20 / 36
奴らの戦い
しおりを挟む
桜庭《サクラバ》中学校の一年A組では、いつもと同じ日が始まろうとしていた。
担任教師の白田《シロタ》が、生徒の出席をチェックしている。
「えーっと、神名清人……は休みか」
その声を聞いた瞬間、神野剛志の目がキラリと光る。
清人が休んだ。となると、今日は……アレがある。
剛志は、ゆっくりと教室を見回した。今の自分の前に立ちはだかる者といえば、奴しかいない。
奴は、何事もないかのような表情で友人たちと話している。だが、甘く見てはいけない。今日、何があるかは気づいているはずだ。一見するとひ弱そうな体つきで、背も小さい。
しかし甘く見てはいけない。奴はこれまで、剛志を幾度となく敗北させてきているのだ。剛志は、一度も勝てたことがない。
もっとも、今日は違う。今度こそ、奴に勝つ。
勝つためには、徹底した準備が必要だ。そう、勝負は既に始まっているのである。
一時間目の授業が終わり、剛志はすぐさま屋上に行った。ここならば、人目につかない。準備にはもってこいである。
誰もいない屋上にて、剛志はストレッチを始めた。休み時間をフル活用し、入念に体を伸ばしていく。
ストレッチをしながらも、頭の中では勝負の展開を考えていた。状況をシミュレーションし、想定外の事態も考慮する。どう動くのが、一番ベストか……様々な角度から、自身の動きについて考え、作戦を練っていた。
二時間目の授業が終わると同時に、剛志は再び階段を駆け上がる。屋上に到着すると同時に、腕立て伏せを始めた──
三十回できつくなり、一度はダウンする。だが、これで終わりではない。少しの休憩を挟み、再び腕立て伏せを開始する。
今度は、二十回でダウンした。その後も休憩を挟みつつ、腕立て伏せを行う……これを、ぎりぎりまで続けた。トータルで、二百回を超えているだろう。
やがて休み時間が終わり、三時間目の授業が始まる。腕立て伏せの影響で、腕がぷるぷる震える。ペンを動かすのすらきつい。
だが、剛志は耐えた。まだ、準備は終わりではない。
三時間目の授業が終わると同時に、剛志は教室を飛び出していく。今回もまた、行き先は屋上だ。
屋上に到着すると、剛志はスクワットを始める。それも、ジャンプしながらのスクワットだ。これまた、三十回もやればヘトヘトになってしまう。
しかし、これで終わりではない。休憩を挟みつつ、またしてもジャンピングスクワットを行う。ワンセットだけで勝てるとは思っていない。脚の筋肉を追い込むのだ。追い込んで追い込んで、限界を突破する。
でないと、奴には勝てない──
休み時間が終わり、剛志は階段を降りようとした。途端に、足が震える。筋肉が、プルプルいっている感覚がある。これは、急ぐと階段から落ちるかもしれない。
仕方ないので、慎重に降りていった。よろよろしながら、どうにか教室に戻る。
やがて四時間目が終わり、給食の時間が来た。今日のメニューは、コッペパン、マーガリン、ソフト麺、ミートソース、中華サラダ、牛乳、プリンである。
その時、剛志は動いた。いつも所持しているレインコートを、パッと身につける。
さすがに、担任の白田が声をかけてきた。
「おい神野、なぜそんなものを着るんだ?」
「はい、ミートソースで制服が汚れないようにするためです」
すました表情で答えた。この白田という教師が、事なかれ主義であることは今までの付き合いでよくわかっている。面倒くさいことは、大事にならない限りほっとこう……という考えで動く男なのだ。
「そ、そうか。だったら、給食が終わったら脱ぐんだぞ」
予想通りの言葉だ。事態は今のところ、全て計算通りに動いている。完璧だ。
「はい」
「では、いただきます」
日直の号令と共に、全員が給食を食べ始める。剛志は、左手にコッペパンを掴む。右手には、スプーンが握られていた。
そのまま、一気に食べ始める──
ミートソースの盛られた皿には、ソフト麺が既にほうり込まれていた。ソフト麺をスプーンで掬い上げて口に入れていき、左手に掴んだパンでふさいでいく。秘技・同時食《どうじしょく》だ。今日のために編み出した秘技である。
たちまち、ミートソースが飛び散っていく。レインコートは、ミートソースの染みが大量に付いていた。
制服ならば、とても出来ない食べ方だ。しかしレインコートならば、汚れても午後の授業に影響はない。これまた、剛志の作戦である。
あっという間に、ソフト麺とコッペパンを食べ終えた。さらに、中華サラダの器を手に取る。その時、奴の姿が目に入った。
直後、剛志は椅子から転げ落ちそうになった。奴は、既にソフト麺とコッペパンと中華サラダを平らげていたのだ。
な、なんだと!
こっちはミートソース対策として、レインコートまで着たというのに……奴の実力は、そんな小細工が通用しないレベルだというのか。
まだだ……まだ終わらんよ!
そう、まだ終わりではない。剛志は、大急ぎでサラダを食べ終わる。ついで、牛乳を一気飲みした……その時間、わずか五秒。この少年は、自宅での牛乳早飲みの練習を欠かさない。その甲斐あって、五秒で瓶牛乳を飲み干せるようになっていたのだ。
最後に残るは、デザートのプリンである。本来なら、ゆっくり味わって食べたいところだ。しかし、今はそんなことをしている場合ではない。
そう、今だけは……プリンは飲み物である。剛志は、一瞬で飲みこんだ。
これで、全て食べ終えた。ちらりと奴を見る。ほぼ同時に、奴も食べ終えていた。
勝てる!
足の速さなら、剛志の方が上だ。間違いなく、先に余ったプリンを手にできる。
そう、このクラスには掟があるのだ。欠席ないし早退の生徒が出た場合、パンや牛乳やデザートといったクラスごとに個数が決まっているものは、余ることになる。その余った食品は、一番先に食べ終えた者が好きなものを選んでいただくことが出来る……それが、このクラスの掟なのだ。当然ながら、人気ある食品は取り合いになる。特に、今日のデザートのプリンは狙っている者も多い。
剛志は今まで、ずっとお代わりチャンピオンの地位にいた。誰よりも早く給食を食べ終え、パンだろうが牛乳だろうがデザートだろうが、食べたいものを真っ先にお代わりできていた。
ところが、今学期の初めに奴が転校してくる。以来、剛志はずっと負け続けてきた。自分よりも背が低く体格的に劣っているのに、自分よりも先に給食を平らげるのだ。
負けず嫌いの剛志は、悔しくて仕方なかった。しかし、何度も挑んだが、ことごとく敗北させられていたのだ。そこで彼は、どうすれば奴に勝てるのか徹底的に考えた。結果、ひとつの計画を立てたのである。
まず、休み時間に出来るだけ体を動かす。そうすることにより、カロリーを大量に消費する。さらに筋トレをすることにより、新陳代謝を促すのだ。当然、腹は減る。したがって、早く大量に食べることが出来る。
さらに、食べる際にはレインコートを着込む。それにより、汚れも気にせず思い切り食べられる。スピードは段違いだ。
もはや、自分の勝ちは動かない……剛志は、すぐさま立ち上がった。一瞬遅れて、奴も立ち上がる。だが、この一瞬の遅れは致命的だ。しかも、足は自分の方が早い。剛志は、ダッシュの体勢に入った。
ところが、ここで想定外の事態が襲う。ダッシュしようとした瞬間、足が動かないことに気づいた。
そ、そんなことが!
動かない理由はひとつ、ジャンピングスクワットのダメージがまだ残っているのだ。
剛志は、己の作戦にミスがあったことを悟った。
俺は、策に溺れてしまった──
まさにそうだった。足の筋トレのやり過ぎで、ダッシュが出来ない。ダッシュが出来なければ、奴より先にプリンを取るのは不可能だ。
そんな剛志の目の前を、奴が悠々と通っていく。勝ち誇った表情で、こちらを一瞥した。明らかに、剛志を意識しているのだ。
おもむろにプリンを持ち、トロフィーのように持っていく。その口元には、笑みが浮かんでいた。帰り際、またしても剛志を一瞥する。
剛志は、今回も奴に敗北したのだ。
学校が終わり、剛志は足を引きずりながら歩く。今日は、完全に失敗した。
だが、諦めない。次こそは、必ず奴に勝つ。
そして、勝った暁には……奴・曽根梓への秘めた想いを告白するのだ。
担任教師の白田《シロタ》が、生徒の出席をチェックしている。
「えーっと、神名清人……は休みか」
その声を聞いた瞬間、神野剛志の目がキラリと光る。
清人が休んだ。となると、今日は……アレがある。
剛志は、ゆっくりと教室を見回した。今の自分の前に立ちはだかる者といえば、奴しかいない。
奴は、何事もないかのような表情で友人たちと話している。だが、甘く見てはいけない。今日、何があるかは気づいているはずだ。一見するとひ弱そうな体つきで、背も小さい。
しかし甘く見てはいけない。奴はこれまで、剛志を幾度となく敗北させてきているのだ。剛志は、一度も勝てたことがない。
もっとも、今日は違う。今度こそ、奴に勝つ。
勝つためには、徹底した準備が必要だ。そう、勝負は既に始まっているのである。
一時間目の授業が終わり、剛志はすぐさま屋上に行った。ここならば、人目につかない。準備にはもってこいである。
誰もいない屋上にて、剛志はストレッチを始めた。休み時間をフル活用し、入念に体を伸ばしていく。
ストレッチをしながらも、頭の中では勝負の展開を考えていた。状況をシミュレーションし、想定外の事態も考慮する。どう動くのが、一番ベストか……様々な角度から、自身の動きについて考え、作戦を練っていた。
二時間目の授業が終わると同時に、剛志は再び階段を駆け上がる。屋上に到着すると同時に、腕立て伏せを始めた──
三十回できつくなり、一度はダウンする。だが、これで終わりではない。少しの休憩を挟み、再び腕立て伏せを開始する。
今度は、二十回でダウンした。その後も休憩を挟みつつ、腕立て伏せを行う……これを、ぎりぎりまで続けた。トータルで、二百回を超えているだろう。
やがて休み時間が終わり、三時間目の授業が始まる。腕立て伏せの影響で、腕がぷるぷる震える。ペンを動かすのすらきつい。
だが、剛志は耐えた。まだ、準備は終わりではない。
三時間目の授業が終わると同時に、剛志は教室を飛び出していく。今回もまた、行き先は屋上だ。
屋上に到着すると、剛志はスクワットを始める。それも、ジャンプしながらのスクワットだ。これまた、三十回もやればヘトヘトになってしまう。
しかし、これで終わりではない。休憩を挟みつつ、またしてもジャンピングスクワットを行う。ワンセットだけで勝てるとは思っていない。脚の筋肉を追い込むのだ。追い込んで追い込んで、限界を突破する。
でないと、奴には勝てない──
休み時間が終わり、剛志は階段を降りようとした。途端に、足が震える。筋肉が、プルプルいっている感覚がある。これは、急ぐと階段から落ちるかもしれない。
仕方ないので、慎重に降りていった。よろよろしながら、どうにか教室に戻る。
やがて四時間目が終わり、給食の時間が来た。今日のメニューは、コッペパン、マーガリン、ソフト麺、ミートソース、中華サラダ、牛乳、プリンである。
その時、剛志は動いた。いつも所持しているレインコートを、パッと身につける。
さすがに、担任の白田が声をかけてきた。
「おい神野、なぜそんなものを着るんだ?」
「はい、ミートソースで制服が汚れないようにするためです」
すました表情で答えた。この白田という教師が、事なかれ主義であることは今までの付き合いでよくわかっている。面倒くさいことは、大事にならない限りほっとこう……という考えで動く男なのだ。
「そ、そうか。だったら、給食が終わったら脱ぐんだぞ」
予想通りの言葉だ。事態は今のところ、全て計算通りに動いている。完璧だ。
「はい」
「では、いただきます」
日直の号令と共に、全員が給食を食べ始める。剛志は、左手にコッペパンを掴む。右手には、スプーンが握られていた。
そのまま、一気に食べ始める──
ミートソースの盛られた皿には、ソフト麺が既にほうり込まれていた。ソフト麺をスプーンで掬い上げて口に入れていき、左手に掴んだパンでふさいでいく。秘技・同時食《どうじしょく》だ。今日のために編み出した秘技である。
たちまち、ミートソースが飛び散っていく。レインコートは、ミートソースの染みが大量に付いていた。
制服ならば、とても出来ない食べ方だ。しかしレインコートならば、汚れても午後の授業に影響はない。これまた、剛志の作戦である。
あっという間に、ソフト麺とコッペパンを食べ終えた。さらに、中華サラダの器を手に取る。その時、奴の姿が目に入った。
直後、剛志は椅子から転げ落ちそうになった。奴は、既にソフト麺とコッペパンと中華サラダを平らげていたのだ。
な、なんだと!
こっちはミートソース対策として、レインコートまで着たというのに……奴の実力は、そんな小細工が通用しないレベルだというのか。
まだだ……まだ終わらんよ!
そう、まだ終わりではない。剛志は、大急ぎでサラダを食べ終わる。ついで、牛乳を一気飲みした……その時間、わずか五秒。この少年は、自宅での牛乳早飲みの練習を欠かさない。その甲斐あって、五秒で瓶牛乳を飲み干せるようになっていたのだ。
最後に残るは、デザートのプリンである。本来なら、ゆっくり味わって食べたいところだ。しかし、今はそんなことをしている場合ではない。
そう、今だけは……プリンは飲み物である。剛志は、一瞬で飲みこんだ。
これで、全て食べ終えた。ちらりと奴を見る。ほぼ同時に、奴も食べ終えていた。
勝てる!
足の速さなら、剛志の方が上だ。間違いなく、先に余ったプリンを手にできる。
そう、このクラスには掟があるのだ。欠席ないし早退の生徒が出た場合、パンや牛乳やデザートといったクラスごとに個数が決まっているものは、余ることになる。その余った食品は、一番先に食べ終えた者が好きなものを選んでいただくことが出来る……それが、このクラスの掟なのだ。当然ながら、人気ある食品は取り合いになる。特に、今日のデザートのプリンは狙っている者も多い。
剛志は今まで、ずっとお代わりチャンピオンの地位にいた。誰よりも早く給食を食べ終え、パンだろうが牛乳だろうがデザートだろうが、食べたいものを真っ先にお代わりできていた。
ところが、今学期の初めに奴が転校してくる。以来、剛志はずっと負け続けてきた。自分よりも背が低く体格的に劣っているのに、自分よりも先に給食を平らげるのだ。
負けず嫌いの剛志は、悔しくて仕方なかった。しかし、何度も挑んだが、ことごとく敗北させられていたのだ。そこで彼は、どうすれば奴に勝てるのか徹底的に考えた。結果、ひとつの計画を立てたのである。
まず、休み時間に出来るだけ体を動かす。そうすることにより、カロリーを大量に消費する。さらに筋トレをすることにより、新陳代謝を促すのだ。当然、腹は減る。したがって、早く大量に食べることが出来る。
さらに、食べる際にはレインコートを着込む。それにより、汚れも気にせず思い切り食べられる。スピードは段違いだ。
もはや、自分の勝ちは動かない……剛志は、すぐさま立ち上がった。一瞬遅れて、奴も立ち上がる。だが、この一瞬の遅れは致命的だ。しかも、足は自分の方が早い。剛志は、ダッシュの体勢に入った。
ところが、ここで想定外の事態が襲う。ダッシュしようとした瞬間、足が動かないことに気づいた。
そ、そんなことが!
動かない理由はひとつ、ジャンピングスクワットのダメージがまだ残っているのだ。
剛志は、己の作戦にミスがあったことを悟った。
俺は、策に溺れてしまった──
まさにそうだった。足の筋トレのやり過ぎで、ダッシュが出来ない。ダッシュが出来なければ、奴より先にプリンを取るのは不可能だ。
そんな剛志の目の前を、奴が悠々と通っていく。勝ち誇った表情で、こちらを一瞥した。明らかに、剛志を意識しているのだ。
おもむろにプリンを持ち、トロフィーのように持っていく。その口元には、笑みが浮かんでいた。帰り際、またしても剛志を一瞥する。
剛志は、今回も奴に敗北したのだ。
学校が終わり、剛志は足を引きずりながら歩く。今日は、完全に失敗した。
だが、諦めない。次こそは、必ず奴に勝つ。
そして、勝った暁には……奴・曽根梓への秘めた想いを告白するのだ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる