに言われるのだけは納得がいかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる