黄昏に贈る王冠《ロイヤルクラウン》~無双の戦鬼は甘やかす!~

黎明煌

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プロローグ「吸血姫と妹、そして戦鬼」

「無双の戦鬼」

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「いや穏やかにしている場合ではなかったな」

 刀花がお屋敷の鍵を閉めるのを眺めながら腕時計を見る。完全に徒歩では学園に間に合わない時間だ。

「屋敷が無駄に広いのがなんともな」

 振り向き屋敷の全体を眺める。
 郊外の森に建てられた洋風の立派なお屋敷だ。二階建て庭付き、離れもある。おかげで戸締まりも一苦労だ。
 まあ世を忍ぶ俺達のような者にはもってこいの物件ではあるのだが。
 庭も植物を植えられるほど広く、門を出るまでも距離がある。三人暮らしでは少し持て余し気味だ。

「遠いな。門までの道凍らせてスケートでもするか?」
「あら、いいわね。暑いしやってちょうだい。ただし、ちゃんと加減を──」
「庭が全て凍ったか……」
「ちょっとーーー!?」

 突き立てた氷の魔剣を消しながら唸る。またも我がサービス精神が発露してしまったか……。

「だからあなたは加減ってもんを知りなさいとー!」

 ガクガクと襟をつかんで揺らしながらリゼットは怒る。夏だからすぐ溶けるだろうに。気にするとその自慢の金髪が抜けてしまうぞ?

「鍵の確認できましたよ。行きましょうか」

 騒ぐ俺達には目もくれず、マイペースに言う刀花が近付いてくる。庭全体が凍る程度など慣れたものである。伊達に十年、この戦鬼の妹をやってはいない。

「歩きじゃ間に合わんぞ、さあどうするマスター?」
「はぁ、仕方ないわね……」

 リゼットは一つため息をつき、キリッとした顔をして俺に向き直る。

「ジン、”オーダー”よ。『私たちを今すぐ学園に送り届けなさい』」

 片手で己の顔を覆い……この俺を従える我が主は、妖しく輝く深紅の瞳をこちらに向けてそう宣言した。
 ほう、かっこいいではないか……。

「そのポーズ練習したのか?」
「ええそうよ悪かったわね!」

 真っ赤になってキレるリゼットに、刀花がクスリと笑いながらこちらに寄り添う。

「それじゃ兄さん、お願いしますね」
「任せろ」

 ”オーダー”
 眷属に対する主人の絶対命令権。
 それを課せられた眷属は身体に力がみなぎり、主のため命に代えてでもその命令を遵守するという。
 とはいえ、リゼットは半人前なので一日一回しか使えず、増える力も微々たるものだ。まあ雰囲気を楽しんでいるのだろう。俺が彼女の念願の初眷属なのだから。

「さて──」

 リゼットの”オーダー”によりちょっぴりやる気になった俺は、彼女達の願いを叶えるため、姿を変える。
 ……と言っても、頭から二本の黒い角を生やしただけだ。
 戦鬼形態になったことで、自前の戦鬼の力が全身に行き渡り血が沸騰したように熱くなる。この熱の滾りがあれば、彼女達の願いなど容易に叶えられるだろう。

 元来、俺はそういった道具であるがゆえに。

「それでジンどうするの? 走るの?」

 リゼットも日傘を畳んでこちらに寄ってくる。
 俺は右腕にリゼット、左腕に刀花を乗せてグググとバネのように屈む脚へ膂力と霊力を溜めた。

「跳ぶ。口を閉じていろ舌を噛むからな」
「はい?」
「兄さんゴーゴー!」

 二人が安全バーのように角を掴んだことを確認し、溜めていた戦鬼の力を一気に解放する。
 敷地のタイルが割れ、空気を切り裂く音と共に、俺達三人はジェットコースターもかくやという速度で学園方面に向けて空高く跳び上がった。

 楽しそうな悲鳴とガチの悲鳴を聞きながら。
 妙な生活になったものだと、こうなる切っ掛けとなった一ヶ月前の出来事を俺は思い返していた。
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