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呼び方
しおりを挟む目が覚めると、ピンクの毛布にくるまれて知らない部屋の簡易ベッドの上に寝かされていた。
ここどこ.....
上半身を起こした瞬間、鈍痛を腹部に感じて呻く。服を捲って見ると、痣がいくつかできていた。それを見て、昨日あったことを思い出す。
殴られて、拾われて...どうしたんだっけ
とりあえず起き上がり、ドアの方へ行く。そっと開けると、そこは昨日連れてこられた場所だった。
カウンターのところに立っている影が振り向いた。
「あ、起きてきた。おはよう」
「おはようございます...」
ええっと、確かこの人は......
「リナさん」
「さんって、笑える。リナでいいよぉ。あと敬語も禁止ー」
「リナ......さん...」
女の人を呼び捨てにしたことなんかほとんどない。ましてほぼ初対面なのに出来るわけがない。
「プッ...あはは、なにそれ。んー、じゃあ間をとってリナちゃん?」
「リナちゃん...」
気恥ずかしさは大差ないような気もするが、リナが嬉しそうに笑うので我慢することにしよう。
「それにしてもちっちゃいよねー」
十センチほど背の高いリナに軽々と抱き上げられた。
「朝陽、今いくつ?」
人との距離の近い人だなぁと思う。
「二十一」
「え、あんた成人してたの!?」
「リナちゃんは?」
「あたしは十九だよ。朝陽のが年下だと思ったのに」
二つも年下の女の子にこうも易々と持ち上げられるのは複雑だ。
「じゃあ、朝陽は大学生?」
「過去形かな。一ヶ月前に止めたんだ」
「そっかぁ。あたしはすぐそこの大学行ってるんだ。皓大と楓は...なんだろう、フリーター?かな?」
「そういえば、二人は?」
「二人ともバイト。あたしは今日はおやすみ」
そこまでカウンターの方を向いていたリナがくるっと振り向いて、顔を覗きこんでくる。
「朝陽はどうする?」
そう訊かれても、選択肢の一つすら思い浮かんでこない。とりあえずお礼を言ってここを出ていくべきだろうか。その後のことはまた考えるしかない。
「わかんない...けど、とりあえず出てくよ。これ以上迷惑かけられないし」
リナが少しだけ難しそうな顔をして黙った。それから、口に人差し指を当てて思い出したように言う。
「行くとこないならここにいろって楓が言ってたよ?」
楓は俺をどうしたいのだろうか。昨日は勝手に怖いと思い込んだだけで、何一つひどいことはされなかった。むしろ何から何まで面倒をみてもらった。
何にせよ、楓にお礼も言わずにここを立ち去る選択肢はなさそうだ。
「楓が帰ってくるまで待ってていい?」
「もちろん!......でも、楓は呼び捨てなんだ、ずるいなぁ」
「え、あ......」
無意識だった。どもる俺を見てリナが笑う。
「冗談じょーだんっ。それより、あいつら夕方まで帰ってこないから、それまで女子会しよ!」
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