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◯丁度いい関係。
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「よくここで呑んでると聞いて」
誓二さんは隣の席に着くなりそう言って、ニヤリと笑った。そこ、高志さんの指定席。だがこんな時に限って高志さんは来ず、店はめちゃくちゃ混んでいる。盆休みの中日、どうせ空いてんだろと思って出てきたら、当てが外れた。
「ウイスキーのロックをダブルで」
「かしこまりました」
茜はすっかりプロの手付きで酒を作り、誓二さんの前に置いた。その横で真咲が、
「かまえなくてすまんのぅ」
と、俺のグラスにボトルの残りを全部注いだ。
「おっと、手が滑ったわ。次のも同じやつでいーい?」
「いいけど、今の間違いなくわざとだろ」
真咲はゲラゲラ笑いながら俺の前にブランデーのニューボトルを置き、誓二さんに「ごゆっくりどうぞ」とウインクして去った。茜もボックス席の接客に戻っていった。
「さっきの背の高い子が、お前の将来の嫁さん候補?」
「っせぇなぁ。断ったよ」
「賢明だな。彼女は実直そうだ。後ろ暗い秘密を抱えて生きるには向いていないだろう。俺も断ったよ」
「なんだよ、祖父さんの野郎、結局あんたにも勧めてたんか」
「彼女のことを余程気に入ったらしい。自分の手元に置いておければ、彼女の相手は誰でもいいんだ。そうすれば、智也一択になるのかな」
誓二さんはしれっと言った。俺の番が知玄だと気づいてるよっていう仄めかし。俺はシカトして水割りに口をつけた。めちゃめちゃ濃い。くそう、真咲め。当分同伴してやらねぇ。
「ところで、例の話はどうなった?」
「面接だけ受けに行った。髪黒く染めねえで行ったんに、ちょっと喋っただけで内定だって」
俺が煙草を咥えると、
「おめでとう」
誓二さんはすかさず火を差し出した。貰い火をした煙草は、一服だけしてすぐ揉み消してやった。
「まだ先方に返事してねぇし」
自分のジッポで、新しい煙草に火を点ける。よその会社に修行に出るだなんて、あまり気が進まない。
「内定祝いに飯奢ってやるよ。いつがいい?」
「じゃあ今がいい。ラーメン食べたい」
「随分安上がりだな。もっと我儘言っていいんだぞ」
『ゆりあ』を出て、近くの二十四時間営業のラーメン屋まで、ひと気のない道を二人で肩を並べて歩く。
「ここらも星が見えなくなったな」
「夏だからじゃね。冬場はまだそこそこ見えるよ」
「蛍ももういない?」
「多分」
「なぁ、アキ」
「何だよ」
「お前が就職したら、二人で住もう。丁度、大学の同期から、東京で事務所を開くから一緒に独立しないかって誘われていてね。新しい勤め先、東京からなら電車で通えるだろ」
「断る。ぜってー俺に家事全部押し付ける気だろ」
誓二さんはわははと笑い、俺の背中を叩いた。色気皆無の仕草。そして色気皆無の会食。俺がラーメンを啜るのを見守る誓二さんの目は、可愛い甥を見る叔父のそれ。あるべき関係に戻った感じ。なのに、誓二さんは言った。
「待つよ、お前のαがお前に飽きるまで。お前だって俺の方がいいだろう? 俺達は幸せを約束された運命の相手同士。番わないとばちが当たる」
俺は首を横に振った。俺は、誓二さんとはそんな関係じゃないほうが好き。
誓二さんは隣の席に着くなりそう言って、ニヤリと笑った。そこ、高志さんの指定席。だがこんな時に限って高志さんは来ず、店はめちゃくちゃ混んでいる。盆休みの中日、どうせ空いてんだろと思って出てきたら、当てが外れた。
「ウイスキーのロックをダブルで」
「かしこまりました」
茜はすっかりプロの手付きで酒を作り、誓二さんの前に置いた。その横で真咲が、
「かまえなくてすまんのぅ」
と、俺のグラスにボトルの残りを全部注いだ。
「おっと、手が滑ったわ。次のも同じやつでいーい?」
「いいけど、今の間違いなくわざとだろ」
真咲はゲラゲラ笑いながら俺の前にブランデーのニューボトルを置き、誓二さんに「ごゆっくりどうぞ」とウインクして去った。茜もボックス席の接客に戻っていった。
「さっきの背の高い子が、お前の将来の嫁さん候補?」
「っせぇなぁ。断ったよ」
「賢明だな。彼女は実直そうだ。後ろ暗い秘密を抱えて生きるには向いていないだろう。俺も断ったよ」
「なんだよ、祖父さんの野郎、結局あんたにも勧めてたんか」
「彼女のことを余程気に入ったらしい。自分の手元に置いておければ、彼女の相手は誰でもいいんだ。そうすれば、智也一択になるのかな」
誓二さんはしれっと言った。俺の番が知玄だと気づいてるよっていう仄めかし。俺はシカトして水割りに口をつけた。めちゃめちゃ濃い。くそう、真咲め。当分同伴してやらねぇ。
「ところで、例の話はどうなった?」
「面接だけ受けに行った。髪黒く染めねえで行ったんに、ちょっと喋っただけで内定だって」
俺が煙草を咥えると、
「おめでとう」
誓二さんはすかさず火を差し出した。貰い火をした煙草は、一服だけしてすぐ揉み消してやった。
「まだ先方に返事してねぇし」
自分のジッポで、新しい煙草に火を点ける。よその会社に修行に出るだなんて、あまり気が進まない。
「内定祝いに飯奢ってやるよ。いつがいい?」
「じゃあ今がいい。ラーメン食べたい」
「随分安上がりだな。もっと我儘言っていいんだぞ」
『ゆりあ』を出て、近くの二十四時間営業のラーメン屋まで、ひと気のない道を二人で肩を並べて歩く。
「ここらも星が見えなくなったな」
「夏だからじゃね。冬場はまだそこそこ見えるよ」
「蛍ももういない?」
「多分」
「なぁ、アキ」
「何だよ」
「お前が就職したら、二人で住もう。丁度、大学の同期から、東京で事務所を開くから一緒に独立しないかって誘われていてね。新しい勤め先、東京からなら電車で通えるだろ」
「断る。ぜってー俺に家事全部押し付ける気だろ」
誓二さんはわははと笑い、俺の背中を叩いた。色気皆無の仕草。そして色気皆無の会食。俺がラーメンを啜るのを見守る誓二さんの目は、可愛い甥を見る叔父のそれ。あるべき関係に戻った感じ。なのに、誓二さんは言った。
「待つよ、お前のαがお前に飽きるまで。お前だって俺の方がいいだろう? 俺達は幸せを約束された運命の相手同士。番わないとばちが当たる」
俺は首を横に振った。俺は、誓二さんとはそんな関係じゃないほうが好き。
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