元アサシンは前世の愛に飢える

noah太郎

文字の大きさ
25 / 42

24話 竜と虎

しおりを挟む
「ボス、ターのやつが戻りましたぜ。」


 部屋に入ってきた男が、イスに座っている男にそう告げる。入ってきた男は頭を下げ、対して座っている男は威厳ある態度でそれに頷く。


「そうか。通せ。」


 座っている男が厳しい目つきのままそう指示すると、部下と思われる男はこくりと頷いて部屋を出ていった。
 残された男は相変わらず表情を緩める事はなく、隙を感じさせないまま、目の前のテーブルに片腕を置いて指を鳴らしている。彼の側頭部には竜と虎のタトゥーが入っており、それがさらに彼の威厳を高めていた。

 ほどなくして、1人の女性が部屋を訪れた。


「ボス、お呼びとの事で馳せ参じました。」


 長い銀髪を携えた女は、男の前まで来ると片膝をついて頭を下げる。それに対して男は「あぁ。」と一言だけ告げ、テーブルに置いてあった高価な装飾が施された金属製のグラスを手に取ると、入っていた酒を口に含む。


「ターよ。……任務はどうしたんだ?」


 唐突に、そしてシンプルに答えを求められたターはすぐに答える事ができなかった。
 依頼者から指定された男の暗殺が自分の任務であったが、それはまだ遂行できていない。その理由は対象の男が持つ強い悪運と、突然入った同業者による邪魔が原因だったが、それらは全てここではただの言い訳にしかならない。

 どう答えるべきか……
 緊張の中で慎重に言葉を選んでいると、突然大きなため息が聞こえて無意識に肩が震えた。
 彼の恐ろしさは自分自身が身に染みてよく知っている。自分の師であり、真っ先に従うべき相手……逆らう事など絶対に許される事はない。


「依頼者から急かされているんだ。なにか問題があるのか?それとも、単にお前が無能なのか?」


 男は声を荒げる事なく、ただ冷静にそう問いかけてくる。そして、その言葉はターの全身を斬りつけていった。
 もちろん、実際にそんな事は起きてはいないが、彼の言葉にはそれだけの重みがあるという事だ。そう錯覚してしまうほどの威圧感が彼の言葉には乗っている。

 彼に嘘など通用しない。だからこそ、自分が取るべき選択肢は正直に今の現状を伝える事しかない。その上で、助言を受け、任務を確実に遂行せねば。
 ターはごくりと喉を鳴らすと、慎重に言葉を選びながらこれまでの顛末をタトゥーの男へと伝えていった。


「…………以上が、対象の元に潜入し把握している事です。」


 男は指で自分のあごを撫でながら、ターの話を静かに聞いていた。そして、全てを聞き終えると小さく口元に笑みを浮かべ、鼻で笑う。


「なるほど……お前の言い分は理解した。」


 その言葉を聞いて、ター自身は内心で胸を撫で下ろした。だが、まだ油断は許されない。彼が次に発する言葉次第では、自分はこのまま取り返しのつかない事になる場合もあるのだから。
 
 しばしの沈黙の後、男は再び小さく笑って口を開いた。


「ター……お前はどこまで行っても無能だな。これだけ時間をやっても任務を遂行できないなんて二流……いや、三流以下だ。」

「……すみません。」


 そう言われても反論の余地はなかった。
 なぜなら、ボスにかかればあんなヒョロヒョロ男、一瞬で殺してしまうだろうから。
 下を向いて歯を食いしばる。もしかすると今回の任務から外されるかもしれない。そう覚悟する。
 だが……


「…………まぁいい。この任務はお前が担当だと決めた俺にも責任はある。それにだ。やはりこの任務はお前がメインでやるべきだからな。」

「あ……ありがとうございます。必ずこの手で……」


 下を向いたまま、無意識にそう告げていた。
 それはこの場の重圧から解き放たれ、再びチャンスを与えてもらえた事に対する歓喜と改めて湧き上がる強い意志。それが表に顔を出したのは、ごく普通の反応であったと思う。
 だが、ターは男の口から次に出た言葉に耳を疑ってしまう。


「だが、あまり時間がないのも事実だ。依頼者の気は長い方ではなさそうだからな。とりあえず、数名の刺客を送り込むから、お前は対象の監視役に徹して必要な情報を共有しろ。」

「なっ……!?ボス!しかし!!」


 あまりの驚きに顔を上げて反論しようとしたが、その先にあるのは威厳に満ちた鋭い視線だ。発しようとした言葉たちはその視線に怯え、まるで逃げ込む様に喉の奥底へと帰っていく。


「お……仰せのままに……」


 ターの言葉を聞いた男は小さく頷いた。





 ターが部屋を出た後、男は彼女が去っていったドアを1人眺めていた。


「悪運が強い……か。」


 男の名はドラゴ=ライガン。
 この暗殺組織「竜と虎」のトップに君臨する男である。
 ドラゴは何かを思案すると、誰もいない部屋の中で部下の名を呼ぶ。すると、どこからともなく彼の目の前に真っ黒な外套を纏った男が跪いた姿で現れた。


「お呼びで?」


 少し高い声で静かにそう尋ねる男にドラゴは自分の考えを簡単に伝えていった。


「……では、そのユウリ=ドラッグスについてお調べすれば良いのですな。」

「あぁ、期待しているぞ。パノルゴス。」


 ドラゴがそう笑うと、パノルゴスと呼ばれた男は口元で小さく笑みを浮かべてそのまま姿を消した。
 再び1人きりとなった部屋の中で、ドラゴは入口のドアを見つめ、くつくつと笑い出す。


「面白い事が起きるかもしれないな。」


 ドラゴはそう呟くと、今後起きる事を想像してさらに笑みを大きくした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...