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魂 ②
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稲荷大明神を参拝し、昔世話になった人の墓参りもして、夕方、懐かしい我が家へと帰り着いた。“ボディーショップ斎藤”の屋号は取り外され、シャッターは長いこと上げ下ろしをされた形跡なく、錆と砂埃にまみれて固く閉ざされていた。建物の中に入ると、一階の作業場は納骨堂のようにシンと静まりかえっていた。明かりを点けて室内を見回すと、思いの外綺麗で、機材は所定の場所に整然と並んでいた。だが手に取ってみればやはり、長く使われない間にどれも死んでしまっていた。錆びたりひび割れたりして……道具は人に愛用されなければ、やがて死んでしまうものなのだ。
はな六のあとに続いて、急な階段を昇る。二階は生きていた。ずっと人間が住んでいた家特有の匂い、明るさ、暖かみ。茶の間は綺麗に片付けられ、掃除が行き届いていた。そして寝室も。サイトウが二十年前に設えた簡易的な仏壇が部屋の隅にあった。折り畳みのテーブルが一つ増えていて、その上には塩ビ製の碁盤とプラスチックの碁笥があった。よく使い込まれた棋書とともに。はな六はそれらを収納ケースに仕舞い、テーブルの脚を畳んで押し入れにしまった。
重い真綿の入った布団はお日さまの匂いがした。昔のように二組の布団を敷いたのに、はな六は昔と同じに、自分のではなくサイトウの布団に潜り込んできた。セックスのし方なんてすっかり忘れてしまったと思った。だが、やり始めればすんなり思い出すもので、かけ算九九や自転車の乗り方ほど、幼い頃から繰り返し身体に覚えさせたほどのものでもないのに……と、少しおかしみを感じながら、サイトウははな六を抱いた。このボディはセクサロイドではなくただのアンドロイドだとはな六は言うが、何が変わったのかといえば、何も変わっていないようだった。
「人間型アンドロイドが復活しても、セクサロイドはダメだなんって。あれは人間を模したものではなくて、セックス依存症の人間を模したものだから。わざわざ最初から病気の人を造ることはないでしょ? って」
サイトウは右手ではな六の左手を握り、自身の胸にそれを置いて、はな六の言葉に耳を傾けた。
「ねぇサイトウ」
はな六は問うように上目遣いにサイトウを見上げた。サイトウは応える代わりに、はな六の上唇にチュッと口づけた。はな六はそう言うが、はな六の身体は昔ととくに違わなかった。外見だけではなく中の具合もだ。サイトウが一物を差し込むと、はな六の潤んだ腹の中はサイトウをおおらかに受け入れ、そして切なそうにきゅうきゅうと締めつけた。
明け方近くに、サイトウは目を覚ました。その時間は服役中、しばしば腕の付け根にはな六の霊の重みを感じていた時間帯だ。だがはな六はサイトウの腕に抱かれておらず、サイトウに背を向け、声を殺して泣いていた。
「どうした?」
サイトウははな六の肩に手をかけてこちらを向かせた。はな六はぐずぐずと泣き続けるばかりだったが、根気よく問いつづけると、「眠れない」と言った。サイトウは腕枕をしてやったが、はな六はサイトウの胸に顔を埋めて泣き続けた。もしやセックスをし足りないなくて寝つけないのだろうか。サイトウが問うとはな六は首を横に振った。年老いて昔ほど盛んにできない自分に遠慮しているのか? だがはな六はそうではないと言う。
「おれもう二十年ずっと、一睡もしていないんだ。ボディを戻したらスペック違いで、サイトウのことを思い出す度に、ポップアップと警告音が邪魔してきて……。それが嫌でずっと起きて仕事ばっかりしているうちに、眠り方を忘れちゃったぁ」
サイトウははな六の背中を擦ってやった。空が白み、雀のさえずりが聴こえてくる頃にははな六は泣き止んだが、とうとう朝まで一睡もしなかった。
「サイトウ……ごめん。おれ、サイトウのためにこのボディを買ったんじゃないんだ」
三夜目に、サイトウの腕の中ではな六は告白を始めた。
「おれはただ、眠れないのがつらくて。きっと、レッカ・レッカと同じスペックのボディにすれば、治ると思ってたんだ。そんな、自分の問題のためにサイトウを利用しようとしたから、おれはきっとバチが当たったんだ……」
不眠症になったことを、はな六は二十年間誰にも内緒にしていたらしい。マサユキやムイや古い友人には明かせなかったそうだ。心配をかけたくなかったのだと。そんな秘密をサイトウだけには打ち明けたのはやはり、旦那相手には隠し事が出来ないのだろうと、サイトウは考えた。
“俺のはな六”と再び共に暮らせるからには、あの幸せな夢を見ていそうな愛らしい寝顔を、また見られるのが当然だと思っていた。だが、どうやら稲荷大明神はそう易々とサイトウを赦す気がないらしい。はな六はサイトウのもとに帰されたが、あの安らかな寝顔は奪われていた。
「オメェが俺を利用したからバチが当たったっていうんならよ」
それなら俺がはな六を赦せばいいだけの話だ。サイトウははな六を赦し、抱き締めた。老体にはしんどいが、たっぷりとセックスで満たしてやり、一晩中起きて不眠に付き合ってやった。早朝、目は閉じているが眠っている気配のないはな六を撫でてやりながら、サイトウは途方にくれた。こんな夜が毎晩では身が持たない。だが“俺のはな六”を嫁にするとはこういうことなのだとサイトウは考えた。元々“俺のはな六”はワガママなんだ……。このワガママに付き合いきれなくては、旦那と名乗る資格はない。
はな六は昼間も何をするでもなく、疲れ果てたようにぼんやりとして過ごしていた。これではどちらが年寄りだか分からない。サイトウは舌打ちをした。せっかく用意した食事に、はな六は全く手を着けようとしなかったのだ。腹一杯、飯を食うと幸せだとサイトウが言ったから、はな六はわざわざ食事を摂れる身体になったはずだった。夫婦で食べ物と幸せを分かち合うためではなかったのか? 食べ物も好意も全部無駄にして、まるで何かの当て付けのように、柱に凭れ、両足を投げ出して座って、ぼんやりと虚空を見るともなしに見ている。一体何が不満だっていうのか? こいつは俺と幸せに暮らしたくて帰って来たんじゃなかったのか?
夜、寝室に二組の布団を敷き、寝支度を整えて床に入った。はな六は自分の、ふかふかな手触りがするだけで綿の薄い布団に寝た。サイトウは自分の重く湿気った布団に寝た。
「ね、サイトウ」
微睡み始めたところへ、はな六が話しかけてきた。
「あ?」
また眠れない騒ぎを始めるのだろう。自分が眠れないからといって、サイトウの眠りまで妨げようとしてくる。そうしないと、寂しがりやのはな六は一層不安になって目が冴えてしまうのだ。一人で起きていると、まるで今起きているのは世界に一人きりのような気がして……手のかかるガキのようだ。サイトウはチッチッと舌打ちをした。
「あんだよ?」
「あのね、サイトウ」
「オメェ、いい加減にしろや。何日目だと思ってんだテメェは」
ひと度言い出すと口はすらすらとすべって淀みなかった。
「テメェのせいでこちとら出所してからろくすっぽ寝てねぇんだよ。テメェの眠れねぇ騒ぎに付き合わされてよ。あァ? テメェ、俺の嫁ならよーく知ってんだろうがよ、俺が不規則な生活がでぇ嫌ぇだってことぐれぇよ」
「サイトウ……」
「よォ。何だよ、被害者みちょうなツラしてんじゃねぇぞコラ。悪ィのはどっちだよ。テメェが昼間ボッとして夜寝ねぇのが悪いんじゃねぇんきゃ? 飯まで無駄にしやがってよぉ。俺が仕事めっかるまで金に余裕ねぇのぐれぇわかんだろうが。少ねぇ手持ちから買い物してよ、せっかく作ってやった飯も手ぇつけねぇで残飯にしやがって。くそっ、くそっ、テメェは」
「サイトウ、サイトウ」
「あぁ?」
はな六は布団から手を出してサイトウの方へと差しのべた。
「サイトウ、セックスしようよ」
セックスだと! このタイミングで、こっちが怒り心頭でまくし立てている最中に、セックスだと!? サイトウはむくりと身体を起こし、掛け布団を退けた。はな六はただでさえ大きな目を見開き、起きて正座でサイトウに向き合った。そんなはな六の寝間着の襟をサイトウは荒々しく掴んだ。
「わんわっ!」
はな六は悲鳴を上げた。
「おれはただ、セックスすれば気持ちがすっきりするかと思って! だって、サイトウ、ずっとイライラしてるでしょ、おれのせいで。でも、おれがサイトウのイライラを鎮めるのに、出来ることって言ったらセックスくらいしか」
「あ? うるせぇんだよっ!」
気づいた時には手を上げていた。はな六の瞼の縁に涙の被膜が盛り上がり、たちまちせきを切ったように溢れた。振りかぶった皺だらけの掌はしかし、すんでのところではな六の頬をぶたなかった。だがはな六は、ひぃん、と喉をひとつ鳴らしたあとは声を出さず、涙を流すばかりで泣き続けた。サイトウは手を下ろし、はな六を放した。そして自分の布団に潜り込むと、すすり泣きに背を向けて目を閉じた。
気がつくともう翌朝の七時になっていた。はな六は上掛けの上に仰向けに倒れて寝ていた。一晩中、夢うつつに泣き声が聴こえ続けていた気がする。きっと、二十年ぶん泣いて泣ききって、疲れてやっと眠れたのだろう。サイトウは頭をボリボリ掻きながら、はな六の寝姿を見下ろした。あんなに泣きじゃくっていた癖に顔を泣き腫らしはしないところがアンドロイドだ。これは……サイトウは、いけないと思いながらも心の中で呟かずにいられなかった。これは、本当に“俺のはな六”なのか? はな六の寝顔はちっとも幸せそうではない。まるで死人のようだ。サイトウは階段を降り、靴箱の中から枝切り鋏を探し出して外に出た。裏庭のヒメサカキの枝をとるためだ。鋏がすっかり錆び付いていたせいで、枝を切るのはちょっした骨折り仕事だった。
はな六のあとに続いて、急な階段を昇る。二階は生きていた。ずっと人間が住んでいた家特有の匂い、明るさ、暖かみ。茶の間は綺麗に片付けられ、掃除が行き届いていた。そして寝室も。サイトウが二十年前に設えた簡易的な仏壇が部屋の隅にあった。折り畳みのテーブルが一つ増えていて、その上には塩ビ製の碁盤とプラスチックの碁笥があった。よく使い込まれた棋書とともに。はな六はそれらを収納ケースに仕舞い、テーブルの脚を畳んで押し入れにしまった。
重い真綿の入った布団はお日さまの匂いがした。昔のように二組の布団を敷いたのに、はな六は昔と同じに、自分のではなくサイトウの布団に潜り込んできた。セックスのし方なんてすっかり忘れてしまったと思った。だが、やり始めればすんなり思い出すもので、かけ算九九や自転車の乗り方ほど、幼い頃から繰り返し身体に覚えさせたほどのものでもないのに……と、少しおかしみを感じながら、サイトウははな六を抱いた。このボディはセクサロイドではなくただのアンドロイドだとはな六は言うが、何が変わったのかといえば、何も変わっていないようだった。
「人間型アンドロイドが復活しても、セクサロイドはダメだなんって。あれは人間を模したものではなくて、セックス依存症の人間を模したものだから。わざわざ最初から病気の人を造ることはないでしょ? って」
サイトウは右手ではな六の左手を握り、自身の胸にそれを置いて、はな六の言葉に耳を傾けた。
「ねぇサイトウ」
はな六は問うように上目遣いにサイトウを見上げた。サイトウは応える代わりに、はな六の上唇にチュッと口づけた。はな六はそう言うが、はな六の身体は昔ととくに違わなかった。外見だけではなく中の具合もだ。サイトウが一物を差し込むと、はな六の潤んだ腹の中はサイトウをおおらかに受け入れ、そして切なそうにきゅうきゅうと締めつけた。
明け方近くに、サイトウは目を覚ました。その時間は服役中、しばしば腕の付け根にはな六の霊の重みを感じていた時間帯だ。だがはな六はサイトウの腕に抱かれておらず、サイトウに背を向け、声を殺して泣いていた。
「どうした?」
サイトウははな六の肩に手をかけてこちらを向かせた。はな六はぐずぐずと泣き続けるばかりだったが、根気よく問いつづけると、「眠れない」と言った。サイトウは腕枕をしてやったが、はな六はサイトウの胸に顔を埋めて泣き続けた。もしやセックスをし足りないなくて寝つけないのだろうか。サイトウが問うとはな六は首を横に振った。年老いて昔ほど盛んにできない自分に遠慮しているのか? だがはな六はそうではないと言う。
「おれもう二十年ずっと、一睡もしていないんだ。ボディを戻したらスペック違いで、サイトウのことを思い出す度に、ポップアップと警告音が邪魔してきて……。それが嫌でずっと起きて仕事ばっかりしているうちに、眠り方を忘れちゃったぁ」
サイトウははな六の背中を擦ってやった。空が白み、雀のさえずりが聴こえてくる頃にははな六は泣き止んだが、とうとう朝まで一睡もしなかった。
「サイトウ……ごめん。おれ、サイトウのためにこのボディを買ったんじゃないんだ」
三夜目に、サイトウの腕の中ではな六は告白を始めた。
「おれはただ、眠れないのがつらくて。きっと、レッカ・レッカと同じスペックのボディにすれば、治ると思ってたんだ。そんな、自分の問題のためにサイトウを利用しようとしたから、おれはきっとバチが当たったんだ……」
不眠症になったことを、はな六は二十年間誰にも内緒にしていたらしい。マサユキやムイや古い友人には明かせなかったそうだ。心配をかけたくなかったのだと。そんな秘密をサイトウだけには打ち明けたのはやはり、旦那相手には隠し事が出来ないのだろうと、サイトウは考えた。
“俺のはな六”と再び共に暮らせるからには、あの幸せな夢を見ていそうな愛らしい寝顔を、また見られるのが当然だと思っていた。だが、どうやら稲荷大明神はそう易々とサイトウを赦す気がないらしい。はな六はサイトウのもとに帰されたが、あの安らかな寝顔は奪われていた。
「オメェが俺を利用したからバチが当たったっていうんならよ」
それなら俺がはな六を赦せばいいだけの話だ。サイトウははな六を赦し、抱き締めた。老体にはしんどいが、たっぷりとセックスで満たしてやり、一晩中起きて不眠に付き合ってやった。早朝、目は閉じているが眠っている気配のないはな六を撫でてやりながら、サイトウは途方にくれた。こんな夜が毎晩では身が持たない。だが“俺のはな六”を嫁にするとはこういうことなのだとサイトウは考えた。元々“俺のはな六”はワガママなんだ……。このワガママに付き合いきれなくては、旦那と名乗る資格はない。
はな六は昼間も何をするでもなく、疲れ果てたようにぼんやりとして過ごしていた。これではどちらが年寄りだか分からない。サイトウは舌打ちをした。せっかく用意した食事に、はな六は全く手を着けようとしなかったのだ。腹一杯、飯を食うと幸せだとサイトウが言ったから、はな六はわざわざ食事を摂れる身体になったはずだった。夫婦で食べ物と幸せを分かち合うためではなかったのか? 食べ物も好意も全部無駄にして、まるで何かの当て付けのように、柱に凭れ、両足を投げ出して座って、ぼんやりと虚空を見るともなしに見ている。一体何が不満だっていうのか? こいつは俺と幸せに暮らしたくて帰って来たんじゃなかったのか?
夜、寝室に二組の布団を敷き、寝支度を整えて床に入った。はな六は自分の、ふかふかな手触りがするだけで綿の薄い布団に寝た。サイトウは自分の重く湿気った布団に寝た。
「ね、サイトウ」
微睡み始めたところへ、はな六が話しかけてきた。
「あ?」
また眠れない騒ぎを始めるのだろう。自分が眠れないからといって、サイトウの眠りまで妨げようとしてくる。そうしないと、寂しがりやのはな六は一層不安になって目が冴えてしまうのだ。一人で起きていると、まるで今起きているのは世界に一人きりのような気がして……手のかかるガキのようだ。サイトウはチッチッと舌打ちをした。
「あんだよ?」
「あのね、サイトウ」
「オメェ、いい加減にしろや。何日目だと思ってんだテメェは」
ひと度言い出すと口はすらすらとすべって淀みなかった。
「テメェのせいでこちとら出所してからろくすっぽ寝てねぇんだよ。テメェの眠れねぇ騒ぎに付き合わされてよ。あァ? テメェ、俺の嫁ならよーく知ってんだろうがよ、俺が不規則な生活がでぇ嫌ぇだってことぐれぇよ」
「サイトウ……」
「よォ。何だよ、被害者みちょうなツラしてんじゃねぇぞコラ。悪ィのはどっちだよ。テメェが昼間ボッとして夜寝ねぇのが悪いんじゃねぇんきゃ? 飯まで無駄にしやがってよぉ。俺が仕事めっかるまで金に余裕ねぇのぐれぇわかんだろうが。少ねぇ手持ちから買い物してよ、せっかく作ってやった飯も手ぇつけねぇで残飯にしやがって。くそっ、くそっ、テメェは」
「サイトウ、サイトウ」
「あぁ?」
はな六は布団から手を出してサイトウの方へと差しのべた。
「サイトウ、セックスしようよ」
セックスだと! このタイミングで、こっちが怒り心頭でまくし立てている最中に、セックスだと!? サイトウはむくりと身体を起こし、掛け布団を退けた。はな六はただでさえ大きな目を見開き、起きて正座でサイトウに向き合った。そんなはな六の寝間着の襟をサイトウは荒々しく掴んだ。
「わんわっ!」
はな六は悲鳴を上げた。
「おれはただ、セックスすれば気持ちがすっきりするかと思って! だって、サイトウ、ずっとイライラしてるでしょ、おれのせいで。でも、おれがサイトウのイライラを鎮めるのに、出来ることって言ったらセックスくらいしか」
「あ? うるせぇんだよっ!」
気づいた時には手を上げていた。はな六の瞼の縁に涙の被膜が盛り上がり、たちまちせきを切ったように溢れた。振りかぶった皺だらけの掌はしかし、すんでのところではな六の頬をぶたなかった。だがはな六は、ひぃん、と喉をひとつ鳴らしたあとは声を出さず、涙を流すばかりで泣き続けた。サイトウは手を下ろし、はな六を放した。そして自分の布団に潜り込むと、すすり泣きに背を向けて目を閉じた。
気がつくともう翌朝の七時になっていた。はな六は上掛けの上に仰向けに倒れて寝ていた。一晩中、夢うつつに泣き声が聴こえ続けていた気がする。きっと、二十年ぶん泣いて泣ききって、疲れてやっと眠れたのだろう。サイトウは頭をボリボリ掻きながら、はな六の寝姿を見下ろした。あんなに泣きじゃくっていた癖に顔を泣き腫らしはしないところがアンドロイドだ。これは……サイトウは、いけないと思いながらも心の中で呟かずにいられなかった。これは、本当に“俺のはな六”なのか? はな六の寝顔はちっとも幸せそうではない。まるで死人のようだ。サイトウは階段を降り、靴箱の中から枝切り鋏を探し出して外に出た。裏庭のヒメサカキの枝をとるためだ。鋏がすっかり錆び付いていたせいで、枝を切るのはちょっした骨折り仕事だった。
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