ストーカー後輩を放置できなくて矯正してたら、なぜか付き合うことになった

ささい

文字の大きさ
2 / 5

【真白視点】※処理時間:0.3秒

しおりを挟む
四月、雨の日が増えた。
真白は毎朝天気予報を確認する。
午前が晴れてて、午後が雨になる日はリュックに一本多めの折りたたみ傘を忍ばせていく。
傘をさりげなく渡す脳内シミュレーションは完璧だ。
動作の確認もバッチリ。

出番はまだない。
出番がないことは真白には喜ばしいことだった。
だって日向が困ってない証拠だから。

そしてその日、日向は傘を持っていなかった。

講義棟の出口で、雨脚が強くなるのを見て立ち止まる。
周囲の学生が「うわ最悪」と雨の中へ走り出していく。
日向はそれを眺めて、少しだけ眉を寄せていた。

真白は、反射的に近づいた。

「あの、日向先輩」

声をかけた瞬間、日向の目がこちらを見る。
真白は胸の中で呼吸を整えた。

受験の日以来、初めて言葉を交わす。

「……あの」

「ん?」

日向は足を止めた。覚えているのかいないのかはわからない。
ただ、視線だけがまっすぐこちらに来る。

「傘、一本あります。よかったら」

真白が差し出すと、日向は一拍置いた。雨音が、その隙間を埋める。

「……いいの?」

「はい。俺は、まあ……大丈夫なので」

本当は全然大丈夫じゃない。心臓が騒がしいだけで、足元は地面にある。

「助かる。ありがとう。ちゃんと返すから」

日向が傘を受け取る。その瞬間、指先が一度かすった。
日向はそれを気に留めず、柄を握り直した。

「返したいから、学年と名前だけ聞いていい?」

「え」

え。なまえ。
真白は笑顔を貼り付けたまま、脳内で想定外危険ランプが点滅した。


(1:シミュレーションに無い展開)
(2:でも人間は名乗る)
(3:ここで詰まる=迷惑)
(4:迷惑=印象最悪)
(5:印象最悪=次が無い)
(6:次が無い=死)
(7:なので名乗る)
(8:普通の速度で)
(9:声量ふつう)
(10:早口禁止)

(※処理時間:0.3秒)

「……教育学部一年の、真白です。真白蓮」

言えた。
真白は内心だけでガッツポーズをした。
迷惑、かけてない。たぶん。


「真白な。俺は法学部三年の日向」

日向はそう言って傘を開いた。

「じゃあ、また」

真白は笑顔を保ったままゆるく手を振った。だが内側は大騒ぎだった。
指先がかすっただけ。
たったそれだけなのに、そこだけ世界が大きくなる。

(……触った)

見るだけでよかったのに、触ってしまった。
真白の胸は熱い。
“また”が約束みたいに聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...