黄昏に贈る王冠《ロイヤルクラウン》~無双の戦鬼は甘やかす!~

黎明煌

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プロローグ「吸血姫と妹、そして戦鬼」

「所有者な妹」

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「あ、兄さん。リゼットさんはいかがでしたか?」

 朝食作りを手伝おうとキッチンに赴くと、白と青のコントラストが眩しい夏のセーラー服にエプロンを身につけた少女が俺を出迎えた。

 酒上刀花さかがみとうか。リゼットと同い年の、我が所有者にして愛すべき妹である。
 料理をしながら鼻歌を口ずさむ彼女は人懐っこい雰囲気を身に纏い、ふにゃっとした笑顔はこちらの庇護欲を刺激させる。ご主人様が高嶺の花ならば、この妹は可憐に咲き誇る野花を思わせた。
 スープの入った寸胴鍋をかき混ぜるたびに、彼女の艶のある黒髪ポニーテールがゆらゆらと揺れる。
 琥珀色の瞳でチラリとこちらを見た後、小皿にお玉でスープを注ぎ、こちらに手渡してきた。
 そのスープを口に運べば、俺の好みを完全に把握した味付けが染み渡るようにして身体に溶けていく。さすがは俺の妹だ。

「ん……美味い。毎日妹の作ったスープが飲みたい」
「むふー、プロポーズですか? 婚姻届は用意してありますよ」

 満足げな息を吐き、刀花はしれっとそんなことを言う。
 おそらく本当に用意してあると思えるのが、この妹の可愛いところだ。市役所は何時から開いているのだったか。

「あとでサインをしよう、判子も用意しておいてくれ。それとマスターは着替え中だ。今の内に飯を運ぶのを手伝おう」
「ふふ、ありがとうございます」

 どちらに対しての感謝とも取れる言葉を可憐な唇に乗せながら、純真そうな瞳を細めた刀花はこちらにお皿を差し出す。
 受け取った皿に温かいスープを注ぎ、サンドイッチの載ったトレイを持って談話室の方へと向かっていく。毎朝恒例の、兄妹による共同作業である。
 そんな隣を歩く俺の姿を、刀花はニコニコと眺めていた。

「どうかしたか?」
「兄さん、制服似合ってますね」

 手を合わせて、刀花はこちらの白いカッターに黒のズボンというシンプルな制服姿を見て嬉しそうに微笑むが……俺は少し首を捻った。

「そうか? 少々動きにくいのだが……」

 談話室に入り、テーブルの上に皿を並べながらごちる。いざというときに瞬時に動いて刀花を守れるか不安だ。

「もう、兄さんったら。そんな危険なことありませんよ。信号も守ってますし」
「俺は一ヶ月前に轢かれたがな」

 まあそのおかげでこうして学園に通えるようになったのだと思えば悪くもない。マスターさまさまだ。

「私、兄さんと学園に通うの夢だったんです」
「マスターには感謝しないとな」
「そうですね。まあ兄さんは渡しませんが」
「ブレんな、我が妹は」
「当然ですっ。兄さんは私だけの兄さんなんですからね?」

 ふんす、と鼻息を荒げ腕を組む。とんだブラコンだ。まあ俺もシスコンだが。刀花なら目に入れても痛くないむしろ入れておきたい。
 そんな可愛い刀花は「高校デビューですからキチンとしないと」と俺の適当に散らした黒髪や白いカッターの襟を甲斐甲斐しく直してくれている。彼女が動く度に、ポニーテールが嬉しそうにピョコピョコと揺れた。

「──残念だったわねトーカ、ジンは既に私のモノよ。諦めることね」

 そんな風に兄妹睦まじくしていると、リゼットも談話室に入ってきた。刀花と同じように夏のセーラー服に身を包んでいる。きちんと着替えはできたようだ。刀花の事前指導の賜物である。
 そんなリゼットの発言に、刀花はムッとしている。

「私と兄さんは魂で繋がった兄妹なんですー。主従関係みたいに不純なリゼットさんとは違う真実の愛なんですぅー」

 そう言いながら、刀花は独占するように俺の腕を抱き寄せる。リゼットよりも大きな膨らみが腕を包み込んで形を変えた。

「ふ、不純じゃないわよ失礼ね! それとそちらこそ不純なモノをジンに押し付けるのはやめなさい!」
「えーなんのことですかー?」

 でかい。スクスクと育ってくれた妹にこの戦鬼、感無量である。

「ジン、朝から妹がふしだらよ。なにか言ったらどうなの?」
「手軽にできる料理という題目のはずだが、調味料からして手軽ではないなこの料理コーナー」

 無視して朝のテレビを見やる。調味料振り掛ける打点が高いな。

「都合の悪いときだけ無視して……」

 ぶつくさ言いながらリゼットはテーブルにつきサンドイッチを頬張った。
 刀花も気が済んだのか腕を離し、隣の席について好物の牛乳を飲んでいる。

「やはり乳なのね……」

 ぐぬぬと唸りながら我がマスターは恨めしそうに刀花を睨んでいた。別に小さくはないだろうに。女はよくわからん。だがスケールというものはでかければでかいほど良いと、この下僕は思うぞ。
 聞こえないふりをして、刀花が気をきかせて肉をたっぷりいれてくれたサンドイッチにかぶり付く。
 こうして三人しかいないお屋敷の朝は、いつも通り穏やかに始まっていった。
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