< 小話まとめ >悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

立風花

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三章

37話 夏の日 / クロード

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< 小さな設定 >
爵位を示すスカーフは昔、それぞれの色に染めただけの品でした。
でも、王族を中心に金色一色とかセンスが悪い!ということで、
今の白地に各爵位に合わせた色の刺繍に変わりました。


※夏の質問を頂きましたので一本お話に致しました。
 皆さま、暑中お見舞い申し上げます。お体に気を付けてお過ごしください。

< 小話 >

――ある暑い日の話


 廊下の窓から見える日差しは、高く強くて焼けるようだ。暑いのはあまり得意じゃない。水属性だからなのか、熱いと体が沸騰するような気がする。ベストを脱いで、腕をまくる。社交場では許されないが、学園内なら非難されないから助かる

「今日は暑いですね」

 普段しっかりジャケットを着こむ友も今日はベストだけだ。綺麗な銀の髪の間から汗が一筋落ちる。

「ああ」

「暑いなら涼しくなる遊びする?」

 突然、癖のある声がして、暑いのにノエルの腰をユーグが抱いた。とりあえず、見てるだけで暑苦しいから離れてくれ。

「涼しい遊びってなんだ?」

「兄さんのところから面白いもの見つけたんだけど。みんなで試そ?」

 ユーグの持ってくるものの半分は危険だが、暑さには耐えられないから頷く。ノエルは巻き込まれるのを恐れて及び腰だ。
 とりあえず、ノエルがいれば大概の事は上手く収めるので、頼んでついてきてもらう。
 クラスの前を通ったから、殿下とカミュ様にも声をかける。

 人の少ない丘の小道の広場につくと日差しがやはり暑い。一気に汗が噴き出してくる。

「これは今日は今年一番の暑さのようですね。さて何をなさるのですか?」

 少し離れたところで、カミュ様は従者が傾ける傘の中でパタパタと手で顔を仰ぐ。

「精神的なのと物理的なのどっちがいい?」

 全員が物理的に!! と即答する。精神的にの方は絶対に講師に怒られるパターンだ。

「じゃあ、やるよ」

 ユーグがポケットからお守りを取り出した時点で、殿下が面白そうな顔をして、カミュ様とノエルがしまったという顔をする。

 お守りサイズの魔法弾が弾けて、大きな水柱とともに水滴が心地よく降ってくる。晴れた空の中で雨のような粒が光るのは綺麗で心地よい。手を広げて冷たい水の感触を満喫する。最高に気持ちいい。

「これはいいな。ユーグ、珍しくいいものを持ち出したな!」

 殿下は気に入ったようで空を仰いで水を受ける。ノエルがびしょ濡れで無言で怒っているのは見なかったことにしよう。

「カミュ様も参加したら?」

「日に当たると肌がひりひりしますので、ここで水の空気を楽しみます」

 ユーグの問いに答えて、カミュ様はみんなの様子をみて目をほそめる。

「ノエルもこい。ベストは脱げ、びしょびしょになる」

 殿下がノエルに手を差し出す。友は全力で首を振る。

「ダメです! 脱げません! 行きません!」

 木陰に逃げてたノエルを殿下が引きずり出す。諦めたようにベストを着たまま、ノエルが水びたしになった。卒のない友はいつも身だしなみを大事にすることに感心する。

 皆が笑いながら、暑い日差しの下で水の涼を楽しむ。時折、水滴の間に虹がかかると歓声を上げた。
 少しずつ水柱が小さくなって、水滴が減ってきた。暑い日差しにさらされて、もわりと湿気が立ち上る。楽しい時間はもう終わりか。

「水量が減ると急に湿気で暑くなるな」

「大丈夫。連続発動のお守りだから、次は雪がふるから。試作だから雪はすぐ終わっちゃうけどね」

 温度が一気に下がって残った、僅かな水の魔力が今度は雪になって降り注ぐ。
 王都では見ることの叶わない雪は儚くて美しい。真夏に降る雪に皆で目を細める。

「雪の降る国は、スノーゴーレムだな。ノエル、探しに行くか」

 いつか、リュウドラを探しに行く約束をした友に問いかける。

「いいですね。この雪舞う景色を見れるなら」

 自分も一緒に行くと笑って仲間の声が重なる。
 何年か先、大人になった俺たちも変わらず、今日のように皆で集まって笑って遊ぶ。
 それは、いいな。
 全員で大騒ぎしながらスノーゴーレムを探しに行く事を想像すると、楽しくて自然と頬が緩んだ。
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