動物帝国

板倉恭司

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スペース・コブニャ

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 広い宇宙の彼方には、猫人たちの星がある。そんな宇宙の海を駆け巡るは、スペース・ローンキャットの海賊コブニャ。左腕にニャイコガンを持ち、ニャステロイドのアウトローも尻尾が垂れ下がる最強の猫海賊である。頼りになる相棒のニャーマロイド・レディと共に、キャットル号で今日も飛ぶ──



「コブニャ、今回の獲物はニャマゾン星だニャ」

 キャットル号のスクリーンを見ながら、レディが言った。彼女はニャーマロイドだが、生身の部分はかなり残っている。そんなレディの後ろ姿はとても綺麗だ。特に、目の前で揺れ動く尻尾はたまらなくセクシーである。コブニャは我慢できず、後ろから近づき尻尾を撫で撫でした。
 その途端、レディが鬼のような形相で振り返る。

「フシャー! 尻尾に触るのはセクハラだニャ!」

 直後、レディの強烈な猫パンチが飛ぶ。コブニャは吹っ飛ばされた。
 ぷんぷん怒りながら、出ていくレディ。コブニャは仕方なく、毛づくろいをしてごまかした。

「レディは、本当に気が強いニャ。でも、そこがたまらないニャ」

 言いながら、マタタビシガーをくわえ火をつける。

「ふう、キューニャ産シガーの味は別格だニャ。さて、お宝をいただきに行くかニャ」



 ニャマゾン星に降り立ち、ジャングルを進んで行くコブニャ。虫よけのためマタタビシガーをくわえているが、それでも体に取り付く奴はいる。

「帰ったら、ノミ取りシャンプーしなきゃいけないニャ」

 ぶつぶつ言いながら、コブニャはジャングルを進んで行く。ちなみに、レディはキャットル号で留守番である。

「お宝を手に入れたら、レディと一緒にシャワーを……って、あれは何だニャ!?」

 コブニャの前には、体をぱっくり切り開かれた生物が吊されている……体毛の全くない、猿のような形だ。コブニャは、恐る恐る近づいてみた。
 どうやら、殺された後に解剖されたようだ。明らかに、野生動物の仕業ではない。となると原住民だろうか。しかし、わざわざこんなことをするとは思えない。
 その時、背後でガサリと音がした。コブニャは、左手のニャイコガンのカバーを外す。
 ジャングルから現れたのは、巨大なニャマゾン・ゴリラだった。ニャマゾン星にしかいない生物で、体は三メートルな上に腕が四本付いている。コブニャはニャイコガンの銃口を向けたまま、静かに話す。

「お前じゃ、俺には勝てないニャ。さっさと帰って、バナナでも食ってろニャ」

 だが、ゴリラに引く気配はない。狂ったように吠えながら、襲いかかってきた。
 コブニャは、顔をしかめる。直後、ニャイコガンが火を吹いた──
 一瞬遅れて、ゴリラはばったり倒れる。その胸には、巨大な穴が空いていた。ニャイコガンは、コブニャの精神力を破壊のエネルギーに変えて撃ち出すものだ。その気になれば、宇宙空母の外壁にも穴を空けられる。

「可哀相なことしたニャ」

 コブニャは、ふと疑問を感じた。たいていの野生動物は、コブニャの姿を見たら逃げる。野生の勘により、コブニャの強さを一瞬で見抜けるからだ。しかし、今のゴリラは逃げなかった。
 何かに怯えるかのように。そう、コブニャよりも恐ろしい何かに……。

「不思議だニャ」

 呟きながら、コブニャは先を急ぐ。早く、ニャマゾンの秘宝ゴールドモンプチを持ち帰らなくては。
 そんなコブニャを、木の上からじっと見つめている者がいた。



「これが、遺跡かニャ……」

 コブニャの目の前には、巨大な神殿がある。巨大なゴリラの石像が数十体、入口前にずらりと二列になって立っていた。まるで、遺跡を守るかのように。
 だが、コブニャは怯まず進んで行く。神殿の中に入り、辺りを見回した。中はとても広い。コブニャの故郷にあるニャンキョウドームひとつぶんくらいか。
 さらに、中にもゴリラの像がある。数百体の像が、規則正しく並んでいる。
 奥に進もうとしたコブニャだったが、妙な気配に気づいた。自分以外の者が、ここに潜んでいる。

「誰ニャ!」

 振り返った瞬間、とっさに体が動いていた。横に飛び、石像の陰に隠れる。
 続いて、赤い光が放たれる……いや、これはレーザーだ。コブニャのいた場所に炸裂し、地面をえぐる。

「ヒュー! おっそろしい威力だニャ!」

 言いながら、コブニャはニャイコガンを抜く。だが、相手の姿が見えないのだ……。
 そんなはずはない、とコブニャは周囲を見回した。気配は感じるが、姿は見えない。
 どういうことだ……コブニャは慎重に歩く。その時、またしてもレーザーが襲う──
 コブニャはかろうじて躱した。必死で走り、石像の陰に隠れる。その石像を、数発のレーザーが掠めた。
 
「どういうことニャ……」

 コブニャは呟いた。神殿の中は、決して明るくはない。にもかかわらず、奴は正確に狙ってくるのだ。コブニャは地面に伏せながら、じりじりと動く。
 雨が流れこんだのだろうか、神殿の地面の土は泥状態だ。ひんやりしていて、気持ちが悪い。コブニャは泥だらけになりながら、ほふく前進で進む。
 妙だ。さっきから、全く撃って来ない。どういうことだろうか?
 その時、ひとつの考えが浮かんだ。


 突然、レーザーが走り石像を掠った。直後、同じ石像めがけ続けざまに発射される。石像は完全に破壊され、残るは火のついたマタタビシガーだけ。

「そこだニャ!」

 叫ぶと同時に、コブニャが立ち上がる。その体には、大量の泥……そう、彼は泥の中で体温を感知されるのを防いでいたのだ。
 何もない空間に発射されるニャイコガンは、見えない何かに命中した。と同時に、カランという音が聞こえた。
 コブニャは、慎重に近づいていく。すると、地面にレーザーガンの残骸のような物が転がっている。
 それを拾い上げた瞬間、コブニャの腹に衝撃が走る。見えない相手からの打撃だ。さらに、顔面に強烈な一撃……コブニャは吹っ飛ばされ、地面に倒れる。
 倒れながらも、反射的にニャイコガンを撃ったコブニャ。しかし、手応えがない。
 コブニャは、もう一発ニャイコガンを撃った。だが、これまた外れたらしい。
 直後に、後ろから強烈な打撃を食らった。コブニャンは吹っ飛ばされ、地面に倒れる。凄まじい腕力だ……あと一撃食らったら、もう立ち上がれないだろう。しかも、動きも速い。その上、姿が見えないときている。これでは、ニャイコガンも当たらない。気配は感じられるのに……。

 待てよ。
 気配が感じられるなら?

 コブニャンは立ち上がった。目をつぶり、ニャイコガンの銃口を上に向ける。

 忘れてたニャ。
 俺のニャイコガンは、気配さえ感じられれば当てられるはず。
 今まで、目に頼りすぎてたニャ。

 そのまま、時が流れる。一、二、三──

「そこだニャ!」

 叫ぶと同時に、ニャイコガンを宙に向けて発射する。ニャイコガンより放たれし光は、天井に向かうかと思いきや、途中で軌道が曲がる。急角度の波を描き、地面を打った──
 直後、何かがバタリと倒れる。
 コブニャは、ゆっくりと目を開ける。そこには、奇妙な者が倒れていた。体はジャイニャント・ババより大きく、銀色の鎧のようなものを着ている。
 手を伸ばし、頭の部分に触れてみた。すると、カパッと外れる。出てきたのは、コブニャと同じ猫人の顔だった……ただし、上下四本の牙が異様に長い点を除けば。
 
「お前、何者だニャ?」

 コブニャが尋ねると──

「オマエ、ナニモノダニャ……」

 その時、コブニャの耳は微かな金属音を捉えた。ピッピッピ……という規則正しいテンポの音である。
 直後、猫人は笑い出した。聞いたこともないような、不気味な笑い声……コブニャは全てを理解し、慌てて走り出す。
 しかし、遅かった。コブニャが走り出すと同時に、猫人の体は大爆発を起こした──



「コブニャ! しっかりするニャ!」

 ガレキの山と化した神殿から、ようやくコブニャを助け出したレディ。コブニャをベッドに寝かせ、耳元で叫ぶ……すると、コブニャは目を開ける。

「レディ、すまなかったニャ。ゴールドモンプチ、取ってこれなかったニャ」

「そんなのいらないニャ。コブニャさえ生きていてくれれば……」









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