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三章
46話 酒席レポ 後編 / カミュ
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< 小さな設定 >
ヤニックとマノンが結婚しました。
プロポーズのアクセサリーは30話に掲載済みの小話のです。
現在はマノンがヤニックのお家に引っ越して、サミーが一人暮らしです。
< 小話 >
――宴の席で 後編
歌声に誘われて一番奥に参りました。
喉を潤す水の代わりにお酒を飲んで、天使の声が「失恋の歌」を歌います。
イリタシス産のお酒が何本も足元に転がっていますね。あの国もお酒が好きですから、揉まれたドニは強そうです。すぐそばで男のすすり泣きが始まりました。
「カリーヌ! 叶わぬ恋は苦しい! 攫いたい!!」
「別れた思い出に後悔はない!!」
「俺は……後悔だらけだ」
ラザールと護衛騎士とディエリの従者が涙を零して、これは「泣き酒」確定です。
次は「防壁の歌」。酔っているのか選曲が微妙です。悪魔の誘惑に打ち勝つ乙女の心の葛藤の歌は裏切りや逆心の歌とも言われております。
歌詞を紡ぐドニの笑顔は、悲しい物語のせいか普段と少し違います。私が明るい歌を所望したら、元気を出してくれるでしょうか。
そう思って待っていたのに、息継ぐ間もなく次の曲が始まりました。歌声はずっと途切れていません……。この子は「歌う酒」でいいですね。
決めた矢先にドニが歌声を止めて、首を傾げます。
「どうしました?」
「頭に思いついた曲をずっと歌ってたんだけど。これ続きか思い出せない」
しょんぼりとドニが肩を落とします。思い出せない曲があったとは驚きです。変わった曲調の歌は私も初めてで助言して差し上げられません。
「それは、旅芸人の曲でございますよ。一夜限りの恋の曲です」
追加のお酒を取りに来たノエルの従者が、グラスを持って立ち止まります。それから小さな声で続きを歌いだしました。ドニとは質が違いますが、甘く大変美しい歌声です。
「底なし酒」の器用な従者を、歩く音楽の「歌う酒」が気に入ったようです。端に移動して旅芸人の歌を二人で一緒に口ずさみます。素晴らしい歌声に私も暫く聞き入ってしまいました。
教えられる新しい曲に友に本当の笑顔が戻り、過去を抱える男も楽しそうに微笑みます。
泣き酒の三人も仲良く語り合って気が晴れそうです。
誰かが誰かと語り合って笑いあう。人と人の距離は腕の触れ合う距離にある。それが今宵は心の距離も同じようです。
気付かずに人が人を救う。とても優しい時間と共に、皆にとって良い一夜が過ぎていきます。
初の酒席は大変ですが、心地よい騒めきに私は目を閉じる。忘れません。また、いつか皆様と同じ時を願いましょう。
ヤニックとマノンが結婚しました。
プロポーズのアクセサリーは30話に掲載済みの小話のです。
現在はマノンがヤニックのお家に引っ越して、サミーが一人暮らしです。
< 小話 >
――宴の席で 後編
歌声に誘われて一番奥に参りました。
喉を潤す水の代わりにお酒を飲んで、天使の声が「失恋の歌」を歌います。
イリタシス産のお酒が何本も足元に転がっていますね。あの国もお酒が好きですから、揉まれたドニは強そうです。すぐそばで男のすすり泣きが始まりました。
「カリーヌ! 叶わぬ恋は苦しい! 攫いたい!!」
「別れた思い出に後悔はない!!」
「俺は……後悔だらけだ」
ラザールと護衛騎士とディエリの従者が涙を零して、これは「泣き酒」確定です。
次は「防壁の歌」。酔っているのか選曲が微妙です。悪魔の誘惑に打ち勝つ乙女の心の葛藤の歌は裏切りや逆心の歌とも言われております。
歌詞を紡ぐドニの笑顔は、悲しい物語のせいか普段と少し違います。私が明るい歌を所望したら、元気を出してくれるでしょうか。
そう思って待っていたのに、息継ぐ間もなく次の曲が始まりました。歌声はずっと途切れていません……。この子は「歌う酒」でいいですね。
決めた矢先にドニが歌声を止めて、首を傾げます。
「どうしました?」
「頭に思いついた曲をずっと歌ってたんだけど。これ続きか思い出せない」
しょんぼりとドニが肩を落とします。思い出せない曲があったとは驚きです。変わった曲調の歌は私も初めてで助言して差し上げられません。
「それは、旅芸人の曲でございますよ。一夜限りの恋の曲です」
追加のお酒を取りに来たノエルの従者が、グラスを持って立ち止まります。それから小さな声で続きを歌いだしました。ドニとは質が違いますが、甘く大変美しい歌声です。
「底なし酒」の器用な従者を、歩く音楽の「歌う酒」が気に入ったようです。端に移動して旅芸人の歌を二人で一緒に口ずさみます。素晴らしい歌声に私も暫く聞き入ってしまいました。
教えられる新しい曲に友に本当の笑顔が戻り、過去を抱える男も楽しそうに微笑みます。
泣き酒の三人も仲良く語り合って気が晴れそうです。
誰かが誰かと語り合って笑いあう。人と人の距離は腕の触れ合う距離にある。それが今宵は心の距離も同じようです。
気付かずに人が人を救う。とても優しい時間と共に、皆にとって良い一夜が過ぎていきます。
初の酒席は大変ですが、心地よい騒めきに私は目を閉じる。忘れません。また、いつか皆様と同じ時を願いましょう。
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