元アサシンは前世の愛に飢える

noah太郎

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37話 2人きり

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 夕食を終えて部屋に戻ると、俺は風呂に行くと皆に告げて部屋を後にした。
 ただし、それはあくまでも口実であり、今から街の酒場でターと合流する手筈になっている。別に隠さなくても良かったんだが、2人で出かけると伝えた時のディネルースとローズの反応を想像したら、面倒臭い事になりそうだったので隠す事にしたという訳だ。

 念のため、裏口から抜けて宿屋を後にする。
 通りに出てみると、陽はほとんど落ちているにも関わらず、街には活気が溢れている。多くのお店が煌々と明かりを灯し、その前をたくさんの人が行き交っている。


「さすが観光地に近い街だな。ゲイズみたいに辺境の街とは大違いだ。」


 小さくそう溢した後、俺は人通りを静かに進む。
 ほどなく進むと、指定の店の前に辿り着く。入る前にふと店の名を見ると、"白銀湯前の一時"と書かれており、まさに温泉地前の観光地らしいなと感じた。

 中へ入ると、想像していたよりも広い店内に少し驚いた。ゲイズの街にもこういった店はいくつかあるが、ここまでの広さはない。これも観光地ならではなのだろうと1人で納得していると、店員から声をかけられた。


「お兄さん、お一人様?」


 声をかけられた方を見れば、ウエイターの格好をした獣人の娘がこちらを見ている。


「あ……あぁ、1人待ってるはずなんだけど……」

「あぁ、待ち合わせの!店長ぉ~奥に1名通しますねぇ~!!」


 待ち合わせている事を伝えると、察した獣人の娘が大きな声で厨房へ投げかけたので驚いた。だが、話はすでに通してあった様で、厨房から太い腕だけが伸びてサムズアップをしている様子が窺えた。


「ごめんねぇ~!これくらい声出さないと店内じゃ聞こえなくてさ!はい、こっちね!」


 猫耳を照れくさそうに掻いてはにかむと、娘は俺についてくる様に促した。
 案内されたのは個室の1つで、獣人の娘がスライド式の扉を開けると中にターが座っていた。そのまま中へ入る様に言われたので、少し緊張気味に足を踏み入れる。


「お連れ様、ご案内ってね。注文は?」


 娘の問いかけに、ターはエールを2つと簡単な酒の肴を注文した。注文を確認した娘が扉を閉めると、当たり前だがその空間には俺とターの2人だけとなる。
 俺はそのままターの隣の席に腰を下ろした。

 もちろん、初めに訪れたのは沈黙だ。
 こんな状況でいったい何を話せばいい。こんな狭い空間で2人っきりとか、俺にはどうしていいかわからない。
 そう考えれば考えるほど、背中には大量の冷や汗が滴り、手汗が大変な事になっている。
 もはや、ソワソワが止まらなかった。


「2人で食事するのは久しぶりね。」

「お……おう……」


 突然切り出されて、焦った挙句に出た言葉がこれかと自分の不甲斐なさに呆れてしまう。

 そして、再び訪れる沈黙。


「と……突然誘われたから……オドロイタヨ。」

「そうね。」


 なんとか沈黙を破ろうとしてみたが、最後が片言になってめちゃくちゃ恥ずかしい。
 だが、ターもそれ以上は離さないので、3回目の沈黙が訪れる。

 これ、料理が来るまで持つのかな。
 そんな思いが頭をよぎり、何か話題はないかと模索するが、考えれば考えるほど脳内がこんがらがって言葉がどこかに消えていく。
 酒さえ……酒さえくれば……酒が入れば少しは現状を変えられるはずだ。
 安易な考えだとは思うが、今の俺にはそれくらいしか拠り所がなく、店員が早く来ることを願いながら頭を掻いたり、キョロキョロと狭い部屋を見回したりと挙動不審になっていた。


「先にエール2つね!」


 ノックの後、さっきの猫耳娘がガラリとドアを開けて酒を運んできた。その事に歓喜して、ついつい涙を溢して喜ぶと猫耳娘がちょっと引いていた。

 それはさておいて、俺はターと2人きりの乾杯をしてエールを喉の奥へと流し込んだ。シュワシュワと喉で弾ける感覚が堪らない。店で出されるエールは普段はぬるい事が多いが、ここではしっかりと冷えている。それはここが観光地である所以なのだろう。
 ついつい一気に飲み込んでしまった快感を声で表してしまうが、俺とは対照的にターは上品に飲んでいた。

 そのうち酒の肴が運ばれてきて、それをつまみながらお酒を楽しむ時間が少しだけ流れた。


「ユウリ……あなた、あいつを本当に連れて帰る気なの?」


 お酒のグラスを置くと同時に、ターが突然そう問いかけてきたので少し驚いたが、俺も多少お酒が入っているので戸惑う事なくそれに応える。


「仕方ないだろ。断ってもついてくるって言うんだから。」

「甘いのよ。ギルドに差し出せばいいじゃない。」

「そうなんだけど……旅館の修繕費を出してもらってるからなぁ。」

「そんなの関係ないわよ。そもそもあいつが壊したんだし……」


 確かにそれは正論だ。
 だが、いまさらギルドに差し出すというのも、気が引けているのは事実だ。たぶん、ギルドへ差し出したところで俺が不利益を被る事はないだろうけど、タイミングを逃してしまった様な感覚が俺をそうさせるのを拒んでいる。
 何となくだが、彼はこのままにしておいた方がいい様な……そんな気がしているのである。


「まぁ、害はなさそうだし、いいんじゃないか?それとも、ターにとっては何か都合が悪い事でもあるのか?」


 その問いかけにすぐには答えず、彼女は一度グラスを手に取って残りのお酒を一気に流し込むと、グラスをテーブルに強く置いて俺を睨んだ。


「私は関係ないわ!あれは……暗殺者なのよ。あなたもそれはわかっているんじゃないの?」


 彼女は俺に対してそう声を荒げたが、対する俺はというと……
 
 彼女の表情に見惚れていたのである。
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