妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています

夏目みや

文字の大きさ
25 / 63
第二章 監禁生活

24

しおりを挟む
「時折、自分が抑えられないんだ、俺」

 私に向かって俺という言葉を使ったので、驚いてフォークを落としそうになってしまった。

「俺の本当の名はエディアルド・カーライル。エディアは仮の名前だ」

 うっ……ついに本人の口から本名を聞いてしまった。これは物語とどう関係するのか、頭が真っ白になった。

「なんだよ、リゼットだって見ただろう? 俺の美しい裸体」

 エディアルドはケラケラと笑いだすが、裸体と聞き、顔が火照る。

「わ、わざとじゃないわ」

 真っ赤になった顔を見て、エディアルドがそっと指を伸ばす。

「本当に可愛いな、リゼットは」

 私へ向ける眼差しに愛情が含まれていると感じ取り、混乱する。

『エディアルドの執着は常軌を逸している』

 ジェラールの言葉がよみがえる。そんな、まさかだよね……。

「俺が初めて本名を自分から名乗った。その意味がわかる?」

 パチパチと目を瞬かせる私にエディアルドはクスリと笑う。

「名前で呼んで欲しい、ってこと」

 頬を染める彼は少し照れているみたいで、優しく微笑んだ。

「わ、わかったわ、エディアルド」

 望み通り名前を呼ぶと、大輪の花が開いたように顔がパッと輝く。
 彼は機嫌がいい。切り出すなら今だと判断した。

「ねえ、エディアルド。私、そろそろ、帰らないといけないわ」

 もう四日も過ごしたし、十分遊んだと思うの。これで物語からあっさり退場させられないぐらいには、仲良しになったんじゃないかしら。

 エディアルドはそれまで笑顔だったのが、急に真顔になった。

「まだ帰せない」
「前もそう言ったわよね? 私、家族が心配し始めると思うの」
「俺さ、思うんだよね」

 エディアルドは手にしたスプーンで紅茶をくるくるとかき回した。

「リゼットがいなくなったら、どう過ごせばいいだろう、って。むしろ今まではリゼットがいなくて、どうやって過ごしていたか思い出せないんだ」

 静かに紅茶のカップを見つめエディアルドは頬杖をつく。

「それなら帰さなければいいんじゃないかと思い始めた」
「そ、そんな」

 約束が違うじゃない。少し遊べば満足するはずと言ってたはずよ。エディアルドの心変わりに背筋がヒヤリとする。

「どうやったら帰らないでくれる?」
「それは……」
「足を折れば歩けないし、手が動かなきゃ、扉も開けれないから、逃げられないよね?」

 やめて――!! ヤンデレ発言に顔面蒼白になり、大きく首を横にふる。

「ふふっ、嘘。それじゃあ、リゼット痛いからかわいそうだもんね。ちょっと考えたけど」

 考えたんかい。

 やはりエディアルドはエディアルドのまま、狂気を身に潜めている。小説のようになるのは一日やそこらでなったものじゃない。長い時間で蓄積された結果だろう。出会ったのが今で、本当に良かった。

 もう少しあとだったら、どうなっていたか。それこそ、シアナだったら――。

 私は目をギュッと閉じると、テーブルの上でエディアルドの手を握る。

「そんなこと冗談でも言うのはやめて。怖いから」

 これで伝わるだろうか。一度ではわからずとも繰り返し伝えるしかないのではないか。

「恐怖で人を縛りつけようとするのは良くないわ」

 エディアルドは握られ手をゆっくりと見つめ、小さく微笑んだ。

「わかった」

 ひとまず聞こえた素直な返事に胸をなでおろした。

「でも、なんだか最近おかしいんだ。胸の奥がざわざわするんだ」

 エディアルドは片手で胸を抑えた。

「前はドレスを着るのが楽しくて、着替えるのも好きだったけど、最近はドレスを着てもこれじゃない、って思うんだ。なぜかは、わからないけれど」

 双子コーデだけはすごく楽しいけどね、とエディアルドは付け加えた。
 エディアルドは頬杖をつき、遠くを見つめた。

「リゼット、光の精霊の加護を持っているだろう?」
「ええ、そうね」
「街で男たちに絡まれた時、一生懸命、俺を助けようとする姿に感動したんだ。リゼットが、あまりにも本気で俺のことを心配するから驚いたんだ。それに、光の精霊の加護を初めて見た時、すごく懐かしい気がした。そして胸の奥がすごく温かくなって、そこからリゼットのことが気になって仕方がなかった。こんな気持ち、自分でも初めてだった」

 エディアルドは頬杖をつきながら、私を見つめた。

「リゼットは表情が豊かでよく笑って可愛いし、一緒にいると毎日が楽しい」
「あ、ありがとう」
「だからリゼットとずっと一緒にいたい。側にいて欲しい」

 頬を染めそうになる告白だが、勘違いしてはいけない。
 エディアルドはきっとさびしいのかもしれない。でもね、情にほだされてはいけないの。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

処理中です...