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最後の戦い⑤
しおりを挟む「最後に言い残す事はあるかな」
そのナガノの発する言葉は、有無を言わさない口調であった。
「どうして・・・僕を養子にしたんだ」
「お前みたいな身寄りの無い孤児なら、良い傀儡になると思ったからだ」
「疑問を持たずに、そのままロードを暗殺してくれれば良かったものを」
「・・・」
今さら温かい言葉を期待していた訳ではないが、それはユダにとって余りにも辛い現実であった。
「さらばだ」
ナガノはゆっくりと刀剣を構えて、振り下ろそうとしたその瞬間。
「!?」
横から、ナガノに向かって何者かが勢い良く体当たりして来た。
ぶつかって来たのはヒイラギで、その手にはダガーが握られており、男の左腕を掠めていた。
思わぬ不意の一撃に、ナガノはじんわりと血が滲む自分の左腕を呆然と見つめている。
その一瞬の隙をユダは見逃さなかった。力を振り絞り勢い良く体を起こすと、ナガノの背後に回り込み、刀剣で背中を斬りつける。
斬りつけた手応えは骨を断ち切るには明らかに浅かったが、ユダにとってはこれで充分目的を果たしていた。
思わぬ奇襲を受け、いったん距離を取ったナガノも、自分の体の違和感に直ぐに気が付いた。
「むっ、やられたか・・・」
ナガノが着用している強化アーマーの動力部分が破壊されていた。
「もらった」
ユダは勝負を決めるべく、ナガノに突進して刀剣を上段から振るう。
「ふん」
キンッ、その渾身の太刀をナガノは受け切る。強化アーマーは先ほどの攻撃で故障して優位性は無くなったはずなのに、その態度に焦りは微塵もなく落ち着いていた。
「自分が無いお前では、私には勝てんよ」
「いつまでも子供と思うな、僕も生きる意味を見つけたんだ」
二人は互いの魂をぶつけ合うように、体ごとぶつかって刀剣を打ち込む。
キンッ、キン、キンッ
それは死闘と呼ぶに相応しかった、互いに致命傷こそは無いものの肩、腕、腰を斬りつけ、その度に地面には血が滴り落ちる。
長いこと一進一退の攻防が続き、いつしか傾き掛けた太陽の強い陽射しが半壊した壁の隙間から差し込む。
「むっ・・・」
その焼けるような陽射しを、ナガノは真正面から受け止めてしまい目が眩む。
その隙が命取りになった。
ユダの刀剣が男の胸を貫く。
ユダが、刀剣を男の胸から引き抜くと、傷口から血が溢れ出し、刃が一瞬でてらてらとどす黒い赤色に染まった。
「がはっ・・・ぶはっ」
ナガノは大の字に地面に崩れ落ちると、息も絶え絶えに必死で呼吸をする。
その生命は風前の灯で、今にも事切れてしまいそうに見えた。
ユダは地面に横たわる瀕死のナガノの横に跪くと、その上半身を起こして耳元で何か呟く。
「今まで・・・」
少し離れた所からその様子を見守っていたヒイラギには、その言葉は途中までしか聞き取れず、最後の方は何を話しているのか分からなかった。
その言葉を聞いて、ナガノは僅かに口の端をゆがめて笑ったように見えた。
そして間もなく、ナガノは息子の手の中で息を引き取った。
「・・・」
ユダはナガノの上半身をゆっくりと地面に降ろすと、そのまま肩を小刻みに震わせて声を出さずに泣いた。自分でも色んな感情がごちゃ混ぜになって、なぜ泣いているのかが分からなかった。
ふと、青年の体を何やら温かいものが包み込む。
それはヒイラギだった。
ユダの背後から体を包み込むように抱き締め、優しく頭を撫でていた。
まるでその姿は、独り寂しく泣いている息子を慰める母親のようだった。
二人は言葉も交わさずに、しばらくの間、そのまま互いを支え合うように抱き合っていた。
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