消失

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濃黒の遮光カーテン。薄く開いた隙間から差す、初秋の日差しが甘く香る。
ベッドに横たわる。私の横に丸められた薄手の毛布は、ほのかな温もりを抱いて胎動する。
時代遅れの蝉の声は、けたたましく鼓膜を殴り付け、血の気の無い風が私の体毛を貪る。
天井。死んだ蛍光灯がこちらを睨み「LEDは水銀蒸気に溺れるのか。」を気にかけている様子だった。
僕は指の先、爪の裏に目をやると、そこには確かに命があった。無機的な命と、有機的な失命は殺し合いを続けて、それでも人は、未来を夢見て過去に生きた。
でもそんな事、僕には全くもって関わりのない事で、今日も自分一人で窒素への愛を連ねる。エントロピーの減衰。
消失。
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