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アンドウ先生(1)
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「うるさいんだよ、このブス!」
「あんたの方がうるさいんだよ、このチビ!」
校庭から、二人の罵声が聞こえてきた。私は、ちらりと外の様子を見る。
一年生のキョウジが、二年生のレイラと喧嘩をしている。とは言っても、いつもの口喧嘩だから心配はないとは思うが。あの二人は、しょっちゅう喧嘩をするのだ。もう少し、仲良くできないのだろうか。
もっとも、この学校には生徒が二人しかいない。恐らく、お互いのことは気になっているのだろう。だが、子供ゆえに上手くコミュニケーションが取れず……そのため、喧嘩になってしまうのではないだろうか。
喧嘩するほど仲がいい、という言葉を、昔に教わった気がする。二人も、そうであることを願おう……そんなことを思いながら、私は窓を開けた。
「そろそろ教室に戻りなさい。授業が始まりますよ」
私が二人の授業を受け持つようになったのは、つい先日のことだった。
私の持つ知識を、子供に教える……初めのうちは、ごく簡単なことだと思っていた。
ところが、これが意外に難しい。自分にとって当たり前のことが、子供たちにとっては当たり前ではないのだ。
これは私にとって、全く未知の分野である。私は半ば手探り状態で、二人に様々なことを教えていった。算数や理科といった教科はもちろんのこと、体育や図工や家庭科なども教えていった。
幸いなことに、キョウジもレイラも素直で飲み込みの早い生徒であった。教えたことを、何の障害もなくすらすらと覚えていく。時にはつまづくこともあるが、すぐに乗り越えて先に進むことが出来た。
小学校の一年生であるはずのキョウジと、二年生のレイラ。だが二人は、同じ内容の授業を受けている。本来は、二人とも違う内容の授業を受けなくてはならないのかもしれない。しかし、私は二人を同級生として扱っている。生徒が二人しかいないのに、違うことを学ばせても仕方ない。
「ねえ、アンドウ先生」
休み時間、不意にキョウジが話しかけてきた。私は顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「あ、あのさ……どうしたら、レイラより大きくなれるの?」
心なしか、キョウジの頬は赤くなっている気がする。なぜ、そんなことを聞くのだろうか?
「なぜ、そんなことを聞くのですか?」
質問に質問で返す……これは会話のやり方としては、いい方法とは言えない。だが、私は反射的に聞いてしまった。
すると、キョウジの顔がさらに赤くなる。同時に、彼が狼狽えているのが分かった。
「だ、だってさ! あ、あいつ、俺のことチビって言うんだよ!」
キョウジはつっかえながらも、私に訴えてくる。私はふと、レイラの座っていた席を見てみた。彼女は今、トイレに行っている。
わざわざレイラのいなくなった時間を見計らい、私に質問してくるのか……キョウジの意図が、今ひとつ見えて来ない。
まあ、いい。今は彼の質問に答える方が先である。キョウジは男性なのだから、成長すれば女性であるレイラよりは大きくなる可能性は高い。
だが、それはあくまで可能性である。身長において、確実にレイラを追い越すという保証はないのだ。幼い子供に、保証のないことを断言してもいいのだろうか?
教師とは、本当に難しいものだ。そんなことを思いつつ、無難な答えを口にしてみた。
「背が高かろうと低かろうと、君は君です。君の価値や能力には、何ら影響しません」
私の答えに、キョウジは首を捻った。釈然としない様子だ。私の答えに満足していないらしい。
ここはやはり、彼の期待に添えるような答えを用意するべきだったのか。
私は、嘘にならない程度の希望的観測を答えてみることにした。
「キョウジくん、君は男性です。男性の成長期は、一般的に十三歳くらいから十八歳くらいと言われています。つまり、君の成長期はまだ訪れていません」
「セイチョウキ?」
またしても、キョウジは首を捻る。どうやら、もっと分かりやすく言わなくてはならないようだ。
「成長期とは、要するに背が伸びる時期のことです。成長期が来れば、男性は身長が二十センチから三十センチ伸びると言われています。その時期が来れば、身長でレイラさんを追い越すことも可能と思われます」
「ほ、本当に!?」
キョウジは、期待を込めた表情で聞いてきた。本当だ、という答えを期待しているのは間違いない。
ここで、断言は出来ませんが……などと言ってしまっては駄目だ。そろそろレイラも帰って来るし、休み時間も終わる。この話は、ここまでとしよう。
「ええ、本当ですよ」
「やったあ!」
キョウジは嬉しそうに、ぴょんぴょん飛び跳ねた。しかし、私には全く理解不能な話である。仮に身長がレイラより高くなったからと言って、何が得するのだろうか。
などと考えていると、レイラが帰って来た。嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねているキョウジを見て、怪訝な表情で首を傾げる。
「あんた何やってんの?」
「べ、別に何でもいいだろ!」
言い返すキョウジ。すると、レイラはくすりと笑った。
「まあ、あんたはガキだからね。どうせ虫を捕まえたとか、そんなことなんでしょ」
「違うよ!」
真っ赤な顔で、キョウジは否定した。それにしても、レイラという子は何かにつけキョウジを子供扱いする。年齢は、ほんの一年しか違わないというのに。これまた、私には理解不能な話だ。
もっとも、いま優先すべきことは他にある。このままだと、また言い合いになってしまう。
「さあ、休み時間は終わりです。授業が始まりますから、二人とも席に着いてください」
やがて授業が終わった。私は二人を連れ、教室を出た。既に陽は沈んでおり、もうじき夜になる。
「先生、今日のご飯は何なの?」
キョウジが聞いてきた。
「さあ、何にしましょうかね」
「俺、肉が食べたい!」
「肉ですか……それは難しいですね。その前に、ニンジンを食べられるようになりましょうね」
「ええっ! やだよ!」
明らかに不満そうな声である。もっとも、今は肉よりも野菜の方が手に入りやすいのだが。
「とにかく、今はまずニンジンを食べられるようになりましょう。いっぱい食べれば、背も大きくなりますよ」
「ニンジンが食べられないなんて、本当にガキだね」
レイラが口を挟んできた。とたんに、キョウジの顔が真っ赤になる。
「う、うるせーよブス!」
「ふん、ニンジン食べられないくせに」
その日の夜、私は奇妙な気配を感じた。
キョウジとレイラは、私のすぐそばのベッドで熟睡している。彼らを起こさないよう、そっと起き上がった。
上に、何かが来ている。これは生物だ……それも、かなり巨大な。いったい、何が来ているのだろう。
私は、そっと寝室を出ていった。ボタンを押し、扉を閉める。これで、二人は安全だ。
足音を立てないよう静かに歩き、一階へと上がる。まだ、何かが蠢いている気配はしている。人間より、遥かに大きな生物だ。まさか、こんなものが校庭に侵入して来るとは……全く予想していなかった。
私は姿勢を低くして進んだ。校舎の中から、そっと校庭を見てみる。
灰色の巨大な毛の塊が、のそのそと歩いていた。四つ足で動いており、小山のような大きさである。私は自身の記憶を探り、見えている生物に当てはまるものを探した。
そこにいたのは灰色熊だった。身長は二メートルを遥かに超えており、体重も二百キロを超えているだろう。熊の中でも、かなり大型の部類であるのは間違いない。普通の人間なら、一撃で殺せる殺傷力の持ち主である。知識として知ってはいるが、本物を見るのは初めてだ。
熊は地面の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと近づいて来た。人間の匂いを嗅ぐのは初めてなのだ。警戒してはいるが、同時に好奇心を刺激されてもいるらしい。
この場合、私はどうすべきなのだろう。このまま何もせず、諦めて立ち去ってくれるならば、こちらも何もしない。だが、校舎の中まで入って来るようなら……その時は撃退する。
いや、待てよ。
あの熊は、ここに人間という未知の生物がいることを知ってしまった。とても小さく弱い人間という生物を。
となると、いつかキョウジとレイラに害をなす存在になるかもしれない。あの二人を獲物として認識してしまったら……餌がなくなった時、またここに来る可能性がある。
ならば、今のうちに殺しておいた方がよいのではないだろうか。森の中に逃げられたら厄介だ。
幸か不幸か、熊には出て行く気配がない。なおも周辺の匂いを嗅ぎながら、校舎の周辺をうろうろしている。二人の子供の匂いを、獲物として認識してしまったのだろう。
ならば、もはや選択の余地はない。今のうちに殺さなくては、次にキョウジとレイラが狙われるのだ。私はすぐさま立ち上がり、ドアを開けて出て行った。
熊は私を見るや、唸り声を上げ前足を振って威嚇する。明らかに警戒している雰囲気だ。
だが、私はそのまま進んで行った。
すると熊は、吠えると同時に後ろ足で立ち上がる。熊から見れば、私など一撃で殺せるひ弱な存在なのであろう。
だが、熊は分かっていなかった。私と熊とでは、戦闘力に差がありすぎた。初めから、勝負にすらならないのだ。
立ち上がった熊に向かい、私は一瞬で接近した。と同時に、熊の胸に手のひらを押し当てる。熊は、その強靭な前足を振り上げた。一撃で、私の首をへし折るつもりなのだろう。
だが、前足を振り下ろすことは出来なかった。直後、私は手のひらから電流を放出する――
数百万ボルトの電流を浴び、熊は一瞬で絶命した。電気ショックにより、心臓が停止したのだ。
私は熊の死骸を担ぎ上げ、校舎の外にある倉庫の中へと運び入れる。
そこで、熊の巨大な体を解体した。毛皮を剥ぎ、肉を切り取った。骨は粉々に砕き、土の中に埋める。
これで明日は、キョウジに肉を食べさせることが出来る。もっとも、味の方は保証できない。牛肉や鳥肉の調理方法は知っているが、熊肉の調理方法は教わっていない。熊の肉とは、美味しいのだろうか。
私に味見が出来ればよいのだが、それは無理なのである。何せ、私には味覚がないのだから。
「あんたの方がうるさいんだよ、このチビ!」
校庭から、二人の罵声が聞こえてきた。私は、ちらりと外の様子を見る。
一年生のキョウジが、二年生のレイラと喧嘩をしている。とは言っても、いつもの口喧嘩だから心配はないとは思うが。あの二人は、しょっちゅう喧嘩をするのだ。もう少し、仲良くできないのだろうか。
もっとも、この学校には生徒が二人しかいない。恐らく、お互いのことは気になっているのだろう。だが、子供ゆえに上手くコミュニケーションが取れず……そのため、喧嘩になってしまうのではないだろうか。
喧嘩するほど仲がいい、という言葉を、昔に教わった気がする。二人も、そうであることを願おう……そんなことを思いながら、私は窓を開けた。
「そろそろ教室に戻りなさい。授業が始まりますよ」
私が二人の授業を受け持つようになったのは、つい先日のことだった。
私の持つ知識を、子供に教える……初めのうちは、ごく簡単なことだと思っていた。
ところが、これが意外に難しい。自分にとって当たり前のことが、子供たちにとっては当たり前ではないのだ。
これは私にとって、全く未知の分野である。私は半ば手探り状態で、二人に様々なことを教えていった。算数や理科といった教科はもちろんのこと、体育や図工や家庭科なども教えていった。
幸いなことに、キョウジもレイラも素直で飲み込みの早い生徒であった。教えたことを、何の障害もなくすらすらと覚えていく。時にはつまづくこともあるが、すぐに乗り越えて先に進むことが出来た。
小学校の一年生であるはずのキョウジと、二年生のレイラ。だが二人は、同じ内容の授業を受けている。本来は、二人とも違う内容の授業を受けなくてはならないのかもしれない。しかし、私は二人を同級生として扱っている。生徒が二人しかいないのに、違うことを学ばせても仕方ない。
「ねえ、アンドウ先生」
休み時間、不意にキョウジが話しかけてきた。私は顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「あ、あのさ……どうしたら、レイラより大きくなれるの?」
心なしか、キョウジの頬は赤くなっている気がする。なぜ、そんなことを聞くのだろうか?
「なぜ、そんなことを聞くのですか?」
質問に質問で返す……これは会話のやり方としては、いい方法とは言えない。だが、私は反射的に聞いてしまった。
すると、キョウジの顔がさらに赤くなる。同時に、彼が狼狽えているのが分かった。
「だ、だってさ! あ、あいつ、俺のことチビって言うんだよ!」
キョウジはつっかえながらも、私に訴えてくる。私はふと、レイラの座っていた席を見てみた。彼女は今、トイレに行っている。
わざわざレイラのいなくなった時間を見計らい、私に質問してくるのか……キョウジの意図が、今ひとつ見えて来ない。
まあ、いい。今は彼の質問に答える方が先である。キョウジは男性なのだから、成長すれば女性であるレイラよりは大きくなる可能性は高い。
だが、それはあくまで可能性である。身長において、確実にレイラを追い越すという保証はないのだ。幼い子供に、保証のないことを断言してもいいのだろうか?
教師とは、本当に難しいものだ。そんなことを思いつつ、無難な答えを口にしてみた。
「背が高かろうと低かろうと、君は君です。君の価値や能力には、何ら影響しません」
私の答えに、キョウジは首を捻った。釈然としない様子だ。私の答えに満足していないらしい。
ここはやはり、彼の期待に添えるような答えを用意するべきだったのか。
私は、嘘にならない程度の希望的観測を答えてみることにした。
「キョウジくん、君は男性です。男性の成長期は、一般的に十三歳くらいから十八歳くらいと言われています。つまり、君の成長期はまだ訪れていません」
「セイチョウキ?」
またしても、キョウジは首を捻る。どうやら、もっと分かりやすく言わなくてはならないようだ。
「成長期とは、要するに背が伸びる時期のことです。成長期が来れば、男性は身長が二十センチから三十センチ伸びると言われています。その時期が来れば、身長でレイラさんを追い越すことも可能と思われます」
「ほ、本当に!?」
キョウジは、期待を込めた表情で聞いてきた。本当だ、という答えを期待しているのは間違いない。
ここで、断言は出来ませんが……などと言ってしまっては駄目だ。そろそろレイラも帰って来るし、休み時間も終わる。この話は、ここまでとしよう。
「ええ、本当ですよ」
「やったあ!」
キョウジは嬉しそうに、ぴょんぴょん飛び跳ねた。しかし、私には全く理解不能な話である。仮に身長がレイラより高くなったからと言って、何が得するのだろうか。
などと考えていると、レイラが帰って来た。嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねているキョウジを見て、怪訝な表情で首を傾げる。
「あんた何やってんの?」
「べ、別に何でもいいだろ!」
言い返すキョウジ。すると、レイラはくすりと笑った。
「まあ、あんたはガキだからね。どうせ虫を捕まえたとか、そんなことなんでしょ」
「違うよ!」
真っ赤な顔で、キョウジは否定した。それにしても、レイラという子は何かにつけキョウジを子供扱いする。年齢は、ほんの一年しか違わないというのに。これまた、私には理解不能な話だ。
もっとも、いま優先すべきことは他にある。このままだと、また言い合いになってしまう。
「さあ、休み時間は終わりです。授業が始まりますから、二人とも席に着いてください」
やがて授業が終わった。私は二人を連れ、教室を出た。既に陽は沈んでおり、もうじき夜になる。
「先生、今日のご飯は何なの?」
キョウジが聞いてきた。
「さあ、何にしましょうかね」
「俺、肉が食べたい!」
「肉ですか……それは難しいですね。その前に、ニンジンを食べられるようになりましょうね」
「ええっ! やだよ!」
明らかに不満そうな声である。もっとも、今は肉よりも野菜の方が手に入りやすいのだが。
「とにかく、今はまずニンジンを食べられるようになりましょう。いっぱい食べれば、背も大きくなりますよ」
「ニンジンが食べられないなんて、本当にガキだね」
レイラが口を挟んできた。とたんに、キョウジの顔が真っ赤になる。
「う、うるせーよブス!」
「ふん、ニンジン食べられないくせに」
その日の夜、私は奇妙な気配を感じた。
キョウジとレイラは、私のすぐそばのベッドで熟睡している。彼らを起こさないよう、そっと起き上がった。
上に、何かが来ている。これは生物だ……それも、かなり巨大な。いったい、何が来ているのだろう。
私は、そっと寝室を出ていった。ボタンを押し、扉を閉める。これで、二人は安全だ。
足音を立てないよう静かに歩き、一階へと上がる。まだ、何かが蠢いている気配はしている。人間より、遥かに大きな生物だ。まさか、こんなものが校庭に侵入して来るとは……全く予想していなかった。
私は姿勢を低くして進んだ。校舎の中から、そっと校庭を見てみる。
灰色の巨大な毛の塊が、のそのそと歩いていた。四つ足で動いており、小山のような大きさである。私は自身の記憶を探り、見えている生物に当てはまるものを探した。
そこにいたのは灰色熊だった。身長は二メートルを遥かに超えており、体重も二百キロを超えているだろう。熊の中でも、かなり大型の部類であるのは間違いない。普通の人間なら、一撃で殺せる殺傷力の持ち主である。知識として知ってはいるが、本物を見るのは初めてだ。
熊は地面の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと近づいて来た。人間の匂いを嗅ぐのは初めてなのだ。警戒してはいるが、同時に好奇心を刺激されてもいるらしい。
この場合、私はどうすべきなのだろう。このまま何もせず、諦めて立ち去ってくれるならば、こちらも何もしない。だが、校舎の中まで入って来るようなら……その時は撃退する。
いや、待てよ。
あの熊は、ここに人間という未知の生物がいることを知ってしまった。とても小さく弱い人間という生物を。
となると、いつかキョウジとレイラに害をなす存在になるかもしれない。あの二人を獲物として認識してしまったら……餌がなくなった時、またここに来る可能性がある。
ならば、今のうちに殺しておいた方がよいのではないだろうか。森の中に逃げられたら厄介だ。
幸か不幸か、熊には出て行く気配がない。なおも周辺の匂いを嗅ぎながら、校舎の周辺をうろうろしている。二人の子供の匂いを、獲物として認識してしまったのだろう。
ならば、もはや選択の余地はない。今のうちに殺さなくては、次にキョウジとレイラが狙われるのだ。私はすぐさま立ち上がり、ドアを開けて出て行った。
熊は私を見るや、唸り声を上げ前足を振って威嚇する。明らかに警戒している雰囲気だ。
だが、私はそのまま進んで行った。
すると熊は、吠えると同時に後ろ足で立ち上がる。熊から見れば、私など一撃で殺せるひ弱な存在なのであろう。
だが、熊は分かっていなかった。私と熊とでは、戦闘力に差がありすぎた。初めから、勝負にすらならないのだ。
立ち上がった熊に向かい、私は一瞬で接近した。と同時に、熊の胸に手のひらを押し当てる。熊は、その強靭な前足を振り上げた。一撃で、私の首をへし折るつもりなのだろう。
だが、前足を振り下ろすことは出来なかった。直後、私は手のひらから電流を放出する――
数百万ボルトの電流を浴び、熊は一瞬で絶命した。電気ショックにより、心臓が停止したのだ。
私は熊の死骸を担ぎ上げ、校舎の外にある倉庫の中へと運び入れる。
そこで、熊の巨大な体を解体した。毛皮を剥ぎ、肉を切り取った。骨は粉々に砕き、土の中に埋める。
これで明日は、キョウジに肉を食べさせることが出来る。もっとも、味の方は保証できない。牛肉や鳥肉の調理方法は知っているが、熊肉の調理方法は教わっていない。熊の肉とは、美味しいのだろうか。
私に味見が出来ればよいのだが、それは無理なのである。何せ、私には味覚がないのだから。
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