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温かい
しおりを挟む「なぁ...ストーブどこだっけ」
楓と呼ばれた男はどこか別の部屋を漁っているらしい。ガタガタと物を動かす音が聞こえている。
「なに言ってんだ。今夏だぞ?」
「...そいつの身体触ってみろ」
膝を抱えている腕を触られ、身体を強張らせる。
「うわっ、冷て」
「これはまずいわね」
女の人がタオルを持ってきて、髪から身体まで拭いていく。自分でできると抵抗したが、大人しくしてなさいと言われ、身体を固くしているしかなくなった。
しばらくして、俺の前にストーブが置かれ、女の人が沸かしてきたお湯に足を浸された。
その暖かさにようやく頭が回り始め、周りを見ると、俺を連れてきた男の他には、男と女が一人ずついるだけだった。
「あ、の...」
「お前、名前は?」
斜め前の床に座り込んだ金髪の男に訊かれる。
「矢代朝陽、です」
「えっと、確認だけど男、だよな?」
「...はい」
身長が小さく、細いためよく女に間違われるから慣れてはいるのだが、改めて確認されると少し複雑な気分になる。
女が温かいココアの入ったカップを渡してくれた。お礼を言って、顔を見ると、さっき気付かなかったのが不思議なくらい派手できれいなひとだった。明るい色に染めた髪をきれいに巻いている。
「あたし、リナ。で、こっちのチャラチャラしたのが皓大」
「俺のこと抱えてきた人は...?」
「あいつは白石楓。この辺じゃ喧嘩で楓に勝てる奴はいないわよ」
やっぱり喧嘩とかしちゃう人達なのか。でも今、二人と話していて怖い雰囲気は感じない。
「それで、なんでこんな身体冷えるまで雨のなかにいたわけ?」
あったことを話した。ついさっきのことのはずなのに、他人事のように冷めた感覚しか湧かない。恐怖も痛みもどこかへ消えてしまったみたいだ。
話終えたところで、二人が口を開くより早く、後ろから脇に手が差し込まれ、持ち上げられるようにして立たされた。驚いて振り向いた瞬間、そこにいた楓にパーカーを脱がされる。
「え......わっ」
「お前が着れそうなもん、これくらいしかなかった」
頭から被せられたのはただのTシャツだったのだが、それで膝上くらいまで十分に隠れてしまう自分が情けない。
「...ありがと」
楓の手が頬に触れる。
あ、温かい...
「少し暖まったな」
落ち着いた、低い声を聞いた途端に、急激に眠くなった。自分ではどうしようもないくらいの眠気に立ったまま目を閉じた。
「は...ちょっ、危ねえだろっ」
ぐらりと揺れた俺の身体を抱き止めてくれたらしく、焦ったような声が聞こえる。
「その子、寝たんじゃない?」
「まじか...」
楓の体温が心地よくて、そのまま眠りに落ちた。
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