悪役令嬢目指して奮闘中

L0tus

文字の大きさ
1 / 10
悪役聖女?

1-1

しおりを挟む
わたくしの心境を語るとしたら、たった一言だ。

ど う し て こ う な っ た !

「私は!悪役令嬢が良かったのよ!!」

自室での優雅なティータイム中である。
下位とはいえれっきとした貴族であるわたくし、シルビアンナ・S・シルベストリ(13)は傍に控えている侍女の白けた視線にも何のその。飲み終えたカップをソーサーに置いてから、庭先にあったら絶対におしゃれであろう可愛らしい丸いテーブルに拳を叩き付ける。落ちかけたカップは白けた視線を向けていた侍女が難なくキャッチした。

「シルビアンナ様、悪役で令嬢というのはあまり大っぴらにできる事では無いと思われるのですが。」
「相変わらず主たる私に生意気な口をきくわね、リロイ。」
「私の雇い主はシルベストリ子爵様ですし。」
「ぐぬぬぬ…。」

家名を持たぬ、ただのリロイは私の乳母の娘であり、幼馴染でもある。
不敬ともとれそうな口を利くのは私にだけと知っているし、前世の記憶がある私にとっては別段気になるような事でもない。

――前世。輪廻転生をする魂が生まれ変わる前の一生の事。
私は、いえ、あたしはただの腐女子に両足を膝くらいまで浸けた、ゲーム漫画アニメ大好きな腐健全ふけんぜんなオタクだった。
最初はあたしの記憶は無かった。違和感を持ちながらも普通に私として育ってきただけだ。記憶が戻ったきっかけは、貴族の9歳になる年の子から未就学児――今の人生では貴族の就学は14歳になる年からで、児と言っても13歳まで居るんだけど――を対象とした、5年に一度開催される王家のお茶会でする自己紹介の練習をさせられた時。
私はその時、初めて自分の名前がシルビアンナ・S・シルベストリだと知った。だってお父様もお母様も、乳母やもリロイも皆して私をアンナと呼んでいたんだもの、アンナが名前だと思うじゃない。
そうしてフルネームを知った私の生まれながらの違和感が音を立てて砕け散っていくようだった。――記憶を取り戻した私を最初に待っていたのは、突然な記憶の開放で知恵熱にて寝込むというものだったのは言うまでもないかしら。
そして熱が引っ込んだ時には、私とあたしが完全に同居しているという不思議な感覚。まぁ魂ってそうそう変わるものでは無いと言うし、性格的には何も変わっていなかったからなんだろう、という事にした。

そして落ち着いた私が、あたしとしての記憶を取り戻してから改めて記憶の整理をしたのだけれど。まず最初に考えることはやはり切っ掛けとなった自分の名前で。
シルビアンナ・S・シルベストリ…あたしはこの名前にとても馴染みがあった。前世では通称トリプルSと呼ばれていた、私と同姓同名の人物。それは、前世のあたしがこよなく愛した乙女ゲーム【アステリスク~聖なる乙女と円卓の騎士~】のヒロインにして主人公の名前だった
単なる同姓同名であるのならそういう事もあるんだな、で済ませられた。済ませたかった…。
だけど、私が育ってきたこの国の名前、王様の名前、王太子の名前、同年代の格上の貴族の子息令嬢の名前に見知った名前がズラズラと並んでいれば済ませられる筈も無く。あたしは私として生まれ変わってしまったんだと嫌でも実感した。
乙女ゲームのヒロインに転生だなんてハーレムじゃないか!と夢見る同士なら妬まれる立場なんだろうけど、あたしはヒロインの立場なんて欲しくなかった。
冒頭で叫んだ通り、あたしは乙女ゲームの世界に転生するなら悪役令嬢になりたかったのだ!
約束された未来、それをヒロインにぶち壊されて転落の一途を辿る可哀想な立場にありながら、ゲーム知識を使ってひらりと平和を目指して奮闘する…そんな夢小説のように。

「現実とは儚いものですわねリロイ。」
「お嬢様は現実というものをしっかり見つめてください。」

視界から排除し続けていた手紙をリロイの手によって眼前に突き付けられる。
その手紙には、要約するとこう書かれていた。

【シルビアンナ・S・シルベストリ嬢は神託により100年に一度降臨なされる聖女であると定められた。よって、来年度から王立魔法学校へと通う事を任ずる。――アスタロン聖国国王 ジュナベール・K・アスタロン】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...