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四章
54話 君を思う 2 / アレックス
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〈 小さな設定 〉
レオナールは剣を使いません。
荒事は全てクレイが片付けます。
クレイも剣を使いません。鉄拳制裁です。
〈 小話 〉
――抱きしめた夜に (アレックス回想 2)
銀の髪に鼻を埋める様にすれば、胸元に顔を埋めた君が首を振って、拗ねるようにジャケットを握りしめる。
「顔を上げて」
「殿下が頬を噛むからダメです」
真っ赤になる君は可愛くて、きっと顔を上げたらまた食べてしまうだろう。
私の胸の中の君を抱きしめる。
君に私が抱きしめられたのは昔。小さな背に腕を回して縋りつくように泣いたあの日。
―― 十一歳。小川の畔で私は君を、あの子の代わりじゃなく、臣下にすると決めた。
「ありました!」
よりによって彼の声が繋がりが切れたことを宣告する。あの子と同じ顔で笑って彼が小さな石のケースを渡す。
手紙が一枚入っていた。親に隠れて返そうとした拙い形跡と小さな手紙。最悪の結果はすぐに理解した。
カミュに秘宝を笑顔で返す。いつにないカミュの笑顔に気付いても、何かを言ってやることはできなかった。声を出せば、それは嗚咽に変わる確信があった。
未来の王として、皆の前で泣くなんて許されない。だから、無言で立ち去る。
人払いをして、小川の畔で必死で堪えようとしている私の側に彼がやってきた。
隣に座り込んだのが気配で分かった。帰れと言っても帰らない。
「ごめんなさい」
顔を伏せた私に、記憶の中の声とよく似た声がそう言った。
ノエルがいい子だと知っている。あの子と重ねるのも違うと、もう分かっている。
だけど似すぎてて、側にいて欲しいと思うのに、側にいないで欲しいと思う事もあった。
顔を上げると、彼の紫の瞳は悲し気であの子が重なってしまう。
気持ちより先に涙の方が溢れてた。堪えきれなくなった思いが堰を切ると、どうにもならなくなった。
「忘れないって書いても、私はいつか忘れてしまうかもしれない。毎日、毎日、こんなに大切に会いたいと思っているのに! どうして、時間が経つと曖昧で、小さな思い出は少しずつ失っていくんだ」
手紙のずっと忘れないという言葉は酷く残酷で、会えないのに狡い言葉だ。
迎えに行くのを楽しみにしていた気持ちは、会えない焦りにいつしか変わってた。過ぎていく毎日の中であの子との思い出が、成長と引き換えに少しずつ失われていく事に気付いたからだ。
忘れない事が最後の繋がりなのに、君が書いてくれた「ずっと忘れません」を私は守れないかもしれない。
私に忠誠を捧げた少年の顔が苦しげに歪んであの子と重なる。泣くと思たら手が伸びて、あの子だと思って頬に触れていた。
紫の瞳、柔らかい白い頬、赤い唇。
あの子もきっと同じ様に綺麗な目をして、触れたい肌をして、愛らしい唇をしてるんだろうか。
その頬を吸い寄せられるよに撫でれば、涙でぼやける視界の先がノエルなのか、あの子なのかが曖昧になる。
ノエルがあの子なら良かった。ノエルではなくて、あの子が現れてくれたなら良かった。
触れながら、そんな酷い事を思った。酷いと分かっても、滅茶苦茶になった心はどうにもならなくて、涙も言葉も止まらなかった。
「あの子のことを忘れたくない。だから、ごめんというなら、側にいてよ」
大好きなあの子の代わりを、臣下として忠誠を捧げた彼に求める。
誰に対して狡いより、ノエルに対しての手酷い裏切。だから、それは絶対にしてはならないことだった。
口に出した私は彼の王として失格だ。
なのに、君は私を抱きしめた。
「忠誠をお誓いしました。ノエルは側にいます」
ノエルは側にいます……酷い事を求めた私に彼が再び告げた忠誠。
この忠誠に応えなければ私に王になる資格はない。
でも、今だけ……今だけはあの子だと思うことを許してほしい。代りにするのはこれが最後だ。
誓った瞬間、抑えきれない傷みが嗚咽になって自分より少し小さな体に縋って泣いた。
君をあの子だと思って、「狡い」と怒って失う悲しさを埋める。
背中を撫でる優しい手に甘えて、「約束を守って」と無理を口にする。
そして、君をあの子と思って「忘れない」と誓い直す。
かなり泣いた後に、川のせせらぎが私の耳に届くようになった。
縋りついた体も、撫でる手も私に向けられた臣下としての彼の思いだ。
今度こそ、彼に相応しい王になる。
あの子の代わりではなく、臣下として彼を側に置く。
君の温かさと香りにを胸に、私はノエルの王になる為に顔を上げた。
驚いたような顔をしていた君には、私はどんな風に映っていたのだろうか。
その日が、私と臣下としての彼の始まり。
戸惑う事もあった。触れてしまった事もあった。
でも、友として臣下として、君を見る様に努力した。二年後のあの日まで。
今は反対に、私の腕に細くて柔らかい君を抱く。
恥ずかしがって逃げた君は、まだ胸元に隠れるように顔を埋めて耳を真っ赤にしている。
狡いぐらい愛しいと思う。
思わず強く抱きしめて、優しくしてあげるべきなのか、我儘に愛を注いでもっと困らせていいのか迷う。
埋めた顔を少し上げて、紫の瞳が上目遣いに私を見つめる。目があえば逃げるように顔を伏せる。
逃げ先が私の胸の中なんて、目眩がするほど可愛い選択だ。
ずっと望み続けていた君を、今度は私が強く抱きしめて誓う。
「二度と君を離さないよ」
告げた言葉に君が漸く顔を上げる。頬の代わりに、今度は唇を食べてしまおうと決めた。
レオナールは剣を使いません。
荒事は全てクレイが片付けます。
クレイも剣を使いません。鉄拳制裁です。
〈 小話 〉
――抱きしめた夜に (アレックス回想 2)
銀の髪に鼻を埋める様にすれば、胸元に顔を埋めた君が首を振って、拗ねるようにジャケットを握りしめる。
「顔を上げて」
「殿下が頬を噛むからダメです」
真っ赤になる君は可愛くて、きっと顔を上げたらまた食べてしまうだろう。
私の胸の中の君を抱きしめる。
君に私が抱きしめられたのは昔。小さな背に腕を回して縋りつくように泣いたあの日。
―― 十一歳。小川の畔で私は君を、あの子の代わりじゃなく、臣下にすると決めた。
「ありました!」
よりによって彼の声が繋がりが切れたことを宣告する。あの子と同じ顔で笑って彼が小さな石のケースを渡す。
手紙が一枚入っていた。親に隠れて返そうとした拙い形跡と小さな手紙。最悪の結果はすぐに理解した。
カミュに秘宝を笑顔で返す。いつにないカミュの笑顔に気付いても、何かを言ってやることはできなかった。声を出せば、それは嗚咽に変わる確信があった。
未来の王として、皆の前で泣くなんて許されない。だから、無言で立ち去る。
人払いをして、小川の畔で必死で堪えようとしている私の側に彼がやってきた。
隣に座り込んだのが気配で分かった。帰れと言っても帰らない。
「ごめんなさい」
顔を伏せた私に、記憶の中の声とよく似た声がそう言った。
ノエルがいい子だと知っている。あの子と重ねるのも違うと、もう分かっている。
だけど似すぎてて、側にいて欲しいと思うのに、側にいないで欲しいと思う事もあった。
顔を上げると、彼の紫の瞳は悲し気であの子が重なってしまう。
気持ちより先に涙の方が溢れてた。堪えきれなくなった思いが堰を切ると、どうにもならなくなった。
「忘れないって書いても、私はいつか忘れてしまうかもしれない。毎日、毎日、こんなに大切に会いたいと思っているのに! どうして、時間が経つと曖昧で、小さな思い出は少しずつ失っていくんだ」
手紙のずっと忘れないという言葉は酷く残酷で、会えないのに狡い言葉だ。
迎えに行くのを楽しみにしていた気持ちは、会えない焦りにいつしか変わってた。過ぎていく毎日の中であの子との思い出が、成長と引き換えに少しずつ失われていく事に気付いたからだ。
忘れない事が最後の繋がりなのに、君が書いてくれた「ずっと忘れません」を私は守れないかもしれない。
私に忠誠を捧げた少年の顔が苦しげに歪んであの子と重なる。泣くと思たら手が伸びて、あの子だと思って頬に触れていた。
紫の瞳、柔らかい白い頬、赤い唇。
あの子もきっと同じ様に綺麗な目をして、触れたい肌をして、愛らしい唇をしてるんだろうか。
その頬を吸い寄せられるよに撫でれば、涙でぼやける視界の先がノエルなのか、あの子なのかが曖昧になる。
ノエルがあの子なら良かった。ノエルではなくて、あの子が現れてくれたなら良かった。
触れながら、そんな酷い事を思った。酷いと分かっても、滅茶苦茶になった心はどうにもならなくて、涙も言葉も止まらなかった。
「あの子のことを忘れたくない。だから、ごめんというなら、側にいてよ」
大好きなあの子の代わりを、臣下として忠誠を捧げた彼に求める。
誰に対して狡いより、ノエルに対しての手酷い裏切。だから、それは絶対にしてはならないことだった。
口に出した私は彼の王として失格だ。
なのに、君は私を抱きしめた。
「忠誠をお誓いしました。ノエルは側にいます」
ノエルは側にいます……酷い事を求めた私に彼が再び告げた忠誠。
この忠誠に応えなければ私に王になる資格はない。
でも、今だけ……今だけはあの子だと思うことを許してほしい。代りにするのはこれが最後だ。
誓った瞬間、抑えきれない傷みが嗚咽になって自分より少し小さな体に縋って泣いた。
君をあの子だと思って、「狡い」と怒って失う悲しさを埋める。
背中を撫でる優しい手に甘えて、「約束を守って」と無理を口にする。
そして、君をあの子と思って「忘れない」と誓い直す。
かなり泣いた後に、川のせせらぎが私の耳に届くようになった。
縋りついた体も、撫でる手も私に向けられた臣下としての彼の思いだ。
今度こそ、彼に相応しい王になる。
あの子の代わりではなく、臣下として彼を側に置く。
君の温かさと香りにを胸に、私はノエルの王になる為に顔を上げた。
驚いたような顔をしていた君には、私はどんな風に映っていたのだろうか。
その日が、私と臣下としての彼の始まり。
戸惑う事もあった。触れてしまった事もあった。
でも、友として臣下として、君を見る様に努力した。二年後のあの日まで。
今は反対に、私の腕に細くて柔らかい君を抱く。
恥ずかしがって逃げた君は、まだ胸元に隠れるように顔を埋めて耳を真っ赤にしている。
狡いぐらい愛しいと思う。
思わず強く抱きしめて、優しくしてあげるべきなのか、我儘に愛を注いでもっと困らせていいのか迷う。
埋めた顔を少し上げて、紫の瞳が上目遣いに私を見つめる。目があえば逃げるように顔を伏せる。
逃げ先が私の胸の中なんて、目眩がするほど可愛い選択だ。
ずっと望み続けていた君を、今度は私が強く抱きしめて誓う。
「二度と君を離さないよ」
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