妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています

夏目みや

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第一章 妹を守ってみせる

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 着替えて階下に行き、食堂に足を向ける。扉を開けると、席に座る両親が微笑む。

「おはよう、リゼット」
「おはようございます、お父さま、お母さま」

 グリフ家の両親は、子供思いでとても優しい。物語ではシアナが居なくなり、毎日手がかりを探しているところに、長女であるリゼットの亡骸が森で見つかり、不幸のどん底に落ちた。

 号泣する両親の描写を思い出すと、今でも胸が痛む。
 それを私はこれから実際に経験するの?
 そっと椅子を引き腰かけ、ドキドキしながら口を開く。

「――今日、シアナは?」

 頼む、元気で屋敷にいてくれ。
 まだエディアルドに連れ去られていないわよね?

「あの子ったら、朝から微熱があってね。今日は部屋でゆっくりさせるわ」

 良かった、まだシアナは屋敷にいた!
 優しい母の言葉を聞き、胸をなでおろした

「そうですか。では、あとで様子を見に行ってみますわ」

 私が微笑むと両親は嬉しそうに笑う。

「そうしてくれ。リゼットの顔を見るとシアナも喜ぶだろう」
「本当に。仲のいい姉妹なんだから」

 そう、私たちは仲良しで、たった二人の姉妹だ。

 体の弱いシアナを見守り、静かに暮らしていたのに、鬼畜エディアルドに目をつけられたことで、グリフ家は破滅へと向かう。

 だけど、そんなことはさせやしないから。絶対に。
 ひょんなことからこの世界に転生してしまったけれど、今の私にはリゼットとしての想いが強い。家族が大事だというこの気持ちを大事にし、エディアルドからシアナを守る。絶対に成し遂げてみせる。

 自分に誓いをたて、ギュッと唇を引き締めた。

***

「どうぞ」

 ノックすると可愛らしい声が響いたので、そっと扉を開けた。

「お姉さま」

 横になっていたベッドから身を起こそうとするのはシアナ・グリフ。私の大事なたった一人の妹――。
 私と同じ新緑色の瞳に、茶色の髪。ただ、私はストレートで妹は細くてふわっとした、柔らかい髪質だ。

「具合はどう? 消化に良さそうなリゾット持ってきた」
「うん、ありがとう」

 シアナが優しく微笑むと、胸がしめつけられるような感覚に陥る。
 こんなに可愛いらしくて、体が弱い妹をさらって監禁しようとする奴がいるなんて――許せない。

「お姉さま?」

 シアナに顔をのぞき込まれ、我に返る。

「どうしたの、怖い顔して。びっくりしちゃった」
「ああ、ごめんね」

 シアナはフフフと笑うが、顔色は良くない。

「ううん。ちょっと考え事よ。それよりも体調はどう?」

 ベッドの端に腰かけ、シアナの頬に手を添えると、嬉しそうに微笑んだ。

「うん、朝はちょっと咳がたくさん出て、胸が苦しかったんだけど、今は少し良くなった」

 きっとシアナは私に心配かけまいとして、本当のことを言わないのだろう。
 顔色を見ると、本調子とは言えない様子だった。

「無理しないで。温かくして、食べたら休むのよ」
「うん、ありがとう」

 私の手に頬をスリスリとすり寄せ、甘えてくる仕草がとても可愛い。
 この子を守ることができるのは、私だけだ。
 原作を知る私に与えられた重要な使命に思えた。

 部屋に戻り、私は机に向かう。
 今の状況を落ち着いて紙に書きだそう。現時点で私は十七歳でシアナは十六歳だとわかった。
 
 幸い、今はエディアルドとは出会っていない。これがなによりの救いだ。
 シアナは十八歳でエディアルドに目をつけられたのだから。
 この出会いを回避すればいい。

 シアナは体調が悪い時は寝たきりになるが、それ以外は比較的、普段通り過ごしている。時折、発作のように咳が出たり胸が苦しくなるのが、悩みの種だ。

 そうして、体調の良い時に出席した舞踏会。そこで出会ったのがエディアルドだった。
 シアナは同世代の女の子だと思って会話が弾み、一緒に遊んだ。

 それが運の尽きだった。そこで執着され、エディアルドはシアナを手に入れるため、策を張り巡らせた。

 攫って、大きな屋敷の豪華な一室に閉じ込めて。
 屋敷に張り巡らされた結界のせいで、何度脱出を試みても、失敗に終わった。

『姉に会いたい? へえ、彼女がいなければ、帰る理由なんてないよね』
『君の体調に効く、この薬がなければ、もう生きられないだろう』
『君は俺だけを見ていればいい』

 狂執着されて、日に日に精神を蝕んでいく物語。
 エディアルド以外、誰も幸せにならない結末。むしろ、エディアルドも最高級にヤンデレな結末で、良かったのだろうか? 自分で作り上げた檻を出て、外の世界に目を向ける、ハッピーエンドもあっただろうに。本当に愛する人を見つけて結ばれてさ。

 だが、そこでハッとする。

 私は私の家族の幸せを最優先に考えるべきで、エディアルドのことなんて、知ったことじゃない。

 そうよ、今はどうやってエディアルドとの出会いを避けるべきか、考えた。

 しばらく机に向かって考えてみたが、これといっていい案が浮かばない。
 今後、すべての行事にシアナに参加するな、とも言いにくい。シアナだって、いつも屋敷にいるのだから、体調のいい時は外にだって出たいだろう。あまり制約ばかりかけるのも、かわいそうだ。

 かといって、外に出てエディアルドに目をつけられたらと思うと、ゾッとする。

 ああ、なにかいい案はないかしら――。

 悩みすぎたので眉間に皺が寄って、疲れてしまった。ソファに身を投げ、天を仰いだ。
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