路地裏モラトリアム

Nora

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半分

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楓と二人、近くのスーパーに来ている。何もすることがないより、料理のリクエストをしてくれたのはうれしかったのだが、余りにも食材がなくて驚いた。


「出来合いのものばっか買ってたから、なんかこういう材料っぽいもの買うの久々だわ」


俺がかごにいれた玉ねぎの袋をつまみ上げた楓がしみじみという。確かに食材の詰まった赤い買い物かごは全くもって似合っていない。


「これで全部かな...」


「ボンドとかいらねぇの」


真顔で訊いてくる楓を睨み付けて、レジに並んだ。


「...ちょっと並んでて」


そう言って、かごを床に置いて列から抜けていった楓はペットボトルのオレンジジュースを四本抱えて戻ってきた。


「俺、普段は水で大丈夫だよ...?」


「あったら飲むだろ。俺らは酒飲んでんだからこれくらいはいいんだよ」


ぽんと頭に手を置かれ、ありがとうと小さく呟く。それを見た隣の列の男の子が俺を指差しながら母親に同じことをやれとせがんでいるのが視界に入り、顔が熱くなった。


会計を終え、スーパーを出たところで楓の持っている袋に手をかけて言う。


「俺が持つ」


「重いぞ」


「......じゃあ半分」


半分?と聞き返されたが、答えるのが面倒くさくなって、楓の手から袋の持ち手を片方だけ奪う。


「あぁ、なるほど...」


十メートルほど歩いたところで楓が俺の方に顔を向けて口を開いた。


「これ、歩きにくくね?」


「うん......でも...」


でも、これがいい


そう続ける前に、楓の手が俺の頭をグシャグシャに撫でた。


「別に文句じゃねぇよ。そんな顔すんな。このままこれで帰ろうな」


なだめるように言われて、考えが顔に出ていたことが恥ずかしくなって下を向く。そのまま会話のない帰り道で、俺と楓の間にある買い物袋のカシャカシャという音だけが耳に残った。

 










買い物袋の中身をカウンターに並べると、結構な量があった。元々バーだったこともあり、それほど大きくはないが、それなりに調理器具のそろったガスキッチンが背中側にある。それが活用されると思うと少しだけ嬉しくなった。


「すぐ作る?」


「いや、夜でいい。こっち来い」


ソファに座った楓に促されるまま隣に座る。少し幅が広めのソファは、俺が体育座りするとちょうどよく収まる。自分の膝を抱き締めるようにしたまま、楓の方をチラリと見た。


「...リナが、お前大学やめたらしいって言ってた」


「うん。医大行ってたの、やめたんだ。そしたら家追い出されちゃった」


「なんでやめた」


優秀だったんだろ、と訊かれて笑って頷く。


「でも、自殺願望あるやつが医者なんかなっちゃダメでしょ」


尋ねておいて楓は興味なさそうに、ふーんと呟く。少し間があって、油断していると、ひょいと身体を持ち上げられて楓の足の上に向かい合って跨がるように座らされた。


「......?」


「死にてぇの?」


パッと見には無表情な楓の目が揺れた。



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