ぼくたちは異世界に行った

板倉恭司

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人形大乱闘

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 一行は森を進んで行く。
 途中、鹿や兎や狸などの野生動物とすれ違い、チャムが捕まえようとして馬車から飛び降りて走り出し……挙げ句にガイが連れ戻しに行き、その度に馬車の進行が止まった点を除けば、まずまず順調に進んでいた。
 今のところ、エルフたちも追いかけて来る気配はない。もっとも、ガイとカツミは全員の両手両足の関節を外したのだ。完治するまでには、三月から半年ほどはかかるだろうが。

「いやいや、ダークエルフたちが森に道を作っていてくれて助かりましたね。それにしても、レイという魔術師はどんな奴なんでしょうなあ。ねえチャム、君はどんな奴だと思う?」

 御者台に座るタカシが、チャムに尋ねた。彼は馬車を巧みに操っている。これも、タカシの才能だろう。

「な? なー、あほう使いの中には、人をコオロギに変えたりする奴もいると聞いたにゃ。見たことないけどにゃ」

 キョロキョロしながら答えるチャム。恐らく、追いかけるための獲物を探しているのであろう。その横で、険しい表情をしているガイ。さすがに堪忍袋の緒が切れそうな雰囲気だ。
 その時、タカシが声を発した。

「おやおや。皆さん、前方に妙な物が見えますよ。あれが魔術師の塔でしょうか……」

 相変わらず緊張感のない、のんびりとした口調である。一行が前方に目を凝らすと、確かに開けた場所がある。近づいていくにつれ、異様な光景が露になった。
 前方には、半径三十メートルほどの円の形の草原ができている。なぜか、この部分にだけは木が生えていない。それどころか、生えている草も背の低いものばかりだ。まるで、金持ちの庭の芝生のような感じである。
 さらに所々、地面がえぐれている場所もあった。まるで、空から隕石でも落ちてきたかのような跡が点々と付いているのだ。大小さまざまな形状のくぼみが、目に付くだけでも十ヵ所はある。
 そして、草原の中心にあるものは……奇怪な石の塔であった。ここから見る限りでは、地味で武骨なデザインではあるが、同時に人力では到底考えられないような何かの働きを感じさせる造りである。大きさは五階建てか六階建てくらいだろうか。壁は汚れているが、表面はヤスリで磨かれたように真っ平らである。飾りなどはいっさい付いていない。
 その上、鳥や小動物の類いもいっさい近寄って来ていないようだ。何か、この辺りだけを特殊な空気が覆っているようにも感じられる。

「さて、どうするかな」

 塔を眺めながら、ギンジが呟く。さすがの一行も、名の知られた黒魔術師の住む塔にいきなり乗り込むのはためらわれた。チャムですら、塔を包む異様な空気を感じ取ったらしい。黙ったまま、じっとガイの横で座っている。
 だが、そんな空気をものともしない男もいた。

「じゃあ……とりあえず私か行って挨拶してきましょうか! ダラマールさんの話では、悪い方ではないとのことでしたし!」

 突然、静寂をぶち壊すタカシの声。彼は御者台を降りると、ヘラヘラ笑いながら塔に向かい歩き出した。
 凍りつく一行。直後、憤怒の形相でカツミが怒鳴る。

「おいタカシ! てめえ、もう少し慎重に──」

「大丈夫ですよ、カツミさん。とりあえずは……おやおや、何ですかアレは?」

 塔の前で、タカシは立ち止まった。塔の周りにある土が、ひとりでに盛り上がり始めたのだ。土はどんどん高くなり、やがて二メートルほどの高さと、一メートルほどの幅の山が出来上がった。しかも、一ヵ所ではない。十ヵ所ほど、同じくらいの土の山が出来上がっている。
 次の瞬間、土の小山の中から、人の形をした何かが出て来たのだ。土で作られた巨人……としか、表現のしようがない何かである。やたらと長く太い腕と、壁のように広い体つきだ。
 その土の巨人は、緩慢な動きでタカシの方に歩き、腕を振り上げ襲いかかっていく。
 しかし、タカシは素早い動きで、攻撃をあっさりとかわしてのける。直後、すぐさま馬車に駆け寄って来た。

「ガイくん! カツミさん! 出番ですよ! さあ、あの化け物をぶっ殺しちゃってください!」

「この野郎……てめえも一緒に殺してやろうか」

 カツミは低く唸り、バトルアックス片手に馬車を降りた。同時にガイとチャムも、馬車を降りて土巨人を睨みつけ、低い姿勢で身構える。土巨人は標的を見失ったのか、いったんはその場で立ち止まった。だが、馬車および乗っている人間を感知したらしく、馬車を目指して歩いて来る。
 しかし、その歩みは遅い。逃げようと思えば、簡単に逃げられそうではある。
 その時、ヒロユキが叫んだ。

「あれは、クレイゴーレムだと思います! 魔法で操られているんですよ!」

「魔法か……厄介だな。あいつは殺せるのか?」

 クレイゴーレムの動きを冷静な目で観察しながら、ギンジが尋ねる。

「壊すのは、できるはずです。ただ、操っている者の魔法を止めさせるか、殺すかしないと復活してきますね。少なくとも、ゲームではそうでした」

「だったら試してみよう。ガイ、カツミ、あの出来の悪いロボットをぶっ壊してみてくれ。チャム、お前は残ってろ」

 その言葉を聞くと同時に、ガイとカツミが立ち上がり、クレイゴーレムの方に歩き始めた。

 カツミがバトルアックスを振り回す。巨大な刃はクレイゴーレムの胴を真っ二つにし、衝撃で上半身と下半身とが分かれて吹っ飛ぶ……クレイゴーレムは崩れ、元の土の塊へと戻った──
 はずだったが、土はまたしても動き出す。ひとりでに盛り上がり、小山を作り、出現するクレイゴーレム。

「おいおい、こいつはキリがないなあ……」

 うんざりしたような声で、ガイは呟いた。クレイゴーレムの攻撃そのものは単調で、動きも遅い。ガイもカツミも簡単に見切り、躱すことができる。しかし、壊しても壊しても、直ぐに復活してしまうのだ。
 その時、ようやくヒロユキは思い出した。

「ガイさん! カツミさん! そいつらの頭には、呪符……いや、神社のお札みたいなものが入っているはずです! それを見つけ出して破けば、そいつらは動かなくなるはずです! やってみてください」

「バカ野郎! 早く言えよヒロユキ!」

 怒鳴ると同時に、ガイは右掌をクレイゴーレムの頭に叩き込む。次の瞬間、素早く手を引き抜き、同時に後ろに飛び退く。その手には、紙切れのような物が握られている。
 ガイは、その紙切れを粉々に千切る。
 すると、クレイゴーレムはピタリと動きを止めた。次の瞬間、形が崩れ、土の塊へと戻っていく。

「なるほどな」

 カツミは呟くと同時に、バトルアックスを捨てる。そしてガイと同じように、クレイゴーレムの顔面に手を突っ込み、紙切れを引き抜いて千切った。
 動きを止め、一瞬の後に崩れ去るクレイゴーレム。

「にゃはははは! 楽しそうだにゃ! チャムも手伝うにゃ!」

 戦いに加わりたくてうずうずしていたチャムが、ヒロユキの制止を振り切って飛び出して行く。さらに、もうひとりが乱入した。

「私も手を貸しますよ!」

 タカシも馬車を飛び降り、ヘラヘラ笑いながら戦いに加わる。先ほどまでの、奇怪な怪物との真剣な戦いといった雰囲気は消え失せ、どこかのテーマパークで遊んでいるかのような空気に支配されていた。

「ったく、どいつもこいつも楽しそうだな」

 苦笑するギンジ。さらに、ヒロユキの腕をつつくニーナ。ヒロユキがそちらを向くと、

(ヒロユキ マホウ シッテル スゴイ)

 ノートを広げたニーナもまた、楽しそうにニコニコしている。ヒロユキも思わず笑みを浮かべていた。二人は並んで、皆が楽しそうに戦う様を見物する。



「にゃはははは! 見たかお前ら! チャムは強いにゃ! ガイはもっともっと強いにゃ!」

 クレイゴーレムの最後の一体を仕留め、勝ち誇るチャム。我を崇め奉れ、とでも言わんばかりの表情だ。ガイとカツミはその横で苦笑している。
 一方、タカシは塔を見上げる。

「すみません! 誰かいませんか!」

 塔に向かい、大声で叫ぶタカシ。しかし、誰も出てこない。中に人がいる気配も感じられなかった。そもそも誰かがいるのなら、表でのクレイゴーレムとの派手な大立ち回りに、気づかないはずがないのだ。にもかかわらず、誰も出て来ない。

「ギンジさん、誰もいないみたいですよ。留守なんでしょうかね? どうします?」

 ヒロユキは不安そうに尋ねた。ここまで来て、レイがいないのでは話にならない。このまま帰りを待つか、それとも……。
 その時、塔の扉が音も無く開いた。石造りの重く巨大な扉である。ひとりでに開く、などということは考えられない。何者かが、意図的に開けたはずだ。
 しかし、扉の向こう側には誰もいない。

「誰もいませんね……すると、この扉はどうやって開いたのでしょうねえ。不思議な話もあるものですね。すみません! 誰かいませんか!」

 そう言いながら、タカシはずかずか入っていく。

「おいタカシ! 勝手に入っていくな!」

 カツミが後を追った。さらにその後を、ガイとチャムが付いて行く。

「本当に、慎重さが欠片もないな……ま、ああ見えて奴らは危険を察知するのは得意だからな。ヒロユキ、ニーナ、お前らは残っていろ」

 ギンジがそう言った直後、信じがたいことが起きた。

「いや、全員来てもらおうか」

 突然、耳元で聞こえてきた聞き慣れない声。三人は慌てて声の主を探したが、姿は見えない。しかし、声は続く。

「馬車は見張らせておく。君らも来るんだ。ぜひ話を聞きたい」

 すると、またしても地面から何かが這い出してきた。今度はボロボロになった骸骨だ。まるで骨格標本のように、全ての骨が揃った骸骨が馬車に近づいてくる。馬は異質な存在の接近に怯え、騒ぎ始める。
 だが、直後に聞こえてきた、奇妙な言葉の詠唱。
 すると、馬はおとなしくなった。一方、骸骨は軽快な動きで馬車のそばに歩いて行き、ピタリと立ち止まる。

「君らが戻るまで、馬車は安全だ。さあ、入ってきたまえ」

 またしても聞こえてくる声。ギンジは苦笑し、頭を振った。

「やれやれ、スマホもないのに遠距離での会話が可能な上、さらには動く骸骨を手足代わりに使うのか……この世界には、恐ろしい力を持った奴がいるんだな。だったらせめて、底辺の文明と文化のレベルをもう少しマシな所まで引き上げて欲しいもんだぜ」

「タカシさんも、似たようなこと言ってました」

「フッ、あいつなら言いかねないな。さて、入るとするか」



 塔の中は殺風景だった。飾り気のない灰色の壁と床、高い天井……入った者をひどく物悲しい気分にさせる造りだ。
 不思議なことに、塔には階段らしき物が見当たらない。その高さからして、一階で終わり、ということは有り得ないのだが……。

「どうなってんだ、こいつは?」

 ガイが呟く。その直後、一部の床が光り始めた。ちょうど、扉の設置された場所の反対側……そこの壁に面した部分の床板だ。その一メートル四方の床が、青く光っている。
 さらに、またしても声が聞こえてきた。

「光る床……その上に乗るんだ。ひとりずつ」

 一行は顔を見合わせた。どういうことなのか、皆目見当もつかない。
 しかし、そんな空気をものともしない男がいた。

「まあ、乗れと言うなら乗りましょう。我々を殺したところで、大した利益があるとは思えませんしね」

 タカシはそう言うと、何のためらいもなく歩き出す。皆に止める暇を与えず、あっさりと光る床の上に乗ってしまった。

「バカ! てめえは何やってんだ!」

 怒鳴るカツミ。しかし次の瞬間、タカシの姿が光に包まれる。
 直後、タカシは消えた。
 唖然とする一行。

「お、おい、何だよ今のは? タカシさん、消えちまったじゃねえかよ。な、なあヒロユキ、大丈夫……だよな? タカシさんは無事だよな?」

 ガイは引きつった表情で尋ねる。しかし、ヒロユキには答えられなかった。いったい何が起きたのか? ヒロユキは頭をフル回転させ、思い出そうとした時だった。

「おお! あなたがレイさんですか! 私はクロサワタカシという者です! タカシと呼んでください! お会いできて光栄です!」

 上の階から聞こえてくるらしき、けたたましい声。次いで、バタバタする足音も響く。

「あの野郎……まあいい。みんな、とりあえず行ってみようぜ」

 ギンジはそう言うと、光る床の上に乗った。














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