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39話 酒は飲んでも飲まれるな
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少し深酒をしてしまった俺たちだったが、翌日は御者のゴジさんと約束していた時間に何とか間に合った。
乗車する時に二日酔いだという事を簡単に見抜かれてしまい「吐いたら下ろしておいていく。」と釘を刺されたので、こんな時のために常備しているハクカクトウの葉をみんなに配って事なきを得た。
※ハクカクトウはマメ科のツル性多年草。その葉を噛むと血中のアルコールを分解する作用がある。
そうして俺たちは本日泊まるオルの街を目指すが、その道中は森や山岳地を越える事もあり、何度か魔物の襲撃を受けた。
もちろん、お客とはいえ馬車に乗せてもらっている手前、こういう時は俺たちの出番だと思って早々に飛び出してみたものの、毎回ゴジさんが一瞬で倒してしまうのでまったく出番などなかった。
ゴジさんはゲイズの街を拠点に活動していた元冒険者で、エルダの父であるギルマスとも同期生である。今は引退してこんな感じで運送業を営んでいるが、当時は"戦鬼"と呼ばれるほどに強かったらしく、ギルマスとともにゲイズの街の北部に位置する森の最新部まで行った事があるそうだ。その事実によって、冒険者界隈では生ける伝説にもなっている。
今でもその強さは健在でまたまだ冒険者として全然行けると思うんだが、彼曰く「年寄りと釘頭は引っ込むが良し(年寄りはでしゃばらない方が良いという意味)」なんだそうだ。
「この葉っぱ、本当にいい感じで効くわね。」
距離にして半分ほど進んだお昼時、まだまだ続く道中を馬車に揺られていると、ローズがハクカクトウの葉を追加で噛みながらそうこぼした。その横ではディネルースも笑顔で頷いており、俺はその言葉に満足する。薬草士の矜持ってやつだ。
だが、一人だけそうではない人物が……
「うげぇ~……」
「まだ治らないのかよ。大丈夫か?」
「……大丈夫そう見えるなら……うぅ………あなたの目は節穴よ……」
それだけ皮肉を吐けるなら大丈夫なんだろうが、言葉は強気だが見た目は弱気。馬車の揺れも相まって、ターはいまだに気分が悪そうだった。
というか、こいつ昨日は酒を一杯しか飲んでないはずだけど、どうして人一倍二日酔いになっているんだろうか。それにもう昼時だというのに、いったいどれだけ引きずるんだ。他の2人は俺と同じくらい……いや、ローズのやつなんて常に一気飲みで20杯以上は飲んでいたはずだが、出発前からめちゃくちゃ元気なんだけど。
とは言っても、ハクカクトウの葉の効能も人それぞれ差があるのは事実であり、誰しもが確実に良くなる訳じゃないし、ターを見ていたらちょっとかわいそうになってきたので、特別に俺の秘伝の薬を分けてやる事にする。
「仕方ないな。普段は他人にはやらないんだけど……ほら。」
俺が懐から取り出したのはオレンジ色の液体が入った小さな小瓶だ。それをターに差し出すと、彼女は小瓶に視線を落とした。
「な……なによ、これ……」
「これか?これは俺が作ったある薬だ。」
「くす……り……?まさか毒とかじゃないわよね。」
「ディネルースじゃあるまいし!そんな事するかよ!」
俺の言葉にディネルースがショックを受けている様で、「ひどいです!」と言いながら泣き真似をしている。
だが、時も場所も選ばずに毒を盛ってくるの事実だし、いちいち反応するとさらに面倒臭い事になるのは目に見えているので、とりあえず無視しておく。
「とりあえず、騙されたと思って飲んでみろよ。俺はいつもこれに救われてんだ。」
そう言って小瓶の蓋を開けると、慣れ親しんだ仄かに甘い香りが鼻をくすぐった。それは柑橘系の甘い香りと心地良い少しの酸味。
それらを感じながら、俺が改めてターにそれを差し出すと、初めは少し警戒していた様だが、二日酔いの辛さの中でその爽やかな香りに惹かれたらしく、素直に受け取って一気に飲み干した。
「……ぷは。さぁ飲んだわよ。」
青い顔をしたまま、そう言って小瓶を俺に突き出すターだったが、すぐにその効果に気づいて顔色を変える。
「なによこれ……気持ち悪さと頭痛が一気になくなったわ……」
ターは小瓶を見つめながらそうこぼした。その後ろではローズとディネルースが信じられないといった様子でターを見ているが、確かにあれだけ苦しんでいたターが突然の超回復を見せたのだから驚くのも当たり前か。
ター自身は目を見開いたまま小瓶に残る香りを嗅いだり、少し残っている液体を改めて舐め直して何かを確かめている。その様子を見ていた俺は、なんだか自分が認められた気がして笑顔が込み上げてきた。
「すごいだろ?でもそれ、別に特別なものでもなんでもないんだ。このハクカクトウの葉とナコルルリの地下茎、それに柑橘系フルーツで作った特製ドリンクなんだ。」
「へぇ~!さすが薬草士ね。あたしの専属になってもいいわよ。」
「なんだ、専属って……お断りする。」
「ユウリさま、さすがです!同じく薬草に精通するものとして……抱いていただけますか?」
「あほか!なんでそうなる!」
褒められているのかはよくわからないが、ローズとディネルースが拍手してくれる事は素直に嬉しかった。
だが、ターだけはどこか不服そうな表情で俺を見ている。その態度を見て、相変わらず人を素直に褒められないのかと内心でため息をつくが、今回は俺のおかげで楽になったんだから絶対に感謝してもらわないと。
※ナコルルリは、ルルリ属の多年草でその茎は長いもので1mにもなる。上部は弓状に曲がっており、葉腋から下垂する花を咲かせる。
そう思ってターに声をかけようとしたその時だった。
「お前ら!受け身!!」
突然、御者台にいるゴジさんからシンプルな指示が飛んだ。
何事かと思いつつも、すぐさまそれに反応して身構えようとした矢先、俺たちが乗っていた場所は大きな衝撃とともに激しく横転したのだった。
乗車する時に二日酔いだという事を簡単に見抜かれてしまい「吐いたら下ろしておいていく。」と釘を刺されたので、こんな時のために常備しているハクカクトウの葉をみんなに配って事なきを得た。
※ハクカクトウはマメ科のツル性多年草。その葉を噛むと血中のアルコールを分解する作用がある。
そうして俺たちは本日泊まるオルの街を目指すが、その道中は森や山岳地を越える事もあり、何度か魔物の襲撃を受けた。
もちろん、お客とはいえ馬車に乗せてもらっている手前、こういう時は俺たちの出番だと思って早々に飛び出してみたものの、毎回ゴジさんが一瞬で倒してしまうのでまったく出番などなかった。
ゴジさんはゲイズの街を拠点に活動していた元冒険者で、エルダの父であるギルマスとも同期生である。今は引退してこんな感じで運送業を営んでいるが、当時は"戦鬼"と呼ばれるほどに強かったらしく、ギルマスとともにゲイズの街の北部に位置する森の最新部まで行った事があるそうだ。その事実によって、冒険者界隈では生ける伝説にもなっている。
今でもその強さは健在でまたまだ冒険者として全然行けると思うんだが、彼曰く「年寄りと釘頭は引っ込むが良し(年寄りはでしゃばらない方が良いという意味)」なんだそうだ。
「この葉っぱ、本当にいい感じで効くわね。」
距離にして半分ほど進んだお昼時、まだまだ続く道中を馬車に揺られていると、ローズがハクカクトウの葉を追加で噛みながらそうこぼした。その横ではディネルースも笑顔で頷いており、俺はその言葉に満足する。薬草士の矜持ってやつだ。
だが、一人だけそうではない人物が……
「うげぇ~……」
「まだ治らないのかよ。大丈夫か?」
「……大丈夫そう見えるなら……うぅ………あなたの目は節穴よ……」
それだけ皮肉を吐けるなら大丈夫なんだろうが、言葉は強気だが見た目は弱気。馬車の揺れも相まって、ターはいまだに気分が悪そうだった。
というか、こいつ昨日は酒を一杯しか飲んでないはずだけど、どうして人一倍二日酔いになっているんだろうか。それにもう昼時だというのに、いったいどれだけ引きずるんだ。他の2人は俺と同じくらい……いや、ローズのやつなんて常に一気飲みで20杯以上は飲んでいたはずだが、出発前からめちゃくちゃ元気なんだけど。
とは言っても、ハクカクトウの葉の効能も人それぞれ差があるのは事実であり、誰しもが確実に良くなる訳じゃないし、ターを見ていたらちょっとかわいそうになってきたので、特別に俺の秘伝の薬を分けてやる事にする。
「仕方ないな。普段は他人にはやらないんだけど……ほら。」
俺が懐から取り出したのはオレンジ色の液体が入った小さな小瓶だ。それをターに差し出すと、彼女は小瓶に視線を落とした。
「な……なによ、これ……」
「これか?これは俺が作ったある薬だ。」
「くす……り……?まさか毒とかじゃないわよね。」
「ディネルースじゃあるまいし!そんな事するかよ!」
俺の言葉にディネルースがショックを受けている様で、「ひどいです!」と言いながら泣き真似をしている。
だが、時も場所も選ばずに毒を盛ってくるの事実だし、いちいち反応するとさらに面倒臭い事になるのは目に見えているので、とりあえず無視しておく。
「とりあえず、騙されたと思って飲んでみろよ。俺はいつもこれに救われてんだ。」
そう言って小瓶の蓋を開けると、慣れ親しんだ仄かに甘い香りが鼻をくすぐった。それは柑橘系の甘い香りと心地良い少しの酸味。
それらを感じながら、俺が改めてターにそれを差し出すと、初めは少し警戒していた様だが、二日酔いの辛さの中でその爽やかな香りに惹かれたらしく、素直に受け取って一気に飲み干した。
「……ぷは。さぁ飲んだわよ。」
青い顔をしたまま、そう言って小瓶を俺に突き出すターだったが、すぐにその効果に気づいて顔色を変える。
「なによこれ……気持ち悪さと頭痛が一気になくなったわ……」
ターは小瓶を見つめながらそうこぼした。その後ろではローズとディネルースが信じられないといった様子でターを見ているが、確かにあれだけ苦しんでいたターが突然の超回復を見せたのだから驚くのも当たり前か。
ター自身は目を見開いたまま小瓶に残る香りを嗅いだり、少し残っている液体を改めて舐め直して何かを確かめている。その様子を見ていた俺は、なんだか自分が認められた気がして笑顔が込み上げてきた。
「すごいだろ?でもそれ、別に特別なものでもなんでもないんだ。このハクカクトウの葉とナコルルリの地下茎、それに柑橘系フルーツで作った特製ドリンクなんだ。」
「へぇ~!さすが薬草士ね。あたしの専属になってもいいわよ。」
「なんだ、専属って……お断りする。」
「ユウリさま、さすがです!同じく薬草に精通するものとして……抱いていただけますか?」
「あほか!なんでそうなる!」
褒められているのかはよくわからないが、ローズとディネルースが拍手してくれる事は素直に嬉しかった。
だが、ターだけはどこか不服そうな表情で俺を見ている。その態度を見て、相変わらず人を素直に褒められないのかと内心でため息をつくが、今回は俺のおかげで楽になったんだから絶対に感謝してもらわないと。
※ナコルルリは、ルルリ属の多年草でその茎は長いもので1mにもなる。上部は弓状に曲がっており、葉腋から下垂する花を咲かせる。
そう思ってターに声をかけようとしたその時だった。
「お前ら!受け身!!」
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