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プロローグ:暑い日
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「ヒビキさんってどうして魔法が使えないんだろうね。凄く不思議」
長い耳をぴこぴこと動かして、エルフの少女が笑う。
ヒビキ――相田響にしてみれば、この世界こそ不思議で仕方なかった。
科学とは正反対の魔法があり、モンスターと呼ばれる生物が存在している。
魔王がいて、勇者がいて、冒険者がいて、まるでゲームの世界だ。
「……そうだな」
響は薄く笑みを浮かべて、自分の手のひら見た。
何の変哲もない普通の手。炎が出ることも水が湧き出すこともない。
魔力など一切感じないし、今後体感する予兆すらない。
「でも、もしかしたら近いうちに凄い魔法が使えるようになるかも!」
そう言ってエルフの少女は目を輝かせた。
静かな森の中、小鳥の囀りが心地よく、僅かに差す日差しは温かい。
思わず寝てしまいたくなる居心地の良さに、響は瞳を閉じた。
「あ、ヒビキさん……寝ちゃったかな? おやすみなさい」
優しい声が耳に入る。
響は心地よさそうに寝息を立てた。
****************
真夏の太陽に照らされながら、相田響は殺意を抱いた。
標的は言わずもがな空高くに君臨する眩い球体、太陽そのもの。
七月が終わり遂に夏の本番、八月に入ってから続く気温三十度越え。
額から流れ落ちる汗は気持ち悪い程に生暖かい。
これでは学校への登校中に全身が干からびてしまう。
響はため息交じりに空を睨み上げた。
「――おはようっ!」
不意に後方から届く女性の声。
えらく軽い口調は暑さに対する億劫さを全く感じさせなかった。
「……挨拶はいいが、いきなり人の頭を叩こうとするのはどうかと思うぞ」
「ありゃ、バレちゃった?」
てへ、と悪戯に舌を出して幼馴染の少女――四宮真乃は振り上げた腕を下ろす。
一切の悪気を思わせない真乃に響は呆れながらにため息を吐く。
――朝っぱらからうるさいのに捕まってしまった。
それが彼の内心の呟きだった。
「おやおや~、なんだか元気がないね?」
そんな事は知らずに顔を覗かせる真乃。
僅かに目線を下げて、響は自身よりも小さな彼女に一言。
「暑いからな。主に真乃が」
「私が!?」
薄い赤色の髪を揺らして真乃が大げさに驚く。
「そうだぞ。特に最近は真乃の暑さが原因で地球温暖化が進んでいると聞く。今日もニュースで報道していた」
「私そこまで!?」
「ああ。森原さんとあさジローも言っていた。間違いない」
などと、下らないジョークを言い放って響は足を速める。
「はえ~。私っていつの間にか地球規模の存在になってたんだね」
うんうん、と頷く真乃。
いい加減、少しは落ち着いてほしいものだと響は思った。
「ああ、そういえばさ今日転入生が来るって話聞いた?」
「転入生……この時期にか?」
思い出したかのように真乃が口を開く。
季節は八月、つまり高校はもうじき夏休みに入る。
それだというのに転入とは少しだが響は驚いた。
とはいえ何か特別な事情がある場合や、そもそもこの時期の転入が珍しいとは限らない。
それゆえ、響の驚愕はすぐさま消え去った。
「いや~、高校二年の夏に転校なんて色々と大変そうだね~」
「高校二年の受験期に赤点連発も大変そうだけどな」
「うがー! それは言わないで! せっかく忘れていたんだから!」
「いや、忘れるのは駄目だろ」
気が付けば夏の暑さなど忘れ去り、二人は何事もなく高校へと辿り着いていた。
「……転入生と曲がり角でぶつかって、その後二人は同じクラスで出会う。そんな展開なくて残念だったね」
ポンっと響の肩に手を置く真乃。彼女の表情には何故か憐れみが含まれていた。
「残念なのはお前の頭だろ」
「ひどっ!」
とはいえ、響は誰よりも早く転入生とやらに出会えなかったのは、些か残念な気がしないでもあった。
******************
「……今日からこの学校に転入した玉城蓮叶です。よろしく」
そう言って、玉城蓮叶はクラスメイトからの拍手を浴びた。
金髪の髪を靡かせて凛とした顔付きの蓮叶は美少女と言える容姿を持っていた。
彼女の登場により、響のクラスメイト――主に男子諸君が奇声を上げ狂喜乱舞したのは言うまでもない。
「おおー、一目で分かる……いや、見なくても分る美少女! これは我が校初のファンクラブ設立か!?」
「なんで真乃までテンションが上がってるんだ」
男子に交じり目を輝かせる真乃。
確かに響から見ても蓮叶は美少女だった。
しかし、流石に奇声を発するほど彼の気持ちは高まらない。
「いやいや、いいかい響君。可愛いは正義。つまり、可愛いは正義なのだよ」
「なるほど、さっぱり分からん」
「……前々から気になってなんだけど、響って本当に男?」
「逆に聞くが俺が女に見えるのか?」
「全然」
「……そうか」
これで見えると言われたら自分は美少年なのでは?
そんな淡い思いを抱く響だったが、それはすぐさま否定されてしまう。
「――じゃあ、玉城は相田の左隣の席ね」
「分かりました」
教師の言葉が何かの合図になったのだろう。
クラス中の男子達の目が一斉に響へと向けられた。
「うんうん、分かるよ。男子達の気持ち」
右隣の真乃が納得気に頷いた。
最も、響本人は分かりたくもなかったが。
「……よろしく」
「ああ、こちらこそ。よろしく。玉城さん」
不愛想に挨拶を済ますと蓮叶は静かに席へと腰を下ろした。
落ち着いた人――それが響の抱いた彼女への第一印象だった。
********
夏の授業は普段より楽だと響は思う。
何せ、通常ならば六限まである授業も三限のお昼前には終わるからだ。
是非とも午前授業を制度として毎日取り入れて欲しいものである。
「真乃は今日も部活か」
「そうなんだよね~。まあ、特に何かをしている訳ではないんだけど」
ぱらぱらと散る同級生を横目に真乃がボードゲームを机に広げ始めた。
「……本当の楽しいを見つける部活。略して本楽部。相変わらず遊んでばかりだな」
「いいの、いいの。これが我が部の活動内容だから」
果たしてこれは部活動として成立しているのか。
そもそもこれを部活動と呼ぶべきなのか。
響には到底理解できなかった。
「……まあ、どうでもいいか」
「とか言って気になってるんじゃない? 特に今回のボードゲームは凄いよ!」
ずいっと身を乗り出して、真乃が興奮気味に喋り始める。
「このボードゲームはね、プレイヤーが異世界と呼ばれる世界に生きながら、現実世界も生きるって設定なんだけど――」
「なるほど、俺には全く関係ないゲームだな。というわけで悪いが帰る」
「いや、まだ説明は始まったばかり――」
真乃の熱弁は言ってしまえば終わりを知らない。
誰かが止めるまでひたすらに続く話を響は今日という日まで何度も聞かされてきた。
それ故に、対応策も熟知している。
「……ってもう行っちゃったし」
それは瞬足でその場から去ること。これしかない。
風より早く教室を出ていく彼の動作には一切の無駄がない。
洗礼された俊敏な動きは熟練の兵士さながらだ。
「ま、いっか。いつか絶対やりたくなるはず!」
真乃は響を追わずに、部員たちを待ちながら静かに部活の準備を再開した。
「……さて、真乃から追われなかったのは幸いか」
急ピッチで校門を出た響は大きく生きを吐いた。
背後に気配はない。つまりは真乃が追いかけてきていないということ。
「もし捕まったら折角の午後が全部潰れるからな。これは仕方のないことだ」
誰に言っているのか響は独り呟くと足を進めた。
時折、ボードゲームを楽しむ真乃の姿が脳裏を過るが気のせいだろう。
「……それにしても暑いな」
不意に肌を焼く熱に意識が向く。
晴天も太陽も今朝に比べて不変で気温も全く同じに思える。
いや、寧ろ更に暑くなっていた。
法律と人間のモラルが許すのなら、衣服を全て脱ぎ捨てたい。
そんな衝動が心に渦巻く。
こういう時は寄り道せずに帰宅が懸命の判断か。
そうと決まれば彼の行動は早い。
響は学校から自宅までの最短ルートを頭で検索する。
「……よし」
数秒の思考の末、導き出された道順。
クラウチングスタートからの全力疾走が今始まろうと――
「……」
「……」
無言で響の隣を一人の女子生徒――玉城蓮叶が通り過ぎた。
一瞬、互いに視線が交じったが不思議と彼女の目線は冷たい。
何か変人を見る様なそんな目を響に向けていた。
「……まあ、待て。これには深い事情が――」
「さようなら」
響の言葉を待たずして、蓮叶は振り返ることなく足を進めた。
不審者とは会話をしません、と言わんばかりに冷たい口調。
このままでは、確実に響は彼女の中で変人のレッテルを張られてしまうだろう。
普通の高校生として過ごしたい響からしてみれば、それは絶対に避けたかった。
「頼む、まずは説明だけでも――」
そう言って、響は蓮叶の元まで駆け寄った。
ギロリ、と鋭い眼光が向けられたのは気のせいだろう。
「……私、アンタみたいな変人と話すつもりないんだけど?」
「いや、俺は変人ではない」
「一人でクラウチングスタート切ろうとしている人が変人じゃないとでも?」
「俺以外にそんな奴がいたら間違いなく変人だな」
「まるで自分は違うみたいないい方ね」
「事実、俺は違う」
はあ、と蓮叶は呆れた様子でため息を吐いた。
響からしてみれば心外極まりない態度だ。
「……分かったわよ。アンタは変人じゃない。これでいい?」
「ああ、そう思ってくれると助かる」
やや強引、というよりは蓮叶の大人な対応により誤解は無事解けた。
響が納得した様子で親指を立てる。
蓮叶の中で変人のめんどくさい奴という印象が刷り込まれた瞬間だった。
「じゃあ、もういいかしら?」
「あ、ああ。引き留めて悪かったな」
言って、蓮叶は踵を返した。
無事疑念が晴れたことに安堵する響だったが――。
「あ、そうそう。言い忘れてた」
何かを思い出したかのように蓮叶が振り返る。
「伝言なんだけど『――貴方は十二番目ね』だってさ」
――プツリ。
相田響の意識が途絶えた。
長い耳をぴこぴこと動かして、エルフの少女が笑う。
ヒビキ――相田響にしてみれば、この世界こそ不思議で仕方なかった。
科学とは正反対の魔法があり、モンスターと呼ばれる生物が存在している。
魔王がいて、勇者がいて、冒険者がいて、まるでゲームの世界だ。
「……そうだな」
響は薄く笑みを浮かべて、自分の手のひら見た。
何の変哲もない普通の手。炎が出ることも水が湧き出すこともない。
魔力など一切感じないし、今後体感する予兆すらない。
「でも、もしかしたら近いうちに凄い魔法が使えるようになるかも!」
そう言ってエルフの少女は目を輝かせた。
静かな森の中、小鳥の囀りが心地よく、僅かに差す日差しは温かい。
思わず寝てしまいたくなる居心地の良さに、響は瞳を閉じた。
「あ、ヒビキさん……寝ちゃったかな? おやすみなさい」
優しい声が耳に入る。
響は心地よさそうに寝息を立てた。
****************
真夏の太陽に照らされながら、相田響は殺意を抱いた。
標的は言わずもがな空高くに君臨する眩い球体、太陽そのもの。
七月が終わり遂に夏の本番、八月に入ってから続く気温三十度越え。
額から流れ落ちる汗は気持ち悪い程に生暖かい。
これでは学校への登校中に全身が干からびてしまう。
響はため息交じりに空を睨み上げた。
「――おはようっ!」
不意に後方から届く女性の声。
えらく軽い口調は暑さに対する億劫さを全く感じさせなかった。
「……挨拶はいいが、いきなり人の頭を叩こうとするのはどうかと思うぞ」
「ありゃ、バレちゃった?」
てへ、と悪戯に舌を出して幼馴染の少女――四宮真乃は振り上げた腕を下ろす。
一切の悪気を思わせない真乃に響は呆れながらにため息を吐く。
――朝っぱらからうるさいのに捕まってしまった。
それが彼の内心の呟きだった。
「おやおや~、なんだか元気がないね?」
そんな事は知らずに顔を覗かせる真乃。
僅かに目線を下げて、響は自身よりも小さな彼女に一言。
「暑いからな。主に真乃が」
「私が!?」
薄い赤色の髪を揺らして真乃が大げさに驚く。
「そうだぞ。特に最近は真乃の暑さが原因で地球温暖化が進んでいると聞く。今日もニュースで報道していた」
「私そこまで!?」
「ああ。森原さんとあさジローも言っていた。間違いない」
などと、下らないジョークを言い放って響は足を速める。
「はえ~。私っていつの間にか地球規模の存在になってたんだね」
うんうん、と頷く真乃。
いい加減、少しは落ち着いてほしいものだと響は思った。
「ああ、そういえばさ今日転入生が来るって話聞いた?」
「転入生……この時期にか?」
思い出したかのように真乃が口を開く。
季節は八月、つまり高校はもうじき夏休みに入る。
それだというのに転入とは少しだが響は驚いた。
とはいえ何か特別な事情がある場合や、そもそもこの時期の転入が珍しいとは限らない。
それゆえ、響の驚愕はすぐさま消え去った。
「いや~、高校二年の夏に転校なんて色々と大変そうだね~」
「高校二年の受験期に赤点連発も大変そうだけどな」
「うがー! それは言わないで! せっかく忘れていたんだから!」
「いや、忘れるのは駄目だろ」
気が付けば夏の暑さなど忘れ去り、二人は何事もなく高校へと辿り着いていた。
「……転入生と曲がり角でぶつかって、その後二人は同じクラスで出会う。そんな展開なくて残念だったね」
ポンっと響の肩に手を置く真乃。彼女の表情には何故か憐れみが含まれていた。
「残念なのはお前の頭だろ」
「ひどっ!」
とはいえ、響は誰よりも早く転入生とやらに出会えなかったのは、些か残念な気がしないでもあった。
******************
「……今日からこの学校に転入した玉城蓮叶です。よろしく」
そう言って、玉城蓮叶はクラスメイトからの拍手を浴びた。
金髪の髪を靡かせて凛とした顔付きの蓮叶は美少女と言える容姿を持っていた。
彼女の登場により、響のクラスメイト――主に男子諸君が奇声を上げ狂喜乱舞したのは言うまでもない。
「おおー、一目で分かる……いや、見なくても分る美少女! これは我が校初のファンクラブ設立か!?」
「なんで真乃までテンションが上がってるんだ」
男子に交じり目を輝かせる真乃。
確かに響から見ても蓮叶は美少女だった。
しかし、流石に奇声を発するほど彼の気持ちは高まらない。
「いやいや、いいかい響君。可愛いは正義。つまり、可愛いは正義なのだよ」
「なるほど、さっぱり分からん」
「……前々から気になってなんだけど、響って本当に男?」
「逆に聞くが俺が女に見えるのか?」
「全然」
「……そうか」
これで見えると言われたら自分は美少年なのでは?
そんな淡い思いを抱く響だったが、それはすぐさま否定されてしまう。
「――じゃあ、玉城は相田の左隣の席ね」
「分かりました」
教師の言葉が何かの合図になったのだろう。
クラス中の男子達の目が一斉に響へと向けられた。
「うんうん、分かるよ。男子達の気持ち」
右隣の真乃が納得気に頷いた。
最も、響本人は分かりたくもなかったが。
「……よろしく」
「ああ、こちらこそ。よろしく。玉城さん」
不愛想に挨拶を済ますと蓮叶は静かに席へと腰を下ろした。
落ち着いた人――それが響の抱いた彼女への第一印象だった。
********
夏の授業は普段より楽だと響は思う。
何せ、通常ならば六限まである授業も三限のお昼前には終わるからだ。
是非とも午前授業を制度として毎日取り入れて欲しいものである。
「真乃は今日も部活か」
「そうなんだよね~。まあ、特に何かをしている訳ではないんだけど」
ぱらぱらと散る同級生を横目に真乃がボードゲームを机に広げ始めた。
「……本当の楽しいを見つける部活。略して本楽部。相変わらず遊んでばかりだな」
「いいの、いいの。これが我が部の活動内容だから」
果たしてこれは部活動として成立しているのか。
そもそもこれを部活動と呼ぶべきなのか。
響には到底理解できなかった。
「……まあ、どうでもいいか」
「とか言って気になってるんじゃない? 特に今回のボードゲームは凄いよ!」
ずいっと身を乗り出して、真乃が興奮気味に喋り始める。
「このボードゲームはね、プレイヤーが異世界と呼ばれる世界に生きながら、現実世界も生きるって設定なんだけど――」
「なるほど、俺には全く関係ないゲームだな。というわけで悪いが帰る」
「いや、まだ説明は始まったばかり――」
真乃の熱弁は言ってしまえば終わりを知らない。
誰かが止めるまでひたすらに続く話を響は今日という日まで何度も聞かされてきた。
それ故に、対応策も熟知している。
「……ってもう行っちゃったし」
それは瞬足でその場から去ること。これしかない。
風より早く教室を出ていく彼の動作には一切の無駄がない。
洗礼された俊敏な動きは熟練の兵士さながらだ。
「ま、いっか。いつか絶対やりたくなるはず!」
真乃は響を追わずに、部員たちを待ちながら静かに部活の準備を再開した。
「……さて、真乃から追われなかったのは幸いか」
急ピッチで校門を出た響は大きく生きを吐いた。
背後に気配はない。つまりは真乃が追いかけてきていないということ。
「もし捕まったら折角の午後が全部潰れるからな。これは仕方のないことだ」
誰に言っているのか響は独り呟くと足を進めた。
時折、ボードゲームを楽しむ真乃の姿が脳裏を過るが気のせいだろう。
「……それにしても暑いな」
不意に肌を焼く熱に意識が向く。
晴天も太陽も今朝に比べて不変で気温も全く同じに思える。
いや、寧ろ更に暑くなっていた。
法律と人間のモラルが許すのなら、衣服を全て脱ぎ捨てたい。
そんな衝動が心に渦巻く。
こういう時は寄り道せずに帰宅が懸命の判断か。
そうと決まれば彼の行動は早い。
響は学校から自宅までの最短ルートを頭で検索する。
「……よし」
数秒の思考の末、導き出された道順。
クラウチングスタートからの全力疾走が今始まろうと――
「……」
「……」
無言で響の隣を一人の女子生徒――玉城蓮叶が通り過ぎた。
一瞬、互いに視線が交じったが不思議と彼女の目線は冷たい。
何か変人を見る様なそんな目を響に向けていた。
「……まあ、待て。これには深い事情が――」
「さようなら」
響の言葉を待たずして、蓮叶は振り返ることなく足を進めた。
不審者とは会話をしません、と言わんばかりに冷たい口調。
このままでは、確実に響は彼女の中で変人のレッテルを張られてしまうだろう。
普通の高校生として過ごしたい響からしてみれば、それは絶対に避けたかった。
「頼む、まずは説明だけでも――」
そう言って、響は蓮叶の元まで駆け寄った。
ギロリ、と鋭い眼光が向けられたのは気のせいだろう。
「……私、アンタみたいな変人と話すつもりないんだけど?」
「いや、俺は変人ではない」
「一人でクラウチングスタート切ろうとしている人が変人じゃないとでも?」
「俺以外にそんな奴がいたら間違いなく変人だな」
「まるで自分は違うみたいないい方ね」
「事実、俺は違う」
はあ、と蓮叶は呆れた様子でため息を吐いた。
響からしてみれば心外極まりない態度だ。
「……分かったわよ。アンタは変人じゃない。これでいい?」
「ああ、そう思ってくれると助かる」
やや強引、というよりは蓮叶の大人な対応により誤解は無事解けた。
響が納得した様子で親指を立てる。
蓮叶の中で変人のめんどくさい奴という印象が刷り込まれた瞬間だった。
「じゃあ、もういいかしら?」
「あ、ああ。引き留めて悪かったな」
言って、蓮叶は踵を返した。
無事疑念が晴れたことに安堵する響だったが――。
「あ、そうそう。言い忘れてた」
何かを思い出したかのように蓮叶が振り返る。
「伝言なんだけど『――貴方は十二番目ね』だってさ」
――プツリ。
相田響の意識が途絶えた。
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