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三章
52話 君を想う 1 / アレックス
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「四話 ハッピーバースデー」でゲーム中の告白の台詞があります。
誰の台詞だったのかという設定です。
「愛しているよ」 → アレックス
「愛しております」 → カミュ
「愛してるんだ」 → ディエリ
「愛してる」 → クロード
「愛してるからね」 → ドニ
「愛してるみたいだね」 → ユーグ
< 小話 > アレックス回想は不定期でまた出てきます。
――抱きしめた夜に (アレックス回想 1)
離した唇から落ちる吐息すら愛しい。そっと赤い唇を撫でれば、甘い声が呟く。
「……殿、下……」
名を呼ぶ吐息一つすら惜しくなって、再び唇を重ねると彼女の体が小さく震えるのが分かった。
抱きしめた肩はやはりとても細い。何度もこの肩にからかうように触れた。そして、その細さに驚いて、強く抱きしめられない事に胸を何度も焦がした。
キャロルを好きだった。ノエルに戸惑いながら惹かれた。
ずっと君だけが好きだった。
―― 十歳。君がノエルとして現れた時は本当に驚いた。
早い時間帯の公の儀の披露目はあまり面白いものは見れない。
幼馴染のカミュと領土を取り合うゲームに興じながら、時折思い出したように覗く。カミュが騎士の駒を取ると同時に、この時間帯にはあり得ない歓声が起きるのが耳に届いた。
カミュと連れだってバルコニーから舞台を覗く。目に入った姿は銀の髪に紫の瞳、まっすぐ相手を見た眼差しは私に「ダメです!」と叫んだ面影があった。
「カミュ! 見つけた、あの子だ!」
身を乗り出して、その子を見つめる。訝しむように首を傾げたカミュが隣で参加者の書類を綴る音がする。
「さて、貴方は男の子に恋をしたんですか? 国政管理室の狸アングラード侯爵のご子息ですよ」
私があの子だと思った子は、剣を二本自在に扱って男の服を着ていた。長かった筈の銀の髪も短い。
カミュから受け取って今日、公になった子のリストに目を落とす。
―――――
アングラード侯爵家
ノエル・アングラード 男
―――――
私が迎えに行くと言った子は、確かに女の子だった。目の前の子は書類上も姿も男。
どんなに似ていても目の前の子は別人だという落胆が胸に落ちる。
なのに。なぜなのか、彼が舞台を降りるまで一度も目が離せなかった。
吸い寄せられるように、彼の全てを自分の目が追い続ける。
「カミュ、あの子と話がしたい。舞踏会で声をかける」
隣でカミュが小さなため息を落とす。外に出るのが好きではないからか、時々ひどく億劫そうな時がある。一人で行こうかと迷っている私の横で、幼馴染が二度目のため息を吐く。首を傾げて笑うのは、仕方ないから付き合うという合図だ。
舞台の上で女の子によく似た少年が、剣をはじく高い音が響いた。
勝負が決まった。相手の首に添うように寄せられた剣でその技量がよく分かる。
落ち着いた表情が剣を鞘にを納めた途端に、笑顔に変わった。
大輪の花。艶やかで惹き付けて離さない。
胸が跳ねて早鐘を打つのに気付かないふりをしたのは、彼はあの子じゃないからだ。
想いはまだあの子への恋で一杯だった。
これが私とノエルだった君との出会いと始まり。
昔を思い出して小さく笑った私に、今腕の中にいる君が不思議そうに見つめて首を傾げる。
「どうかしたんですか?」
「君の公の儀の余興を思いした。勇ましかったなと思って」
「なぜ今それを思い出すのです!」
拗ねたように頬を膨らませる。長い髪に良く似合うドレス。今日の君はいつもと違って何から何まで女の子。だけど、そんな顔をする時はやっぱりノエルらしい顔になる。
白い頬を普段と同じように掴む。いつも通り触れた頬はとても柔らかい。
出会った後にどうしても触れたくて、からかうふりをして頬を掴んだ。気づいたら私の癖になっていた。
柔らかい肌の感触と伝わる温度。必死に無理して話そうとする君はとても愛らしい。
今日は無言で膨らませ続ける頬に、口づけて少しだけ噛む。
「やっと食べられた」
「ダメです」
真っ赤になって睨む目は嘘をつく。嫌がっていないのが分かるから、反対の頬にも繰り返す。
君に何度もしたいと思った小さな望みが、また一つ叶う。
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