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35話 遠のく平穏な日々
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「ぐ……はっ……はぁはぁ……」
「どうだ。さすがにもう動けないだろ。」
目の前で仰向けに横たわる男にそう問いかけるが、男からの返事はない。ただ、苦しそうに小刻みに呼吸をしている様子が窺える事から、こいつは当分は動けないと判断する。
彼を横目にターへと顔を向けると、彼女は相変わらず無表情ですました顔を浮かべて男を見据えていた。ディネルースはと言えば、相変わらず俺を見て嬉しそうに笑っているので、とりあえず無視しておく。
ターはいったい何を考えているのだろうか。
先ほど男がターへ向けた視線……あれはターに対する猜疑心の様なものを俺に感じさせたんだが。
もしかすると、ターとこいつは知り合いなのかと疑念が湧くが、そうなると2人の関係性がわからない。俺の悪口に耐えられず逃げ出したこいつを、ターは捕獲してギルドへ突き出している。その事から考えれば、仲間ではないのだろうけれど……
男へ視線を戻す。
さっきの攻撃は殺すつもりで撃ち込んでないから、それほどダメージは受けていないはず。そろそろ話せる様になっているだろう。
「……さて、2回もやられたんだし、もう諦めてくれるか?」
「……殺しなさい。」
俺の言葉に男はそう返す。その定番な受け答えに俺はため息をつく。
「あ、そういうの要らないんで。俺は殺しとかしない主義なんで。」
「……ちっ……ここは空気読むところでしょ。」
「いやいや、空気読んで殺されてたら、あんたも堪らなくない?死にたいなら自分でどうぞ。」
俺が肩をすくめてそう言うと、男はゆっくりと上半身を起こす。
「別に……どの道、わたしは失敗した。だから死ぬしかないのよ。ここで殺されなくてもそうなる運命なの。」
「なにそれ……あんた、やっぱりなんかの組織の人?」
「好きに想像しなさいな……」
男は小さく息をついた。
その眼には焦燥感が滲んでおり、今彼自身が言った事が事実なんだろうと暗に想像させられる。
確かに彼の身の上話には興味がない訳ではないが、それよりも先に1つだけ聞いておかなければならない事が俺にはあった。彼がそれに答えるかはわからないーーーおそらくは答えないだろうーーーけど、これだけは絶対に確認しておかないといけない事。
「……今回の狙いは俺だよな?」
「……」
「なんで俺を狙ったんだ……?」
その問いかけに対して、男は沈黙とともに鋭い視線で返してきた為、俺は逆に笑って返した。
「言いたくない……いや、言う訳ないって感じだな。」
「当たり前でしょ……何が可笑しいのよ。」
「いやいや、想像してた通りだったからさ。」
「なら、聞くんじゃないわよ。」
「まぁまぁ。」
さらに睨む男に対して、ふともう1つ聞いてみたい事が浮かんだ俺は、敢えてそれを尋ねてみる事にした。
「なぁ……あんたって男だよな?」
「…………女よ。」
彼はこれだけは譲らないらしく、俺から目を逸らしながらも小さくそう呟いた。
そんな彼の態度を見て、俺は先ほど彼にぶつけた言葉は確かに酷いものだったなと申し訳なくなって頭を掻く。
「はぁ……さっきは悪かったよ。あんたの事、オカマとか言ってさ。あんたが襲ってきたから俺もどう切り抜けるか必死だったんだ。まさか、泣いて逃げ出すとは思わなかったけど……」
「……え……」
男は少し驚いた顔を浮かべた。まさか俺に謝られるとは思っていなかった様で、呆けた顔をこちらに向けている。
その表情が気まずくて、今度は俺が視線を逸らしてしまう。だが、俺としてもあれは本心から放った言葉ではない事だけは言っておきたかった。今話したとおり、その場を切り抜ける為に仕方なくした言った事で、人の生き様をどうこう言える立場にない事は俺自身が理解している。
彼がこの後どうなるかは知らない。再びギルドにしょっ引かれるのか、謎の組織に始末されるのか。
だが、これだけは訂正しておかなければ……そう思ったのである。
だが、実はこれが間違いだった事に、この時の俺は気づいていなかった。
「そういう事だから、さっきの言葉は訂正するよ。あんたはあんたらしく生きたらいいんだからさ。」
俺の言葉に男はまだ驚いている様で、目を見開いたままこっちを見つめている。そんなに驚く事でもないだろうと思っている俺の横では、ターが珍しく頭を抱えてため息をついていて、俺はその態度に疑問が浮かんだ。
「ター、どうしたんだ?頭痛いのか?」
「いえ……別に……。いや……そうね、私は今、頭が痛い事は間違いないわ。」
意味ありげな言い回しが気になったが、あれこれ追求すると後がめ面倒くさくなると思ってそれ以上は言わなかった。
だが、ターの事を怪訝に思いつつ、男に目を戻したその時だった。
「あんた、マジいい奴ね。」
いつの間にか立ち上がっていた男が俺の目の前におり、顔を覗き込まれている事に驚いてしまう。
「おっ……おわっ!ちっ、近けぇよ!」
驚いて後退る俺に男は頬を赤らめてこう告げる。
「あんたみたいな奴、初めてよ。まじで惚れたわ!」
「ほ……惚れた!?いったい何を……!意味わからん!」
「言葉の通りよ!わたしはあんたに惚れたの!一生ついていくわ!」
その時の俺は、男が言っている意味がよくわからなかった。
だが、1つだけ確実に言える事がある。それは……
俺は望んでいる平穏な暮らしからまた一歩、遠ざかったという事である。
「どうだ。さすがにもう動けないだろ。」
目の前で仰向けに横たわる男にそう問いかけるが、男からの返事はない。ただ、苦しそうに小刻みに呼吸をしている様子が窺える事から、こいつは当分は動けないと判断する。
彼を横目にターへと顔を向けると、彼女は相変わらず無表情ですました顔を浮かべて男を見据えていた。ディネルースはと言えば、相変わらず俺を見て嬉しそうに笑っているので、とりあえず無視しておく。
ターはいったい何を考えているのだろうか。
先ほど男がターへ向けた視線……あれはターに対する猜疑心の様なものを俺に感じさせたんだが。
もしかすると、ターとこいつは知り合いなのかと疑念が湧くが、そうなると2人の関係性がわからない。俺の悪口に耐えられず逃げ出したこいつを、ターは捕獲してギルドへ突き出している。その事から考えれば、仲間ではないのだろうけれど……
男へ視線を戻す。
さっきの攻撃は殺すつもりで撃ち込んでないから、それほどダメージは受けていないはず。そろそろ話せる様になっているだろう。
「……さて、2回もやられたんだし、もう諦めてくれるか?」
「……殺しなさい。」
俺の言葉に男はそう返す。その定番な受け答えに俺はため息をつく。
「あ、そういうの要らないんで。俺は殺しとかしない主義なんで。」
「……ちっ……ここは空気読むところでしょ。」
「いやいや、空気読んで殺されてたら、あんたも堪らなくない?死にたいなら自分でどうぞ。」
俺が肩をすくめてそう言うと、男はゆっくりと上半身を起こす。
「別に……どの道、わたしは失敗した。だから死ぬしかないのよ。ここで殺されなくてもそうなる運命なの。」
「なにそれ……あんた、やっぱりなんかの組織の人?」
「好きに想像しなさいな……」
男は小さく息をついた。
その眼には焦燥感が滲んでおり、今彼自身が言った事が事実なんだろうと暗に想像させられる。
確かに彼の身の上話には興味がない訳ではないが、それよりも先に1つだけ聞いておかなければならない事が俺にはあった。彼がそれに答えるかはわからないーーーおそらくは答えないだろうーーーけど、これだけは絶対に確認しておかないといけない事。
「……今回の狙いは俺だよな?」
「……」
「なんで俺を狙ったんだ……?」
その問いかけに対して、男は沈黙とともに鋭い視線で返してきた為、俺は逆に笑って返した。
「言いたくない……いや、言う訳ないって感じだな。」
「当たり前でしょ……何が可笑しいのよ。」
「いやいや、想像してた通りだったからさ。」
「なら、聞くんじゃないわよ。」
「まぁまぁ。」
さらに睨む男に対して、ふともう1つ聞いてみたい事が浮かんだ俺は、敢えてそれを尋ねてみる事にした。
「なぁ……あんたって男だよな?」
「…………女よ。」
彼はこれだけは譲らないらしく、俺から目を逸らしながらも小さくそう呟いた。
そんな彼の態度を見て、俺は先ほど彼にぶつけた言葉は確かに酷いものだったなと申し訳なくなって頭を掻く。
「はぁ……さっきは悪かったよ。あんたの事、オカマとか言ってさ。あんたが襲ってきたから俺もどう切り抜けるか必死だったんだ。まさか、泣いて逃げ出すとは思わなかったけど……」
「……え……」
男は少し驚いた顔を浮かべた。まさか俺に謝られるとは思っていなかった様で、呆けた顔をこちらに向けている。
その表情が気まずくて、今度は俺が視線を逸らしてしまう。だが、俺としてもあれは本心から放った言葉ではない事だけは言っておきたかった。今話したとおり、その場を切り抜ける為に仕方なくした言った事で、人の生き様をどうこう言える立場にない事は俺自身が理解している。
彼がこの後どうなるかは知らない。再びギルドにしょっ引かれるのか、謎の組織に始末されるのか。
だが、これだけは訂正しておかなければ……そう思ったのである。
だが、実はこれが間違いだった事に、この時の俺は気づいていなかった。
「そういう事だから、さっきの言葉は訂正するよ。あんたはあんたらしく生きたらいいんだからさ。」
俺の言葉に男はまだ驚いている様で、目を見開いたままこっちを見つめている。そんなに驚く事でもないだろうと思っている俺の横では、ターが珍しく頭を抱えてため息をついていて、俺はその態度に疑問が浮かんだ。
「ター、どうしたんだ?頭痛いのか?」
「いえ……別に……。いや……そうね、私は今、頭が痛い事は間違いないわ。」
意味ありげな言い回しが気になったが、あれこれ追求すると後がめ面倒くさくなると思ってそれ以上は言わなかった。
だが、ターの事を怪訝に思いつつ、男に目を戻したその時だった。
「あんた、マジいい奴ね。」
いつの間にか立ち上がっていた男が俺の目の前におり、顔を覗き込まれている事に驚いてしまう。
「おっ……おわっ!ちっ、近けぇよ!」
驚いて後退る俺に男は頬を赤らめてこう告げる。
「あんたみたいな奴、初めてよ。まじで惚れたわ!」
「ほ……惚れた!?いったい何を……!意味わからん!」
「言葉の通りよ!わたしはあんたに惚れたの!一生ついていくわ!」
その時の俺は、男が言っている意味がよくわからなかった。
だが、1つだけ確実に言える事がある。それは……
俺は望んでいる平穏な暮らしからまた一歩、遠ざかったという事である。
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