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戦士大告白
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「な、何言ってんだよカツミさん……下らねえ冗談はよしなよ。あんたにゃ似合わねえ──」
「冗談じゃねえんだよ、ガイ。オレは決めたんだ。ここに……この村に残るってな」
ガイの言葉を遮り、カツミは淡々とした口調で語る。その表情は静かなものだった。だが、その静けさが見る者に決意を感じさせる。そう、固い意思を。
「カツミさん、あなた本気なんですか? 本気でこんな地獄みたいな世界に残るつもりなんですか? それに、あのレイとかいう魔術師が言ってたこと……覚えてますよね? この世界は崩壊するかもしれないと、そう言ってたんですよ」
今度はタカシだった。タカシは先ほどとはうって変わって、真剣な表情で尋ねる。すると、カツミは彼の方を向いた。
「ああ。でもな、崩壊すると決まったわけじゃないんだろうが。それに、例えこの世界が崩壊するのだとしても……それまでは、ここの村人たちを守ってやりたいんだよ。ガイの強さは桁外れだし、ギンジさんやタカシやチャムも充分に戦えるだろう。ニーナも魔法が使える。ヒロユキだって、この先戦えるようになるはずだ。オレが抜けたとしても、旅を続けるのに問題はない。しかし、この村には……ダカールの他に戦える人間がいない。この村には必要なんだよ。オレのような人間が、な」
カツミの表情は、先ほどまでと変わらない。静かな口調で答える。
その言葉に、ヒロユキは混乱した。何とか考えを変えさせたかったが、言葉が出てこない。言いたいことは山ほどあるはず……なのに、言葉にならないのだ。
ヒロユキは、必死で言葉を発しようとした。しかし、言葉が出てこない。
その時、彼の代わりに言葉を発した者がいた。
「ふざけんじゃねえよ……てめえは、オレたちを見捨てる気か? てめえはオレたちより、ここの村人を選ぶのか?」
言ったのはガイだった。彼の体は震えている。言うまでもなく、怒りのためだ。さらに瞳には、凶暴な光が宿っている。
直後、ガイはゆっくりと立ち上がった。闘争心を剥き出しにした表情で、カツミに近づいて行く。しかし、ギンジがそれを阻んだ。
「やめろ。カツミには、カツミの生き方がある。オレたちに強制する権利はないはずだ」
「ざけんなよ! んなの納得いかねえよ!」
今度は、ギンジに食ってかかるガイ。すると、ギンジの目がすっと細くなった。
「ガイ、いい加減にしろ。ガキみてえなこと言ってんじゃねえ」
「んだと……上等じゃねえか」
睨み合うガイとギンジ。しかし、カツミとチャムが割って入る。
「ガイ! 駄目だにゃ! 仲間と喧嘩しちゃ、いけないにゃ!」
チャムは目を潤ませながら、ガイに抱きつく。ガイは怒りで顔を歪めながらも、仕方なく引き下がった。
一方、ギンジはガイをちらりと見た後、カツミに視線を移す。
「カツミ……お前、本気なんだな?」
「ああ、本気だよ。オレの武器は、全部持って行ってくれて構わない。みんなで使ってくれ──」
「そんなの、どうだっていい!」
ヒロユキの声が響く。彼はようやく、言葉を絞り出すことができたのだ。
「カツミさん、なんで……理由を言ってください。確かに、ここの村人たちは気の毒だ。でも、あなたが犠牲になる必要はないはずです」
「違うよ、ヒロユキ」
カツミは、優しい表情でヒロユキを見つめる。
「ヒロユキ、お前には元の世界に帰る理由がある。ニーナをこの世界から連れ出すという目的がな。そしてギンジさんには、ハザマヒデオを殺すという目的がある。だが、オレには何もないんだよ」
「それは、あなただけじゃない。私にも、何もないですよ」
カツミの言葉を遮り、口を挟むタカシ。その表情は真剣そのものであった。
しかし、カツミは首を振る。
「タカシ、お前は元の世界で社長をやってたんだろう。お前には商売ができるし、家庭も持てる。ガイ、お前にはチャムという守るべき者がいる」
カツミはタカシとガイを交互に見て、ゆっくりと諭すような口調で語る。二人とも、いつの間にか神妙な顔つきで聞き入っていた。
「お前ら四人には、帰る理由がある。他の生き方ができる。守るべきものがある。だが、オレには何もないんだ」
カツミは言葉を止め、笑ってみせた。
これまでに見せたことのない、寂しい笑顔だった。
「昔、オヤジが言ったんだよ。お前は殺人マシンだ、と。だがな、オレはマシンとして生きたくはない。人間として生きたいんだよ」
カツミの言葉に、ヒロユキは何も言えなかった。かつて、タカシに言われた言葉を思い出す。
(オレは今まで、何人殺してきたかわからねえ。オレの手に染みついた血の匂いは、どうあがいても消えないんだ。死ぬまで続けるしかないんだろうな……殺人マシンを。家庭を持ち、平和に暮らすなんて人生は……望んじゃいけないんだよな)
思いをはせるヒロユキ。そんな中、カツミの言葉は続く。
「オレは、元の世界に帰ったところで何もできねえんだ。人殺し以外のことは、何もな。だが、ここなら……この村ならば、オレでも役に立てる。みんなのために、オレの力を使えるんだ。この村なら、オレは人間として生きられる」
落ち着いた口調で、カツミは言い終た。直後、深々と頭を下げる。
「すまない。ここから先は、オレ抜きで行ってくれ」
「仕方ねえだろ、みんな。カツミが自分で選んだ道なら、オレたちにどうこう言う権利はない。もともと、オレたちは仲間でも何でもないんだ。たまたま同じバスに乗り合わせ、この世界に来ちまった者同士だ。だったら、笑って見送ってやろうや……いや、見送られるのはこっちだがな」
ギンジの言葉には、いつもと同じように人を落ち着かせる何かがあった。他の者たちは黙りこみ、下を向いている。
だがヒロユキは、複雑なものを感じていた。確かに、カツミが決めたのであるなら自分にとやかく言う資格はない。しかし、まさかこんな形で別れることになろうとは。
その時、ヒロユキの目から涙が溢れる。カツミは本当に、頼りになる男だった。初めは恐ろしかったが、次第に自分を認めてくれるようになった。豪放磊落な戦士かと思えば、天然な変人であるタカシに突っ込んだり、最近では自分に戦い方まで教えてくれていたのだ。
ヒロユキの人生において初めての、先輩であり師匠であり兄であり……。
友だち、と呼べるかもしれない存在だった。
ヒロユキは涙を止められなかった。やがて嗚咽が洩れる。するとニーナが微笑みながら寄り添い、優しく背中を叩く。
そんな二人の姿を見たカツミは、複雑な表情を浮かべた。
「ヒロユキ、お互い笑いながら……元気でな、って別れるわけには、いかないのか?」
「んなこと、出来るわけねえだろが!」
怒鳴りつけたのはガイだった。ガイは、ギラギラする目でカツミを睨み付ける。
「てめえが……てめえがそんな奴だとは思わなかったよ! 偉そうなこと言ってるがな、てめえは元の世界に帰るのが怖いだけじゃねえか! 元の世界で、違う生き方をするのが怖いだけじゃねえか! だから、この世界に……この村に残るんだろうが!」
ガイは、いつになく雄弁だった。その場にいる全員が、ガイの迫力に圧倒されていた。
「てめえは、この村で弱い奴らに囲まれてチヤホヤされたいだけだろうが! なんだかんだ言いながら、てめえは元の世界の現実と戦う勇気がなく、この世界に逃げ込もうとしてるクズ野郎じゃねえか!」
「それは違いますよ」
そう言ったのは、タカシだった。タカシもまた、普段とは違う険しい表情だ。
「君は、村の重症患者たちを見ていませんね。あの光景……私はこの先、一生忘れることができないでしょう。人生において残された時間の全てを、あの患者たちに捧げる……君に、それができますか? 私には、絶対に出来ません──」
「タカシ、ありがとう。だが、もういいよ。ガイの言ってることも間違ってない。オレは、逃げているのかもしれない」
カツミの声は落ち着いたものだった。いや、声だけではない。表情も態度も、全てにおいて静けさを保っていた。ガイとは正反対の態度……その落ち着きようが、ガイをかえって苛立たせたようだった。
「オレは、こんな奴と同じ部屋にいたくねえ。外で寝る」
吐き捨てるように言うと、ガイはカツミを無視して大股で歩き、外に出て行ってしまった。
「な!? ガイ、ちょっと待つにゃ!」
チャムは慌てて、ガイの後を追おうとするが……カツミの前で立ち止まり、はにかむような表情で口を開いた。
「な、な……カツミは顔も体も大きくて、凄くうるさかったにゃ。でもカツミは、とっても強くて、とっても優しかったにゃ。チャムはカツミにも、いっぱい幸せになって欲しいにゃ……」
「ああ、分かったよ……ありがとな。それより、今はガイのそばにいてやってくれ」
神妙な面持ちで、カツミは答えた。
「わ、わかったにゃ。カツミ……いっぱい、ありがとうにゃ」
そう言い残し、チャムはガイの後を追って行った。カツミの表情が、わずかに歪む……その時、ギンジが彼の肩を叩いた。
「カツミ、ガイのことはほっとけ。あいつは、まだガキなんだよ。こんな形で別れるのは何だがな……今はまず、この村の生活のことだけを考えろ」
ギンジの言葉に、カツミは無言で頷いた。
「ほ、本気なのか? あんた本気で、この村に?」
翌朝、突然のカツミの言葉を聞き、唖然となるダカール。しかし、カツミは頷いた。
「ああ、オレはこの村に残る。あんたの下で働かせてくれ。オレはこの村で、みんなを助けたい。もちろん、あんたらさえ良ければ……だけどな」
「何を言ってるんだ……いいに決まってるじゃないか! カツミさん、あんたみたいな強い人がいてくれれば、この村は安泰だよ! よし、みんなに知らせてくる!」
ダカールは今までの落ち着いた印象が嘘のように、あわただしく出て行った。それを見て、苦笑するギンジ。
「ダカールさん、凄いはしゃぎようだな。まあ、それだけカツミの加入が嬉しいんだろうよ」
そう言いながら、皆の顔を見る。しかし、ガイだけは憮然とした表情を崩さない。朝方、チャムと二人して戻って来たものの、カツミとは一言も話そうとしなかった。カツミのことを見ようともしない。
「ガイ、いい加減にしろ。いつまで不貞腐れているんだ?」
ギンジが声をかけても、ガイは横を向いたまま、
「別に不貞腐れてねえし……勝手にすりゃあいいじゃねえか。さっさと行こうぜ、こんな村」
と返した。ギンジとタカシは顔を見合わせ、やれやれといった表情をする。
しかし、本音を言えば……ヒロユキも未だ納得はしていない。こんな別れ方は嫌だ。
もっとも、カツミ本人が決めたことであるなら……ヒロユキが、どうこう言うべきことではない。それは、頭では分かっている。
でも……。
「冗談じゃねえんだよ、ガイ。オレは決めたんだ。ここに……この村に残るってな」
ガイの言葉を遮り、カツミは淡々とした口調で語る。その表情は静かなものだった。だが、その静けさが見る者に決意を感じさせる。そう、固い意思を。
「カツミさん、あなた本気なんですか? 本気でこんな地獄みたいな世界に残るつもりなんですか? それに、あのレイとかいう魔術師が言ってたこと……覚えてますよね? この世界は崩壊するかもしれないと、そう言ってたんですよ」
今度はタカシだった。タカシは先ほどとはうって変わって、真剣な表情で尋ねる。すると、カツミは彼の方を向いた。
「ああ。でもな、崩壊すると決まったわけじゃないんだろうが。それに、例えこの世界が崩壊するのだとしても……それまでは、ここの村人たちを守ってやりたいんだよ。ガイの強さは桁外れだし、ギンジさんやタカシやチャムも充分に戦えるだろう。ニーナも魔法が使える。ヒロユキだって、この先戦えるようになるはずだ。オレが抜けたとしても、旅を続けるのに問題はない。しかし、この村には……ダカールの他に戦える人間がいない。この村には必要なんだよ。オレのような人間が、な」
カツミの表情は、先ほどまでと変わらない。静かな口調で答える。
その言葉に、ヒロユキは混乱した。何とか考えを変えさせたかったが、言葉が出てこない。言いたいことは山ほどあるはず……なのに、言葉にならないのだ。
ヒロユキは、必死で言葉を発しようとした。しかし、言葉が出てこない。
その時、彼の代わりに言葉を発した者がいた。
「ふざけんじゃねえよ……てめえは、オレたちを見捨てる気か? てめえはオレたちより、ここの村人を選ぶのか?」
言ったのはガイだった。彼の体は震えている。言うまでもなく、怒りのためだ。さらに瞳には、凶暴な光が宿っている。
直後、ガイはゆっくりと立ち上がった。闘争心を剥き出しにした表情で、カツミに近づいて行く。しかし、ギンジがそれを阻んだ。
「やめろ。カツミには、カツミの生き方がある。オレたちに強制する権利はないはずだ」
「ざけんなよ! んなの納得いかねえよ!」
今度は、ギンジに食ってかかるガイ。すると、ギンジの目がすっと細くなった。
「ガイ、いい加減にしろ。ガキみてえなこと言ってんじゃねえ」
「んだと……上等じゃねえか」
睨み合うガイとギンジ。しかし、カツミとチャムが割って入る。
「ガイ! 駄目だにゃ! 仲間と喧嘩しちゃ、いけないにゃ!」
チャムは目を潤ませながら、ガイに抱きつく。ガイは怒りで顔を歪めながらも、仕方なく引き下がった。
一方、ギンジはガイをちらりと見た後、カツミに視線を移す。
「カツミ……お前、本気なんだな?」
「ああ、本気だよ。オレの武器は、全部持って行ってくれて構わない。みんなで使ってくれ──」
「そんなの、どうだっていい!」
ヒロユキの声が響く。彼はようやく、言葉を絞り出すことができたのだ。
「カツミさん、なんで……理由を言ってください。確かに、ここの村人たちは気の毒だ。でも、あなたが犠牲になる必要はないはずです」
「違うよ、ヒロユキ」
カツミは、優しい表情でヒロユキを見つめる。
「ヒロユキ、お前には元の世界に帰る理由がある。ニーナをこの世界から連れ出すという目的がな。そしてギンジさんには、ハザマヒデオを殺すという目的がある。だが、オレには何もないんだよ」
「それは、あなただけじゃない。私にも、何もないですよ」
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しかし、カツミは首を振る。
「タカシ、お前は元の世界で社長をやってたんだろう。お前には商売ができるし、家庭も持てる。ガイ、お前にはチャムという守るべき者がいる」
カツミはタカシとガイを交互に見て、ゆっくりと諭すような口調で語る。二人とも、いつの間にか神妙な顔つきで聞き入っていた。
「お前ら四人には、帰る理由がある。他の生き方ができる。守るべきものがある。だが、オレには何もないんだ」
カツミは言葉を止め、笑ってみせた。
これまでに見せたことのない、寂しい笑顔だった。
「昔、オヤジが言ったんだよ。お前は殺人マシンだ、と。だがな、オレはマシンとして生きたくはない。人間として生きたいんだよ」
カツミの言葉に、ヒロユキは何も言えなかった。かつて、タカシに言われた言葉を思い出す。
(オレは今まで、何人殺してきたかわからねえ。オレの手に染みついた血の匂いは、どうあがいても消えないんだ。死ぬまで続けるしかないんだろうな……殺人マシンを。家庭を持ち、平和に暮らすなんて人生は……望んじゃいけないんだよな)
思いをはせるヒロユキ。そんな中、カツミの言葉は続く。
「オレは、元の世界に帰ったところで何もできねえんだ。人殺し以外のことは、何もな。だが、ここなら……この村ならば、オレでも役に立てる。みんなのために、オレの力を使えるんだ。この村なら、オレは人間として生きられる」
落ち着いた口調で、カツミは言い終た。直後、深々と頭を下げる。
「すまない。ここから先は、オレ抜きで行ってくれ」
「仕方ねえだろ、みんな。カツミが自分で選んだ道なら、オレたちにどうこう言う権利はない。もともと、オレたちは仲間でも何でもないんだ。たまたま同じバスに乗り合わせ、この世界に来ちまった者同士だ。だったら、笑って見送ってやろうや……いや、見送られるのはこっちだがな」
ギンジの言葉には、いつもと同じように人を落ち着かせる何かがあった。他の者たちは黙りこみ、下を向いている。
だがヒロユキは、複雑なものを感じていた。確かに、カツミが決めたのであるなら自分にとやかく言う資格はない。しかし、まさかこんな形で別れることになろうとは。
その時、ヒロユキの目から涙が溢れる。カツミは本当に、頼りになる男だった。初めは恐ろしかったが、次第に自分を認めてくれるようになった。豪放磊落な戦士かと思えば、天然な変人であるタカシに突っ込んだり、最近では自分に戦い方まで教えてくれていたのだ。
ヒロユキの人生において初めての、先輩であり師匠であり兄であり……。
友だち、と呼べるかもしれない存在だった。
ヒロユキは涙を止められなかった。やがて嗚咽が洩れる。するとニーナが微笑みながら寄り添い、優しく背中を叩く。
そんな二人の姿を見たカツミは、複雑な表情を浮かべた。
「ヒロユキ、お互い笑いながら……元気でな、って別れるわけには、いかないのか?」
「んなこと、出来るわけねえだろが!」
怒鳴りつけたのはガイだった。ガイは、ギラギラする目でカツミを睨み付ける。
「てめえが……てめえがそんな奴だとは思わなかったよ! 偉そうなこと言ってるがな、てめえは元の世界に帰るのが怖いだけじゃねえか! 元の世界で、違う生き方をするのが怖いだけじゃねえか! だから、この世界に……この村に残るんだろうが!」
ガイは、いつになく雄弁だった。その場にいる全員が、ガイの迫力に圧倒されていた。
「てめえは、この村で弱い奴らに囲まれてチヤホヤされたいだけだろうが! なんだかんだ言いながら、てめえは元の世界の現実と戦う勇気がなく、この世界に逃げ込もうとしてるクズ野郎じゃねえか!」
「それは違いますよ」
そう言ったのは、タカシだった。タカシもまた、普段とは違う険しい表情だ。
「君は、村の重症患者たちを見ていませんね。あの光景……私はこの先、一生忘れることができないでしょう。人生において残された時間の全てを、あの患者たちに捧げる……君に、それができますか? 私には、絶対に出来ません──」
「タカシ、ありがとう。だが、もういいよ。ガイの言ってることも間違ってない。オレは、逃げているのかもしれない」
カツミの声は落ち着いたものだった。いや、声だけではない。表情も態度も、全てにおいて静けさを保っていた。ガイとは正反対の態度……その落ち着きようが、ガイをかえって苛立たせたようだった。
「オレは、こんな奴と同じ部屋にいたくねえ。外で寝る」
吐き捨てるように言うと、ガイはカツミを無視して大股で歩き、外に出て行ってしまった。
「な!? ガイ、ちょっと待つにゃ!」
チャムは慌てて、ガイの後を追おうとするが……カツミの前で立ち止まり、はにかむような表情で口を開いた。
「な、な……カツミは顔も体も大きくて、凄くうるさかったにゃ。でもカツミは、とっても強くて、とっても優しかったにゃ。チャムはカツミにも、いっぱい幸せになって欲しいにゃ……」
「ああ、分かったよ……ありがとな。それより、今はガイのそばにいてやってくれ」
神妙な面持ちで、カツミは答えた。
「わ、わかったにゃ。カツミ……いっぱい、ありがとうにゃ」
そう言い残し、チャムはガイの後を追って行った。カツミの表情が、わずかに歪む……その時、ギンジが彼の肩を叩いた。
「カツミ、ガイのことはほっとけ。あいつは、まだガキなんだよ。こんな形で別れるのは何だがな……今はまず、この村の生活のことだけを考えろ」
ギンジの言葉に、カツミは無言で頷いた。
「ほ、本気なのか? あんた本気で、この村に?」
翌朝、突然のカツミの言葉を聞き、唖然となるダカール。しかし、カツミは頷いた。
「ああ、オレはこの村に残る。あんたの下で働かせてくれ。オレはこの村で、みんなを助けたい。もちろん、あんたらさえ良ければ……だけどな」
「何を言ってるんだ……いいに決まってるじゃないか! カツミさん、あんたみたいな強い人がいてくれれば、この村は安泰だよ! よし、みんなに知らせてくる!」
ダカールは今までの落ち着いた印象が嘘のように、あわただしく出て行った。それを見て、苦笑するギンジ。
「ダカールさん、凄いはしゃぎようだな。まあ、それだけカツミの加入が嬉しいんだろうよ」
そう言いながら、皆の顔を見る。しかし、ガイだけは憮然とした表情を崩さない。朝方、チャムと二人して戻って来たものの、カツミとは一言も話そうとしなかった。カツミのことを見ようともしない。
「ガイ、いい加減にしろ。いつまで不貞腐れているんだ?」
ギンジが声をかけても、ガイは横を向いたまま、
「別に不貞腐れてねえし……勝手にすりゃあいいじゃねえか。さっさと行こうぜ、こんな村」
と返した。ギンジとタカシは顔を見合わせ、やれやれといった表情をする。
しかし、本音を言えば……ヒロユキも未だ納得はしていない。こんな別れ方は嫌だ。
もっとも、カツミ本人が決めたことであるなら……ヒロユキが、どうこう言うべきことではない。それは、頭では分かっている。
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