< 小話まとめ >悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

立風花

文字の大きさ
32 / 49
四章

54話 君を思う 2 / アレックス

しおりを挟む
〈 小さな設定 〉

レオナールは剣を使いません。
荒事は全てクレイが片付けます。
クレイも剣を使いません。鉄拳制裁です。


〈 小話 〉

――抱きしめた夜に  (アレックス回想 2)

 銀の髪に鼻を埋める様にすれば、胸元に顔を埋めた君が首を振って、拗ねるようにジャケットを握りしめる。

「顔を上げて」

「殿下が頬を噛むからダメです」

 真っ赤になる君は可愛くて、きっと顔を上げたらまた食べてしまうだろう。
 私の胸の中の君を抱きしめる。

 君に私が抱きしめられたのは昔。小さな背に腕を回して縋りつくように泣いたあの日。


―― 十一歳。小川の畔で私は君を、あの子の代わりじゃなく、臣下にすると決めた。

「ありました!」

 よりによって彼の声が繋がりが切れたことを宣告する。あの子と同じ顔で笑って彼が小さな石のケースを渡す。
 手紙が一枚入っていた。親に隠れて返そうとした拙い形跡と小さな手紙。最悪の結果はすぐに理解した。
 カミュに秘宝を笑顔で返す。いつにないカミュの笑顔に気付いても、何かを言ってやることはできなかった。声を出せば、それは嗚咽に変わる確信があった。
 未来の王として、皆の前で泣くなんて許されない。だから、無言で立ち去る。 

 人払いをして、小川の畔で必死で堪えようとしている私の側に彼がやってきた。
 隣に座り込んだのが気配で分かった。帰れと言っても帰らない。

「ごめんなさい」

 顔を伏せた私に、記憶の中の声とよく似た声がそう言った。

 ノエルがいい子だと知っている。あの子と重ねるのも違うと、もう分かっている。
 だけど似すぎてて、側にいて欲しいと思うのに、側にいないで欲しいと思う事もあった。

 顔を上げると、彼の紫の瞳は悲し気であの子が重なってしまう。
 気持ちより先に涙の方が溢れてた。堪えきれなくなった思いが堰を切ると、どうにもならなくなった。

「忘れないって書いても、私はいつか忘れてしまうかもしれない。毎日、毎日、こんなに大切に会いたいと思っているのに! どうして、時間が経つと曖昧で、小さな思い出は少しずつ失っていくんだ」

 手紙のずっと忘れないという言葉は酷く残酷で、会えないのに狡い言葉だ。
 迎えに行くのを楽しみにしていた気持ちは、会えない焦りにいつしか変わってた。過ぎていく毎日の中であの子との思い出が、成長と引き換えに少しずつ失われていく事に気付いたからだ。
 忘れない事が最後の繋がりなのに、君が書いてくれた「ずっと忘れません」を私は守れないかもしれない。

 私に忠誠を捧げた少年の顔が苦しげに歪んであの子と重なる。泣くと思たら手が伸びて、あの子だと思って頬に触れていた。

 紫の瞳、柔らかい白い頬、赤い唇。
 あの子もきっと同じ様に綺麗な目をして、触れたい肌をして、愛らしい唇をしてるんだろうか。

 その頬を吸い寄せられるよに撫でれば、涙でぼやける視界の先がノエルなのか、あの子なのかが曖昧になる。

 ノエルがあの子なら良かった。ノエルではなくて、あの子が現れてくれたなら良かった。

 触れながら、そんな酷い事を思った。酷いと分かっても、滅茶苦茶になった心はどうにもならなくて、涙も言葉も止まらなかった。

「あの子のことを忘れたくない。だから、ごめんというなら、側にいてよ」

 大好きなあの子の代わりを、臣下として忠誠を捧げた彼に求める。
 誰に対して狡いより、ノエルに対しての手酷い裏切。だから、それは絶対にしてはならないことだった。
 口に出した私は彼の王として失格だ。

 なのに、君は私を抱きしめた。

「忠誠をお誓いしました。ノエルは側にいます」

 ノエルは側にいます……酷い事を求めた私に彼が再び告げた忠誠。
 この忠誠に応えなければ私に王になる資格はない。

 でも、今だけ……今だけはあの子だと思うことを許してほしい。代りにするのはこれが最後だ。

 誓った瞬間、抑えきれない傷みが嗚咽になって自分より少し小さな体に縋って泣いた。

 君をあの子だと思って、「狡い」と怒って失う悲しさを埋める。
 背中を撫でる優しい手に甘えて、「約束を守って」と無理を口にする。
 そして、君をあの子と思って「忘れない」と誓い直す。 

 かなり泣いた後に、川のせせらぎが私の耳に届くようになった。
 縋りついた体も、撫でる手も私に向けられた臣下としての彼の思いだ。

 今度こそ、彼に相応しい王になる。
 あの子の代わりではなく、臣下として彼を側に置く。

 君の温かさと香りにを胸に、私はノエルの王になる為に顔を上げた。
 驚いたような顔をしていた君には、私はどんな風に映っていたのだろうか。

 その日が、私と臣下としての彼の始まり。

 戸惑う事もあった。触れてしまった事もあった。
 でも、友として臣下として、君を見る様に努力した。二年後のあの日まで。


 今は反対に、私の腕に細くて柔らかい君を抱く。

 恥ずかしがって逃げた君は、まだ胸元に隠れるように顔を埋めて耳を真っ赤にしている。

 狡いぐらい愛しいと思う。

 思わず強く抱きしめて、優しくしてあげるべきなのか、我儘に愛を注いでもっと困らせていいのか迷う。

 埋めた顔を少し上げて、紫の瞳が上目遣いに私を見つめる。目があえば逃げるように顔を伏せる。

 逃げ先が私の胸の中なんて、目眩がするほど可愛い選択だ。

 ずっと望み続けていた君を、今度は私が強く抱きしめて誓う。

「二度と君を離さないよ」

 告げた言葉に君が漸く顔を上げる。頬の代わりに、今度は唇を食べてしまおうと決めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

悪役令嬢の大きな勘違い

神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。 もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし 封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。 お気に入り、感想お願いします!

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

処理中です...