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24話 竜と虎
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「ボス、ターのやつが戻りましたぜ。」
部屋に入ってきた男が、イスに座っている男にそう告げる。入ってきた男は頭を下げ、対して座っている男は威厳ある態度でそれに頷く。
「そうか。通せ。」
座っている男が厳しい目つきのままそう指示すると、部下と思われる男はこくりと頷いて部屋を出ていった。
残された男は相変わらず表情を緩める事はなく、隙を感じさせないまま、目の前のテーブルに片腕を置いて指を鳴らしている。彼の側頭部には竜と虎のタトゥーが入っており、それがさらに彼の威厳を高めていた。
ほどなくして、1人の女性が部屋を訪れた。
「ボス、お呼びとの事で馳せ参じました。」
長い銀髪を携えた女は、男の前まで来ると片膝をついて頭を下げる。それに対して男は「あぁ。」と一言だけ告げ、テーブルに置いてあった高価な装飾が施された金属製のグラスを手に取ると、入っていた酒を口に含む。
「ターよ。……任務はどうしたんだ?」
唐突に、そしてシンプルに答えを求められたターはすぐに答える事ができなかった。
依頼者から指定された男の暗殺が自分の任務であったが、それはまだ遂行できていない。その理由は対象の男が持つ強い悪運と、突然入った同業者による邪魔が原因だったが、それらは全てここではただの言い訳にしかならない。
どう答えるべきか……
緊張の中で慎重に言葉を選んでいると、突然大きなため息が聞こえて無意識に肩が震えた。
彼の恐ろしさは自分自身が身に染みてよく知っている。自分の師であり、真っ先に従うべき相手……逆らう事など絶対に許される事はない。
「依頼者から急かされているんだ。なにか問題があるのか?それとも、単にお前が無能なのか?」
男は声を荒げる事なく、ただ冷静にそう問いかけてくる。そして、その言葉はターの全身を斬りつけていった。
もちろん、実際にそんな事は起きてはいないが、彼の言葉にはそれだけの重みがあるという事だ。そう錯覚してしまうほどの威圧感が彼の言葉には乗っている。
彼に嘘など通用しない。だからこそ、自分が取るべき選択肢は正直に今の現状を伝える事しかない。その上で、助言を受け、任務を確実に遂行せねば。
ターはごくりと喉を鳴らすと、慎重に言葉を選びながらこれまでの顛末をタトゥーの男へと伝えていった。
「…………以上が、対象の元に潜入し把握している事です。」
男は指で自分のあごを撫でながら、ターの話を静かに聞いていた。そして、全てを聞き終えると小さく口元に笑みを浮かべ、鼻で笑う。
「なるほど……お前の言い分は理解した。」
その言葉を聞いて、ター自身は内心で胸を撫で下ろした。だが、まだ油断は許されない。彼が次に発する言葉次第では、自分はこのまま取り返しのつかない事になる場合もあるのだから。
しばしの沈黙の後、男は再び小さく笑って口を開いた。
「ター……お前はどこまで行っても無能だな。これだけ時間をやっても任務を遂行できないなんて二流……いや、三流以下だ。」
「……すみません。」
そう言われても反論の余地はなかった。
なぜなら、ボスにかかればあんなヒョロヒョロ男、一瞬で殺してしまうだろうから。
下を向いて歯を食いしばる。もしかすると今回の任務から外されるかもしれない。そう覚悟する。
だが……
「…………まぁいい。この任務はお前が担当だと決めた俺にも責任はある。それにだ。やはりこの任務はお前がメインでやるべきだからな。」
「あ……ありがとうございます。必ずこの手で……」
下を向いたまま、無意識にそう告げていた。
それはこの場の重圧から解き放たれ、再びチャンスを与えてもらえた事に対する歓喜と改めて湧き上がる強い意志。それが表に顔を出したのは、ごく普通の反応であったと思う。
だが、ターは男の口から次に出た言葉に耳を疑ってしまう。
「だが、あまり時間がないのも事実だ。依頼者の気は長い方ではなさそうだからな。とりあえず、数名の刺客を送り込むから、お前は対象の監視役に徹して必要な情報を共有しろ。」
「なっ……!?ボス!しかし!!」
あまりの驚きに顔を上げて反論しようとしたが、その先にあるのは威厳に満ちた鋭い視線だ。発しようとした言葉たちはその視線に怯え、まるで逃げ込む様に喉の奥底へと帰っていく。
「お……仰せのままに……」
ターの言葉を聞いた男は小さく頷いた。
・
ターが部屋を出た後、男は彼女が去っていったドアを1人眺めていた。
「悪運が強い……か。」
男の名はドラゴ=ライガン。
この暗殺組織「竜と虎」のトップに君臨する男である。
ドラゴは何かを思案すると、誰もいない部屋の中で部下の名を呼ぶ。すると、どこからともなく彼の目の前に真っ黒な外套を纏った男が跪いた姿で現れた。
「お呼びで?」
少し高い声で静かにそう尋ねる男にドラゴは自分の考えを簡単に伝えていった。
「……では、そのユウリ=ドラッグスについてお調べすれば良いのですな。」
「あぁ、期待しているぞ。パノルゴス。」
ドラゴがそう笑うと、パノルゴスと呼ばれた男は口元で小さく笑みを浮かべてそのまま姿を消した。
再び1人きりとなった部屋の中で、ドラゴは入口のドアを見つめ、くつくつと笑い出す。
「面白い事が起きるかもしれないな。」
ドラゴはそう呟くと、今後起きる事を想像してさらに笑みを大きくした。
部屋に入ってきた男が、イスに座っている男にそう告げる。入ってきた男は頭を下げ、対して座っている男は威厳ある態度でそれに頷く。
「そうか。通せ。」
座っている男が厳しい目つきのままそう指示すると、部下と思われる男はこくりと頷いて部屋を出ていった。
残された男は相変わらず表情を緩める事はなく、隙を感じさせないまま、目の前のテーブルに片腕を置いて指を鳴らしている。彼の側頭部には竜と虎のタトゥーが入っており、それがさらに彼の威厳を高めていた。
ほどなくして、1人の女性が部屋を訪れた。
「ボス、お呼びとの事で馳せ参じました。」
長い銀髪を携えた女は、男の前まで来ると片膝をついて頭を下げる。それに対して男は「あぁ。」と一言だけ告げ、テーブルに置いてあった高価な装飾が施された金属製のグラスを手に取ると、入っていた酒を口に含む。
「ターよ。……任務はどうしたんだ?」
唐突に、そしてシンプルに答えを求められたターはすぐに答える事ができなかった。
依頼者から指定された男の暗殺が自分の任務であったが、それはまだ遂行できていない。その理由は対象の男が持つ強い悪運と、突然入った同業者による邪魔が原因だったが、それらは全てここではただの言い訳にしかならない。
どう答えるべきか……
緊張の中で慎重に言葉を選んでいると、突然大きなため息が聞こえて無意識に肩が震えた。
彼の恐ろしさは自分自身が身に染みてよく知っている。自分の師であり、真っ先に従うべき相手……逆らう事など絶対に許される事はない。
「依頼者から急かされているんだ。なにか問題があるのか?それとも、単にお前が無能なのか?」
男は声を荒げる事なく、ただ冷静にそう問いかけてくる。そして、その言葉はターの全身を斬りつけていった。
もちろん、実際にそんな事は起きてはいないが、彼の言葉にはそれだけの重みがあるという事だ。そう錯覚してしまうほどの威圧感が彼の言葉には乗っている。
彼に嘘など通用しない。だからこそ、自分が取るべき選択肢は正直に今の現状を伝える事しかない。その上で、助言を受け、任務を確実に遂行せねば。
ターはごくりと喉を鳴らすと、慎重に言葉を選びながらこれまでの顛末をタトゥーの男へと伝えていった。
「…………以上が、対象の元に潜入し把握している事です。」
男は指で自分のあごを撫でながら、ターの話を静かに聞いていた。そして、全てを聞き終えると小さく口元に笑みを浮かべ、鼻で笑う。
「なるほど……お前の言い分は理解した。」
その言葉を聞いて、ター自身は内心で胸を撫で下ろした。だが、まだ油断は許されない。彼が次に発する言葉次第では、自分はこのまま取り返しのつかない事になる場合もあるのだから。
しばしの沈黙の後、男は再び小さく笑って口を開いた。
「ター……お前はどこまで行っても無能だな。これだけ時間をやっても任務を遂行できないなんて二流……いや、三流以下だ。」
「……すみません。」
そう言われても反論の余地はなかった。
なぜなら、ボスにかかればあんなヒョロヒョロ男、一瞬で殺してしまうだろうから。
下を向いて歯を食いしばる。もしかすると今回の任務から外されるかもしれない。そう覚悟する。
だが……
「…………まぁいい。この任務はお前が担当だと決めた俺にも責任はある。それにだ。やはりこの任務はお前がメインでやるべきだからな。」
「あ……ありがとうございます。必ずこの手で……」
下を向いたまま、無意識にそう告げていた。
それはこの場の重圧から解き放たれ、再びチャンスを与えてもらえた事に対する歓喜と改めて湧き上がる強い意志。それが表に顔を出したのは、ごく普通の反応であったと思う。
だが、ターは男の口から次に出た言葉に耳を疑ってしまう。
「だが、あまり時間がないのも事実だ。依頼者の気は長い方ではなさそうだからな。とりあえず、数名の刺客を送り込むから、お前は対象の監視役に徹して必要な情報を共有しろ。」
「なっ……!?ボス!しかし!!」
あまりの驚きに顔を上げて反論しようとしたが、その先にあるのは威厳に満ちた鋭い視線だ。発しようとした言葉たちはその視線に怯え、まるで逃げ込む様に喉の奥底へと帰っていく。
「お……仰せのままに……」
ターの言葉を聞いた男は小さく頷いた。
・
ターが部屋を出た後、男は彼女が去っていったドアを1人眺めていた。
「悪運が強い……か。」
男の名はドラゴ=ライガン。
この暗殺組織「竜と虎」のトップに君臨する男である。
ドラゴは何かを思案すると、誰もいない部屋の中で部下の名を呼ぶ。すると、どこからともなく彼の目の前に真っ黒な外套を纏った男が跪いた姿で現れた。
「お呼びで?」
少し高い声で静かにそう尋ねる男にドラゴは自分の考えを簡単に伝えていった。
「……では、そのユウリ=ドラッグスについてお調べすれば良いのですな。」
「あぁ、期待しているぞ。パノルゴス。」
ドラゴがそう笑うと、パノルゴスと呼ばれた男は口元で小さく笑みを浮かべてそのまま姿を消した。
再び1人きりとなった部屋の中で、ドラゴは入口のドアを見つめ、くつくつと笑い出す。
「面白い事が起きるかもしれないな。」
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