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本編
【日向視点】帰り 南門 17:20頃
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一ページ目で、指が止まった。
『日向先輩動向ログ』
呼吸の仕方を一瞬忘れる。
ページをめくると、同じ形式の文字が続いた。
下書きみたいな走り書き。整えられる前の文字。
並んでいるのは、時間と場所ばかりだった。
それがやけに細かい。
『09:12 A棟 203』
『12:03 購買』
『13:05 図書館 2F』
『13:12 図書館 2F 自習席(窓側から三つ目)』
『17:20 南門』
ページをめくる。
指が止まる。
戻る。
そこにも、その前にも、同じ並びが続いていた。
移動した時刻。立ち止まった場所。
ただそれだけが淡々と連なっているのに、目が離せなかった。
一行一行が、日向の一日を追っていく。
背中に、もう一度冷たいものが落ちた。
そして、最後のページ。
最新の行だけ、さらに細かかった。
『13:35 図書館 2F 自習席(窓側から三つ目)』
ゆっくり顔を上げる。
遠くの棚の陰に、人影が見えた。
こちらを見ている。
真白蓮だ。
少し見慣れたはずの姿は、今なぜか異質に見えた。
日向は真白と目を合わせることはせず、帰り支度を始めた。
ミニノートを返す気にはなれず、何事もなかった風を装って
上着のポケットに押し込んだ。軽いのに、その存在感がやたらと重い。
席に戻り、いつもの手順で資料を重ね鞄にしまう。
鞄を肩にかけ、立ち上がった瞬間、視界の端で気配が揺れる。
追ってくるのか、逃げるのか、判断がつかない。
日向は歩く。
速すぎず遅すぎないペースを維持して図書館を出た。
外に出た瞬間、ようやく息がつけた。
さっきまで体に入っていた力が、すっと抜ける。
逃げ切れた。
そう思って、足が軽くなる。
でも、その安堵は長くは続かなかった。
背中が落ち着かない。
追ってきていないか、視界の隅で探してしまう。
まだ、分からない。
スマホを見る。
時刻は、17:19。
ミニノートの中の行が、頭の中で勝手に浮かぶ。
『帰り 南門 17:20頃』
一刻も早く門を抜けたい。
だが、ここで歩を早めれば真白の観察に「反応」を示したことになってしまう。
自分の変化が相手の記録に刻まれる。それだけは、何としても避けたかった。
歩幅は普段通り。
速度も、曲がる角度も、すべて日常をトレースする。
購買の前を通り過ぎる際、棚の端にいつもの無糖カフェラテが映った。
視界の端に捉えただけで不快感が走る。
他人のせいで自分の行動が規定されるのは我慢ならない。
かといって、あえて同じものを選ぶのも、あてつけのようで癪に障った。
日向は迷わず、炭酸飲料の列から柑橘のボトルを掴み取った。
会計も機械的に済ませる。
「買う」というルーティンは維持して中身だけをすり替える。
他人の視線のせいで、自分の日常が歪められていく。
その理不尽さに腹が立った。
振り返ることはしない。
日向はそのまま、南門の向こう側へと消えた。
遠く、視界の端に何かが一瞬だけ見えた気がした。
『日向先輩動向ログ』
呼吸の仕方を一瞬忘れる。
ページをめくると、同じ形式の文字が続いた。
下書きみたいな走り書き。整えられる前の文字。
並んでいるのは、時間と場所ばかりだった。
それがやけに細かい。
『09:12 A棟 203』
『12:03 購買』
『13:05 図書館 2F』
『13:12 図書館 2F 自習席(窓側から三つ目)』
『17:20 南門』
ページをめくる。
指が止まる。
戻る。
そこにも、その前にも、同じ並びが続いていた。
移動した時刻。立ち止まった場所。
ただそれだけが淡々と連なっているのに、目が離せなかった。
一行一行が、日向の一日を追っていく。
背中に、もう一度冷たいものが落ちた。
そして、最後のページ。
最新の行だけ、さらに細かかった。
『13:35 図書館 2F 自習席(窓側から三つ目)』
ゆっくり顔を上げる。
遠くの棚の陰に、人影が見えた。
こちらを見ている。
真白蓮だ。
少し見慣れたはずの姿は、今なぜか異質に見えた。
日向は真白と目を合わせることはせず、帰り支度を始めた。
ミニノートを返す気にはなれず、何事もなかった風を装って
上着のポケットに押し込んだ。軽いのに、その存在感がやたらと重い。
席に戻り、いつもの手順で資料を重ね鞄にしまう。
鞄を肩にかけ、立ち上がった瞬間、視界の端で気配が揺れる。
追ってくるのか、逃げるのか、判断がつかない。
日向は歩く。
速すぎず遅すぎないペースを維持して図書館を出た。
外に出た瞬間、ようやく息がつけた。
さっきまで体に入っていた力が、すっと抜ける。
逃げ切れた。
そう思って、足が軽くなる。
でも、その安堵は長くは続かなかった。
背中が落ち着かない。
追ってきていないか、視界の隅で探してしまう。
まだ、分からない。
スマホを見る。
時刻は、17:19。
ミニノートの中の行が、頭の中で勝手に浮かぶ。
『帰り 南門 17:20頃』
一刻も早く門を抜けたい。
だが、ここで歩を早めれば真白の観察に「反応」を示したことになってしまう。
自分の変化が相手の記録に刻まれる。それだけは、何としても避けたかった。
歩幅は普段通り。
速度も、曲がる角度も、すべて日常をトレースする。
購買の前を通り過ぎる際、棚の端にいつもの無糖カフェラテが映った。
視界の端に捉えただけで不快感が走る。
他人のせいで自分の行動が規定されるのは我慢ならない。
かといって、あえて同じものを選ぶのも、あてつけのようで癪に障った。
日向は迷わず、炭酸飲料の列から柑橘のボトルを掴み取った。
会計も機械的に済ませる。
「買う」というルーティンは維持して中身だけをすり替える。
他人の視線のせいで、自分の日常が歪められていく。
その理不尽さに腹が立った。
振り返ることはしない。
日向はそのまま、南門の向こう側へと消えた。
遠く、視界の端に何かが一瞬だけ見えた気がした。
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