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16話 ディスティニーは突然に
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「きゃっ……!」
小さな悲鳴とともに目の前で彼女が転びかけたその瞬間、俺はとっさにその体を抱き抱えていた。
先ほどまであれだけいがみ合っていたというのに……
こんな面倒くさい女性には、やっぱり出て行ってもらおうとすら考えていたのに……
そんな気持ちとは裏腹に俺の体は無意識に動き、彼女の体を支えていたのだ。
一瞬、時が止まった様に思えた。
彼女の背に手を回した状態で踏み止まっているので、自然と彼女の顔が目の前に、しかもけっこう近い距離に来ている。
さらさらと艶のある髪の毛とまつ毛の長さを初めて知る。彼女の透き通った瞳は吸い込まれそうになる程に綺麗で、艶のある唇はとても柔らかそうだった。
「あ……ご……ごめん!」
見惚れていた俺は、すぐに我に返って彼女を腕から下ろした。
自分の思いがけない行動に動揺しつつも謝罪をしてみたが、彼女はすぐにそっぽを向いてしまったのでその表情はわからない。それを見て、怒らせたかもしれないという不安がさらに焦りを募らせていく。
だが、その反面では自分の中に湧き上がってくるこれまで感じた事のない感覚に戸惑いが隠せなかった。
どうしてだか頬が熱い……
ただ単純に抱き止めただけなのに、胸の鼓動が少しずつ早まるのを感じる。
こんなの初めてだ。別に女性と触れ合う事はこれが初めてじゃないのに……もちろん変な意味じゃない事は先に断っておくけど。
「わたし、もう寝ます。」
「あ……」
小さく言い残してその場を立ち去ろうとする彼女に対して、何とか声を絞り出して引き止めようとしたが、どうやらそのタイミングは逸していたらしい。
彼女はそれをくぐり抜けるように上への階段を駆け上がって行く。
俺はといえば、その場に立ち尽くしたままその背中を見守ることしかできなかった。
◆
勢いよく開けたドアを素早く閉じて、私はその場に背を預けた。高鳴る鼓動に息が弾み、顔が熱くなるのを感じて動揺が隠せない。
(いったい……なんでなんで……)
意思に反して湧き上がる感情。
お風呂場では全く気にならなかったというのに、転びそうになったところを受け止められただけでこんな気持ちになるなんて……
明らかに自分の感情がおかしくなっている事に混乱している事は理解できた。
ふと、先ほどのシーンがフラッシュバックする。
突然抱き止められ、見上げた先に映ったものはこちらを見下ろす純粋に輝く瞳。
それに、全てを見透かす様なその瞳を見て全身に走った衝撃と、突如として頭の中に流れ込んできたあの映像はいったい何だったのか。
目の前で静かに佇む男性の後ろ姿。
ほんの数秒だけ脳内に映し出されただけなのに、その見知らぬ彼の後ろ姿がユウリと重なった瞬間から理解不能な感情が湧き上がってきたのだ。
(私ったら……いったいどうしたのよ……)
そう頭を抱えてため息をつく。
これは恋……とは違うと思う。
自分も年頃の女性であり、そういう感情についてはある程度の理解と知識は持っているつもりだ。だけど、この感覚はそんな世俗的なものとは違うと言いきれる。
もっとこう……わかりやすい言葉で表すなら……
「……運命」
無意識に呟いていた言葉に気づき、我に返って頭を何度も横に振る。
(違う違う違う違う違う違う違う!!何を言ってるのよ、私は!!)
更なる動揺が押し寄せて胸を締め付ける。
どうかしているんだと自分の感情を否定する事で、必死に冷静さを取り戻そうとしても、心の奥底で何かがそれを許さないとでも主張する様に胸が熱くなっていく。
私はしばらくの間、この感情との戦いを余儀なくされた。
・
・
・
部屋にこもってから少しの時間が過ぎた頃、私はその場を立ち上がって視線を上げた。
いつの間にか、部屋にある窓から月明かりが差し込んでいて、時間がどの程度経過しているのかを認識する。
あれから彼が私の部屋を訪れてくる事はなく、その理由を想像してみて何故だか胸の奥がチクリとしたが、その理由は今の私には必要がなかった。
ーーー思った以上に手強く厄介な相手なのかもしれない。
改めてそう感じさせられた。
無駄に連発する幸運力と今回推測される力の件を考えれば、その答えにたどり着くの妥当なところだろう。
街ではエルダというギルド長の娘を筆頭に多くの娘たちが彼に声をかけ、その表情を緩めていた。その事から私が導き出した答えは、彼はチャーム( 魅了 )の力を持っているという事だ。意識的なのか無意識なのかはわからないが、彼はその力を使って今回は私を惑わせた。
でなければ、私があんな感情を対象に抱くはずがない。運命などという馬鹿げた幻想を抱くのは、幸せな家庭に生まれ、箱に入れられて育ったお嬢様くらいだろうから。
私の様な者が抱くには……
窓の外に顔を出す。
暗闇に佇む樹々は静かに眠り、それを見守る様に星々が煌めいている。
梟は……まだ来ない。
私の首はまだ繋がっている様だ。組織はミッション失敗との判断はしていないらしい。
だが、うかうかともしていられないのも事実である。
いつボスが痺れを切らして別の刺客を送り込んでくるかはわからないからだ。
それに……
空を見上げていた視線を足下に落とした。
自身の目的の達成のためには、こんなところで足踏みはしていられない。早くこのミッションを終わらせて次へ進まねばならない。
私は顔を上げ、未来を見据える様に真っ直ぐと目の前を見つめていた。
小さな悲鳴とともに目の前で彼女が転びかけたその瞬間、俺はとっさにその体を抱き抱えていた。
先ほどまであれだけいがみ合っていたというのに……
こんな面倒くさい女性には、やっぱり出て行ってもらおうとすら考えていたのに……
そんな気持ちとは裏腹に俺の体は無意識に動き、彼女の体を支えていたのだ。
一瞬、時が止まった様に思えた。
彼女の背に手を回した状態で踏み止まっているので、自然と彼女の顔が目の前に、しかもけっこう近い距離に来ている。
さらさらと艶のある髪の毛とまつ毛の長さを初めて知る。彼女の透き通った瞳は吸い込まれそうになる程に綺麗で、艶のある唇はとても柔らかそうだった。
「あ……ご……ごめん!」
見惚れていた俺は、すぐに我に返って彼女を腕から下ろした。
自分の思いがけない行動に動揺しつつも謝罪をしてみたが、彼女はすぐにそっぽを向いてしまったのでその表情はわからない。それを見て、怒らせたかもしれないという不安がさらに焦りを募らせていく。
だが、その反面では自分の中に湧き上がってくるこれまで感じた事のない感覚に戸惑いが隠せなかった。
どうしてだか頬が熱い……
ただ単純に抱き止めただけなのに、胸の鼓動が少しずつ早まるのを感じる。
こんなの初めてだ。別に女性と触れ合う事はこれが初めてじゃないのに……もちろん変な意味じゃない事は先に断っておくけど。
「わたし、もう寝ます。」
「あ……」
小さく言い残してその場を立ち去ろうとする彼女に対して、何とか声を絞り出して引き止めようとしたが、どうやらそのタイミングは逸していたらしい。
彼女はそれをくぐり抜けるように上への階段を駆け上がって行く。
俺はといえば、その場に立ち尽くしたままその背中を見守ることしかできなかった。
◆
勢いよく開けたドアを素早く閉じて、私はその場に背を預けた。高鳴る鼓動に息が弾み、顔が熱くなるのを感じて動揺が隠せない。
(いったい……なんでなんで……)
意思に反して湧き上がる感情。
お風呂場では全く気にならなかったというのに、転びそうになったところを受け止められただけでこんな気持ちになるなんて……
明らかに自分の感情がおかしくなっている事に混乱している事は理解できた。
ふと、先ほどのシーンがフラッシュバックする。
突然抱き止められ、見上げた先に映ったものはこちらを見下ろす純粋に輝く瞳。
それに、全てを見透かす様なその瞳を見て全身に走った衝撃と、突如として頭の中に流れ込んできたあの映像はいったい何だったのか。
目の前で静かに佇む男性の後ろ姿。
ほんの数秒だけ脳内に映し出されただけなのに、その見知らぬ彼の後ろ姿がユウリと重なった瞬間から理解不能な感情が湧き上がってきたのだ。
(私ったら……いったいどうしたのよ……)
そう頭を抱えてため息をつく。
これは恋……とは違うと思う。
自分も年頃の女性であり、そういう感情についてはある程度の理解と知識は持っているつもりだ。だけど、この感覚はそんな世俗的なものとは違うと言いきれる。
もっとこう……わかりやすい言葉で表すなら……
「……運命」
無意識に呟いていた言葉に気づき、我に返って頭を何度も横に振る。
(違う違う違う違う違う違う違う!!何を言ってるのよ、私は!!)
更なる動揺が押し寄せて胸を締め付ける。
どうかしているんだと自分の感情を否定する事で、必死に冷静さを取り戻そうとしても、心の奥底で何かがそれを許さないとでも主張する様に胸が熱くなっていく。
私はしばらくの間、この感情との戦いを余儀なくされた。
・
・
・
部屋にこもってから少しの時間が過ぎた頃、私はその場を立ち上がって視線を上げた。
いつの間にか、部屋にある窓から月明かりが差し込んでいて、時間がどの程度経過しているのかを認識する。
あれから彼が私の部屋を訪れてくる事はなく、その理由を想像してみて何故だか胸の奥がチクリとしたが、その理由は今の私には必要がなかった。
ーーー思った以上に手強く厄介な相手なのかもしれない。
改めてそう感じさせられた。
無駄に連発する幸運力と今回推測される力の件を考えれば、その答えにたどり着くの妥当なところだろう。
街ではエルダというギルド長の娘を筆頭に多くの娘たちが彼に声をかけ、その表情を緩めていた。その事から私が導き出した答えは、彼はチャーム( 魅了 )の力を持っているという事だ。意識的なのか無意識なのかはわからないが、彼はその力を使って今回は私を惑わせた。
でなければ、私があんな感情を対象に抱くはずがない。運命などという馬鹿げた幻想を抱くのは、幸せな家庭に生まれ、箱に入れられて育ったお嬢様くらいだろうから。
私の様な者が抱くには……
窓の外に顔を出す。
暗闇に佇む樹々は静かに眠り、それを見守る様に星々が煌めいている。
梟は……まだ来ない。
私の首はまだ繋がっている様だ。組織はミッション失敗との判断はしていないらしい。
だが、うかうかともしていられないのも事実である。
いつボスが痺れを切らして別の刺客を送り込んでくるかはわからないからだ。
それに……
空を見上げていた視線を足下に落とした。
自身の目的の達成のためには、こんなところで足踏みはしていられない。早くこのミッションを終わらせて次へ進まねばならない。
私は顔を上げ、未来を見据える様に真っ直ぐと目の前を見つめていた。
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