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12話 彼女からの提案
しおりを挟む薬草採取もひと段落し、俺たちが家に戻ったのは夕方だった。
気合を入れて望んだ甲斐あって、遅れていたスケジュールはほとんど取り戻す事ができた。その事に満足しながら、取ってきた薬草たちを専用の倉庫へ保管して夕食の準備に取りかかる事にする。
「さて、今日は何が食べたい?」
庭の井戸で手を洗いながら尋ねると、彼女からは意外な言葉が返ってきた。
「今日は私が作るわ。」
「……え?」
「聞こえなかったのかしら?今日は私が作ります。」
聞き返した事が気に食わなかったのだろう。
少しムスッとした表情を浮かべる彼女に謝罪しつつ、その事を了解する。
・
・
「野菜はここ、肉や魚はこっちの冷凍庫に入ってるよ。」
「冷凍庫……あなた、かなり高価なものを持っているのね。」
台所で食材の保管場所や道具の位置を伝えていると、彼女は少し驚いた様に俺に尋ねてきた。
「あぁ……これは知り合いに譲ってもらったんだよ。」
「へぇ~!魔道具をいくつも購入できる人がいるなんて、ちょっと驚きね。」
彼女が驚くのにも無理はない。
この世界には魔道具という特殊な道具がいくつも存在していて、それらは1つあれば生活水準がかなり向上する優れものだ。
だが、そんな便利な道具のこの世界での普及率は30~40%程度と低く留まっている。
その理由は単純で、魔道具の価格の高さにある。
特にこの冷凍庫の様に機能を長期的に継続させる様な魔道具は高度な技術が使われていて、大量に生産はできない。そうなると希少価値が上がり、自ずと単価も吊り上がってしまうという訳だ。
一般市民にとって高価な物は高嶺の花。
王族や貴族ならば購入が可能だろうが、普通の人はなかなか手が出せないのである。
「あなたの知り合いはかなりのお金持ちなのね。」
「いや、それがそうじゃないんだ。これには訳があってさ。」
俺は、簡単にだがこの冷凍庫を手に入れた経緯を彼女へと説明する。
もう随分前の話だが、街に魔道具の研究を行っている技術士が来た事があって、彼は度重なる研究で肩凝りに悩まされていた。だから、俺はそれに効く薬草を教えてあげたんだが、そしたらそのお礼にとこの冷凍庫を貰った訳だ。
初めはそんな高価なものは受け取れないと断ったが、話を聞くとこれは試作品だったらしく、値打ちとしてはそんなに高くないものだからと半分押し付けられる形で受け取る事になった。
「ふ~ん、魔道具の技術士ねぇ……要するに運が良かっただけなのね。」
相変わらずカチンとくる物言いだが、それにいちいち構っていてはキリがない。
魔道具の話はさっさと切り上げて台所に関する説明を終わらせると、その場を彼女に任せて俺は風呂掃除と洗濯物の取り込みに向かう。
「彼女……いったいどんな料理を作るんだろうな。」
庭に干していた洗濯物を取り込みながら、ふとそんな疑問が頭をよぎる。
思えば、女性の手料理なんて初めて食べるかもしれないな。薬草士としてこんな森の中で一人で生活をしてきた訳だし、料理はずっと自分で作ってきた。そのおかげで大抵の料理は作れる様になってしまったから、逆に彼女が作る料理がどんなものか気になって仕方ないと思っている自分に気づいて苦笑する。
家の方からふわりと良い香りが漂い始め、夕食の献立を想像するとなぜだか胸が躍った。
今まで感じた事のない逸る気持ちを抑え切れず、俺は洗濯物を急いで取り込み終えると急いで家へと戻っていた。
◆
「ミートフィッシュとパール貝のパエリア。それと根野菜のスープ。サラダは……」
テーブルに並んでいく料理を見て、自然と涎が溢れてしまう。
パエリアなんて一人で暮らしていたらまずお目にはかからない料理だし、魚介類の香ばしい香りが食欲をそそる。
「これ、君が作ったんだよな?」
「はぁ……?私は魔法使いじゃないわ。」
皮肉で言ったつもりはないんだが、彼女が眉を顰めて怪訝な表情を浮かべたのですぐに謝罪してみたが、彼女は気に食わなさそうに鼻を鳴らして俺の向かいへ座った。
互いに準備ができた事を確認し、俺が「いただきます。」と呟くと彼女もそれに続く。
まさか、こうやって誰かと食卓を囲む日が来るとは思ってもみなかったな。長年一人で気楽に過ごしてきたけど、街には友達もたくさんいるから寂しい訳じゃない。
だが、たまには自宅でこうやってご飯を食べるのもいいもんだ。
そんな事を一人で考えながら、彼女が取り分けてくれたパエリアを口にする。
これは本当に美味いな。貝の旨味もしっかり出ているし、何よりミートフィッシュとの相性がいい。それに少し芯の残る米も歯応えがあって……
だが、一人で堪能していた俺に彼女が真剣な眼差しを向けている事に気づいた。
そんなに料理の出来が気になるのか?こんなに美味いものを作れるんだから、もっと自信があるかと思ってたけど。でも、やっぱり作ってくれた事には感謝しないとな。
「これ、まじで美味いな!特にこのスパイス!ピリッとしててアクセントになってるし!隠し味かなんかかな。」
「スパ……イス……そ……そうね。今回は試しに入れてみたの。」
笑顔でそう告げてみたが彼女の反応はイマイチで、どこかよそよそしさのようなものを感じてしまう。
あれ?回答間違ったか?本気で伝えたつもりだったけど……
「……大丈夫?どこか気分でも悪いとか?」
「いえ……違います。美味しいかどうか不安だっただけです。まぁ、あなたの感想もありきたりでホッとしましたが。」
「あり……?!」
せっかく褒めたのに相変わらず可愛げがないな、こいつは!一言多いんだよ、まったく!
少し腹立たしく思いつつも、俺はそのパエリアを食べ続けていた。
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