Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

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第二章 秋人の場合

絶望編 1-11 圧倒

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明らかに焦りを見せるテトラ。
秋人の能力がわからないこともあり、安易に仕掛けれずにいる。

そんなテトラに、秋人は無機質な視線を送る。先ほどからのやり取りで、一見、冷静そうに見える秋人だが、心の中ではドス黒い感情が、ぐるぐると駆け回っている。

そして、その感情こそが、魔氣をコントロールし、能力を発現させている根源であった。

ただし、全ての力を使いきれていないことも含め、その事を秋人はまだ知らない。
ただただ、テトラに対する憎悪に身を任せているだけにすぎない。


(一気に無力化してやる。)


心の中でそう考え、すぐに秋人は行動に移る。格闘技のノウハウを、持たない秋人にとって、考えたり予測したりすることは、無意味なのだ。


(この力は、原理はわからないが、頭でイメージした通りになるらしい。)


先ほどの2発の右ストレートも、顔面をぶん殴ると思って振るっただけだ。

今回は"無力化"だ。

まずは動けないようにして、それからゆっくりと時間をかけて、同じ苦しみ、絶望を与えてやるのだ。そう考えながら、秋人はテトラに真っ直ぐ突進していく。

一方、自分へと突進してくる秋人に対し、テトラは思考が鈍り、焦っていた。
こんなことは今までなかったからだ。あの元四賢聖のレイ・クラージュと拳を交えた時でさえ、結果は敗れたが、勝つ自信を持って挑んでいた。

今まさに、こちらに向かってくる青年に、どう対応していいかわからない。
受けるのか反るのか。
挑むのか逃げるのか。

そんな単純な判断ですら下せぬまま、秋人から目が離せないでいる。秋人がほぼ目の前にきた瞬間、反射的に手が前に出た。体は挑む事を選んだようだ。

しかし、その判断も虚しく、秋人が目の前から消え、出した右手は空を切った。


「なっ…?」


テトラの顔に、焦りの色が濃くなっていく。


(どこだ?!どこへ行った!)


秋人を探すテトラの後ろで、地面を蹴る音が聞こえると、次の瞬間、テトラは背中きら胸にかけ、温かいものを感じた。





秋人は、自分がした事に驚きを隠せない。


("無力化"が目的だったはず、しかしこれでは!)


目の前にはテトラの背中と、そこにめり込んだ自分の右手があり、秋人の肘からはテトラから伝う血が滴り落ちている。

ズボッと音を立てて、テトラの背中から右手を引き出す。ドバッと音を立てながら、血が流れ落ち、テトラは前方へよろめいた。

そして、振り向く事なく、その場に顔から倒れ込んだ。


「なんだよ、これ!どう考えてもやり過ぎだろ!死んじまったら、何もできないじゃんか!」


額に手を当てて、秋人は悔しがる。
そして、テトラに近づいて、様子を伺うが、ピクリとも動かないことに、再び悔しがる。


「俺の馬鹿野郎!」


そう言いながら、テトラの体を足で仰向けになるよう蹴飛ばした。すると、顔が秋人へと向いて、光を失いかけている瞳と視線が合った。

おそらく心臓の他に、肺も潰れたのだろう。パクパクと動かす口からは、声ではなく、時折血と泡が溢れ出ている。

何かを言いたそうに、テトラは右手を秋人に向ける。それに対して、秋人は悔しがりつつも、嘲笑を浮かべて、テトラに吐き捨てるように声をかけた。


「人の事を散々弄んだ結果がこれじゃあ、ざまぁないね。」


テトラは秋人を見ながら、なおも口をパクパクさせている。秋人はそんなテトラを嘲笑と憎悪が混じった顔で、じっと見据える。

そのまま、テトラの目からは光が失われ、上げていた手も、重力に従って地面におちていく。
その様子を見終えると、秋人は溜息を吐き出して、テトラに背を向けた。
心が満たされてことに、秋人は疑問を感じない。

(殺ってやった…)
(殺した…殺したんだ…俺が…)


両手で顔を覆いながら、その場に膝をつく。


「く…くく…くくく」


肩を震わせて笑う声には、快楽と愉悦にみちている。


「ざまぁみやがれ!ざまぁみやがれ!ハッ、ハハハ!」 


秋人はそう言うと、空を仰いで、両手を広げながら、大きく笑い始める。


「ハハハ!ハハハハッ!ハァーッハハハハハハハハハハハハ!」


その声は、崩れかけた建物や、薄暗い森の中に響き渡るのであった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


夕陽が、誰もいなくなった崩れかけた建物を、オレンジに染めていく。森からは、夜の訪れを告げるように、獣の遠吠えが聞こえている。

建物の横にできた、大きな窪みの中心には、黒いドレスの少女が倒れたまま、ピクリとも動かない。

窪みの淵には、足をパタパタさせながら座り込み、頬杖をついて、横たわる少女を見つめる一つの影がある。

冷たい風が、辺りを駆け抜けていく。その風に何かを感じたのか、森から鳥たちが一気に飛び立っていった。


「まさか、あなたがやられるなんて。皮肉を通り越して、もはや笑い話ね。」


フードを深々と被り、口元だけしか見えないが、声からして女性のようだ。


「見誤ったわね…」


そう言って、女は立ち上がる。一瞬姿が消えたかと思えば、テトラの横に現れて、


「私に隠さなければ、こんな事にならず、計画も進んだのにね。」


テトラを見下ろしながら、そう告げる。


「あなたの役割は、クロスに引き継ぐわ。なんか私の思惑どおりで、ごめんなさいね。それと…」


女が指をパチンと鳴らすと、近くの影から真っ黒い頭と、赤く光る双眸が現れた。


「グラード、報告感謝するわ。」

「いえ、私にできる事をしたまでです。」

「日の元に出られないのも不便ね。」

「いえ…」


グラードと呼ばれた者は、それ以上は口を開かなかった。
女は大きく溜息をつく。


「行った先はわかるの?」


そう問うと、グラードは答える。


「西へ」

「と言うことは、大樹の方角ね。」

「そのようで。」

「大樹に惹かれたか…」


女はそう言って、しばらく何かを考える。
そして、何かを思いついたように、

「あなたはこれからどうするの?」


グラードへと再び問いかける。
しかし、グラードは口を開かない。


「私に遠慮してるなら、気にしないで。」


女はそう言って口元でニコリと笑う。
女の様子に、グラードは少し躊躇いながら、


「恐れながら…奴を殺します…」


グラードの無機質な言葉に、女は笑顔のまま告げる。


「では、競争しましょう。あなたが殺すか、私が手に入れるか…ね?」

「…よろしいので?」

「構いません。私の興味はアルフレイムの異世界人だけ。"春樹"だったかしらね。今この国にいる異世界人は、殺さないけど、研究対象にするの。魔氣のコントロールの研究のね。」


女は最後に「死んだところで困りません。」と小さく付け加えると、空を見上げる。
すでに、オレンジから紺青に変わりつつある空には、星々が小さく顔を出し始めている。


「楽しみが増えたわねぇ。」


そうこぼして、女は再びグラードへと向き直る。


「でわ、私が"用意ドン"と言ったら、始めましょう。」


そう言った瞬間、グラードはスッと地面の中へと消えてしまった。女はグラードが顔を出していた場所を、少しの間見つめ、


「私の性格をよくわかってるわね…フフ」


そう言い残し、現れた黒い靄のなかへと消えていった。

後に残されたのは、横たわる少女だけ。
魔物の遠吠えが、少し近くに感じられた。

日が落ちて、暗闇が世界を支配し始める。
待ってましたと言わんばかりに、魔物たちが窪みの淵へ、死肉を漁りに集まってきた。

そのうちの1匹が斜面を降り、テトラに近づいて、様子を探るように臭いを嗅いでいく。全身を隈なく、死の匂いを嗅ぎ取るように。

しかし、その1匹が急にビクッと反応する。そして、何かに恐れるように猛ダッシュでテトラから離れて、森の方へと駆けて行く。

他の魔物たちも、何かを感じとり、同様に逃げて行く。そして、再び辺りに静かさが訪れた。

ピクッ

テトラの左手の小指が動く。
そして、テトラの体を撫でるように、冷たい風が駆け抜けて行った。
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