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17話 心の変化
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人生、何があろうとも沈んだ陽は東から昇る。
家の外を歩きながら朝日の眩しさを眺めていた俺は、家の外の井戸に着くと顔を洗い流した。
水の冷たさがなんだか心に染みていく様だ。
昨日の出来事を考えていたらなかなか寝付く事ができず、やっと眠りにつけたのは今朝方で、少しぼんやりする頭に水の冷たさが心地よかった。
タオルで顔を拭き終えると、あくびが自然と湧き上がり大きく背伸びをする。
暖かな陽射しと爽やかな風が気持ちいい。
なのに、心に広がるこのわだかまり……こんな気持ちの良くない朝は初めてだった。
「はぁ……とりあえず朝飯にすっか。」
やるせない気持ちを抱いたまま家に戻った俺は、台所へと向かっている途中で2階から降りてきた彼女とふと目が合った。
「あ…………おは……よう。」
その瞬間、昨日の出来事が頭をよぎって再び動悸が起こる。それにまた顔が熱くなるのを感じて、右手の拳で顔下半分を隠しながらとっさに目を逸らしてしまう。
目の前の女性を直視する事ができない。
朝の挨拶をしたというのに、次にかける言葉がどうしても出てこない。
そして、一番の問題はその理由がわからない事だ。
いったい俺はどうしてしまったのだろうか。
一晩経てば元に戻ると思ったけど、それはどうやら間違いだった様だ。
このままだと、いつもの様に彼女に会話のアドバンテージを取られてしまう。皮肉めいた言葉で「あら?そんなに赤くなって……熱でもあるのかしら?」とか言われてしまう。
早く平常心を取り戻さないと。
そう思って必死に心を落ち着かせようとしても、気持ちの昂りを抑えきれず、余計に焦りが募っていく。
(くっそぉ~なんなんだよ、この気持ちは……!)
もどかしさに苛立ちを募らせながら牽制する様にちらりと彼女の様子を窺うが、彼女は階段の前で立ち止まったままなぜか俯いており、その表情は確認できなかった。
ただ、肩は震えているのだけはわかった。
もしかすると、俺の様子を見て笑っているのかも……
そんな考えがよぎってしまい、なおのこと焦りが募っていくが、どうやっても感情のコントロールができない俺は顔を隠したまま台所へ逃げる様に向かい、そのまま朝食の準備を始めた。
一方で、ター自身はというと……
(やばいやばいやばいやばいやばい!!なんなのよ、この気持ちは!!)
階段を下りるまではなんともなかったのに。
それなのに彼の姿を見た瞬間、昨日と同じ様に理解不能な感情が溢れてきた。必死に抑えようとしてもまったく言う事を聞かないこの感情に動揺が隠しきれず、つい俯いてしまっている。
(これじゃ、私が恥ずかしがってるみたいじゃない。彼の顔も確認できないし、私とした事が完全に悪手だわ。)
冷静と動揺の狭間で、今の自分が置かれているこの状況を客観視しているもう一人の自分が、頭の中を駆け回って「メーデー」と叫んでいる。
本来なら平然とした態度で彼に言葉をかけ、この場のアドバンテージを取るべきだったはずだった。目的を達成すべく、最善を尽くすべきだったはずなのに。
それなのに、体は反射的に意思に反した行動を取ってしまっているのだ。
いったい自分はどうしてしまったのだろうか。
昨日から、この理解不能な感情に振り回されてばっかりだが、その原因を掴めないので解消のしようもない。
もともと組織に入った時から感情を押し殺す訓練は受けてきたし、これまでどんな状況であっても心を乱す事はなかったのに。
『だからお前は半人前なんだよ。』
ふと、前にボスから言われた言葉が頭をよぎって、嫌な気分になる。
自分ではできていると思っても、彼から見れば全然ダメな私は組織からは常に落第点をもらってばかりだ。
今回の仕事に選ばれた理由は、"対象に近づくのは男より女"が良いというボスの鶴の一声があったからで、自分の技量を認められた訳ではなかった。
だが、そんな事は百も承知。
今回のミッションを難なくこなし、自分の事をボスに認めさせる。そして、目的を遂げる為にあの案件に早く参加させてもらわなければならない。
そう覚悟を持って臨んだというのに……
(……なのに!なんで頭が上がらないの!?)
彼に視線を向けたくても、まるで見えない力に抑えられているかの様に頭が上がらない。なのに、顔の火照りは増して動悸が激しくなっていく。
もちろん、身体にダメージを受ける様な苦しさではない。
こう……なんと言うか……
そこまで考えたところで、浮かんだ言葉を振り払う様に必死に頭を横に振った。
それは考えてはならない。そんな感情など自分には必要がないのだから……
そうだ。やはりこの場で殺そう。そうしてしまうのが一番良い選択だ。このまま、この変な感情に振り回されていてはチャンスを逃しかねない。
避けられても構わない。逃げられないほどの連撃で一気にカタをつければいい。腰には常に携帯している小刀が2つある。
それを使って……
そう考えた瞬間、心の中を空っぽにして無を纏う。
殺気を漏らす様なヘマはしない。彼に気づかせる事すらなく一瞬で終わらせる。
小刀を握る手に静かに力を込めて、体内で静かに魔力を練り始める。腕と脚の筋力を増強させて間合いを一瞬で詰めればいい。そのままの勢いで首筋を狙えば、彼の首など一瞬で飛ばせるだろう。
そう考え、いざ実行に移そうとしたところで鳴り響いた爆音に意識を奪われた。
「な……なに!?」
「な……なんだ!?」
2人で外へと飛び出すと、遠くの方で大きな煙柱が立っているのが窺える。
それを確認した瞬間、ユウリが駆け出した事に驚いたが、彼の姿は一瞬で見えなくなってしまった。。
「ちょ……ちょっと!!」
後に残されたもどかしさに我慢できず、ター自身も同じ方向へと駆け出していた。
家の外を歩きながら朝日の眩しさを眺めていた俺は、家の外の井戸に着くと顔を洗い流した。
水の冷たさがなんだか心に染みていく様だ。
昨日の出来事を考えていたらなかなか寝付く事ができず、やっと眠りにつけたのは今朝方で、少しぼんやりする頭に水の冷たさが心地よかった。
タオルで顔を拭き終えると、あくびが自然と湧き上がり大きく背伸びをする。
暖かな陽射しと爽やかな風が気持ちいい。
なのに、心に広がるこのわだかまり……こんな気持ちの良くない朝は初めてだった。
「はぁ……とりあえず朝飯にすっか。」
やるせない気持ちを抱いたまま家に戻った俺は、台所へと向かっている途中で2階から降りてきた彼女とふと目が合った。
「あ…………おは……よう。」
その瞬間、昨日の出来事が頭をよぎって再び動悸が起こる。それにまた顔が熱くなるのを感じて、右手の拳で顔下半分を隠しながらとっさに目を逸らしてしまう。
目の前の女性を直視する事ができない。
朝の挨拶をしたというのに、次にかける言葉がどうしても出てこない。
そして、一番の問題はその理由がわからない事だ。
いったい俺はどうしてしまったのだろうか。
一晩経てば元に戻ると思ったけど、それはどうやら間違いだった様だ。
このままだと、いつもの様に彼女に会話のアドバンテージを取られてしまう。皮肉めいた言葉で「あら?そんなに赤くなって……熱でもあるのかしら?」とか言われてしまう。
早く平常心を取り戻さないと。
そう思って必死に心を落ち着かせようとしても、気持ちの昂りを抑えきれず、余計に焦りが募っていく。
(くっそぉ~なんなんだよ、この気持ちは……!)
もどかしさに苛立ちを募らせながら牽制する様にちらりと彼女の様子を窺うが、彼女は階段の前で立ち止まったままなぜか俯いており、その表情は確認できなかった。
ただ、肩は震えているのだけはわかった。
もしかすると、俺の様子を見て笑っているのかも……
そんな考えがよぎってしまい、なおのこと焦りが募っていくが、どうやっても感情のコントロールができない俺は顔を隠したまま台所へ逃げる様に向かい、そのまま朝食の準備を始めた。
一方で、ター自身はというと……
(やばいやばいやばいやばいやばい!!なんなのよ、この気持ちは!!)
階段を下りるまではなんともなかったのに。
それなのに彼の姿を見た瞬間、昨日と同じ様に理解不能な感情が溢れてきた。必死に抑えようとしてもまったく言う事を聞かないこの感情に動揺が隠しきれず、つい俯いてしまっている。
(これじゃ、私が恥ずかしがってるみたいじゃない。彼の顔も確認できないし、私とした事が完全に悪手だわ。)
冷静と動揺の狭間で、今の自分が置かれているこの状況を客観視しているもう一人の自分が、頭の中を駆け回って「メーデー」と叫んでいる。
本来なら平然とした態度で彼に言葉をかけ、この場のアドバンテージを取るべきだったはずだった。目的を達成すべく、最善を尽くすべきだったはずなのに。
それなのに、体は反射的に意思に反した行動を取ってしまっているのだ。
いったい自分はどうしてしまったのだろうか。
昨日から、この理解不能な感情に振り回されてばっかりだが、その原因を掴めないので解消のしようもない。
もともと組織に入った時から感情を押し殺す訓練は受けてきたし、これまでどんな状況であっても心を乱す事はなかったのに。
『だからお前は半人前なんだよ。』
ふと、前にボスから言われた言葉が頭をよぎって、嫌な気分になる。
自分ではできていると思っても、彼から見れば全然ダメな私は組織からは常に落第点をもらってばかりだ。
今回の仕事に選ばれた理由は、"対象に近づくのは男より女"が良いというボスの鶴の一声があったからで、自分の技量を認められた訳ではなかった。
だが、そんな事は百も承知。
今回のミッションを難なくこなし、自分の事をボスに認めさせる。そして、目的を遂げる為にあの案件に早く参加させてもらわなければならない。
そう覚悟を持って臨んだというのに……
(……なのに!なんで頭が上がらないの!?)
彼に視線を向けたくても、まるで見えない力に抑えられているかの様に頭が上がらない。なのに、顔の火照りは増して動悸が激しくなっていく。
もちろん、身体にダメージを受ける様な苦しさではない。
こう……なんと言うか……
そこまで考えたところで、浮かんだ言葉を振り払う様に必死に頭を横に振った。
それは考えてはならない。そんな感情など自分には必要がないのだから……
そうだ。やはりこの場で殺そう。そうしてしまうのが一番良い選択だ。このまま、この変な感情に振り回されていてはチャンスを逃しかねない。
避けられても構わない。逃げられないほどの連撃で一気にカタをつければいい。腰には常に携帯している小刀が2つある。
それを使って……
そう考えた瞬間、心の中を空っぽにして無を纏う。
殺気を漏らす様なヘマはしない。彼に気づかせる事すらなく一瞬で終わらせる。
小刀を握る手に静かに力を込めて、体内で静かに魔力を練り始める。腕と脚の筋力を増強させて間合いを一瞬で詰めればいい。そのままの勢いで首筋を狙えば、彼の首など一瞬で飛ばせるだろう。
そう考え、いざ実行に移そうとしたところで鳴り響いた爆音に意識を奪われた。
「な……なに!?」
「な……なんだ!?」
2人で外へと飛び出すと、遠くの方で大きな煙柱が立っているのが窺える。
それを確認した瞬間、ユウリが駆け出した事に驚いたが、彼の姿は一瞬で見えなくなってしまった。。
「ちょ……ちょっと!!」
後に残されたもどかしさに我慢できず、ター自身も同じ方向へと駆け出していた。
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