この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

夏目みや

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第二章 北部の発展を目指して

15

「イザーク様も心配なさることでしょう」
「あら、その点は大丈夫だと思うわ。彼は私がなにをしようと気にしないわ、好きにしていいと言われているの」
「だからと言って女性二人で街へ下りるだなんて危険です」

 ロゼールはまだ納得いかないようだ。

「じゃあ、あなたが案内してくれるかしら?」
「はい?」

 驚いて顔を突き出すロゼールに、にっこり微笑んだ。

「ちょうど良かったわ。あなたにお願いがあるのよ」

 ここでロゼールに出会ったことはある意味チャンスだ。私の思いついたことを、すぐさま行動に移しなさいと、神のお告げのような気がするわ。

「い、いったい、なにを……」
「大丈夫、お金はたくさんあるから! ねっ、ドリー!!」

 ドリーは静かにうなずくと、彼女に預けていた金貨の詰まった袋をチラリと見せた。ロゼールの喉がごくりと鳴る。

「でもあなた、私たちを見かけて心配して追いかけてきてくれたのでしょう? ありがとう」

 ふわっと微笑むとロゼールの顔が赤くなった。

「それでね、あなたにお願いというのが――」

 その場でドリーとロゼールに私の提案を話した。

 ***

 それから日が暮れるまで街にいた。

 ロゼールにそろそろ帰りましょうと急かされ、ようやっと屋敷に戻った。

 部屋で着替えを済ませ、夕食の時間だと告げられたのでダイニングに向かう。
 執事長が扉の側でたたずんでおり、私に気づくと扉を開けた。
 ダイニングの長いテーブルの一番奥には、イザークが座っていた。

「お待たせしてしまってごめんなさい」

 一言挨拶をするとそれを合図に食事が運ばれてきた。

 少量の野菜を使った前菜にポタージュのスープ。そしてまたしても固い肉が食事に出された。
 なかなか切れない肉を前に、ナイフとフォークを持って奮闘していると、視線を感じた。
 その先に顔を向けるとイザークがワイングラスを片手に私を見ていた。

「どうかしましたか?」

 なにか言いたげな様子を察したので、聞いてみた。

「今日、ウォルクの街へ行ったそうだな」

 やはり、すでに耳に入っていたか。ロゼールが報告したのだろう。

「ええ、とても楽しかったです。久しぶりにワクワクしましたわ」

 正確には、自分がこれからやろうとしていることを考えて、だけどね!

「街に下りるなら、なぜ一言声をかけて行かないんだ」

 その声には非難の色が含まれている。

「いけませんでしたか?」
「当然だろう」
「そんなに一緒に行きたかったのですね」
「違う」

 即答されたので首を傾げた。

「ですが、お好きに過ごしていいと仰ったのはイザーク様じゃないですか」

 私としては責めるつもりはなく、単に思ったことを口にしただけだ。

「確かに言った……な」

 だが、イザークはグッと言葉に詰まった。

「どこまでが自由でどこからがダメだとか、お互いの感覚の違いなのでしょうが、わかりませんよね。会話をしないと」
「この屋敷の中では好きに過ごせばいいと言ったつもりだった」
「あら、もっと広く解釈してしまってすみません。私はこの北部の領域全土でのお話かと思っていましたわ」
「いくらなんでも、それは広すぎるだろう」

 一生懸命にナイフを入れるが、肉はなかなか切れない。

「……かしてみろ」

 見かねたイザークは私に皿を寄こすように言ったので、従った。するとイザークは器用に肉を切り分けた。

「あら、お上手ですのね」

 褒めて軽く手を叩くが、イザークはチラッと視線を投げただけで、無表情だった。
 意外に面倒見がいいのかもしれない。

「では、お互いのすり合わせが必要だと思うのですけど、好きに過ごしていいのは、このお屋敷とウォルクの街ではどうでしょうか?」 
「それも広すぎる。この屋敷だけで」
「いえ、そこは譲れません。ぜひウォルクの街も入れてください」

 絶対に譲らないと断固たる思いで彼の目を見つめた。彼は唇を強く噛みしめたあと、プイッと視線を逸らした。

 あ、勝った。

 さきほど切っていただいた肉をパクッと口に入れた。

「今日の夕食、とても美味しいですわ」

 勝利の味がするわ。確信した私はニコニコと微笑んだ。
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