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23話 夢のち殺意
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「大丈夫ですか?」
意識が朦朧としたまま倒れている私に向かって、投げかけられた綺麗で透き通った声。それが優しくて耳を撫でていき、視線が自然とそちらへ向いた。
まだ視界がぼんやりしている為か相手の顔がよく見えないが、とっさに出た言葉に自分でも驚いてしまう。
「ユ……ユウリ……?」
なぜ最初に彼の名前が出てきたのか理解不能だったが、先ほどまで一緒に戦っていた事を思い出して、それもそうかと少し安堵する。
ディネルースはおそらくユウリが倒したのだろう。昨日のヘルフラワー戦で見せた動きからも、そうなる事は想像していたから。
だけど、まだぼやけた視界は晴れないし、頭も霞みがかっている。そのせいか、体も上手く動かす事ができない。ディネルースから受けたダメージは想像よりも大きかった様だ。それに木に叩きつけられた事で受けた追加ダメージもあるから、それも原因の1つなんだろう。
このままだとユウリの足手纏いになる事は確実だ。なんとかして立ち上がらねば……ターゲットの世話になるなど言語道断である。
そう必死にもがいている私に向かって、目の前の人物が口を開いた。
「良かった。意識はあるみたいだ。でも、僕はユウリじゃないです。人違いですよ。」
彼は優しく笑ってそう否定すると私の体を支え、ゆっくりと上半身を起こしてくれた。
人違い……とはいったいどういう事だろうかと一瞬混乱してしまうが、確かに今は彼がユウリではない事が理解できる。まだ視界も意識もぼやけていて顔は認識できないが、聞こえてくる声や話し方、そして近くに感じる匂いや気配が、ユウリとは別人であると言っている。
「強く頭を打ったみたいですね。脳震盪を起こしている……とりあえずは少し休んだ方がいい。」
彼の言うとおりだと思う。でなければユウリと彼を間違えるはずはない。ターゲットの事を間違えていては、プロのアサシンとは言えないのだから。
だが、少しだけ冷静になった頭にすぐに別の疑問が浮かび上がった。
ユウリでないなら、彼はいったい誰なのだろうか。この場には私の他にディネルースとユウリしか居なかったはず……たとえ監視していた組織の誰かが駆けつけたのだとしても、こんな風に優しく話しかけてくれる奴などいない。というか、あの組織内に私を心配して駆けつける奴などそもそもいない。
「こ……ここ……は……」
まだ朦朧としている為か言葉がうまく出てこないが、そんな私に対して、彼は優しい声色で簡単な経緯を説明してくれた。
それは理解し難い事実であったが。
彼の話によれば、ここは今戦場と化しているらしい。近くにある城がその中心地で、城を攻める者たちと守る者たちが激しい攻防を繰り広げているという。
彼自身は城を攻める側の人間であり、城内へ攻め入ろうとしていたが、突然城内で起こった大きな爆発で仲間の大半が吹き飛ばされてしまったらしく、彼らを助けるべくここまでやってきた。そこで倒れ込む私を見つけたというのだ。
ーーーどういう事なのか。
意識がはっきりしないせいで、頭の中を整理する事ができない。自分はいったいどこにいるのだろうか。さっきまでディネルースと対峙していたはず……ユウリと一緒に戦っていたはずなのに。
私がここに居る理由は彼にもわからない様だが、混乱して言葉を失った私を見て、彼は優しくも悲しげな声で告げる。
「この戦いはもう終わるよ。でも、君はここで休んでいた方がいい。」
「あ……あなたは……いったい……」
「ごめんね。僕の事は教えてあげられないんだ。見た限り、君は僕ら側ではない様だけど……でも、君がここで生き延びる事を祈ってる。」
それはやはり、どこか寂しげな声だ。
「また……また会える……?」
どうしてそんな事を聞いてしまったのかはわからない。それは自分の意思でというよりも、無意識に口から飛び出してきた感じだった。
だが、彼がそれに答える前に、耳元で聞き覚えのある声が響き始める。
これはユウリの声。
間違えるはずもない。
だけど、目の前にいる彼からの返事を聞かないと。
そう思ってぼやける視界で必死に彼を追いかけるが、少しだけ晴れた視界に映ったのは微笑んだ彼の横顔と背中のみで、遠くで響く爆発音をユウリの声がかき消していった。
・
・
・
「おい!ター!ターってば!大丈夫か?」
「う……うぅ……」
「お!気が付いたか!?よかったぁ~!」
ゆっくりと目を開けると、目の前ではユウリが安堵のため息をついている。そんな彼の後ろには、頬を腫らし意識を失って倒れているディネルースの姿が確認できた。
今のは夢だったのだろうか。
それにしては、自分がその場にいると錯覚させられるほどに鮮明であった。
「無事に倒せたのね。くっ……」
起き上がろうとして全身に激痛が走る。
そういえば、木に激しく叩きつけられたのだからそれもそのはずか。だが、あいにくポーションの類は持ち合わせていない。
「なんとかね。でもさぁ、いったい何なんだ。あいつは……」
「……わからないわね。」
「だよなぁ。なら、あの人どうしようか。このままほったらかしってもの危ない気がするし……」
痛みを堪え、ゆっくり起き上がりながら思案する。
あの女、本当にどうしてくれようか。このまま引きずってギルドに差し出すという手もあるが、それだと逃げ出され、こちらの情報をバラされる可能性があるのは否めない。やはり、ユウリには内緒で処分してしまうのが最適解だろう。
(私の邪魔をした罪は万死に値する。)
ディネルースの目的がユウリである事は間違いない。ならば、邪魔をする同業者はさっさと殺しておくべきである。
そう心に決めて軋む体でゆっくり立ち上がり、再びディネルースの方を見て驚いた。
「ユウリさまぁぁぁ!」
「うわ!いつのまに!?てか、もう気がついたのか!」
「わたくし、強い殿方は大好きですの!もう離れませんわぁ!!」
頬は腫らしているくせに、目をハートにしてユウリに抱きつくディネルース。その様子を見て先ほどの考えを改め直した。
今すぐ殺そう。この場で殺そう。この男と共に。
意識が朦朧としたまま倒れている私に向かって、投げかけられた綺麗で透き通った声。それが優しくて耳を撫でていき、視線が自然とそちらへ向いた。
まだ視界がぼんやりしている為か相手の顔がよく見えないが、とっさに出た言葉に自分でも驚いてしまう。
「ユ……ユウリ……?」
なぜ最初に彼の名前が出てきたのか理解不能だったが、先ほどまで一緒に戦っていた事を思い出して、それもそうかと少し安堵する。
ディネルースはおそらくユウリが倒したのだろう。昨日のヘルフラワー戦で見せた動きからも、そうなる事は想像していたから。
だけど、まだぼやけた視界は晴れないし、頭も霞みがかっている。そのせいか、体も上手く動かす事ができない。ディネルースから受けたダメージは想像よりも大きかった様だ。それに木に叩きつけられた事で受けた追加ダメージもあるから、それも原因の1つなんだろう。
このままだとユウリの足手纏いになる事は確実だ。なんとかして立ち上がらねば……ターゲットの世話になるなど言語道断である。
そう必死にもがいている私に向かって、目の前の人物が口を開いた。
「良かった。意識はあるみたいだ。でも、僕はユウリじゃないです。人違いですよ。」
彼は優しく笑ってそう否定すると私の体を支え、ゆっくりと上半身を起こしてくれた。
人違い……とはいったいどういう事だろうかと一瞬混乱してしまうが、確かに今は彼がユウリではない事が理解できる。まだ視界も意識もぼやけていて顔は認識できないが、聞こえてくる声や話し方、そして近くに感じる匂いや気配が、ユウリとは別人であると言っている。
「強く頭を打ったみたいですね。脳震盪を起こしている……とりあえずは少し休んだ方がいい。」
彼の言うとおりだと思う。でなければユウリと彼を間違えるはずはない。ターゲットの事を間違えていては、プロのアサシンとは言えないのだから。
だが、少しだけ冷静になった頭にすぐに別の疑問が浮かび上がった。
ユウリでないなら、彼はいったい誰なのだろうか。この場には私の他にディネルースとユウリしか居なかったはず……たとえ監視していた組織の誰かが駆けつけたのだとしても、こんな風に優しく話しかけてくれる奴などいない。というか、あの組織内に私を心配して駆けつける奴などそもそもいない。
「こ……ここ……は……」
まだ朦朧としている為か言葉がうまく出てこないが、そんな私に対して、彼は優しい声色で簡単な経緯を説明してくれた。
それは理解し難い事実であったが。
彼の話によれば、ここは今戦場と化しているらしい。近くにある城がその中心地で、城を攻める者たちと守る者たちが激しい攻防を繰り広げているという。
彼自身は城を攻める側の人間であり、城内へ攻め入ろうとしていたが、突然城内で起こった大きな爆発で仲間の大半が吹き飛ばされてしまったらしく、彼らを助けるべくここまでやってきた。そこで倒れ込む私を見つけたというのだ。
ーーーどういう事なのか。
意識がはっきりしないせいで、頭の中を整理する事ができない。自分はいったいどこにいるのだろうか。さっきまでディネルースと対峙していたはず……ユウリと一緒に戦っていたはずなのに。
私がここに居る理由は彼にもわからない様だが、混乱して言葉を失った私を見て、彼は優しくも悲しげな声で告げる。
「この戦いはもう終わるよ。でも、君はここで休んでいた方がいい。」
「あ……あなたは……いったい……」
「ごめんね。僕の事は教えてあげられないんだ。見た限り、君は僕ら側ではない様だけど……でも、君がここで生き延びる事を祈ってる。」
それはやはり、どこか寂しげな声だ。
「また……また会える……?」
どうしてそんな事を聞いてしまったのかはわからない。それは自分の意思でというよりも、無意識に口から飛び出してきた感じだった。
だが、彼がそれに答える前に、耳元で聞き覚えのある声が響き始める。
これはユウリの声。
間違えるはずもない。
だけど、目の前にいる彼からの返事を聞かないと。
そう思ってぼやける視界で必死に彼を追いかけるが、少しだけ晴れた視界に映ったのは微笑んだ彼の横顔と背中のみで、遠くで響く爆発音をユウリの声がかき消していった。
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「おい!ター!ターってば!大丈夫か?」
「う……うぅ……」
「お!気が付いたか!?よかったぁ~!」
ゆっくりと目を開けると、目の前ではユウリが安堵のため息をついている。そんな彼の後ろには、頬を腫らし意識を失って倒れているディネルースの姿が確認できた。
今のは夢だったのだろうか。
それにしては、自分がその場にいると錯覚させられるほどに鮮明であった。
「無事に倒せたのね。くっ……」
起き上がろうとして全身に激痛が走る。
そういえば、木に激しく叩きつけられたのだからそれもそのはずか。だが、あいにくポーションの類は持ち合わせていない。
「なんとかね。でもさぁ、いったい何なんだ。あいつは……」
「……わからないわね。」
「だよなぁ。なら、あの人どうしようか。このままほったらかしってもの危ない気がするし……」
痛みを堪え、ゆっくり起き上がりながら思案する。
あの女、本当にどうしてくれようか。このまま引きずってギルドに差し出すという手もあるが、それだと逃げ出され、こちらの情報をバラされる可能性があるのは否めない。やはり、ユウリには内緒で処分してしまうのが最適解だろう。
(私の邪魔をした罪は万死に値する。)
ディネルースの目的がユウリである事は間違いない。ならば、邪魔をする同業者はさっさと殺しておくべきである。
そう心に決めて軋む体でゆっくり立ち上がり、再びディネルースの方を見て驚いた。
「ユウリさまぁぁぁ!」
「うわ!いつのまに!?てか、もう気がついたのか!」
「わたくし、強い殿方は大好きですの!もう離れませんわぁ!!」
頬は腫らしているくせに、目をハートにしてユウリに抱きつくディネルース。その様子を見て先ほどの考えを改め直した。
今すぐ殺そう。この場で殺そう。この男と共に。
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