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36話 知識と経験不足ゆえ
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翌朝、旅館でのチェックアウトを済ませると、俺たちは家路につく。ポルカマレの街からゲイズの街までは馬車で約3日かかるので、その間に2つの街を経由して馬車を乗り継ぐ事になるのだが……
「さぁて!ゲイズの街とやらに帰りましょう!」
件のオカマは馬車へ勝手に乗り込んだ挙句、俺の横に座って楽しげにそう笑っている。
「お前……やっぱりまじでついて来んだよな?」
「当たり前でしょ!惚れた男について行って何が悪いのよ!」
男に惚れられてもまったくいい気はしないんだが。
そんな俺の気持ちなど知りもせず、なぜかそう怒る男の言葉を聞いて、俺は大きなため息をついた。
昨晩、俺はどうにかしてこいつが家についてくるのを諦めさせようと頑張ったが、こいつはまったく人の話を聞く事なくついてくるの一点張り。何度も繰り返される押し問答に俺はすでに燃え尽きており、もう言い返す力も残っていなかった。
そんな俺を見て、向かい側に座っている2人はそれぞれの反応を見せている。ターは呆れた様に肩をすくめて頬杖をつき、ディネルースは歓迎する様に笑っている。
普段なら嫌ごとの1つも言うところだが、そんな2人の様子は今の俺には何とも恨めしかった。
ただ、唯一良かった事といえば、昨日の戦闘で壊れた部屋の修理費を全部こいつから搾り取ってやった事だろう。と言っても、こいつのせいで壊れたんだから当たり前と言えば当たり前なんだけど。
もちろん、初めに泊まっていたスイートの修理費も一緒にと考えたが、あの時こいつはギルドの冒険者たちに連行されている事になっていたので、それを切り出すと旅館側との話がややこしくなってしまうと思い、安易にそうできなかった。
それに変更してもらった部屋が再び壊れた理由について、旅館のオーナーに改めて説明するのは少々骨が折れたので、単純に良かったとは言い切れないが……
なにはともあれ、俺たちの温泉旅行はこうして幕を閉じる事になった訳だ。せっかくの旅行だったのにゆっくりできなかったのは本当に残念で仕方がないと、内心でため息をつく。
「ユウリ、そろそろ1つ目の街に着くぞ。」
半日ほど進んだところで、不意に御者の男にそう言われた。気分を変えようと馬車の外に顔を出してみると、ポルカマレに来る時にも立ち寄ったバスタの街が見えてきた。
温泉郷のポルカマレに近いだけあって、観光客が多く訪れる街でもあるバスタの街。今日はここに泊まる事になる訳だが、実はそれには1つ懸念がある。
「ローズさん、あんたの宿泊費ないんだけど、どうすんの?」
「大丈夫よ!自分で出すから。」
オカマの名はローズという。
やっと紹介できて何よりだが、初めに聞いた時はその名前と容姿のギャップにツッコミそうになったのは言うまでもない。
だが、俺はそれを口には出さずになんとか我慢する事に成功した。余計な事をつい口走るのは自分の悪い癖かもしれないと、ターの時の失敗で気づいたからだ。あの時は名乗った彼女に対して思った事をついつい口に出してしまい、嫌味を言われたからな。
しかし、こいつ金持ち過ぎじゃね?修繕費用を即金で払った上に旅費まで簡単に払えるとは。
「じゃあ明日の朝、また迎えに来るからな。時間厳守だぜ。」
「ありがとう。ゴジさん。」
馬車の御者であるゴジは、俺たちを今日の宿泊先である宿屋の前で下ろしてそう告げる。彼はゲイズの街を拠点に運送業を営む男で、よく知った間柄でもあった事から今回の旅行でその一翼を担ってもらった。同じ場所に泊まらないかと提案をしてはみたが、同業者との繋がりが大事なんでと断られたので、今日はここでお別れだ。
ゴジが去っていく姿を見送って、俺たちは宿屋に泊まる手続きを行なった。
街に到着したのは夕方だったので、暗くなるのは早かった。
と言っても、今はまだ日が長い季節なので、夜の様に真っ暗という訳ではなく、西から射す太陽の明るさと東から訪れる星空が混ざり合った綺麗なグラデーションが空を覆っている。街にもポツポツと明かりが灯り始めており、まもなく夜が始まる事を知らせている様だった。
「ユウリ……晩ご飯の後、少し私に付き合いなさい。」
「え……?べ……別にいいけど……」
夕食前の一時。
ディネルースとローズがお風呂へ行ってしまい、ターと2人きりになった場面で突然そう提案された。驚いて思わず了承してしまったものの、彼女の真意がわからずに少し困惑してしまう。
確かにディネルースが住み着く前は、2人で行動する事が多かったけれど、それは2人で住んでいる以上、必然的な事だ。今の様に面と向かって誘ったり誘われたりする事はなかったから、そういう免疫がないのかもしれない。
もちろん、女の子に食事に誘われた事がない訳ではない。ゲイズのギルマスの娘エルダにはしょっちゅう誘われているし。
でも、エルダの時とは違う……というのが今回の印象だった。あんな風に気軽に誘われる感じではなくて、もっとこうなんて言うか……言葉がうまく見つからないが……
そうだ、緊張する感じだ。
(……ん?俺は緊張しているのか?いったい何に……?)
その答えに辿り着くと同時に頭に疑問が浮かんだが、今の俺にはその疑問を解消する為の経験と知識が足りていなかった。
「さぁて!ゲイズの街とやらに帰りましょう!」
件のオカマは馬車へ勝手に乗り込んだ挙句、俺の横に座って楽しげにそう笑っている。
「お前……やっぱりまじでついて来んだよな?」
「当たり前でしょ!惚れた男について行って何が悪いのよ!」
男に惚れられてもまったくいい気はしないんだが。
そんな俺の気持ちなど知りもせず、なぜかそう怒る男の言葉を聞いて、俺は大きなため息をついた。
昨晩、俺はどうにかしてこいつが家についてくるのを諦めさせようと頑張ったが、こいつはまったく人の話を聞く事なくついてくるの一点張り。何度も繰り返される押し問答に俺はすでに燃え尽きており、もう言い返す力も残っていなかった。
そんな俺を見て、向かい側に座っている2人はそれぞれの反応を見せている。ターは呆れた様に肩をすくめて頬杖をつき、ディネルースは歓迎する様に笑っている。
普段なら嫌ごとの1つも言うところだが、そんな2人の様子は今の俺には何とも恨めしかった。
ただ、唯一良かった事といえば、昨日の戦闘で壊れた部屋の修理費を全部こいつから搾り取ってやった事だろう。と言っても、こいつのせいで壊れたんだから当たり前と言えば当たり前なんだけど。
もちろん、初めに泊まっていたスイートの修理費も一緒にと考えたが、あの時こいつはギルドの冒険者たちに連行されている事になっていたので、それを切り出すと旅館側との話がややこしくなってしまうと思い、安易にそうできなかった。
それに変更してもらった部屋が再び壊れた理由について、旅館のオーナーに改めて説明するのは少々骨が折れたので、単純に良かったとは言い切れないが……
なにはともあれ、俺たちの温泉旅行はこうして幕を閉じる事になった訳だ。せっかくの旅行だったのにゆっくりできなかったのは本当に残念で仕方がないと、内心でため息をつく。
「ユウリ、そろそろ1つ目の街に着くぞ。」
半日ほど進んだところで、不意に御者の男にそう言われた。気分を変えようと馬車の外に顔を出してみると、ポルカマレに来る時にも立ち寄ったバスタの街が見えてきた。
温泉郷のポルカマレに近いだけあって、観光客が多く訪れる街でもあるバスタの街。今日はここに泊まる事になる訳だが、実はそれには1つ懸念がある。
「ローズさん、あんたの宿泊費ないんだけど、どうすんの?」
「大丈夫よ!自分で出すから。」
オカマの名はローズという。
やっと紹介できて何よりだが、初めに聞いた時はその名前と容姿のギャップにツッコミそうになったのは言うまでもない。
だが、俺はそれを口には出さずになんとか我慢する事に成功した。余計な事をつい口走るのは自分の悪い癖かもしれないと、ターの時の失敗で気づいたからだ。あの時は名乗った彼女に対して思った事をついつい口に出してしまい、嫌味を言われたからな。
しかし、こいつ金持ち過ぎじゃね?修繕費用を即金で払った上に旅費まで簡単に払えるとは。
「じゃあ明日の朝、また迎えに来るからな。時間厳守だぜ。」
「ありがとう。ゴジさん。」
馬車の御者であるゴジは、俺たちを今日の宿泊先である宿屋の前で下ろしてそう告げる。彼はゲイズの街を拠点に運送業を営む男で、よく知った間柄でもあった事から今回の旅行でその一翼を担ってもらった。同じ場所に泊まらないかと提案をしてはみたが、同業者との繋がりが大事なんでと断られたので、今日はここでお別れだ。
ゴジが去っていく姿を見送って、俺たちは宿屋に泊まる手続きを行なった。
街に到着したのは夕方だったので、暗くなるのは早かった。
と言っても、今はまだ日が長い季節なので、夜の様に真っ暗という訳ではなく、西から射す太陽の明るさと東から訪れる星空が混ざり合った綺麗なグラデーションが空を覆っている。街にもポツポツと明かりが灯り始めており、まもなく夜が始まる事を知らせている様だった。
「ユウリ……晩ご飯の後、少し私に付き合いなさい。」
「え……?べ……別にいいけど……」
夕食前の一時。
ディネルースとローズがお風呂へ行ってしまい、ターと2人きりになった場面で突然そう提案された。驚いて思わず了承してしまったものの、彼女の真意がわからずに少し困惑してしまう。
確かにディネルースが住み着く前は、2人で行動する事が多かったけれど、それは2人で住んでいる以上、必然的な事だ。今の様に面と向かって誘ったり誘われたりする事はなかったから、そういう免疫がないのかもしれない。
もちろん、女の子に食事に誘われた事がない訳ではない。ゲイズのギルマスの娘エルダにはしょっちゅう誘われているし。
でも、エルダの時とは違う……というのが今回の印象だった。あんな風に気軽に誘われる感じではなくて、もっとこうなんて言うか……言葉がうまく見つからないが……
そうだ、緊張する感じだ。
(……ん?俺は緊張しているのか?いったい何に……?)
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