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本編
【日向視点】唯一の安全装置
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「いつから?」
「……先輩の生活に、入り込まないために、必要で」
「今は理由を聞いてない。いつから、どこまで書いてるんだ」
「……夏頃からです。図書館の……席を立った時間とか、戻ってきた時間とか。
あとは、南門から出るだろうな、とか」
南門。
「……合ってますか?」
真白が恐る恐る尋ねる。その声には、なぜか期待の色が混じっていた。
自分の記録が正確だったかを日向に認めてもらいたがっているのだ。
日向は答えず、代わりにポケットからミニノートを取り出した。
真白が落とした、あのミニノートだ。
中身は開かず、ただ「俺が持っている」という事実だけを突きつけた。
「これも、見た」
真白の肩がビクッと震え、すぐに止まった。
怯えているのか、それとも見つかったことを喜んでいるのか、判別できない揺れ方だった。
「……見ちゃいましたか。でもーー」
真白が言いかけたのを、日向は手のひらで制した。
「このノートは、今は返さない。でも、俺が欲しいのはこれじゃない」
日向はミニノートをポケットへ戻した。
今これを真白に返してしまえば、真白の中で
「返却=解決」と解釈され、うやむやにされる恐れがある。
今は「人質」として自分が持っておくべきだ、と日向は判断した。
「もうやめるっていう、お前の言葉が欲しい」
真白は手元のノートを、指先でぎゅっと握りしめた。
日向が持っている「これまでの記録」を返してほしいのか。
それとも手元の「最新の記録」を隠したいのか。
逡巡は、ノートの端を白くなるほど握りしめる指先に現れていた。
真白が迷っているのは、もはやノートそのものではない。
この状況からどう逃げるか。あるいはどう踏み出すか。
日向には、そう見えた。
日向は少しだけ声を和らげた。
けれど、言い逃れを許さない確かなトーンで続けた。
「怖がらせたいわけじゃないんだ。
ただ、お前が自分に言い訳をして逃げないように、ここでちゃんと区切りをつけたい」
真白のまつげが、一度だけ強く閉じられた。
再び開いた瞳に涙はなかったが、その奥にある光は、
日向が思っていたのとは別の方向へ危うく歪んでいた。
「やめたら……先輩に近づいてしまうかもしれません」
その言葉を受けた瞬間、日向は背筋にゾクりとしたものを感じた。
恐怖というより、真白の「目的」が自分の想像を遥かに超えて重いことに気づいてしまった衝撃だ。
真白にとってノートに書くことは、日向への執着を「記録」という形に変換して、
どうにか自分を繋ぎ留めておくための、唯一の安全装置だったのだ。
「俺は……近づくなとは言わない」
日向は、自分の常識がじわじわと侵食されていく感覚を押し殺して答えた。
真白の呼吸が、わずかに漏れる。
「でも、付きまとうな。調べるな。書くな。俺が許可してないことは、全部だめだ」
「……先輩の生活に、入り込まないために、必要で」
「今は理由を聞いてない。いつから、どこまで書いてるんだ」
「……夏頃からです。図書館の……席を立った時間とか、戻ってきた時間とか。
あとは、南門から出るだろうな、とか」
南門。
「……合ってますか?」
真白が恐る恐る尋ねる。その声には、なぜか期待の色が混じっていた。
自分の記録が正確だったかを日向に認めてもらいたがっているのだ。
日向は答えず、代わりにポケットからミニノートを取り出した。
真白が落とした、あのミニノートだ。
中身は開かず、ただ「俺が持っている」という事実だけを突きつけた。
「これも、見た」
真白の肩がビクッと震え、すぐに止まった。
怯えているのか、それとも見つかったことを喜んでいるのか、判別できない揺れ方だった。
「……見ちゃいましたか。でもーー」
真白が言いかけたのを、日向は手のひらで制した。
「このノートは、今は返さない。でも、俺が欲しいのはこれじゃない」
日向はミニノートをポケットへ戻した。
今これを真白に返してしまえば、真白の中で
「返却=解決」と解釈され、うやむやにされる恐れがある。
今は「人質」として自分が持っておくべきだ、と日向は判断した。
「もうやめるっていう、お前の言葉が欲しい」
真白は手元のノートを、指先でぎゅっと握りしめた。
日向が持っている「これまでの記録」を返してほしいのか。
それとも手元の「最新の記録」を隠したいのか。
逡巡は、ノートの端を白くなるほど握りしめる指先に現れていた。
真白が迷っているのは、もはやノートそのものではない。
この状況からどう逃げるか。あるいはどう踏み出すか。
日向には、そう見えた。
日向は少しだけ声を和らげた。
けれど、言い逃れを許さない確かなトーンで続けた。
「怖がらせたいわけじゃないんだ。
ただ、お前が自分に言い訳をして逃げないように、ここでちゃんと区切りをつけたい」
真白のまつげが、一度だけ強く閉じられた。
再び開いた瞳に涙はなかったが、その奥にある光は、
日向が思っていたのとは別の方向へ危うく歪んでいた。
「やめたら……先輩に近づいてしまうかもしれません」
その言葉を受けた瞬間、日向は背筋にゾクりとしたものを感じた。
恐怖というより、真白の「目的」が自分の想像を遥かに超えて重いことに気づいてしまった衝撃だ。
真白にとってノートに書くことは、日向への執着を「記録」という形に変換して、
どうにか自分を繋ぎ留めておくための、唯一の安全装置だったのだ。
「俺は……近づくなとは言わない」
日向は、自分の常識がじわじわと侵食されていく感覚を押し殺して答えた。
真白の呼吸が、わずかに漏れる。
「でも、付きまとうな。調べるな。書くな。俺が許可してないことは、全部だめだ」
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