31 / 50
第二章 秋人の場合
絶望編 1-8 姉と弟
しおりを挟む
ソファーに座って、ひらひらと手を振る男に向かって、テトラは話しかける。
「あなたでしたか、クロス。またあの女が来たと思って、イライラしていたところです。」
「だろ?執事のババァの慌てようは笑えたぜ。俺だとわかると、舌打ちしやがったから、ボコしてそこに放り投げてあるけどな。」
ヒャハハと笑って、座ったまま自分の後ろを親指で示す。テトラがそちらに目を向けると、ボロ雑巾のような状態で、床に伏す老婆がいた。
テトラは再び、クロスと呼んだ男へと視線を戻す。
「で、今日は何の用?」
テトラがそう言うと、男はニヤリと笑みを浮かべ、
「例の奴、捕まえたんだろ?」
テトラはそれには答えない。
「おいおい、姉弟で隠し事はないだろぉ。」
そう言って、笑いながら立ち上がり、テトラの方を向いた。
テトラの倍以上はある、スラリと高い身長、髪は漆のように黒く、獅子のたてがみのように逆立っている。
目つきは鋭く、茶色い瞳と、両眼の下にある雫のタトゥーが印象的だ。
フードがついた、足首まで隠れるロングコートを纏い、黒い手袋をつけている。
「あなたの事、弟と思ったことは今までないわね。」
その言葉に、「おいおい」と言わんばかりの態度を取る男に、テトラは話を続ける。
「私のことも手伝わず、ふらふら遊び歩いておきながら、このように邪魔しに来るような輩を、私は弟とは思いません。」
少し声のトーンを下げて、じっとりとした目つきでそう告げるテトラに、クロスは少し焦ったように、両手を上げる。
「待って待って、姉ちゃん。今日は邪魔しに来たんじゃなくて、いい知らせを持ってきたんだよ。」
「良い知らせ?」
首を傾げるテトラに、クロスは続けて伝える。
「アルフレイムの異世界人。生きてたぜ。」
その言葉を聞いた瞬間、テトラはカッと目を見開いた。その表情を見ながら、クロスはテトラに告げる。
「…姉ちゃん、また悪い癖が出てるぜ。」
クロスのその言葉に、テトラは狂気の笑みに歪んだ顔に気づき、ハッとして表情を元に戻す。
「…そうですか。それは確かに良い知らせです。あの女にも、伝えてもらえる?」
「あいつは既に知ってるかもだけど、姉ちゃんの頼みだから聞いてもいいぜ?」
「…」
テトラは、満遍の笑みを浮かべているクロスをジッと見据え、一つ間を置くと、
「…何が望みです?」
とクロスに問いかける。その言葉を待ってましたと、クロスは口を開く。
「そのアルフレイムの異世界人。俺が遊んでいいかな?」
それを聞いたテトラは、一瞬キョトンとした表情を浮かべ、下を向いてフゥッとため息をついた。
こちらには秋人がいる。
それを知らないあの女は、アルフレイムの異世界人の捕獲を、また命じてくるだろう。それならば、クロスに手伝わせて、自分から目を逸らさせるのもいいかもしれない。
そう考えて、テトラはクロスに視線を戻す。相変わらずニコニコと笑顔を浮かべる愚弟に、テトラは口を開いた。
「遊んでもいいでしょう。しかし、あなたがその異世界人の捕獲を達成なさい。」
そう言われたクロスは、苦虫を潰したような表情を浮かべて、
「マジかよ!?それは勘弁してよ、姉ちゃん!俺はただ遊ぶだけでいいんだって!捕獲なんて面倒くさいし、あの女の命令を聞くとか、鳥肌が立つわ!」
クロスは必死に弁明するが、テトラは可否は問わないといった表情で、静かにクロスを見つめている。テトラの様子に観念したように、クロスは頭と両手をだらんと下げて、落ち込んだ素振りを見せた。
「わかったよぉ。姉ちゃん怒らすと怖いから、いっちょやってみるわ…」
頭を下げたまま、哀愁漂うような声色で、了解の意を伝えて、クロスは黒い霧を発生させると、その中へと足を踏み入れる。そして、体の全部が入りきる寸前で、テトラに対して、一言告げる。
「ここにいる異世界人も、殺さないでくれよ?」
そう言うと、黒い霧と共に、クロスは姿を消すのであった。
しかし、クロスの嗅覚は侮れないと、テトラは改めて思う。秋人について、痕跡は全く残していないはずだ。
普通なら気づかない。現にあの女は気づいていない。気づいたなら、その瞬間に秋人はあの女に奪われるはずだから。
「クロスには釘を刺しておかないと…」
ボソリと呟きながら、倒れている老婆へ合図する。すると、老婆はヨロヨロと立ち上がりながら、テトラに声をかける。
「お強くなられました…」
その眼には涙が浮かんでいる。
「あれで、性格が真面目ならよかったのですけどね。」
テトラはそう言って、部屋を後にした。
「あなたでしたか、クロス。またあの女が来たと思って、イライラしていたところです。」
「だろ?執事のババァの慌てようは笑えたぜ。俺だとわかると、舌打ちしやがったから、ボコしてそこに放り投げてあるけどな。」
ヒャハハと笑って、座ったまま自分の後ろを親指で示す。テトラがそちらに目を向けると、ボロ雑巾のような状態で、床に伏す老婆がいた。
テトラは再び、クロスと呼んだ男へと視線を戻す。
「で、今日は何の用?」
テトラがそう言うと、男はニヤリと笑みを浮かべ、
「例の奴、捕まえたんだろ?」
テトラはそれには答えない。
「おいおい、姉弟で隠し事はないだろぉ。」
そう言って、笑いながら立ち上がり、テトラの方を向いた。
テトラの倍以上はある、スラリと高い身長、髪は漆のように黒く、獅子のたてがみのように逆立っている。
目つきは鋭く、茶色い瞳と、両眼の下にある雫のタトゥーが印象的だ。
フードがついた、足首まで隠れるロングコートを纏い、黒い手袋をつけている。
「あなたの事、弟と思ったことは今までないわね。」
その言葉に、「おいおい」と言わんばかりの態度を取る男に、テトラは話を続ける。
「私のことも手伝わず、ふらふら遊び歩いておきながら、このように邪魔しに来るような輩を、私は弟とは思いません。」
少し声のトーンを下げて、じっとりとした目つきでそう告げるテトラに、クロスは少し焦ったように、両手を上げる。
「待って待って、姉ちゃん。今日は邪魔しに来たんじゃなくて、いい知らせを持ってきたんだよ。」
「良い知らせ?」
首を傾げるテトラに、クロスは続けて伝える。
「アルフレイムの異世界人。生きてたぜ。」
その言葉を聞いた瞬間、テトラはカッと目を見開いた。その表情を見ながら、クロスはテトラに告げる。
「…姉ちゃん、また悪い癖が出てるぜ。」
クロスのその言葉に、テトラは狂気の笑みに歪んだ顔に気づき、ハッとして表情を元に戻す。
「…そうですか。それは確かに良い知らせです。あの女にも、伝えてもらえる?」
「あいつは既に知ってるかもだけど、姉ちゃんの頼みだから聞いてもいいぜ?」
「…」
テトラは、満遍の笑みを浮かべているクロスをジッと見据え、一つ間を置くと、
「…何が望みです?」
とクロスに問いかける。その言葉を待ってましたと、クロスは口を開く。
「そのアルフレイムの異世界人。俺が遊んでいいかな?」
それを聞いたテトラは、一瞬キョトンとした表情を浮かべ、下を向いてフゥッとため息をついた。
こちらには秋人がいる。
それを知らないあの女は、アルフレイムの異世界人の捕獲を、また命じてくるだろう。それならば、クロスに手伝わせて、自分から目を逸らさせるのもいいかもしれない。
そう考えて、テトラはクロスに視線を戻す。相変わらずニコニコと笑顔を浮かべる愚弟に、テトラは口を開いた。
「遊んでもいいでしょう。しかし、あなたがその異世界人の捕獲を達成なさい。」
そう言われたクロスは、苦虫を潰したような表情を浮かべて、
「マジかよ!?それは勘弁してよ、姉ちゃん!俺はただ遊ぶだけでいいんだって!捕獲なんて面倒くさいし、あの女の命令を聞くとか、鳥肌が立つわ!」
クロスは必死に弁明するが、テトラは可否は問わないといった表情で、静かにクロスを見つめている。テトラの様子に観念したように、クロスは頭と両手をだらんと下げて、落ち込んだ素振りを見せた。
「わかったよぉ。姉ちゃん怒らすと怖いから、いっちょやってみるわ…」
頭を下げたまま、哀愁漂うような声色で、了解の意を伝えて、クロスは黒い霧を発生させると、その中へと足を踏み入れる。そして、体の全部が入りきる寸前で、テトラに対して、一言告げる。
「ここにいる異世界人も、殺さないでくれよ?」
そう言うと、黒い霧と共に、クロスは姿を消すのであった。
しかし、クロスの嗅覚は侮れないと、テトラは改めて思う。秋人について、痕跡は全く残していないはずだ。
普通なら気づかない。現にあの女は気づいていない。気づいたなら、その瞬間に秋人はあの女に奪われるはずだから。
「クロスには釘を刺しておかないと…」
ボソリと呟きながら、倒れている老婆へ合図する。すると、老婆はヨロヨロと立ち上がりながら、テトラに声をかける。
「お強くなられました…」
その眼には涙が浮かんでいる。
「あれで、性格が真面目ならよかったのですけどね。」
テトラはそう言って、部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―
酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。
でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。
女神に導かれ、空の海を旅する青年。
特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。
絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。
それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。
彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。
――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。
その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。
これは、ただの俺の旅の物語。
『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる