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40話 わざとじゃないんです
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大きな衝撃の後、乗っていた馬車が激しく横転する。天と地が逆さまになったのではないかと錯覚するほどの激しさの中では、さすがの俺も他の仲間たちに気を配る事はできず、なんとか受け身を取るだけで精一杯だった。
やっとのところで馬車は横転を止める。
「うぅ……い……いったい何なんだ。」
愚痴をこぼしながらもところどころ痛む体に鞭を打ち、逆さまにひっくり返った馬車の中でみんなの安否を確認する。ターとディネルースは俺と同じ様にとっさに受け身を取っていた様で、大きな怪我はない様だ。その事に安堵していると、ふとローズの姿が見えない事に気づく。
「おい、ローズはどうした?」
俺がそう尋ねると、ディネルースが少し動揺した表情を浮かべて答える。
「ローズは入口付近にいたので、衝撃を受けた瞬間に外に……」
「……っ!まじかよ!」
確かに激しい衝撃だったから、掴む場所がなければそうなってもおかしくはない。彼の安否が気になった俺は馬車の外へと飛び出した。あれだけ激しい衝撃だったのだ。外に放り出されたローズが無事である事を願いたい。
だが、外に出てすぐに目にしたのは、衝撃で外れた馬車の車輪に潰されて横たわるローズの姿だった。車輪はローズの胴体を真っ二つに切断するかの様に腹部へと深々と突き刺さっている。だが、彼の表情は穏やかなもので、目を閉じて口から血を流しているその様子は、まるで眠っているかの様にも思える。
「ローズ!!」
その姿を見て、頭に一気に血が上った。
仲間と呼べるほど親しい訳ではないし、そもそも彼は俺の命を狙ってきた暗殺者だ。彼の状態になぜここまでの衝撃を受けたのかは俺自身もよくわからないが、それでも少しの間だけ気を許した仲だ。
まるで全身に電気が走り去った様な感覚に震えながらも、とっさにローズの元へと駆けつけようと足を踏み出そうとしたが、突然それを制止されて驚いた。
「ユウリ……少し落ち着け。今、それは不正解だ。」
いつから俺の横にいたのかはわからないが、ゴジさんが俺の横に立ち、行く手を阻む様に片手を俺の前に伸ばしている。
「でも!ローズが……!」
「お前は冒険者じゃないからすぐに判断できなくても仕方ないが、あいつは……あの状態はもうダメだ。気持ちはわかるが、今は敵に集中しろ。次は死ぬぞ。」
ゴジさんは厳しい視線を俺に向けてそう告げると、腰元から2本の片手斧を取り出した。その迫力に気圧されて俺は冷静さを取り戻す。
いわゆるトマホークと呼ばれるこの斧は、ゴジさんが冒険者時代に愛用していた得物である。今でも遠出する時には持参していると聞いていたが、まさか直接目にする事になるとは思ってもみなかった。ここまでの道中、魔物との戦闘は全て素手だったからな。
「お前、武器は持ってるか?」
「え?あぁ……いつも携帯してる小型のナイフならあるよ。」
「そうか。なら、自分の身は自分で守れるな。」
そう言って、今度は別の方へ視線を向けて立ち上がるゴジさんに、俺は率直な疑問を投げかける。
「ゴジさん、いったい何が起きてるんだよ。」
その問いかけに対して、ゴジさんは顔を動かさず視線だけを俺に一瞬だけ向ける。
「襲撃だな。やっこさん、どこからか俺の馬車を攻撃してきやがった。」
「襲撃!?いったいなんで……」
「そんなの、俺が知るかよ。」
「ゴジさん……またどこかで恨みで買ったんじゃない?」
俺の皮肉に、ゴジさんは小さく「そうかもな。」とだけ呟いて口元に笑みを浮かべたが、言った俺自身は実はそうは思っていなかった。
この世界での運送業は思っているよりも遥かに危険な仕事であり、その道中で魔物や盗賊に襲われたりする事も少なくはない。だから、依頼する側は本来なら冒険者を雇ってその護衛を任せる訳だが、ゴジさんの場合は護衛が必要ないから費用が安く済む。
なんたって彼は元ではあるが屈指の冒険者であり、引退した後、彼はそれを売りに事業を営んでいるのだから。
そんな最強の元冒険者が例え恨みを買ったとしても、その仕返しをしようと考える者は皆無に等しい。強いて言うなら、ゴジさんの事を知らない世間知らずか、もしくはそれ以上の実力を持っている者か……
後者はあまり考えにくいが、それくらいしか思い浮かばない。
「で、どうするんだ?ゴジさん……」
「どうするも何も、俺の馬車をこんなにしやがったんだ。タダじゃおかねぇよ。」
一瞬、ゴジさんの背に鬼を見た気がした。
ここまで怒っている彼を見るのは久方振り。表には出さないがゴジさんは相当殺気立っており、その一部が漏れ出たのだろう。さすが元"戦鬼"である。
相手がこれからどうなるのかを想像すると、なんだか気の毒になってしまうが、自分で蒔いた種だから仕方がない。
「とりあえず、やっこさんの位置は把握してる。あそこの木の上だ。さっさととっ捕まえて、なんでこんな事したのか理由を聞き出してやる。」
ゴジさんはそう言うと、ゆっくりと一歩を踏み出した。その様子はまるで大鬼族(オーガ)の様な迫力があり、俺は心の中で「ご愁傷様。」と唱えてしまう。
だが、ゴジさんが歩き出したところで目の前にある大木の上から1人の男が降りてきた……いや、落ちたと言った方が正しいだろう。
特徴的な胸当てと軽装備、それに大きな弓を背に携えたその男は、地面にお尻を強打して悶絶している。その様子に拍子抜けして呆然と眺めている俺たちに対して、彼はすぐにこちらに向き直ってこう告げた。
「ごめん!わざとじゃないんだ!」
やっとのところで馬車は横転を止める。
「うぅ……い……いったい何なんだ。」
愚痴をこぼしながらもところどころ痛む体に鞭を打ち、逆さまにひっくり返った馬車の中でみんなの安否を確認する。ターとディネルースは俺と同じ様にとっさに受け身を取っていた様で、大きな怪我はない様だ。その事に安堵していると、ふとローズの姿が見えない事に気づく。
「おい、ローズはどうした?」
俺がそう尋ねると、ディネルースが少し動揺した表情を浮かべて答える。
「ローズは入口付近にいたので、衝撃を受けた瞬間に外に……」
「……っ!まじかよ!」
確かに激しい衝撃だったから、掴む場所がなければそうなってもおかしくはない。彼の安否が気になった俺は馬車の外へと飛び出した。あれだけ激しい衝撃だったのだ。外に放り出されたローズが無事である事を願いたい。
だが、外に出てすぐに目にしたのは、衝撃で外れた馬車の車輪に潰されて横たわるローズの姿だった。車輪はローズの胴体を真っ二つに切断するかの様に腹部へと深々と突き刺さっている。だが、彼の表情は穏やかなもので、目を閉じて口から血を流しているその様子は、まるで眠っているかの様にも思える。
「ローズ!!」
その姿を見て、頭に一気に血が上った。
仲間と呼べるほど親しい訳ではないし、そもそも彼は俺の命を狙ってきた暗殺者だ。彼の状態になぜここまでの衝撃を受けたのかは俺自身もよくわからないが、それでも少しの間だけ気を許した仲だ。
まるで全身に電気が走り去った様な感覚に震えながらも、とっさにローズの元へと駆けつけようと足を踏み出そうとしたが、突然それを制止されて驚いた。
「ユウリ……少し落ち着け。今、それは不正解だ。」
いつから俺の横にいたのかはわからないが、ゴジさんが俺の横に立ち、行く手を阻む様に片手を俺の前に伸ばしている。
「でも!ローズが……!」
「お前は冒険者じゃないからすぐに判断できなくても仕方ないが、あいつは……あの状態はもうダメだ。気持ちはわかるが、今は敵に集中しろ。次は死ぬぞ。」
ゴジさんは厳しい視線を俺に向けてそう告げると、腰元から2本の片手斧を取り出した。その迫力に気圧されて俺は冷静さを取り戻す。
いわゆるトマホークと呼ばれるこの斧は、ゴジさんが冒険者時代に愛用していた得物である。今でも遠出する時には持参していると聞いていたが、まさか直接目にする事になるとは思ってもみなかった。ここまでの道中、魔物との戦闘は全て素手だったからな。
「お前、武器は持ってるか?」
「え?あぁ……いつも携帯してる小型のナイフならあるよ。」
「そうか。なら、自分の身は自分で守れるな。」
そう言って、今度は別の方へ視線を向けて立ち上がるゴジさんに、俺は率直な疑問を投げかける。
「ゴジさん、いったい何が起きてるんだよ。」
その問いかけに対して、ゴジさんは顔を動かさず視線だけを俺に一瞬だけ向ける。
「襲撃だな。やっこさん、どこからか俺の馬車を攻撃してきやがった。」
「襲撃!?いったいなんで……」
「そんなの、俺が知るかよ。」
「ゴジさん……またどこかで恨みで買ったんじゃない?」
俺の皮肉に、ゴジさんは小さく「そうかもな。」とだけ呟いて口元に笑みを浮かべたが、言った俺自身は実はそうは思っていなかった。
この世界での運送業は思っているよりも遥かに危険な仕事であり、その道中で魔物や盗賊に襲われたりする事も少なくはない。だから、依頼する側は本来なら冒険者を雇ってその護衛を任せる訳だが、ゴジさんの場合は護衛が必要ないから費用が安く済む。
なんたって彼は元ではあるが屈指の冒険者であり、引退した後、彼はそれを売りに事業を営んでいるのだから。
そんな最強の元冒険者が例え恨みを買ったとしても、その仕返しをしようと考える者は皆無に等しい。強いて言うなら、ゴジさんの事を知らない世間知らずか、もしくはそれ以上の実力を持っている者か……
後者はあまり考えにくいが、それくらいしか思い浮かばない。
「で、どうするんだ?ゴジさん……」
「どうするも何も、俺の馬車をこんなにしやがったんだ。タダじゃおかねぇよ。」
一瞬、ゴジさんの背に鬼を見た気がした。
ここまで怒っている彼を見るのは久方振り。表には出さないがゴジさんは相当殺気立っており、その一部が漏れ出たのだろう。さすが元"戦鬼"である。
相手がこれからどうなるのかを想像すると、なんだか気の毒になってしまうが、自分で蒔いた種だから仕方がない。
「とりあえず、やっこさんの位置は把握してる。あそこの木の上だ。さっさととっ捕まえて、なんでこんな事したのか理由を聞き出してやる。」
ゴジさんはそう言うと、ゆっくりと一歩を踏み出した。その様子はまるで大鬼族(オーガ)の様な迫力があり、俺は心の中で「ご愁傷様。」と唱えてしまう。
だが、ゴジさんが歩き出したところで目の前にある大木の上から1人の男が降りてきた……いや、落ちたと言った方が正しいだろう。
特徴的な胸当てと軽装備、それに大きな弓を背に携えたその男は、地面にお尻を強打して悶絶している。その様子に拍子抜けして呆然と眺めている俺たちに対して、彼はすぐにこちらに向き直ってこう告げた。
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