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拾われました
しおりを挟む雨。冷たい水滴が肌を刺す。
裸足の足先をすり合わせるが、冷えきったせいで感じる痛みが増すだけだ。
雨のなかを俯いて歩いていたところ、柄の悪い男たちに絡まれ、路地裏に連れ込まれた。服を剥いだところで男だと気付いたようで、殴るだけ殴られ、そのまま放置されて今に至る。
乱暴に引きちぎられた服はまともに着れるものはなくて、少し大きめのTシャツだった布にかろうじてくるまって蹲っていた。
このまま凍え死んだりしないかな
ああでも、もうちょっと楽な死に方がいいなぁ...
脳まで冷えきってしまったのではないだろうか。そもそも鈍かった思考が止まろうとしたとき、頭の上から低い声がふってきた。
「おい、大丈夫か」
だれ...?
口を開くのも億劫で、目線だけを上に向けると無表情で細身の男が見下ろしていた。
何も答えずにいると、男の手が足先に触れた。その温かさに驚いて慌てて足を引っ込めると、チッと舌打ちが聞こえ、首をすくめる。殴られるのはもう御免だ。男の顔色を伺っていると、男は着ていたパーカーを脱いで、俺の肩に掛けた。訳がわからず、口を開こうとした瞬間、ぐいと強い力で引っ張られ、そのまま肩に担がれた。
「えっ...ちょ......」
自分の置かれた状況がわからない恐怖と軽々と担がれた戸惑いとで、軽くパニックになり、足をばたつかせて男の腕から逃れようと試みる。
「おっまえ...暴れんな!殴ったりしねぇから大人しくしてろ」
「.........」
殴らないと言われたことによる安心ではなく、苛立ちの滲んだ男の声への恐怖から抵抗をやめた。
どこ行くんだろ...
俺を担いだせいで傘をさせなくなったため、雨に濡れながら男はどこか俺の知らない場所へ向かっている。段々と人通りがなくなってきたことに気がついた。
不安と疑念が膨らむ。殴らないとは言われたが、ひどいことをしないとは言われていない。
痛いのは嫌なんだけどな......
我慢できなくなって、男の背中をぺしぺしと叩いた。
「......なに」
「俺死ぬの?」
「......俺は殺さねぇよ?」
男の声には先程の苛立ちのかわりに、困惑が含まれていた。質問の意味が理解できなかったらしい。
まぁ、いいや
「...痛くしないでね」
「だからしねえって。もう黙れ」
そうこうしているうちに、男はバーのような雰囲気の建物へ入った。看板の明りは消えていたし、心なしか埃っぽい臭いがするから、閉店しているのかもしれない。
「楓おかえりぃ」
「...その子どうしたの」
中へ入った途端、部屋の真ん中に置かれたソファに下ろされ、部屋にいた人達に取り囲まれた。
「ナンパしてきたって感じじゃないわよね。ちょっと楓!この子どうしたのよ!」
「拾った」
どうやら俺はこの男に拾われたらしい。
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