この結婚は王命ですから。初夜で拒絶された花嫁です、それでは自由にやらせていただきます!

夏目みや

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第三章 近づく距離

25

 そこから二日間、イザークは帰宅しなかった。魔物の討伐が長引いているのだろう。ケガをしないといいのだけど。

 少し心配しつつ、ウォルクの街の食堂へ出向き、それなりに忙しく過ごした。

 そして夜、イザークが不在のまま夕食を取る。
 部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、ロゼールと出くわした。

「シャルロット様」
「ロゼール、あなた、これからどこへ行くの?」

 ロゼールは防具をつけ、剣を片手に持っていた。

「体がなまってはいけないので、少し体を動かそうと思い、訓練に行きます」
「まあ、これから?」
「はい。訓練所は夜でも開放されておりますので。イザーク様も野営で魔物を追い込むと聞いております。自分だけがぬくぬくと甘えてはいられませんので」

 彼は体力があるのだろう。やはり、日頃魔物を相手にしているだけある。危険と隣り合わせなのだ。

「そう、頑張ってね。無理はしないでね」
「はい。シャルロット様こそ、疲れた顔をしています。ゆっくりお休みください」
「ええ、ありがとう」

 ここ最近は食堂のことで動き回っていたから、疲れがたまっているのかもしれない。
 挨拶をして別れようとした時、ロゼールがふと思い出したように口を開く。

「そういえば、シャルロット様、この屋敷には源泉があるのはご存知でしょうか?」
「源泉? いいえ、知らないわ」

 首を傾げるとロゼールは説明してくれた。

「屋敷の一角に源泉の湧き出る場所がありまして、すごく疲れの取れるお湯が出るそうです。普段はイザーク様専用ですが、今日は野営でいらっしゃらないので、ご利用になってみてはいかがでしょうか?」
「そんな場所があるの?」
「はい。岩に囲まれて外からは見えないですし、一般人は立ち入りませんので、安心して入浴できると思います」

 ロゼールに聞いて、がぜん興味が出てきた。

「そうなのね。教えてくれてありがとう」

 ロゼールに場所を聞いて別れた。

「ねえ、源泉なんて、初めて聞いたわ。南部にもあったのかしら?」

 早速ドリーに聞いてみる。

「南部ではあまり聞いたことがありませんね。あったのかもしれませんが」
「ちょっと興味が出て来たわ」

 ドリーと話しているうちに、気分はすっかり源泉に行く気になっていた。

「それに、イザークが不在の今がチャンスじゃない?」
「まあ、そうですね」
「そうと決まれば行きましょう」

 ウキウキ気分で部屋に戻ると、入浴に必要な着替えなどの一式を手にして、源泉の場所へ向かう。

 そこは屋敷の奥まった場所の一角にあった。

 レンガ造りの道を歩くと外と繋がり、ごつごつとした岩が集まっているのが見えた。湯気が出ており、岩で囲まれた空間に絶え間なくお湯が注がれている。

 周囲は高い塀、その奥には木々が立ち並び、目隠しの役目を果たしている。

「すごいわ、見て、ドリー」

 白濁のお湯に手を入れてかき回す。

「お湯だわ。少し熱めだけど」

 いつも私が入浴しているよりもちょっぴり熱いお湯だった。

「それに見て」

 私は空を見上げる。そこには満天の星空が広がっている。

「ここからは空が見えるのね。素敵だわ」

 ほおっと吐き出した息が白い。気温が下がってきているせいか。

「さっ、ドリーも一緒に入りましょうよ」
「いえ、私は結構です。なにかあった場合、対処できないと困りますから」

 ドリーは真面目なところがあるので、そんなことだろうと思った。

「じゃあ、今度は一緒に入りましょうね」

 ドリーに着替えを手伝ってもらい、ドレスを脱ぎ捨てた。

「万が一があると悪いので、こちらで肌を隠して入浴してください」

 やわらかい布を体にグルグルと巻かれた。
 そして岩に足をかけ、恐る恐る足先から湯につかる。最初は足先がピリッとした。だがゆっくりと全身を湯につける。

「ふぅ……」

 自然と声が漏れ出た。
 岩に身を預けてもたれかかり、空を見上げる。

 キラキラと輝く星空は南部にいる時よりも、綺麗に見えるのは気のせいではないだろう。澄んだ空気だから、そう感じるのだろうか。

 とっても綺麗だな……。

 ロゼールの言った通り、本当にすごく疲れが取れる気がする。今夜はぐっすりと眠ることができそうだ。

「シャルロット様、いかがですか?」

 離れた所で見守っているドリーが声をかけてきた。

「ええ。とっても素敵だわ」

 お湯の中で手を滑らせた。

「それになんだかいつもより肌がツルツルしているように感じるわ」

 すべすべになった気がする。

「シャルロット様、申し訳ありません。私、湯上りの果実水を持ってくるのを忘れてしまいました」

 果実水とはいつも入浴後に水分補給の為に飲んでいる、ほのかに果実の甘みがついた水だ。

「あら、いいわよ。部屋に戻ったら飲むから」
「ですが、湯あたりして倒れると悪いので、今すぐ持ってきます」
「気にしなくていいのに」

 声をかけたがすでにドリーは走って行った。

「そんなに急いじゃ危ないわ。滑ってしまうわよ」

 だが、その声はすでに聞こえなかっただろう。

「せっかちなんだから」

 ドリーの行動にクスリと微笑んだ。

 静かなこの時間、星の輝きを眺めながら、ゆったりと過ごす、なんて贅沢な時間だ。

 岩に寄りかかり、ふうっ、と息をもらす。

 ふと足音が聞こえた。せっかちなドリー、もう戻ってきたのね。

 ちょっと驚かせてやろうと思い、岩の影に身を隠した。
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