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第四章 ネザークロウの洞窟
51
よっぽど驚かせてしまったのね。ここまで驚いた顔は初めて見る。
「あなたの一番の望みは自由になること、でしたよね。私は北部との平和を願っていた。でも、もう、大丈夫そうですよね?」
最初はどうなるかと思ったこの王命結婚。だが今では――。
「私とあなた、夫婦にはなれなくてもよい友人になれたと思うの。これからもお互いの力を合わせてやっていきましょう。北部から南部へ結晶を送ってくれたら、魔力を注入して魔力結晶にして送り返すわ。私以外にも魔力を込められる人はいるし。もちろん、ここにいる間は、たくさん注入して帰るわ」
いっきにたたみかけ、スッと息を吸い込む。
「離れていても北部の発展を祈っているから」
だからこれからも、よろしくね――。
差し出した手をイザークは静かに見つめていた。だが、徐々に理解が追いついたのか、盛大に顔をゆがめた。
「……本気で言っているのか?」
低い声に驚いて肩を揺らす。
「ええ。もとより、あなたはこの結婚に乗り気じゃなかったから……。早く自由にしてあげようと、頑張ったの」
焦りすぎて、三日も寝込んでしまったけどね、と付け加えて肩を上げた。
「じゃあ、イザークにだけ、真実を告げるわ」
私はコホンと咳払いして顔を上げた。
「王命の一つとして、この鉱産物を国内に流通させること、だったの」
だからこそ、私が選ばれた。セバスティア家の秘宝と呼ばれるほどの、魔力持ちだったから。
「結婚はこじつけにすぎなかったの。私を北部に送るための」
閉鎖的な北部は、南部の人間が手を貸すと言っても、信用しなかったはずだ。王族はそれを見越していた。だからこそ、私が選ばれたのだ。
「ここまで結果を出せば、王も満足だと思います。これで、この国の未来はますます明るいものになるでしょうし……」
そう、私はやり切った感でいっぱいになる。
「私たち、これで離婚できるわ」
はっきり告げると、彼の端正な顔立ちが一瞬にして、こわばった。
普段は落ち着いている神秘的な紫の瞳が、驚きに染まって揺れる。
いつもは冷静な彼も、動揺を隠しきれないみたい。
その様子がちょっと意外に思えた。
「だからイザーク、あなたはもう自由よ」
これからは好きに生きて欲しい。なんの遠慮もいらない。
私と出会う前に戻る。
ただ、それだけ。
満面の笑みで告げたが、イザークはすごく渋い顔をしている。もっと喜んでくれると思っていた。予想と違った反応に、不安になって顔をのぞき込む。
「どうしたの?」
グッと唇を噛みしめるイザークは一瞬、泣き出すんじゃないかとさえ思った。
「あんたは――俺の妻じゃないのか?」
真剣な声で問われ、一瞬、キョトンとした。だがすぐに笑いが込み上げた。
「ええ、今はまだ、書類上ではそうね」
嫌味ではなく、本心だ。
私だって最初、王命として嫁いできたから、ある程度覚悟していた。本当に、相手が望んでくれたのなら、努力して彼と一生添い遂げようと思っていたのだ。
縁あって夫婦になったのだから。
だが、実際は初夜で拒絶され、彼の口から形式だけの結婚だと告げられた。
その瞬間、私の中で早々に役目を果たそうと、考えをシフトチェンジした。
よーし、じゃあ、離婚に向けて頑張るぞ! って。
大義を果たしてからの離婚なら、可能だと思えたから。
でも、今さらどうしたのだろう? あなたが望んだことじゃないの。
不思議に思って首を傾げると、両肩をガッシとつかまれた。
力の強さに顔をしかめると、イザークは伏せていた顔を勢いよく上げた。
「――待ってくれ」
イザークはグッと唇をかみしめると、一気に吐き出した。
「お願いだ。そんなこと、冗談でも言わないでくれ」
「えっ……」
冗談ではないのだけど……。
予想もしない展開に、今度は私が目を白黒させる番だ。
唇を噛みしめ、今にも泣きだしそうな彼を前にして、私は呆気に取られた。
えっ、でも、あなた、この結婚には、なにも期待していないと言い張ったわよね?
そして、仲良くなる必要なんてないと――。
なのになぜ、今さらそんなことを言い出すの?
「あなたの一番の望みは自由になること、でしたよね。私は北部との平和を願っていた。でも、もう、大丈夫そうですよね?」
最初はどうなるかと思ったこの王命結婚。だが今では――。
「私とあなた、夫婦にはなれなくてもよい友人になれたと思うの。これからもお互いの力を合わせてやっていきましょう。北部から南部へ結晶を送ってくれたら、魔力を注入して魔力結晶にして送り返すわ。私以外にも魔力を込められる人はいるし。もちろん、ここにいる間は、たくさん注入して帰るわ」
いっきにたたみかけ、スッと息を吸い込む。
「離れていても北部の発展を祈っているから」
だからこれからも、よろしくね――。
差し出した手をイザークは静かに見つめていた。だが、徐々に理解が追いついたのか、盛大に顔をゆがめた。
「……本気で言っているのか?」
低い声に驚いて肩を揺らす。
「ええ。もとより、あなたはこの結婚に乗り気じゃなかったから……。早く自由にしてあげようと、頑張ったの」
焦りすぎて、三日も寝込んでしまったけどね、と付け加えて肩を上げた。
「じゃあ、イザークにだけ、真実を告げるわ」
私はコホンと咳払いして顔を上げた。
「王命の一つとして、この鉱産物を国内に流通させること、だったの」
だからこそ、私が選ばれた。セバスティア家の秘宝と呼ばれるほどの、魔力持ちだったから。
「結婚はこじつけにすぎなかったの。私を北部に送るための」
閉鎖的な北部は、南部の人間が手を貸すと言っても、信用しなかったはずだ。王族はそれを見越していた。だからこそ、私が選ばれたのだ。
「ここまで結果を出せば、王も満足だと思います。これで、この国の未来はますます明るいものになるでしょうし……」
そう、私はやり切った感でいっぱいになる。
「私たち、これで離婚できるわ」
はっきり告げると、彼の端正な顔立ちが一瞬にして、こわばった。
普段は落ち着いている神秘的な紫の瞳が、驚きに染まって揺れる。
いつもは冷静な彼も、動揺を隠しきれないみたい。
その様子がちょっと意外に思えた。
「だからイザーク、あなたはもう自由よ」
これからは好きに生きて欲しい。なんの遠慮もいらない。
私と出会う前に戻る。
ただ、それだけ。
満面の笑みで告げたが、イザークはすごく渋い顔をしている。もっと喜んでくれると思っていた。予想と違った反応に、不安になって顔をのぞき込む。
「どうしたの?」
グッと唇を噛みしめるイザークは一瞬、泣き出すんじゃないかとさえ思った。
「あんたは――俺の妻じゃないのか?」
真剣な声で問われ、一瞬、キョトンとした。だがすぐに笑いが込み上げた。
「ええ、今はまだ、書類上ではそうね」
嫌味ではなく、本心だ。
私だって最初、王命として嫁いできたから、ある程度覚悟していた。本当に、相手が望んでくれたのなら、努力して彼と一生添い遂げようと思っていたのだ。
縁あって夫婦になったのだから。
だが、実際は初夜で拒絶され、彼の口から形式だけの結婚だと告げられた。
その瞬間、私の中で早々に役目を果たそうと、考えをシフトチェンジした。
よーし、じゃあ、離婚に向けて頑張るぞ! って。
大義を果たしてからの離婚なら、可能だと思えたから。
でも、今さらどうしたのだろう? あなたが望んだことじゃないの。
不思議に思って首を傾げると、両肩をガッシとつかまれた。
力の強さに顔をしかめると、イザークは伏せていた顔を勢いよく上げた。
「――待ってくれ」
イザークはグッと唇をかみしめると、一気に吐き出した。
「お願いだ。そんなこと、冗談でも言わないでくれ」
「えっ……」
冗談ではないのだけど……。
予想もしない展開に、今度は私が目を白黒させる番だ。
唇を噛みしめ、今にも泣きだしそうな彼を前にして、私は呆気に取られた。
えっ、でも、あなた、この結婚には、なにも期待していないと言い張ったわよね?
そして、仲良くなる必要なんてないと――。
なのになぜ、今さらそんなことを言い出すの?
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