＜ 小話まとめ ＞悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

三章

47話 お世話 ／ ジル

＜　小さな設定　＞
少しくらいノエルが可愛い恰好をしていたって使用人は気にしません。
マリーゼのセンスが可愛い寄りなのは知っています。
たとえ、従者の部屋に入り浸っても気にしません。
ノエルが優しい事も知っています。
それに、アングラード家の使用人は何をしだすかわからない狸のお世話のプロでございます。


＜小話＞

――ある従者の部屋で

　大切な方が、怪しげな薬を眼前に突きつけてまいりました。
　多分、ユーグ様の認可外の薬でしょう。初めて見る毒々しい色に抵抗を感じます。絶対に新作の人体実験では？

「あとで……」

「飲んでください。お願いです」

　紫の瞳を溢れそうなぐらい開いて潤ませるのは反則でしょう？
　そんなに愛らしく懇願されて断るなんてできません。
　一息で飲み干しましたが、まずい……。崩落戦の時も思いましたが、ユーグ様の薬は味への配慮を感じません。

　飲み切るのを見届けると大切な方は、いそいそと温かい濡れタオルを持ってまいりました。

「体を拭いて、包帯も替えます！　治るまで私はジルのお世話係を自分に任じました！！」

　はぁ？　主が従者にそんな真似するなど聞いたこともありません！
　止めるまもなく、顔にタオルを当ててごしごしと擦り出します。なれない作業に少し不器用な感じは愛らしさを感じます。……ですが！　
　シャツのボタンにまで手をかけるのは辞めて下さい！！
　慌ててその手を掴んで止めますと、頬を膨らませて不満気な表情を浮かべられます。

「だめです！　綺麗にしてから、包帯は替えないといけません！」

　ええ。よく存じております。清らな貴方に面と向かって申し上げる事はできませんので、心の中で言わせて頂きます。

　まず、包帯の交換なんてできますか？　大変、不器……苦手な作業かと確信しております！

　それから……

　良い年頃に差し掛かる美しい女性がベッドの上で男の服を脱がすのは、完全に間違っておりますよ！！　

　あと……　

　近づいて当たり前にこちらが肌に触れるのと、そちらから当たり前のように触れられるのは違うんです。

「……さすがに、渇いてしまいます。ノエル様、水差しのお水を替えて頂けますか？　喉も渇いているので……」

　新しい仕事のお願いに張り切って大切な方は出ていきました。
　さて、急いで身を整えましょう。
　戻ってくる前に終えないと、何をされるか分かりません。危ないですよ？