路地裏モラトリアム

Nora

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しないの?

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「あ、こら。危ないだろ」


「プハッ...けほっ、ケホッ」


「ばか」


ボーッとしているうちに目の下までお湯に沈んでしまっていた俺の身体を楓が持ち上げた。


「やっぱこれ置いたの失敗かな...」


「......?気持ちいよ?」


元々シャワーしかついていなかった浴室に、楓が簡易の湯船を設置してくれた。俺が風邪を引かないように、だそうだ。


「朝陽、絶対一人で入るなよ」


「......?」


「浸かりながら寝るだろ。溺れられたら困る」


「そんなことしないよ」


「いや、お前は絶対する」


そんなに子供じゃない。断言されてむくれてみるが、頬をつねられて終わった。


「......リナ嬉しそうだったな」


「うん。リナちゃん、すごい頑張ってたもん」


「...香ばしかったし」


「あれは半分俺のせいです...」


半日かけてリナと二人で作ったビーフシチューは、リナが途中指を切ったりしながらも案外上手くできた。


...できていたのだ。本当に。最後の最後に、鍋底を焦がしてしまうまでは。結局ほんのり焦げ臭いビーフシチューが出来上がってしまった。


食べれないほどではないから、晩ごはんに楓と皓大に出したのだが、リナは明らかに凹んでいた。まぁ普通にいいんじゃない、と言いながら食べる楓の横で、皓大は無言で一気に完食した。


『うまかったよ。次はもっとすごいの期待してる』


そう言った皓大は俺から見てもちょっと、いやかなり、かっこよかった。凹んでいたリナの表情が一瞬で明るくなったことは言うまでもない。


普段は文句ばっかり言い合っているけど、やっぱり仲良しなんだなぁと、俺までほんわり温かい気持ちになった。


それからは終始ご機嫌だったリナに、やっぱ褒めるんじゃなかった、なんて言いながらも、手をつないで帰っていった二人はすごく幸せそうだった。


それだけじゃない。同じくらい柔らかい雰囲気で、二人を穏やかな目で見つめていた楓にも気がついていた。


「楓も嬉しそうだった」


「......うるせぇよ」


「ふふっ」


楓に身を寄せて、ぎゅーっと抱きつくと、楓の指が濡れている俺の髪を鋤いていく。


「にしても、あれ、俺ら二人であと何食分あんだろ」


「......次から気を付ける」


リナが切ってくれた野菜に合わせて作った結果、予想外な分量のビーフシチューができてしまった。しばらくは毎食それを食べるしかなさそうだ。


「まぁ、朝陽に食わせて太らせればいいか」


「俺そんな細くないよ」


「細すぎだっつの」


そう言いながら、楓の手が腰を上から下に、輪郭をなぞるように滑る。ゾクゾクとくすぐったい感覚が上ってきて、ちょっとだけ変な気分になった。


「かえでー...」


「なに?」


「今日はエッチなことしないの?」


「~っ、お前そういうのやめろ......」


こないだはここでしたくせに。不意打ちはやめろ...と、呟く楓の顔が少し赤い気がするのはきのせいだろうか。


「あ、朝陽のぼせてるだろ」


「平気だよ...?」


「いや...顔真っ赤だし」


「ちょっとクラクラするだけだもん」


俺を抱き上げたまま、楓が立ち上がると、浴槽のお湯は一気にかさを減らす。水で滑るせいで楓の腕からすり抜けそうになったため、首に腕を回して抱きついた。


「お前ほんと、世話焼けるわ......」



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