Super Psycho Love-スーパーサイコラブ-

浅野舞

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第1章 愛を込めて花束を

第2話 帰りたい……「表」

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 俺は何をしているのだろう、と清人は思った。
 砂に埋もれるメリーを引っ張り出し、辺り一面に広がる砂漠を眺める。


 果てしなく広がる同じ景色にため息が出てしまう。
 人生初の魔法で、まさか吹き飛ばされるとは夢にも思わなかった。

「あの、メリーさんや。ここはいったいどこでしょうか?」

 掬い上げたメリーに説明を求めながらも、清人の目に生気はない。
 早くも元いた世界に戻りたいと切に感じているご様子だ。

「えーっと、ここはねえ……」

 頭に被った砂を叩き落としながら、メリーはグルリと周辺を見回す。
 そして、一通り観察が終わると彼女は考え込むように黙り込んだ。
 清人は早くしてくれと言った様子でメリーの言葉を待つ。

「――ぜんっぜん! 分かりま――……テン!!」

 てへっ、っとメリーは満面のぶりっ子顔でそう答えた。

「よし、俺はもう帰る! 家に帰る!!」
「うぇえ!? ちょ、ちょっと何してんの!?」

 何かを突然決心した清人が、勢いよく地面の砂に顔を埋める。
 勿論、彼の奇行を目にしたメリーは驚きの声を上げた。

「……」

 きっと清人は大地と一体化したのだろう。
 驚くメリーに対して反応を示さず、そのまま身動きも取らずにいる。

「いや、やばいから! 流石に死ぬから!!」

 どん引きながら、メリーは清人の髪を精一杯に引っ張る。
 しかし、この男、意地でも顔を上げないつもりか。メリーに反抗して、自ら頭を更に地中へと沈めていっているではないか。


 全長三十センチの小さな体のメリーでは、流石に清人を持ち上げることはできない。
 全身全霊の力で腕を引くも、やはり清人の顔は砂から出てこなかった。

「えーっと、そこの妖精さん。君は何をしているのかな?」
「見ればわかるでしょ? この男を引っ張ってんの!!」
「えぇ……」

 そのあまりにも珍妙な出来事に興味を持ったのか、一人の女性が声をかけてきた。
 メリーは軽く女性の姿を確認するが、清人を引っ張る手は休めない。


 女性は腰まで伸びた黄土色の髪を結い、白銀と藍色を基調とした比較的軽装と言える鎧を身に着けていた。


 凛とした顔が酷く引き攣っているのは気のせいか。
 メリーのぶっきらぼうな物言いに、女性は困惑に等しい感情を抱いた。

「というか……君達は冒険者か商人かい? ここは随分と危険な区域と聞く。あまり、そのようにふざけたことをしていると――」
「あ、早く手伝ってくれます?」
「え、あ、ああ。分かった」

 「なぜ私が」と当たり前の疑問を持ちながらも女性は清人の頭を掴む。
 当たり前だが、清人は未だに顔を地中に沈めている。
 まるでドリルの様に、深く深く――彼は己の顔面を大地に突き刺していた。


 一見、これではただの不審者だろう。いや、もはや不審者そのものだ。
 いくら異世界とはいえ、このような奇行はそうそう見れるものではないだろう。

「よく分からないが……てりゃああああ!!!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 一度、深く息を吸って女性は力強く清人を引っ張り上げた。
 すると次の瞬間、清人の身体は宙へと浮いた。
 突然の出来事に清人は素っ頓狂な声を上げ――

「ぐべっ!?」

 そのまま大地へと勢いよく落下した。

「あ、す、すまない。力を入れすぎた」
「うわー……痛そ」

 予想外の力にメリーは思わず顔を引き攣らせた。
 この女、もしかして脳筋タイプか――とそんな感想を抱きつつ。

「え……なに? すっごい痛い」

 何が起きたのか理解できていないのだろう。
 清人は困惑した表情でメリーとその隣に立つ女性に目を向けた。

「ちょっと、いきなり変な行動しないでよね! パートーナーになった私が恥ずかしいじゃない」
「いや、パートーナーもなにもお前が勝手についてきてるだけだろ!」

 ずいっと、清人に詰め寄るメリー。
 怒っているのだろうが、頬を精一杯膨らませる姿からは可愛らしさしかなかった。

「というか、おたくはどちら様で? すごい格好していますけど……?」

 ぎゃぎゃと騒ぐメリーはひとまず放置し、清人は見知らぬ女性に声をかけた。
 引き攣っていた表情をきりっと切り替えて、女性は口を開く。

「なに、私は名乗る程の者ではない」
「あ、分かりました。それじゃあ――」
「待て待て待て!」

 女性は、背を向ける清人の肩を力強く掴んだ。
 心なしか肩から嫌な音がなっている。

「痛い痛い痛い!! 分かったから! 分かったから一旦離して!! 捥げる! 肩捥げる!」
「むっ、すまない」

 少しばかり驚いた表情で女性は手を離した。
 清人は目に涙を浮かべながら「それでなんですか?」と問いかけた。

「私はヴィヴィア・クラリッサ。ソロで冒険者をしている者だ。よろしく頼む」

 ごほんと、咳払いをしてヴィヴィア・クラリッサは清人に手を差し出した。

「俺は、瀬良清人。えっと……人間です」

 冒険者と言われてもいまいち理解が出来なかった清人は、何故か自身の種族を紹介した。
 その発言がおかしかったのだろう。クラリッサは僅かに頬を緩めた。


 メリーは隣で「あ、名前初めて聞いた」とだけ呟いていた。
 クラリッサの手を若干の恥じらいを感じながらも掴み、清人がその手を離そうとした刹那――。

「……お前、本当に人間か?」
「は?」

 クラリッサの手に力が入った。彼女は訝しい表情で清人を見据えた。
 その鋭い眼光にたじろぐ清人だったが、それよりも彼女の問いかけが全く理解出来なかった。

「いや、どう見ても人間だろ? え、もしかしてその……電波の方でしたか?」
「電波の? いや、すまない。全く意味が分からん」
「いや、俺も意味が分からないんだが?」
「ん?」
「は?」

 手を握り合ったまま、お互いに首を傾げる。
 両者共に頭上には疑問符が浮かんでいた。

「キヨトー。それワタシも思っていた。あんたって本当に人間なの?」
「いや、お前まで何言ってんの? マジで」
「いやいや、冷静に考えたら人間って言われるとんー? ってなるんだよね」

 ぐるぐると清人の回りを舞いながら、メリーは目を細めて彼を観察する。
 釣られて、クラリッサも顔を近づけて、清人の瞳を覗き込み始めた。

「いやいや、怖い怖い。 本当にそういうの止めて! マジで怖いから! え、人間だよね!? どうみても人間でしょ!?」
「いやー……」

 流石にそれはないだろと、清人は思う。
 逆に人間じゃないならば自分は何者だと。
 するとメリーは清人に一つの質問を投げた。

「じゃあさ、聞くけどここまでどうやってきたの?」
「え? どうやってって魔法に飛ばされてだけど。てか、お前もいただろ?」
「違う違う! それはここ……あー、質問の仕方が悪かったかも」

 そう言ってメリーは大袈裟に両手を広げて、再度清人に問いかけた。

「この階層までどうやってきたの?」
「――は?」
「いや、だから……キヨトは何も装備がなくて、おまけに魔法の使い方もしらない状態で、どうやってこの七層世界まで来たのかって聞いてんの」
「それにお前の魔力量。今、手を握っただけで異常だと分かる程にはすさまじいぞ。少なくとも、人間が辿り着ける領域ではない」

 二人の質問に清人は悟った。
 成程と。彼は虚空を煽り、なんと言えばいいのか、と考えた。


 メリーの言い方から考えるに、無装備で魔法も使えない只の人間がここに来ることはありえないらしい。
 そして、クラリッサの言葉――。


 清人はなんとなく今の自分がどういった状態なのか理解できた。
 だからあえて言わせて頂こうと、清人は困惑気味な顔で答えた。

「俺、実は死人です」
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みんなの感想(1件)

高橋実
2018.09.07 高橋実

道端ちゃんが邪神じゃ…(笑)

解除

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